

時刻は14時55分。そろそろ「終電」を意識しなければならない時間になってきた。
でもわれわれはまだお昼ご飯を食べていない。どうしたものか。また「おやき」を食べるというのは何ともさえない。おやき大好きか、僕ら。

そんなわれわれの微妙な気持ちを察知したかのように、トロリーバス乗り場の脇に「立山そば」というお店があった。立ち食い蕎麦屋だ。「うどんとそば、どちらかをお選びください」ということもなく、蕎麦のみ。そして、立ち食いスタイルだけど簡易な椅子があったりすることもなく、頑固なまでにカウンター席で立って食えという形態。随分と潔い。

台湾の人にとって「蕎麦」に該当する麺は馴染みがないと思うので、こりゃちょうど良かったねと。きのこそば、山菜そば、きつねそば、雲上そば各680円を購入。
食事をさらっと済ませる。

大観峰行きのトロリーバス乗り場には大観峰の天気が。
おおう、霧、だそうだ。そういえばここ室堂も眺めがよかったのは昼まで。午後になると雲が出てきた。本当に変わりやすい山の天気。
せっかくの「大観峰」なのに、霧じゃあさえないな・・・と思うが、こればっかりは仕方が無い。風向きは室堂だと北西なのに対し、大観峰だと南東。立山を挟んで真逆の風が吹いていることになる。


お土産を買っていたFishとFish妹が戻ってこずに相当ひやりとしたが、なんとかキャッチしてトロリーバスへ。トロリーバスは隊列を組んでずらりと停車していた。われわれは先頭車両へ。
「なんで時間ギリギリまでどっか行ってたの?」
「お土産買いたくて」
「お土産なんてここじゃなくても、別のところでも同じ物売ってるよ多分」
「ここじゃなくちゃ買えないものだから。」

なんだそれ、と思ったら、「星の雫」というお菓子だった。なんでも「星に一番近い駅」ということで室堂限定の販売なんだって。へー。限定と言われると確かに惹かれるな。

トロリーバスは、バス一台がやっと通れるくらいの幅のトンネルを進む。
ウィーン、というモーター音だけがする。レールのガタゴト音も、エンジン音もない。だからちょっとした違和感。

トンネルはトンネル中間地点あたりで二車線になり、バスは左に寄り停車する。
ここで我らが大観峰行きバスが全車両縦列駐車したところで、前方から室堂行きバスが次々到着。彼らも左側縦列駐車をし、すべてのバスが並んだところで行き違い。よくできたマスゲームのようだ。この瞬間だけはバスの密集度日本一だと思う。

最初から最後まで一貫してトンネルを走り続け、日の光を浴びないまま大観峰へ。
ここからロープウェーに乗り換えとなる。

ロープウェーが立山黒部アルペンルートでは最大のボトルネックポイントになる。なにせキャパが少ない。しかも増便が難しい。ピーク時にはここで相当待つ事になる。
われわれはすぐの乗り継ぎロープウェーに乗れることをはなから期待していなかったので、ここで一便ずらすことにした。その間、大観峰からの景色を堪能しようじゃないか、という腹づもり。

大観峰の建物から外に出てみる。
晴れていれば、眼下に黒部湖、正面に針ノ木岳を中心とした後立山連峰の山々がバーンと見えるはずだが・・・
バーン、とは見えないな。ちょびっと。雲の隙間から黒部湖がちょびっと。
「ほら!今だ!今みておかないと、次見られ
ないかも知れないよ!」
と全員に声を掛け、ここぞとばかりに黒部湖さんをガン見。

・・・と、その言葉通りに、1分もしないうちに雲がまたふわーっと・・・。あー、せっかくの「大観峰」なのに。名前負けしてしまっている。「雲見平」くらいが丁度良いようなありさまだ、今現在だと。

ここからロープウェーに乗ることになるが、延長1,710mの間には支柱が一本もなく珍しい。これは黒部湖側からの美観を保つため。
その話をしたら、珍しかったのかFish妹が解説パネルの写真を撮っていた。これも旅の記念になるのかな。
ロープウェーといえば、台北市郊外にある「猫空(まおこん)」という場所にロープウェーがある。お茶の産地であり、茶畑の上をロープウェーはするすると走り、なかなかの景観だという。しかしこのロープウェー、支柱が倒れそうになったため営業中止になってしまった(2009年時点。今では復旧している)。Fish妹に「なんで台湾のロープウェーは脆いの?」と聞いたら、Fish妹は肩をすくめて「馬英九(台湾総統。当時は台北市長)が人気取りのために突貫工事させたからじゃない?」と言っていた。そういうものなのか。

大観峰は立山黒部アルペンルートの難所、すなわちボトルネックポイント。そのため、お土産物屋がやたらと充実しているのだった。この駅は駅舎から外に一切出られない構造のため、乗り換え待ちの人は必然的にお土産を物色せざるをえないのだった。
長野と富山を結ぶアルペンルートなので、長野的お土産と富山的お土産、その両方が売られているのでちょっと楽しい。
「○○へ行ってきました」という名前のお菓子は観光地ならばどこにでも売られているが、ここでもありました、「立山黒部アルペンルートに行ってきました」。タイトルが長い。こんなん名前つけたもん勝ちじゃないか、と思うが、このクッキーには表面にロープウェーやケーブルカー、トロリーバスなどがそれぞれ描かれていてちょっと凝っている。
ここでFish一家の戦利品をチェックしてみた。
Fish:室堂で買った「星の雫」
Fish妹:「立山クリームサンド」
Fish母:「よもぎ折り餅」
Fish母が渋すぎるチョイス。でも、日本土産であることを考えたらこういう渋めのやつの方がよいかもしれない。

