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宿の内風呂はいつだって入ることができる。深夜でも、早朝でも。
風呂場の掃除というのはどの宿も大変な作業だ。草津温泉だって例外はないだろうが、そのかわり「雑菌が風呂場に繁殖する」ということはなさそうだ。何しろ、日本有数の強酸性の温泉だ。浴槽になみなみとキッチンハイターを流し込んでいるようなものだ。風呂場を不衛生にしていた結果、レジオネラ菌で死者が出る・・・ということは草津温泉ではないかもしれない。
そんなわけで、宿の部屋に荷物を置いたら、すぐに外に出かけることにした。
11月ともなると、日没が早い。そして気温がぐんと下がるのも、一気だ。なので、寒く・暗くなる前に温泉街の観光をしたおこう。
ついでに、巨大な露天風呂で有名な「西の河原露天風呂」でひとっ風呂、という計算だ。
草津温泉の中心地・湯畑に向けて歩いていく。湯畑はすり鉢の底のような場所にあるので、下り坂だ。
湯畑。
「あれ?こんな場所だったっけ?」と首をひねる。僕が知っている湯畑より、ちょっと広々としているような気がしたからだ。眺める角度の問題だろうか。空がずいぶん広く見える。
実際問題、湯畑周辺が広くなったのは間違いない。なんだこれ、屋根付きの渡り廊下みたいなものができているし、段々畑みたいな場所がある。
なんだかもったいない空間だ。昔、ここに何があったっけ。記憶がない。「草津二十番勝負」のときの写真(2008年)を見ても、ちょうどこの部分の写真は撮っていなかった。
草津町のwebサイトで確認したら、ここは「湯路広場」という名前らしい。「くつろぎとイベントのスペース」だって。近くの「白旗の湯」で熱いお湯に浸かって、のぼせた人がここでごろんと横になる・・・なんていうほど牧歌的な雰囲気ではなさそうだ。何かイベントがあったら、この「段々畑」は客席になるのだろう。ステージは湯畑側の広場。
木製の渡り廊下風な通路に何の意味があるのかは、よくわからなかった。雪が降り積もっている時に、滑らないようにするためだろうか?
地面がカラフルだ。
見ると、マンホールが賑やかに彩られていた。やるなあ、草津町。
「湯 LOVE 草津」と書いてある。「you」と「湯」を掛け合わせているのか。
ということは、「お前、草津好きだろ?」と言われてるってことか。はい、好きです。だってふるさと納税しましたし。それがなにか?
白旗源泉。
昔は簡易なほったて小屋みたいな建物だったけど、いつの間にか立派な建物に建て替えられていた。
今や、「白旗源泉」と大きく看板が掲げられている。昔はこれがなかったので、ここを「湯畑源泉」と勘違いする人が多かったはずだ。なにしろ、湯畑のすぐ脇にあるのだから。
びびるよな、あれだけこんこんと湧く湯畑源泉とは全く別で、こっちには白旗源泉があるっていうんだから。
でももっとびびるぞ、このすぐ隣には、さらに「わたの湯源泉」というのもあるんだぜ。草津温泉は容赦なく、あちこちからお湯が湧き出ている。一体どこからこの水がでてくるんだ。雨が降った以上に湧いているんじゃないのか?枯渇しないのか?と心配になってしまうくらいだ。
当たり前だけど、源泉は今も昔も変わらず。地面からダイレクトに湧出している。
白旗源泉は硫黄分が多い源泉なので、源泉プールの底が白くなっている。
湧出したてのお湯なので透明だけど、湯船に注ぐとお湯が酸化して白濁する。草津のお湯は硫化水素臭がするので白濁しているようなイメージを持つ人が多いと思うが、実際は万代鉱源泉をはじめ、白濁しないお湯の方が多い。
白旗源泉のすぐ背後に、見たことがない新しい施設ができていた。噂には聞いていたが、ここが入浴施設「御座乃湯」だった。二階建ての、木造建築。
この建物ができる、と聞いたとき、
「ええ?すぐ近くに、無料で入ることができる『白旗の湯』があるのに!?」
と驚いてしまったが、本当にできていた。共同浴場の存在をよく知らない観光客向け、といったところか。それとも、共同浴場はあくまでも地元民用ということで、観光客の利用はご遠慮願いたい・・・という方向にシフトしたのか。
僕が「草津二十番勝負」をやった後、「共同浴場を一般開放すべきかどうか」といった議論が草津内であったという話をちらっと聞いたことがある。
そのあたりの実情はよくわからないのだけど、「御座の湯」というネーミングは元々白旗源泉に使われていた名前だ。もともとこの源泉は、源義経が発見したという言い伝えがあるので、源氏のトレードマークである「白旗」を名前に冠したという。でもそれは明治に入ってからのこと。
というわけで、この建物の誕生をもって「御座の湯」という昔からの名前が復活したわけだけど、復活したのは名前だけだった。なにしろ、御座の湯に使われている源泉は、白旗源泉ではないのだから。なんてこった。
