来日したら標高3,003メートル【立山・黒部アルペンルート】

Fish。台湾人で、留学生として来日して以来そのまま日本に留まり、今では日本のIT企業に勤務している人だ。

おかでんにとって、外国人の友達がFishとその周辺しかいないので、Fish(というかガイジンさん)の行動や発言、思考回路がとても興味深い。そんなわけで、多忙を極めているFishとたまに会っては、いろいろな話を聞かせてもらっている。

たとえば、鍋を食べる際、「トウモロコシの輪切りを鍋の中に入れて食べると美味い」といって鍋に黄色いモロコシさんをどぼんと投入したのにはなかなかなカルチャーショックだった。

つい先日、おかでんは「日本人が知らない日本語」という本を「課題図書」としてFishに貸し与え、しばらくしてから「これを読んでどう思ったか」という読後感想文みたいな質問をしまくった。すると、Fishは「失恋」という言葉を「しつこい」と読み間違えた、というくだりが大層お気に入りだった模様。

おかでんは2008年、Fishが帰省している旧正月明けの2月に後追いで台湾上陸。台湾の最南端、普通の日本人じゃ観光にいかないような場所、恒春を訪問した。その際、宿から食事からすべておかでん自ら解決する予定だったのに、Fish家族全員やその知人や「知人の知人」がおかでんの元に殺到。集中砲火のようなありさまでお世話になりまくったのだった。

そのときの様子は「おもてなし三昧の日々」という連載に詳しい。

なにせ、日本人の感覚ではありえないくらいのおもてなしだった。宿は「家に泊まっていきなさい」だし、食事は「払っておいたから」だし、車を出してくれて温泉に連れて行ってくれるし、スクーター貸してくれるし、もう、何がなんだか。ここまで恐縮したのはおかでん人生で過去に例がない。

そんなイベントがあった半年後。2009年夏にFishの母と妹が、日本にやってくるという話を聞きつけた。お世話になりまくった方々だ、よーし、それは接待しないと。かかってこい、Fish様ご一行。

事前にあれこれとリサーチしておく。ねちっこいリサーチと立案はおかでんの得意中の得意。

来日経験でいうと、Fish母は以前北海道に行った事はあるらしい。ジンギスカンを食べたんだと。なるほどと思うが、初来日の場所が東京ではなく北海道というのが面白い。「雪を見に行こう」ツアーだったのだろうか。

そしてFish妹は、長野県・諏訪大社の近くにある毒沢鉱泉で一泊温泉旅行の経験あり。もちろん、こんなマニアックなところにFish妹を連れて行ったのはおかでんだ。ジャパニーズ温泉旅館を十分に満喫してもらえたと思う。旅行中、季節外れの雪が降って南国人Fish妹は狂喜乱舞していたっけ。

さて、今回はどこに案内しようか?

おかでんが台湾に行った際、あれこれ世話を焼いてくれた気持ちが、今となってはよく分かる。せっかく外国からやってきたお客様だ、自分の国の良いところを最大限見てもらいたい、という気持ちは当然。いろいろ見せたいし、体験して欲しいし、たくさんの思い出を持って帰って欲しい。

この旅のプランを考えている瞬間、強い愛国心が内面から沸いてくるから面白い。日本ってこんなに素晴らしい国なんだ、日本サイコー、と。そんな最高な日本が凝縮されているのはどこだ?台湾からのお客様がびびってオシッコちびりそうになるくらい、イカした日本ってのはどこに行けばいい?

Fishからは「温泉いいねー」というキーワードがでてきていた。そういえば、Fishの友人Jennyが来日したときも法師温泉に一泊というツアーを組んだっけ。温泉旅館、しかも古い建物の味わい深い宿は台湾人にとって大変に楽しい思い出になるらしい。ふむ、温泉か。温泉なら日本にはいっぱいあるよ。でも、ありすぎて選択肢に困る。

台湾人や中国人の東京近郊観光というのは定番があって、箱根に行って海賊船に乗って、忍野八海の方に行って、河口湖界隈の温泉か石和温泉あたりで一泊、となる。箱根方面は鉄板。幸い、来日するFishファミリーは箱根界隈に行った経験はなさそう。・・・箱根に一泊、という企画にするか?

