
18時45分。風呂上り、食堂に向かう。
宿規定の夕食時間は18時~19時半となっているが、随分とゆっくりとした時間に食堂に赴いたことになる。というのも、団体客が先に食事をしており、今日の食堂は二回転運営となるからだった。宿のキャパシティ=食堂の席数、ではないところが山小屋的だ。
今回の雷鳥荘は2回転だが、山小屋によっては5回転、6回転もするところがある。そうなると、第一陣の夕食が17時前に始まって、あとは30分から45分刻みくらいで次々客を入れ替えていき、最終の食事が終わるのは21時近く、なんてことになる。なんとも壮絶だ。
食堂の入口には行列ができていた。まさか椅子取りゲーム状態であぶれた人が待機しているのか?と焦ったが、さすがにそんな社員食堂的なことはなし。席に案内してもらうための順番待ちだった。

あ。Fish御一行様は既に着席してた。
あほみたいに行列に並んで損した。
混雑する食堂だが、浴衣姿はわれわれのほかにあまりおらず、ちょっと浮いて見えた。
なぜ浴衣を着ないのだろう。なんだか得した気分じゃないですか、旅行してるゥゥゥゥ、という実感がハートにズキュゥゥゥンと響くし。
さっきまで「温泉旅館といえば浴衣!今日も浴衣着るぞ!」と3名+おかでんではしゃいでいたのだが、なんだか食堂にいると「温泉旅館でも普通の服!浴衣?着ねーよ、そんなの」みたいな雰囲気に押される。なぜだ。

本日の夕食。海のもの山のものいろいろ取りそろえられております。







雷鳥荘スゲー。徒歩でしかたどり着けない宿とは思えない充実ぶり。なんでこれだけ食事を用意できるんだ?と不思議になってしまう。ここからほど近くにある「雷鳥沢ヒュッテ」に泊まった時は、トンカツメインの「山小屋料理にちょっと毛が生えた」程度のものだったぞ。味噌汁のかわりにクリームシチュー汁が出てきたのがサプライズだったっけ。それと比べたらここは何なの?完璧な宿メシを用意している。
刺身が出てくるだけでも驚きだが、固形燃料の料理が出るなんて特にびっくりだ。しかも紙鍋。「なんでこの鍋は燃えないの?」と不思議がる台湾御三家。「こんな紙があったら便利ねぇ」とFish母は言うけど、日本人のおかでんでもこんな紙がどこで手に入るか、知らん。あらためてよく見ると不思議だな、この紙鍋ってやつは。
「でもわざわざ紙にする必要がないような」
おっと言ってはいけないことを言ってしまったかもしれん。口を慎まないと。

なんだかうれしくなってしまい、ビールをピッチャーで頼んだ。この宿、生ビールも完備。お値段2,000円。瓶ビールやジョッキが700円なので、ピッチャーの方がコストパフォーマンスよさそう。それにしても2,000円でピッチャーというのは、山上価格にしては安い部類に入る。
同じように、井筒ワインが2,000円だったり、総じてここの宿はアルコールが安い。車が入ることができる室堂からそう遠くない場所、という立地条件の良さが原因だろうか?
「かんぱーい」
と全員でジョッキを高らかに掲げたが、泡ばっかりで飲むところがほとんどないジョッキを前に全員白い口ひげを作るのがやっとだった。そうだった、ただでさえ泡が立ちやすいジョッキだけど、それに加えて標高が高く、ますます泡だらけになるのだった。
でも今日は雨の中歩いたし、泡でもウメーっ。

部屋に戻ってくつろぐ。おかでんはFish妹に台湾のガイド本「無敵の台湾」を見せ、日本人から見た台湾ってこんな感じだけどどう?地元民として、ゆがんだ取り上げられ方されてたりする?なんてあれこれ聞いていた。
その傍らでFish母が真剣な表情で読んでいたのが、これ。部屋に備え付けられていたパンフレット「Enjoy the Real Japan at a Ryokan」。
旅館は日本の伝統的な宿泊施設であり、その利用方法も海外からのお客様には慣れないことが多いと思われますので、いくつかの点についてここで説明をいたします。
なるほど、これは便利だ。この手の冊子は初めて見たが、この宿は外国の人がとりわけ多く宿泊するのだろうか?
Fish母は先ほど食事のとき、いわゆる「箸渡し」という日本ではマナー違反となる箸の作法をやったため、Fishにたしなめられていた。日本では遺骨を拾うときにやるやり方なので縁起が悪いですよ、と。そんなわけで、とりわけ日本のマナーに興味が湧いたのかもしれない。