御座の湯には湯船が二つあり、湯畑源泉と万代鉱源泉なのだという。なんだ、すごく平凡な源泉じゃないか。せっかくすぐ近くに、白旗とわたの湯、という二つの「希少価値のある」源泉があるというのに、勿体ない。
おそらく、有限の資源である源泉を、そうやすやすと新しい施設のために提供するわけにはいかなかったのだろう。既に源泉を使っている施設の権利、というものがある。
じゃあ白旗源泉に入りたければどうすればいいの、というと、御座の湯からわずか数十メートルのところに共同浴場「白旗の湯」があるので、そちらでどうぞ。しかも無料。
ただし、お湯がクッソ熱いし、あくまでも共同浴場なので湯船が非常に狭い。熱湯風呂が好きなマニアでもないかぎり、おすすめはしない。
わたの湯源泉は、共同浴場や入浴施設に供給されていない。源泉周辺のわずかな宿だけが、この源泉の恩恵にあずかれる。なんでも、かなりイイカンジの湯らしい。気になる。
湯畑。
上流側から見たところ。
木枠で囲われたところが、湯畑源泉そのもの。
そこから下流に向かって、7本の木樋が通され、そこで硫黄の採取がおこなれている。
採取された硫黄は「湯ノ花」として売られているのだけど、なにせ天然の湯ノ花ともなると採取量は限られる。しかし以前、よそから取り寄せた硫黄を「湯ノ花」として売り、大問題になったことがあったっけ。
湯畑沿いの一角に、温泉饅頭をうる「ちちや」がある。
「手堅い温泉饅頭屋」として、毎回僕はここで饅頭を買っている。今回もお世話になろう。
草津温泉には、温泉饅頭屋がいたるところにある。
食べ比べをすると、「ちちや」よりもうまいお店があるのかもしれない。でも、いちいち食べ歩く気にもなれず、そしてそこまでしなくても十分に「ちちや」がうまいので、ここで納得して買っている。
というわけで定番の温泉饅頭。
うまいのですよ、これが。
温泉饅頭って何だ、というと、温泉の湯気で蒸かした饅頭、ということなんだろう。たぶん。
生地を捏ねるときに温泉を混ぜた、というわけじゃ・・・ないよな?
あつあつのやつを食べるととてもうまいので、つい土産で買ってしまうのだが、家に帰ってから食べると「うーん、案外普通かも」と結構シラフになってしまう食べ物ではある。
「時間の経過とともに味が超絶劣化する」という店もあって、そういうのはまさに地雷だ。というか、熱々の温泉饅頭は、大抵「そこそこうまい」。冷めてこそ、実力が問われるといって過言ではない。「冷めてまずい店」なら二軒ほど紹介できるけど。。。やめておこう、営業妨害だ。
湯畑の木樋と、その奥に西の河原に通じる通り。
足湯があるので、「お風呂に入るほどじゃ、ないんだよなあ」という方はこちらで温泉気分をどうぞ。
「いかにも観光地」な雰囲気だと、つい建物一つ一つを雑に見てしまって記憶に残らないものだ。または、建物の一階部分しか見ておらず、あとで写真で見返してみると、「あれっ、二階から上ってこうなっていたんだ」と気付くことがある。
この写真は湯畑の脇の建物を写したもの。三角屋根の、蔵のような建物が地味に見える。意識しなければ、通り過ぎてしまうような建物だ。
ここは、素泊まりも可能な宿「草菴(そうあん)」。湯畑徒歩0分という立地ながら、一泊食事なしで6,000円程度から、というのはちょっと驚いた。ああ、草津温泉も変わりつつあるんだなあ、と思ったものだ。
「素泊まりで6,000円?高いじゃないか」と思うかもしれないが、これだけ草津温泉ど真ん中の立地だし、元々の「草津物価」を踏まえるとこれでも十分に安い。
メシはどうすればいいの、というと、そのあたりの飲食店で食べなさい、ということになる。今や、わざわざ遠方から料理目当てで人がやってくるようなレストランも、草津温泉内にあるくらいで、充実してきた。
日本全国慢性的な人手不足ということもあるし、宿が一泊二食を提供するというジャパニーズスタイルはだんだん廃れていくのだと思う。中小規模の宿が、そういうフルサービスをやり続けるのは大変だ。そのかわり、食事は温泉街の中で食べてくださいね、という文化がもっと定着すると、温泉街全体が賑やかになると思うんだが。。。実際はどうなんだろう?
湯畑脇にある大規模旅館、「大東館」は、「草津温泉縁日村」というのを館内にこしらえて外部からも集客しているようだった。なにやら、射的やらスマートボールといった娯楽施設から、簡単なフードコート的なもの、そして24時までお酒が飲めるバーも取りそろえているのだとか。
湯畑の下流。
こういう厳しい環境でも、生えるコケが存在するんだから世の中すごいよな。
こんなコケが家に生えたら、どうやって除去すればいいんだ。カビキラーとかハイターを振りかけても、駆除できないっぽい。
(つづく)
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