しかし、それはいくらなんでもベタすぎるだろう。せっかく家族水入らずで日本旅行をしようとしているわけで、今回光栄にもおかでんがその中に紛れ込んでいるわけだ。つまり、Fishからおかでんに求められれているのは、「日本人にしか知らないようなイイところを紹介しなさい」ということと、「移動手段が車の場合、車の提供と運転は頼むねー」ということだ。ありきたりなツアーと同じ行程なんて犬にでも食われろ。

愛国心を胸にあれこれ検討しつつも、これはおかでんに対する挑戦状であった。ヘボい企画をたてたら、おかでんはおろか一族郎党切腹ものだ。非常に緊張感を強いられる。さて、どうしたものか。温泉、ねぇ・・・。

そんなとき、Fishから連絡あり。

「どこに行きたいとちらっと聞いてみたら、母親が立山、黒部に行きたいって。友達みんな行ったことがあると言ってた」

おい。どこからそんな情報仕入れているんだ台湾の人は。しかも「友達みんな行ったことがある」って。いつのまにそんな事が始まっていたんだ。知らんかった。慌ててあれこれ情報収集してみたら、確かに台湾人観光客は立山黒部が大好きであることが分かった。なんと。そもそもどうやってあの不便なところに行くんだろう。チャイナエアラインが台北桃園空港から小松空港に定期便を飛ばしているそうなので、それに乗ってくるのか?いずれにせよ、びっくりだ。

ちなみに、韓国人、中国人にはあまりこの日本有数の観光地は知られていないらしく、立山黒部界隈で外国語をしゃべっている人は大抵台湾人なんだそうで。へへえ、知らなかったです。

そうとなりゃ話は早い。立山アルペンルート縦走を企画すれば、Fish母親大満足、日本人おかでん鼻高々だ。あの景色は絶景だからな。どっちもwin-winでしょう。温泉もあるし、異議なし。日本を代表する風光明媚な場所で、誰にでもお勧めできるエリアだ。了解、早速プラニングしますよ。

そこから概案をFishに提出し、了解を得たところで宿の手配や9ページにも及ぶ旅のしおりをこしらえたり。おかでん獅子奮迅。きっとおかでんは旅行代理店のツアーコンダクターでもやってた方が天職だったと思う。なにせ、旅のしおりに至っては分刻みでスケジュール書いてるんだもの。これ、西村京太郎ばりに何かサスペンスものの舞台にできるくらいだ。

総9ページの資料をここで開示するのは面倒っちいので、概案の方を公開しておく。これからこんな感じで旅行しますよーというのを一応頭に入れておいてください。

[1日目:8月20日(木)]
07:00 JR中野駅に集合
おかでんの車で移動開始
関越道練馬IC→上信越自動車道→北陸道黒部IC
12:30 黒部にて昼食
回転寿司の「きときと寿司黒部店」で日本海の幸を
13:30 宇奈月へ移動
13:32 黒部峡谷鉄道乗車
14:54 欅平着
欅平周辺散策
16:01 欅平発
17:16 宇奈月着
<宇奈月温泉で泊>

[2日目:8月21日(金)]
09:00 宿をチェックアウト、立山へ移動
10:50 称名の滝駐車場着
往復徒歩1時間
11:50 立山駅へ向かう
12:00 立山駅着
車の回送手続き
12:30 立山ケーブルカー乗車
12:37 美女平着
美女平遊歩道トレッキング(内回り)
※あまり時間が無いので、早足で
13:20 高原バス乗車
13:50 弥陀ヶ原着
弥陀ヶ原の湿原トレッキング(内回り)
14:40 高原バス乗車
14:50 室堂着
15:00 立山自然保護センター
立山の自然やライチョウの生態について学習する
16:00 宿に移動開始(徒歩)
途中、地獄谷をぐるっと回るかもしれん
17:00頃 チェックイン(みくりが池温泉?雷鳥荘?)
<室堂 泊>