[宿泊料金]
日本の旅館は一般的に夕食と朝食を含んだ料金システムとなっています。ルームチャージ制ではなく、一泊二食付き、一人当たりの料金で示されます。一部屋に何人宿泊するかによっても一人当たりの料金が異なります。旅館の中には「素泊まり」といってルームチャージ制が可能なところもあります。[和式トイレ]
和式トイレは便器に直接肌が触れないので大変清潔であるという長所がありますが、ほとんどの旅館では洋式のトイレを備えています。
<利用方法>
和式の便器は、その上に腰掛けるのではなく、またがって使用します。フードのある方向に向かってしゃがみます。旅館ではトイレ用のスリッパが用意されており、それに履き替えます。和式・洋式に関わらず、使用後は必ず水を流してください。備え付け以外の紙はトイレ内のゴミ箱に入れてください。
おかでんのように日本に生まれ育った人間にとっては当たり前の事だが、わざわざここに記述されているということは「外国では当たり前ではない」ということだ。かといって、日本人はこれらの「当たり前」を学校などで習ったわけではない。親のしつけと経験則だ。経験則スゲー。

典型的な和食
(1)食前酒 (2)先附(前菜) (3)椀物(メイン・ディッシュを食べる前のスープ) (4)造り(刺身の盛り合わせ) (5)飯蒸(魚にもち米を詰めたり乗せたりして蒸したもの) (6)口取(各種の素材を少量ずつ盛り合わせたもの) (7)焼物(魚や肉を焼いたもの) (8)名物追肴(旅館自慢の創作料理) (9)酢の物(酢を使った料理) (10)炊合(旬の野菜などの煮物) (11)汁(味噌汁) (12)ご飯 (13)香の物(漬け物) (14)水物(くだもの)
「典型的な和食」と言って、えらくぜいたくな料理をサンプルにしたな・・・全14品だぜ?豪華すぎるだろ。こんな料理を出すRyokanなんてそうそうないと思う。いかん、せっかく先ほどの食事を台湾の皆様には楽しんで頂いたというのに、これを読まれたら「なんだ、さっき食べたのは典型的じゃないんだ。品数が少なかったし、手抜き?」なんて思われてしまいかねない。頼む、次に改訂版を出す時はもう少しコンパクトな料理を「典型的」としてくれ。
2009年08月08日(土) 3日目

三日目朝。朝風呂に入りたいので早起き。
窓の外は濃霧。雨もちらついている。昨日の夕方よりも天気が悪い。
「ううむ、今日はますますの雷鳥日より・・・」
強がってみる。
さて、今日は立山の雄山山頂まで登ろうと画策しているわけだが、どうしたもんかな。この天気だとちょっとやめておいた方が良さそうだ。天気予報では時間の経過とともに晴れてくる、という話だったが。

07:10、朝早く朝食を済ませていた団体の学生さんたちが旅立っていく。レインウェアを着込むため、広い玄関は人でいっぱい。

彼らが泊まっていた部屋を覗いてみる。おお、二段ベッドだ。これぞ立山スタイルか。

7時まで朝ぶろ入って、食事食べて、8時に宿を出発・・・そんな朝のタイムスケジュールを予定。
7時20分、食堂に行ってみるとすでに人はまばらになっていた。多くのお客さんはもうご飯を食べ終わっていたようだ。早い。一体どこに行くのだろう。剱岳方面だろうか?
食堂の真ん中にテーブルが縦長につなげられており、そこに料理が大皿で並んでいた。ビュッフェ形式だという。こういうところでも山小屋らしくなさを発揮。いや、もうここまできたら山小屋と比較するのはいい加減ナンセンスだ。ここは立派な、れっきとした温泉旅館に相違ない。参りました。

朝食の盛り付け例。
あれこれ盛り付けたい、という欲求と「実は生野菜サラダが大好物です」という趣味嗜好を共存させたらこうなってしまいました、という例。
あのさあ、台湾からのお客さんがいるのだから少しは遠慮というものを考えたまえよ、と我ながら思う。ただ、こういうビュッフェ形式を目の前にすると、どうしても「ゴングの音」が幻聴で聞こえてしまうのよね。結果的に盛れるだけ盛ってしまう。こういうところだけはまだまだ若者には負けん!おっさんとは言わせん!と思う。もっとも、「食べたら食べた分だけ太る」ので、まさしくおっさんなのだけど。
台湾御三家もめいめいおかずをよそって食事をとっていた。特に変わった様子はなし。「台湾の人たちはあの料理だけは絶対に箸をつけようとしなかったよ」なんていう逸話をゲットしたかったのだが、涼しい顔で普通に食事をしていた。むむむ。


