16:08
天狗でかなりビックリした僕らは、この旅の最後のしめくくりとして吹割の滝を目指した。
あまり他では見かけない独特の形をした滝で、国の天然記念物に指定されている。
沼田から尾瀬や日光方面を目指す際、国道120号線沿いなので必ずこの脇を通り過ぎることになる。しかし、僕は一度もここに立ち寄ったことがない。
なぜか?
それは、車を停めようという気が全く起きない、客引きの多さが目立つからだ。
観光地にはよくある光景だけど、沿道のお土産物屋が、「駐車場はこっち」と過ぎゆく車に対して猛烈にアピールしている。あまのじゃくな正確の僕は、ああいう光景を見るたびに「絶対立ち寄ってやるものか」と密かに闘志を燃やす。
・・・で、その結果、齢40過ぎても、未だに訪問経験がない。ダメじゃん。実質、負けじゃん。
闘志が空回りしている好例だけど、客引きにウンザリしているドライバーは世の中に多いと思う。「観光地までここが最後の駐車場」「最寄りの駐車場」などというウソはザラだ。信じて車を停めると、その先にまだ駐車場があった、なんて「観光地あるある」の部類だと思う。そして、「無料駐車場」というけれど、実際は「売店で500円以上の買いものをしたら無料」と後で告げられるとか。
そうでなくても、客引きの婆様がものすごいオーバーアクションで「お前、ちょっと待て。何やってるんだ、こっちだろこっち」みたいに誘導するので、何事かとびっくりしてつい車をその指示に従わせてしまう、なんてこともある。後で「しまった、釣られてしまった」と後悔することになるのだけど。
どこの観光地もそうだとは言わない。しかし、何度かそういう体験を観光地で受けると、もうそれ以降は「全ての駐車場客引きは胡散臭い」という警戒心を持つようになる。この吹割の滝もそう。
でも、食わず嫌いは良くないと思うんです。今回の旅は「これまで素通りしてきた観光地を、敢えて見よう」というテーマがあるので、ここも見ておくことにした。
幸い、日曜日の16時ともなると、さしもの一大観光地も随分とおとなしくなってきていた。路上の客引きも疲れてきたのか、客がもうこない時間帯なのか、人数が少なかった。
我々は、土産物屋が並ぶエリアの果てにある無料駐車場に車を停め、そこからてくてく滝を目指した。
滝に通じる道沿いに、観光客向けのお店が並んでいる。
このお店は・・・なんだこれは?木の根っこが店頭に山積みになっているぞ。これは売り物なのだろうか。クロネコヤマトののぼりが立っている。自宅に宅配します、ということか?
吹割の滝遊歩道の地図。
確かこのときは、遊歩道の一部が崩れてしまい、通行止めになっていた筈だ。また、既に薄暗くなってきていることもあって、さくっと滝を見て引き返すことにした。
あ、あれが吹割の滝か。
河原に下りてみる。
いわゆるなめ滝で、巨大な一枚岩の表面を滑るように川が流れている。
滝の脇を登っていく。
「これ以上立ち入ってはいけません」ということで、トラロープとカラーコーンが設置されている。なんでも、年に何件か水難事故が起きるらしい。滝に近づきすぎて、バランスを崩してドボン、ということなのだろう。
あと、夜になったらこの河原に下りる道は封鎖するとのこと。夜中、度胸試しだの肝試しだの、酒盛りだのでここから落っこちる人が出てくるからだろう。
なめらかな岩を登った先が、吹割の滝の本番。
あー、岩と岩の間の割れ目に、川の流れが吸い込まれていく。
確かにこれはすごい。
唐突感あふれる滝だ。だからこそ面白い。
ナイアガラの滝のミニチュア版みたいな感じ。
このあたりは渓谷としても美しく、あと半月早ければ紅葉が綺麗だっただろう。
ただしそういう時期は、よりいっそう観光客で混雑し、駐車場でいろいろな思惑がうごめきそうだ。
人混みはあまり好きじゃないので、そういう時期に敢えてここを訪れることはないと思う。
幻想的な崖。
吹割の滝は、1年に7センチずつ上流にずれているらしい。案外馬鹿にできないスピードの速さだ。
売店や駐車場を運営している人達は大変だ、うかうかしていると自分たちの食い扶持が逃げる。
しかし、100年で7メートル、とも言えるわけで、まあ、自分が生きている間は多分これまで通りの商売ができるのだろう。