[3日目:8月22日(土)]
08:00 チェックアウト、雄山山頂を目指す
途中、地獄谷立ち寄り
雄山神社参詣
12:00 室堂帰着
昼食
お土産物店物色
#必要ならみくりが池温泉でお風呂に入る。
#その場合以下行程は1時間ずつ後ろにずれる。
13:00 立山トンネルトロリーバス乗車
13:10 大観峰着
大観峰で写真撮影
13:40 立山ロープウェー搭乗
13:47 黒部平着
黒部平を少しだけ歩く
14:20 黒部ケーブルカー乗車
14:25 黒部湖着
ダム展望台、くろよん記念室、黒四ダム堰堤散歩
15:35 関電トロリーバス乗車
15:51 扇沢着
回送済みの車を受け取る
16:20 移動開始
17:30 大王わさび農園着
わさび畑を観る
※閉園時間が近いので、駆け足で。
18:00 帰路につく
長野道豊科IC→中央道→首都高
21:30 都心に戻る
(途中のSAで食事をする場合はその分所用時間が延びる)
※甲府あたりでいったん高速を降りてほうとうを食べるのも良いかも。

温暖的家

台湾のツアー行程表を見ると、必ず最後に「温暖的家」と書かれているので、マネしてみた。「家に帰るまでが遠足です」というのと同じノリだな、これ。

旅行日程は当初の8月下旬から上旬に繰り上げにした。お盆後になると台風が来出すので、高山の天候が変わりやすくなる、というおかでんからの助言に基づいたからだ。しかし、変更したのが8月上旬。確かに天気はとてもよい時期だが、観光客の量も天気の良さに比例してとても多い時期だ。立山、大混雑だぞきっと。大丈夫かなあ。

ツアーコンダクターおかでん、あわてて宿やらトロッコ列車やらの手配をしたことにより、事なきは得た。しかし、予約が取れない立山ケーブルカーなど、一体何時に乗車できるのか不安要素だらけ。ひょっとしたらプランから大幅に到着が遅延するかもしれない。まだまだおかでんの気は休まらない。

旅行の2日前に日本入りしたFish母&妹。事前にFishに「この日は夜に築地本願寺で盆踊り大会をやってるよ」とネタ提供しておいたら、実際3人は入国早々でありながら築地本願寺まで出かけたようだ。

「踊ったりして楽しいです。太鼓の演奏も心を震わした」

というメールが届いた。まずは来日したお二方にリモート接待。しかし本番はこれからだ。

「心を震わした」という表現のしかたが、微妙にネイティブではない。こういうところも含めて、Fishと接していると楽しい。

2009年08月06日(木) 1日目

たこ焼き屋台

朝7時、JR目白駅前で集合。そのまま関越道経由で黒部峡谷鉄道の玄関口、宇奈月を目指す。なにしろ東京から富山県だ、のっけから大旅行。5~6時間かかってしまう大遠征であり、台湾でそんな距離を走ったら台北から高雄まで行けてしまいそうだ。

いきなりの遠距離移動は申し訳ないので、道中のSAに立ち寄ってはそのご当地の小吃(おやつ、軽くつまむ料理という意味の中国語)を買って気晴らしをしてもらうことにした。最初っからだれまくった旅行の雰囲気、というのは良くない。食べ物で盛り上がっていこう!

まず立ち寄った三芳PA。たこ焼き屋台ででていたので、たこ焼きを。

たこ焼きは(日本伝来の小吃として)台湾にもあるが、以前Fish妹が来日した際、「日本のたこ焼きはタコが大きい!」と興奮していたのを思い出した。どうやら、台湾たこ焼きのタコは小さいらしい。

だったらまずは「這是日本(This is Japanの意味)」を味わってもらうのに丁度良いだろう。たこ焼き1パック購入。

たこ焼き

日本人は朝からたこ焼き食う食文化を持っているのか、と勘違いされたかもしれないが、いえいえ、今日はたまたまです。朝ご飯がたこ焼き、って生活習慣の人は日本人の中でもまずいないと思います。

たこ焼は喜んでもらえた。後部座席のテンションが上がるのが、よくわかる。「タコが大きいのはどうですか?」と聞いたら、「おいしい」とのこと。よかった。

おやきの保温器

関東平野の説明をしたり、赤城山、妙義山の説明をしたり。車中ではひっきりなしにおかでんが知っている情報をあれこれ開陳する。しかし、その情報のうち、どれだけが相手の心に響いたかはわからない。

さすがにこのあたり、バスガイドさんには叶わない。適度に冗談を織り交ぜたり、「大蛇と姫の伝説がこの地にありまして」みたいな手頃に興味をひく昔話があったりすると良いのだろうが、素人には無理。