ポテトチップスの袋に興味津々な一家。
標高が高いため、気圧の関係で袋がぱんぱんだ。
ちなみに、売られていたポテトチップスは「しろえびポテトチップス」。富山の名産品とのコラボ。

ご当地の名産品を組み込んだお菓子というのはいろいろあるが、ポテトチップスでもそういうものがあるとは知らなかった。
なんでも、富山:「しろえび」、新潟:「かに」、飛騨:「ビーフ」、信州:「わさび」なんだって。ここは富山県なので、しろえび味が売られている。
お土産にお一つどうぞ、と言いたいところだが、持ち歩いているうちに粉々になってしまいそうで怖い。

ロープウェーの出発までまだ時間があったので、大観峰の屋上にある展望台に行ってみる。
うわあ、完全にガスに覆われてしまった。
ほとんど何も見えない状態。あぜんとする一同。


ロープウェーを2便見送り、ようやく乗る事ができた。それほど人が多くない、とたかをくくって展望台なんかに行ったせいで、行列の後ろになってしまったのが原因。「それほど人が多くない」といっても、ロープウェーのキャパシティも「それほど多くない」ので、結局次の便、さらに次の便となってしまう。
荷物を置いて行列の場所取りをしようとしたら、職員さんから待ったがかかった。場所取り禁止だそうだ。ロープウェーに乗りたければ、ひたすら待つべし、並ぶべし。


さてロープウェーだが、ガスの中をするすると降りていく。支柱が全くないので、本当にガスの中にダイブしていく感覚。おっと、中間地点で音もなく現れたもう一機のロープウェーとすれ違いだ。急に姿を見せたのでちょっとびっくり。

黒部平。
ここは建物の外に出ることができ、ちょっとした自然散策ができるようになっている。しかし外は濃霧。霧なら大観峰でさんざん観てきたので、すぐにケーブルカーに乗り換える事にする。
ケーブルカー乗り場に向かってぞろぞろと歩く観光客たち。


ケーブルカーに乗る。
よく考えたらこのケーブルカー、どうやってここまで運び入れたのだろう。バラバラにばらした状態で持ち込んだのだろうか。だとしても、陸路?それとも空路?
ここから黒部湖まで、ずっとトンネルを通っていく「地下鉄型ケーブルカー」。その最上部にある黒部駅からトンネルを見下ろすと、まるでこれから地下探検に出かけるかのような印象をうける。遊園地のアトラクション風、とでも言おうか。

黒部湖に到着しても、そこはトンネルの中。燦然と輝くお日様の元に出ようと思ったら、坑道をてくてくと歩かないといけない。
われわれはケーブルカーをバックに記念撮影を何枚か撮っていたので、他のお客さんは全員先に行ってしまっていた。そんなわけで静かな坑道をカツーン、カツーンと歩く。

しばらく歩くと、黒部湖の観光遊覧船のりばに通じる道が分岐している。ガルベ、という観光遊覧船は「標高1,448mの湖面で運行される」ことから、「日本最高所の遊覧船」の名を欲しいままにしている。なるほど物は考えようだ。

「うひゃあ」
トンネルから外に出たとき、思わずFishが声を上げる。これまでずっとトンネルの中にいたのに、急に開放感ある景色になったので声が出てしまったらしい。
黒部ダム到着。


黒部湖。
曇り空の下、鈍く光っている。ここからさらに上流にいけばいわゆる「上ノ廊下」と言われるエリア。本州の中ではもっとも秘境と言えるエリアだと思う。高天原という場所があり、温泉も湧いている。

「あれー?水が出てないよ」
Fishが残念そうな声を出す。見下ろしてみると、観光放水がされているはずなのに、水がぴたりと止まっている。これでは単なる堰堤だ。
「観たかったなー」
今の時刻は16時40分。どうやら16時30分には放水を終了してしまったらしい。遅く到着するとこういうペナルティが待っているのか。観光放水は黒部ダムの価値を1.5倍増しにしてくれるものなので、それが無いとなんだか拍子抜けだ。
このダムはものすごく大きい。大きいんだけど、大きすぎて逆にそのすごさがわかりにくくなってしまっているのだった。

堰堤の片隅に、「ふぉっとダム」という機械が置いてあった。

このふぉっとダム、黒四ダムと人物を遠方から見下ろす形で撮影しますよ、という記念撮影マシーン。
写真サンプルによると、ダムと豆粒サイズの人物が写っている写真と、その人物部分をアップにした写真とがセットになるらしい。1枚 1,200円と相当お高いが、なるほど良い記念になるのは間違いない。


ふぉっとダムの機械の脇の地面に「立位置」と書かれてあった。ここに立てばベストアングルで撮影してもらえるらしい。
肝心のカメラはというと、崖の上にある展望レストランの屋根に据え付けてあるっぽい。
なるほど、仕組みは判った。お値段は高いけど、一応撮影してみるか・・・。
さんざん立ち位置のリハーサルをやって、さてふぉっとダムにお金を入れよう・・・としたら、お金が入らない。あれれ。
調べてみると、もう受付時間終了なんだと。あちゃー。遅い時間にここに来たら、放水は見られないわ写真は撮れないはでさんざんだな。
しかも、上の展望台に通じる道もふさがっていて行けないようになっているし、くろよん記念館も閉まっているし。もう完全に「そろそろ家に帰れ」という雰囲気が充満しているのだった。そりゃそうだ、最終のトロリーバスが17時35分だけど、それに乗り遅れたらここは陸の孤島になる。トロリーバスを運営する側としては、誰か乗りそびれた人が出てこないように配慮しないといけない。
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