16:54
旅の最後のしめくくりとして、吹割の滝を見学できたのはとても良かった。今回の旅はいろいろなものを再発見できて、地味ながらもとても良い旅だったと思う。観光ガイドに載ってるようなスポットを落ち穂拾い的に巡っただけとも言えるけど、それでいい。
さて、東京に戻る道すがら、ちょっとだけ寄り道をさせてもらった。吹割の滝からほど近い、老神(おいがみ)温泉だ。
沼田インターにズバーンとぶつかる国道120号線から脇に逸れた川沿いにある。
国道120号線を通るたびに、「ほー、老神温泉という温泉があるのか」と気にはなっていたけど、実際にこの脇道に入ったことはない。
今回、沼田インターから先関越道が混んでいるという情報もあることから、昭和インターから高速に乗るついでに、立ち寄ることにしたのだった。
17時にもなればもう真っ暗だ。そんな中、車を走らせる。
老神温泉の中心地は、びっくりするくらいアップダウンがあったり道が狭かった。あんまり周囲の旅館に気を取られていたら、うっかり対向車にぶつかってしまいそうだ。運転に集中しなければ。
でもそういう温泉街って、探検しがいがあるんだよな。今回は暗い中の運転なので無理はしないけれど、いずれここには泊まりで、徒歩で散策してみたいものだ。
というのも、以前から気になっている宿がここにはあるからだ。
温泉街の中心から川一つ隔てた対岸にある白い建物の宿。「東明館」という。
なんの変哲もない温泉旅館のように見えるが、よくよく建物を見ると、その「東明館」の文字の横に、女の子の絵が描かれていることがわかる(写真だと、殆ど判別つかないけれど)。
ありゃ一体なんだ、というと、埼玉周辺で勢力を誇る「ぎょうざの満州」のイメージキャラクターだ。
「ぎょうざの満州」を知らない人に説明すると、東京西部から埼玉県界隈にあるチェーン展開している中華料理店で、餃子の王将みたいなものだと思えばだいたい間違っていない。イメージキャラクターの女の子は手に餃子を持ち、「3割うまい!!」と微笑んでいる。この宿の外壁に描かれている女の子も、きっと餃子を持っている筈だ。
何と比べて3割うまいんだ?餃子の王将か?などといろいろ勘ぐってしまうが、それは明らかにしていない(と思う)。
ではなんでそんなお店がここに宿を持っているのか。これがこの宿の面白いところだ。実はこの宿、一泊朝食付き税込み6,400円(2018年8月1日時点)という値段設定になっている。365日、繁忙期も閑散期も同一料金で泊まりやすい。朝食付きで6,400円というのはあまりインパクトがないけれど、昔はもっと安かったんだ、許せ。それまでは5,600円だったんだぞ、どうだすごいだろう。
じゃあ夕食はどうするの、というと、もちろん外で食べてきても良いのだけど、館内にレストランがあるのだった。言うまでもなく、「ぎょうざの満州」だ。これは飲み食いした分だけ実費精算になる。
こういう試み、すごく面白いと思う。「なんだ、せっかく温泉旅館に泊まったのに、メシはいつも地元にある『満州』かよ」という人も多いだろう。しかし一方で、「温泉旅館でわーっと宴会をやりたいよな、しかも安く!」と思っている人にとってはありがたい。敢えてここで餃子やら酢豚でガンガン飲んで、シメにもやしラーメン、ということができる。
なんなら、味玉80円、メンマ150円をつまみに渋く飲んだっていい。
僕は酒を飲まない人だけど、こういう「中華レストランで夕ご飯の温泉宿」っていうのは全然ありだ。毎回、せっかくの温泉旅館泊のたびに中華っていうのはイヤだけど、たまにはこういうのもいい。
昔一度、ここの予約を取ろうとしたことがあったけど、さすが大人気で、週末は全然予約が取れなかった記憶がある。今回改めて現地を確認できたので、改めて「泊まってみたい!」という気持ちになった。
一人で泊まるとさすがに馬鹿馬鹿しいので、誰か仲間を誘って、大宴会だ!うおおお!というテンションでこの宿に挑みたい。
そんな次回に向けての課題ができたところで、今回の旅行はおしまい。
(この項おわり)
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