Fishが通訳となって話を仲介しているので、どこまで理解がされているのかまではよくわからない。なんだかさっきから後部座席が「あー」とか「ほー」とか生返事っぽいくなってきたような。いかん、いかん。

さて、二番目に立ち寄った横川SAでは、信州名物「おやき」を購入。こちらも車内で食べる。なんかさっきから粉モンばっかりだ。

「おいしいですか?」と聞いたら、「オイシー」とのこと。ただこれが、社交辞令なんだか本当なんだかわからん。さて、どうやってコミュニケーションを取っていけばよいのやら。

おかでんが台湾に行った時は、思いつく限りの言葉でおもてなしを絶賛したりコメントした。当事者としては珍しいし楽しいしうれしいのだが、その気持ちがどれだけ相手に伝わっただろうか?立場が逆になるとこんなに不安になるものなのか。

 妙高SA

妙高SAでもお手洗い休憩を挟んだが、ここでは追加の「ご当地グルメ」はなし。お昼に黒部でお寿司を食べようと考えいるので、道中いろいろ食べてしまってはお昼が食べられなくなってしまう。あんまりあれもこれもと手当たり次第に手の内を出してしまってはアウト。このあたりの加減が難しい。

車は上信越道を経由して北陸道へ。

北陸新幹線の高架橋1
北陸新幹線の高架橋2

北陸道に併走するように、作りかけの高架橋が見える。

「あれが北陸新幹線ですよ。今建設中の新幹線が日本にもあるんです」

と説明したら、「オー」「オー」とFishご一家えらく感心しとる。写真も上記のように撮影。

(おかでんはハンドルを握っているため、写真撮影はできない。以降、車中の写真はFish撮影によるもの。つまりFishが興味を持ったもの)

「いや、単なる高架橋だから。今新幹線走っているわけでもないから」

とあわてて補足説明したが、それでもなんだかえらく感心していた。新幹線というのは台湾人にとってシンパシーがある乗り物なのかもしれない。

親不知子不知

さらに進むと、親不知子不知の場所に。槍ヶ岳や穂高岳といった標高3,000mクラスの山々が、ここまで伸びていて、そのまま前触れ無くずどんと海になだれ込んでいる場所。

「昔、ここは潮が引いた時だけ人がやっと通る事ができて、親子でここを通過するときは、親が先に行って、さあ坊や後に続いておいで、と後ろを振り向いたら既に子供は潮に飲まれてどこかへと消えていた・・・」

とおかでん付け焼き刃の必死な説明。

「・・・・」
「・・・・」

後部座席のお二方、ウケたかどうかわからん。北アルプスとはなんぞやみたいな話から始めてしまったので、どうやらややこしくなってしまったらしい。作戦失敗。

いかんかったのは、その前に糸魚川を通過した時点でフォッサマグナの説明をとうとうとしてしまったこと。何で台湾からやってきたお客さんにフォッサマグナを教えなくちゃいかんのだ、と今となっては呆れるが、当時のおかでんは「できるだけ台湾の賓客にいろいろ知ってもらおう」と必死だったんだな。

黒部IC

宇奈月温泉の最寄りIC、黒部ICに到着。5時間くらいかかった。

お盆時期割引拡充

料金は練馬ICから乗って、1,850円!安い。

2009年夏は「お盆時期割引拡充」というのがあって、平日・木曜日である今日(8月6日)も休日特別割引1,000円均一が適応されるのだった。ありがたい。

黒部IC出てすぐの標識

←黒部 宇奈月→

となっていて、黒部峡谷は宇奈月方面、と表示があるのだが、まずはお昼ご飯を食べるために黒部方面に向かう。なんかややこしい。

縦型の信号

信号が縦になっている。

「このあたりは雪が良く降るので、雪が信号の上に積もらないように縦に配置されているんですよ」

と説明したら、Fish一族大興奮。「雪=白くて冷たくて楽しいもの」くらいの認識しか持っていない台湾人にとって、雪が生活に密着していて、その対策のため工夫がされているというものには驚きと畏敬の念が生じるようだ。一同ゴソゴソしはじめ、カメラでこの「何の変哲もない」信号の写真を撮影していた。

