中四国地方には、「日本百名山」が3座ある。
鳥取県の伯耆大山(ほうきだいせん)、愛媛県の石鎚山(いしづちさん)、そして徳島県の剣山(つるぎさん)だ。岡山県広島県山口県、という山陽地方には一座もない。
さすがに自分の年齢が上がってくると、「死ぬまでに百名山を全て踏破できるのか?」というのが心配になってきた。「人生100年時代」なんて言うけれど、じゃあ100歳まで登れるのかよ、と言われるとそんな筈はない。
最近、山でお年寄りをみかける機会が減った気がする。気がついたら自分が「お年寄り」の部類に入りつつあるということと、団塊の世代が70歳近くなり、高山から遠ざかったからだろう。
そう思うと、「行けるうちに、できるだけ登頂しておかなければ」という気持ちを強く持つ。
今回登ろうとしているのは、四国は徳島県にある「剣山(つるぎさん)」。紛らわしい名前で、富山県に「剱岳(つるぎだけ)」というのがあるが、もちろんまったくの別物だ。
四国の山なんて、大して高くないのでしょう?・・・と油断してはいけない。なにげに、標高1,955メートルもある。高い。同じく四国の百名山である石鎚山が1,982メートルなので、四国というのは侮れない場所だ。
ちなみに僕の出身地・広島県で一番高い山は恐羅漢山(おそらかんざん)で1,346メートル。僕は中学・高校時代に広島県で標高が高い山3座(恐羅漢山、冠山、十方山)をいずれも登ったことがあるが、辛いばかりで何のカタルシスもなかった。なにせ、山頂が木々に覆われていて、眺めが全然良くなかったからだ。「はいここが山頂です」と言われても、納得できるかーッ!という山だった。なので、学生時代は登山は嫌いだった。疲れるだけだから。
話がずれた。
そんな、予想以上に標高が高い山である「剣山」を今回は目指す。お盆で実家(岡山県)に帰省中のタイミングで、四国まで遠征することにした。
正直言って、実家帰省中に外をフラフラ出歩くのは、あまり好きじゃない。なんだか、親に申し訳ない気がするからだ。親孝行として、たまの帰省の際にはできるだけ家にいた方がいい、と考えている。でも、そうも言ってはいられない。もう、どんどん百名山を登らないと。いつ僕の身体がダメになるか、わからないんだから。
親に若干の遠慮と配慮をしつつ、「終日実家を留守にする」ということと、「車を借りる」ことを申請し、許可を貰った。中四国地方の百名山はこれで最後。さあ、これで少し気分をすっきりさせよう。
2017年08月16日(水)
剣山というのは、標高(1,955m)の割には登頂時間が短くて済む山だ。中腹まで道路が開通しているからだが、標準コースタイムで2時間35分、となっている。
さらに、ご機嫌な「剣山リフト」という観光リフトも存在し、それを使えばもっとショートカットができる。はっきり言おう、楽勝である、と。小一時間あれば、リフト駅から山頂までたどり着いてしまう。
そんな山なのに、何をグズグズして登山をためらっていたのか。それは、「年老いた親への配慮」もさることながら、アホみたいに山深い場所にあるからだ。
過去、何度となくこの山の登頂計画を考えたことがある。実家の帰省タイミングではない時だとどうか、その場合は徳島空港から何時間かかるか・・・などと綿密に計算して。
そして出た結論が、「公共交通機関で行く場所じゃあ、ない」ということだった。山奥すぎて、「最寄り駅」が遠すぎた。そして、バス便が相当少ないうえに、2時間近くもバスに乗るという有様。マイカーで行くしかない、というのが現実解だった。
さらにそのマイカーだけど、登山口にたどり着くまでの道が狭い。何通りかルートがあるけれど、どれも狭くてぐねぐねした道を走破しないといけない。「かずら橋」というつり橋で有名な祖谷渓が近くにあることからもわかるように、とにかく山深い。なので、はいそうですか、と登山できる山ではなかった。
登山口に着いちゃえば簡単。でも、登山口にたどり着くまでが、大変。そんな山が剣山。
車のナビによると、実家からこの登山口まで、3時間かかるという。「たかが3時間」と思うかもしれないが、「えっ、そんなにかかるの?」というのが僕の印象だった。岡山から、直線距離だと大して遠くないからだ。
でも、それだけ時間がかかるのは、瀬戸大橋を渡って四国に入ってすぐの都市・坂出で高速道路を下り、あとはひたすら下道で現地を目指すからだ。
四国には、十字型に高速道路が走っていて、4つの県の自動車移動はもっぱらそれを利用することになる。しかし、剣山はその十字からかなり離れており、結局四国に入ったら下道をエンヤコラと走って行くしかないのだった。