天気図と天気予報を確認。
前線は日本の東の会場に抜けていっているが、まだその余韻が残っている感じ。午前中は天気がぐずつくようだが、午後は一応雨が上がる見込み。さて、立山まで登ってよいものかどうか。

天気図を見ると、台湾上空に台風8号が襲来している。立山にはさすがにこの台風の影響はなさそうだ。
※この台風8号、台湾南部に死者・不明者600人以上を出した大災害となった。高雄あたりの道路や橋が寸断され、帰国したFish母は家に帰れずしばらく高雄で抑留される羽目にあった。
天気が怪しいのでレインウェアを着込んでいたら思ったよりも出発が遅れた。8時15分、雷鳥荘を出発。
いきなり立山を目指さず、まずは地獄谷に行くことにした。地獄谷を見て回っている間に天候判断をし、天気が回復しないようなら立山登山は断念。そのかわりにアルペンルートをとっとと通過し、安曇野の大王わさび園に立ち寄ろうという考え。
雷鳥荘からぐーっと下っていく。室堂界隈で唯一テント場として認められている、雷鳥沢へと続く道。

雷鳥沢ヒュッテ。
以前ここに泊まったことがあるなあ、と遠い目。
相変わらず建物の側面はあちこちに穴が開いたり傷が入っている。なんでこんなありさまなの、というと、春の時点ではこの建物が完全に雪に埋もれているため、ショベルカーで掘り起こすためだという。つまり、開いている穴はショベルカーがうっかり削り取ってしまったものだ。
これだけの建物が雪に埋もれてしまうのだから、自然の力はすごい。





地獄谷。
そこらじゅうが蒸し器状態。ここで小龍包を作ると光熱代不要で楽だ。ただし硫黄くさくなって食べられたもんじゃないと思うが。
白っぽくなっている地面のあちこちからお湯が吹き出たり、煙が出ていたり。
「立山講」として宗教の聖地としてこの地に訪れていた人たちは、この光景を見て地獄だと感じたのだろう。しかし、今となっては「おお、温泉が湧いてる!」というイメージしかない。
みくりが池温泉も、雷鳥荘も、そして雷鳥沢ヒュッテも、すべてこの地獄谷を源泉地としている。いずれも引き湯。

地獄谷の入り口部分にある、「登山者カウンター」。
人が通ればカウントされるらしい。
おそらく、「100人地獄谷に向かったけど、99人しか出てこなかった」なんてことがあったら、すわ大変、だれか地獄谷でガス中毒で倒れているかもしれん!ということなんだろう。
でもちょっと待って欲しい。このカウンターの前で手をパタパタと振ったら・・・カウンターがどんどん回るんじゃあるまいか。
やめとけ。

地獄谷からみくりが池温泉までは、ひたすら続く登り。これが結構きつい。
剱岳登山を終えて室堂に向かう人は大抵ここを通るが、剱岳でさんざん疲労を蓄積している状態でこのエリアに差し掛かると、きつくてきつくて涙がちょちょぎれる。

しかしわれわれはまだ全然体力を消耗していないので、比較的楽に登れた。とはいえ、年配の人には厳しい道だと思う。Fish母はその点立派で、ひょいひょいとこの坂を上りきってみせた。
みくりが池から歩道を歩き、立山室堂山荘へ。
途中、「雷鳥やーい」「でてこーい」と茂みに呼びかけていたのだが、結局雷鳥とは出会えなかった。昨日会えたのは奇跡的でラッキーだった。
天気はやや持ち直し。視界が少しずつ広がってきたので、この調子なら立山登山はできそうだ。

立山室堂山荘の隣にある、古い木造の建物。これが本来昔からある「室堂」。国の重要文化財。
立山室堂
現在残っている日本最古の山小屋で、立山におこえる信仰や民族の様子を伝える貴重な建造物です。「室」とは宿泊所という意味があり、「堂」とは、御堂などといわれるように宗教施設を示すもので、室堂は、その両方の役割を合わせ持ったものでした。文献には、現在の建物は1726年(享保11年)に再建されたと伝えられており、それ以前にも建物があったことが確認されています。平成7年には国の重要文化財に指定されました。
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