きときと寿し

お昼ご飯のため、回転寿司の「きときと寿司」を訪問。

ここには「いつもココロは日本海ぜよ」の時に訪れたことがある。特に絶品というわけではないのだが、富山湾の海の幸を手軽に食べさせてくれる、便利の良い場所のお店となるとここが丁度良かった。

Fishがさっきから妙にニコニコしている。何で?と聞いたら、家族とここまではるばる来ることができたのがうれしくって!と心底うれしそうに言う。

きときと寿しの湯のみ

きときと寿司。

湯飲み一つとってもキャーキャー盛り上がって写真撮影してみたりする。

台湾にも回転寿司は存在するし、寿司だって台湾の人は食べる。もともと生食文化が無かった台湾人だが、最近は生ものも食べられるようになってきている。

きときと寿し店内

「来日した家族を連れて、回転しない寿司屋に行ったよ」
「待てFish。それは昨日か一昨日か、という話か?」
「そだよ」
「かぶってしまったではないか。ここで回転寿司食べたら、回転寿司のレベルが低く感じられてしまうんじゃないか?」
「大丈夫だよ、寿司は珍しいし日本のものだから、何回食べてもいいんだよ」
「キミの『大丈夫』ということばは今までさんざん聞いてきたが、どこまで信用できるんだかよくわからんのだよなあ」

まあそれはともかく、店名の「きときと」という意味の説明をしておく。

「富山地方の方言で『新鮮』という意味ですよ」

「キトキト?」
「キトキト!」

たどたどしい言葉で台湾賓客ご一行からリプライが返ってくる。そうです、キトキトなのです。

ひょっとしたら、10年後くらいには台湾で「新鮮」という言葉の意味で「キトキト」という富山弁が流行る・・・かもしれん。

「ちなみに新鮮、という言葉の中国語は?」

と聞いてみたら、「シンシェン!」という回答が返ってきてびっくりした。なんだそれ。

Fishに解説してもらうと、日本の「新鮮」は中国語でも「新鮮」でああり、その読み方は「シンシェン(xīn xiān)」なのだった。へー。さすが日本語と中国語。似ている言葉が結構あるもんだな。

黒板の寿司メニュー

「さあ、好きなものを選んでくださいね。この後、トロッコ列車で山奥に入りますよ。栄養をつけておかないと」

とFish母と妹に言う。Fishの通訳を介して、だけど。

しかし、彼女たちはなかなか寿司を取ろうとしない。

「なんで?」
「見慣れないものが多いので、どれを食べていいのか分からないんだよ」

なるほど、それはごもっともだ。おかでんだって、台湾料理バイキング店に行ったとしたら、どれを取ってよいのかしばらく固まってしまうはずだ。

「生ものは食べられるんだよね?」
「一応大丈夫だよ。お母さんはあまり得意じゃないけど」

やはり、年代によって生ものへの順応度あいが違うようだ。これは推測だが、多分若い人ほど生もの(生野菜、寿司など)は抵抗なく食べられるはずだ。

「でもFishは生卵駄目だもんね?」
「あれは駄目」
「それでも温泉玉子は好きなんだよね?」
「温泉玉子、いいねー。大好き」
「どこまでがOKでどこからが駄目なのか、境界線がよくわからん」

お寿司1

さて話を戻すと、我らがテーブル。いつまで経っても先に進まない気配なので、おかでんとFishからお手本を見せないといけないだろう。ほら、こんな感じで取るんですよ、といくつかの皿をコンベアから取ってみせる。それを見て、見る物聞くモノ珍しづくしのお二方も同じようにお皿をとる。

実は、富山の回転寿司は他県にはない特殊なルールがある。それは、回転している寿司は「食品サンプル」のような位置づけであり、取って食べるものではない、というものだ。もちろん食べられる寿司が回っているのだが、鮮度があまりよくない。食べたいものは、ベルトコンベア内にいる職人さんに頼んで、その場で握ってもらうのが正解。これが富山ルール。

・・・なのだが、敢えてそれを説明するのはやめた。「本日のおすすめ」というボードをみると、あまりに魚の名前がいろいろ書かれていたからだ。日本語が読めない二人に、「実際に職人さんに注文した方がいいですよ、ほら、おすすめはコレ」とボードを見せたって、どうにも対応できるわけがない。