しかも途中、貞光のあたりで徳島県を東西に横切る吉野川を越えていかないといけない。
つまり、香川県で一旦山奥まで分け入り、その山を乗り越えて吉野川まで下り、そこからもう一度山に踏み込んでいかないといけない。アップダウンが多く、うねうね道が増えてしまう。道理で時間がかかるわけだ。
日本には、各地に「山深くアプローチが困難」な山は存在する。この剣山だけが特殊なわけではない。でも、「もっと簡単だと思っていたのに、実は大変だった」とびっくりさせられる度合いでいったら、この山は上位に入ると思う。そもそも、「四国」という段階で東京住まいの僕にとっては、地味に大変だ。
11:21
この日、朝8時に岡山の家を出て、剣山登山口である「見の越(みのこし)」にやってきた。途中、コンビニに立ち寄って、3時間20分近くの行程だった。やっぱり、遠い。
山地を一つ超えて、また山に入るというのはなかなかにハードなルートだ。
坂出から見の越までは、国道438号線として繋がっている。400番台国道、ということでそれなりの道だということの想像がつくと思う。ちなみに、この見の越から西、祖谷渓方面へは国道439号線が伸びている。どこもかしこも番号が大きい。
このトンネルから先も、国道438号線は続く。たぶん徳島市までたどり着く筈なのだけど、青色標識には「徳島」の文字が出ていない。遠すぎて、表示する意欲が失せたらしい。
あいにく今日は曇り空。雨の予報が出ているので、あまり油断はしていられない。ここまで来たら勝ったも同然、なんて考えないほうがいい。なにしろ、標高は2,000メートル近くある山なのだから。
とはいっても、食料などは殆ど持参していない軽装だ。
- 帰省ついでの登山なので、装備品を増やせなかった
- 行程が短いから、なんとかなるっしょ、という気持ち
- 山頂直下に山小屋がある
ということで、大幅に省略した。山装備は念には念を入れておくのが一番だけど、本気になると「ツェルトはあったほうがいいのか?急にもよおした時用に、トイレットペーパーは?」なんて考え出してキリがない。そこまで考えなくても良いだろう、さすがに今回は。
さて、山深い見の越だけど、駐車場にはけっこう車が停まっていた。お盆期間ということもあるのだろう。平日でこれだと、週末になるともっと車が増えそうだ。
実際、駐車場の案内図を見ると、第一駐車場とは別に第二駐車場もあった。
繁忙期になると、車が入りきれないこともあるのだろう。
こんなところで路駐をされたらたまらない。ただでさえ狭い道路が、塞がってしまう。駐車場を十分に確保することは、交通の確保でもある。
駐車場に「無料」とわざわざ括弧書きで注釈がつけられている。
「こんな山奥なんだし、当然でしょ?」と思ってはいけない。同じ四国にある石鎚山を思い出せ。あそこは有料だったぞ。
第一駐車場の片隅に、バス停がある。
三好市営バスが1日2本、美馬市営バスが1日1本、つるぎ町コミュニティバスが1日3本。
「なんだ、多いじゃないか」と思ってはいけない。どれも、行く方向が違う。間違ったやつに乗ると、予想とは全然違うところに連れて行かれてしまう。
駐車場手前には、何軒かお店がある。登山客以外にも、剱神社にやってくる参拝客をもてなすためだろう。
この駐車場すぐ近くに「剱神社」があるのだけど、「剣神社」ではなく「剱神社」なのでとてもややこしい。やっぱり富山の剱岳と混同してしまう。
剣山の周辺は国定公園になっているそうで、環境省が設置した地図があった。
・・・けど、あまりに山深くて、何がなんだかよくわからなかった。全部山じゃん、と元も子もないことを言う。
地図上の青い線は、一瞬「川」のように見えるけど、これは国定公園の境界線を指す。
「東祖谷観光マップ」というのもあった。
ここからわずか20分のところに、有名な祖谷渓のかずら橋があるようだ。写真を撮るだけ撮って、すぐに移動したので気がつかなかった。そんなに近いなら、下山後に立ち寄れば良かった・・・。なにしろ、ここまで遠いと、二度三度と訪れるガッツがなかなか湧かない。行ける時にまとめて行ったほうがいい。
登山案内図。
剣山は修験道の場でもあって、ルートによっては鎖場もある。
しかしそっちのルートは赤線で記され、わざわざ「装備がない人や体力に自信の無い人は通るな」という注釈が付けられていた。神社が2つ、お社が1つあって変化に富んだコースのようで気になるが、今回はやめておく。あくまでも今回は、最短ルートで行く。
(つづく)
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