とりあえず、お二方のために富山湾名物であるボタンエビを注文しておく。

あと富山湾といえば、ブリ、ホタルイカといった名物があるのだが、8月じゃ時期が違うのでこれはパス。

海老いろいろ

「海老」ひとつとってもこれだけ種類があるんだもんなー。

語学勉強ってのは難しいとつくづく思う。寿司メニューでこのうち数種類ラインナップされていて、外国のお客さんに海老の説明をするというシチュエーションがあったら、すごく大変だ。というか、無理だ。

「こういう海老なんだ、判れ」

としかいいようがない。

お寿司2

寿司を何皿かつまむが、Fish母と妹は「もうおなかいっぱい」とばかりに食べるのをやめてしまった。あれれ、いくら小食だったとしても少なすぎるんじゃありませんか?

心配になる。寿司が口に合わなかったのだろうか。

「二人ともあんまり食べなかったけど、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ、普段あまり生の魚を食べないから、あんまりたくさん食べられなかったんだよ」

そうか、そういうものなのか。生魚って食べ慣れないと量が食べられないんだな。

「回らない寿司」を食べた後なので、回転寿司なんてチャラいもんまずくてくえねーぜ、という話だったらどうしようと思ったが、決して美味いまずいの世界じゃなかったんだな。納得。

とはいえ、寿司を選択したのはツアーコンダクターとしては失敗だったかもしれん。うーむ、難しい。

ひょっとしたら、トロッコ列車の駅で立ち食い蕎麦を振る舞った方が、むしろ旅情っぽくて楽しんでもらえたかもしれない。そういう可能性まで考えると、何が正解で何が不正解なのか全く想像ができない。

宇奈月に向けて出発

食後、宇奈月に向かう。

「ほら、標識を見てごらん。宇奈月の頭文字をとって『う』って看板に書いてある」
「おー」

写真を一枚。

「待て、その写真は何か意味があるの?」

さっきから、宇奈月に向かう途中、何の変哲もない写真を撮りまくっているFishに聞いてみる。

「わかんない!なんだかうれしくって!」

おう、そうですか。それはこちらもうれしい。

Fishは、今回「おかでんが企画した旅行を楽しむ」立場でもあると同時に、おかでんという日本人をアサインして家族のおもてなしを託した旅行プロデューサーでもある。家族が旅で喜んでいるのは我が身のようにうれしいし、当然自分自身も楽しいし、二重にうれしくてヒャッホーという感じなんだろう。

一方のおかでんとしては、そういう子供のようにわくわくしている皆様を見るのは光栄。ご案内して良かったと思う一方、ハンドルを持つ手は真剣だ。何せ、ここで事故ってみろ。国際問題だぞ。台湾に住むFish家の誰かに連絡を取ろうとしたら、一体どれだけの手間がかかることか。事故ったらいかん。いや、車の運転だけじゃない、それ以外でも、道中転んで足をねんざするくらいでもあってはいかん。ホント、最後の最後、Fish家前で解散するときまでこの緊張感は解けることがなかった。

13時、ほぼ当初予定通りの時間で宇奈月に到着。

フィール宇奈月

車を、今晩の宿である「フィール宇奈月」に停車し、フロントに一声かけておく。

このフィール宇奈月、トロッコ列車の駅前にあるのでとても便利。

黒部川電気記念館

出発時間までまだしばらく時間があったので、「黒部川電気記念館」に入ってみる。

ここは入館無料で、黒部川ダム各種の紹介や地理の紹介がされている。

黒部川の解説
黒部川開拓中のジオラマ

ここで立山と黒部の位置関係をお勉強してもらう。

なにせ、今日明日明後日と通過するルートがややこしい。黒部川があって、今日はそれを途中までトロッコで遡上して折り返し。翌日はぐるーっと回り込んで立山に行って、翌々日は立山の地下トンネルをくぐってまた黒部川の上流に姿を現して・・・。このややこしさを事前に理解してくれれば、アルペンルートを満喫できるはず。そんな気がした。

とはいえ、女性にとって地理感というのはどうも身につきにくい分野。ましてや異国の地ニッポンともなれば、どこまで理解してもらえたかどうか。

とりあえず、今日これから行くトロッコ列車がここからこのあたりまで行くんですよー、ということだけは理解してもらえたと思う。

たくさん並ぶ観光バス

うわあ・・・

トロッコ列車の駅前には数数え切れないくらいの観光バス。

これがあるから、繁忙期のトロッコ列車は予約でいっぱいなのか。

われわれは既にその点ぬかりがない、ネットで予約を済ませてあるので大丈夫。

トロッコ列車時刻表

逆に、トロッコの便の予約があったのでハンドルを任されている身としては緊張したくらいだ。東京7時発で宇奈月13時32分発のトロッコ。6時間32分だから時間に余裕は見ているが、途中どんなトラブルがあるかわからない。無事予定通りに到着できるか、ひやひやしっぱなしだった。許されるなら、予約無しで飛び込みトロッコ列車にしたかったくらいだ。

でも良かった、まずは最初のハードル突破。

トロッコ列車窓口

さて、添乗員役であるおかでんはここからちょっと一仕事。

事前に予約しておいたトロッコ列車のチケットを受け取らないと。

トロッコ列車はこの日、一日18便。単に谷の奥に行くだけの列車にしては大層繁盛している。立地条件的には超ローカル路線(なにせ沿線住民ゼロ)だし、終着駅の欅平駅まで行ったからといって、すごいダムが待ち構えているとか、洞窟探検ができるといったわけではない。ただ単に、トロッコでのろのろと進むところが楽しい乗り物。これがもし「トロッコ列車」ではなく、普通のディーゼル車だったりしたら、むしろ客が減っていたと思う。

トロッコ列車の編成

このトロッコ、単に牽引される客車が連なっているかというとそうではない。「普通車両」が当然あるとして、その他に「リラックス車両」「特別車両」などがある。乗る列車によって、その編成に違いがあるのが面白い。「特別車両」というとなんだか皇室の方が乗るお召し列車のような印象を受けるが、さすがはトロッコ、そこまで豪華ではない。「普通車両」が外気剥き出しの乗り物なのに対して、特別車両はちゃんと壁に覆われているというもの。これなら肌寒いトンネル内でも大丈夫!というわけだ。

われわれは普通車両をチョイス。やっぱり風情があるのは、風を感じられる普通車両だと思ったから。

宇奈月駅の売店

出発までに時間があったので、ちょっと売店で買い物。

そういえば富山名物といえば鱒のすし。車中で食べられるように一つ購入しておいた。

すいかが売られていた

あと、売店にはやたらと大きなスイカが。楕円形の独特なデザイン。持ち運びに便利なように、藁で編んだ紐で縛られている。これなら、トロッコの旅の途中でもおいしく食べられるね!・・・なわけ、あるか。誰が買うんだ、これ。

トロッコ列車

トロッコ列車。

幅もさることながら、高さも非常に低い。オモチャのようだ。

われわれが乗る便は13両編成なので、この牽引車が2台連結されて運行する。

しばしの間、この先頭車両の前で代わる代わる記念撮影。

おかでんとしては、以前このトロッコで「出平(だしだいら)」駅まで行った事がある。なかなか楽しい思い出であった。で、今回の旅ではさらに奥地、終着点の「欅平」駅往復を計画している。時間をかけて最終地点まで行くのが本当に価値あるプランなのか、正直不安ではある。なにしろ片道90分、往復3時間の計画であり、これが面白くなかったら申し訳ないったらありゃしない。

台湾には阿里山という山があり、そこにこれと同じようなトロッコ列車が走っている。トロッコ列車の規模としては阿里山の方が上だ。だから、この黒部峡谷鉄道を乗った後に「なーんだ、阿里山の方が面白かった」と思われたらとても悔しい。頼むぞ、黒部峡谷鉄道。

かき氷を売っている

「進行方向右手の方が眺めが良いですよ」

と事前に調べておいた情報を伝える。こういうところまで調べておくのがおかでんクオリティ。ただし、あまりに詳細に事前検討をしすぎるので、当日自分の予定通りに行かなくなると苛立つという悪い癖がある。今んとこ、全くプランに破綻はなし。

しばらくするとワゴンにいろいろなものを積み込んだ売り子さんがやってきた。コーヒーやドーナツなんてのを売っている。

「あ!かき氷があるよ!」

かき氷、300円という表記の横には「刨冰」(ぱおびん)と書かれてあった。言うまでもなく中国語。

海外旅行をしていると、自国の言葉が観光地のあちこちで見かけられると、なんだか誇らしい気分になる。その気分をぜひFishご一行にも。

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