
倉敷川の川辺から一歩奥まったところにある旧街道。
森田酒造のあたりまでは観光客の往来がかなり多いけど、そこから東はだんだんと観光客の数が減ってくる。
とはいえ、最近は美観地区の端っこまで探検に訪れる観光客が増え、これまでは観光客向けのお店がなかったところにもお店ができてきた。
「蕎麦食い人種行動観察」で3度ほど登場したことがある蕎麦店、「さくら」はこのあたりにある。しかし残念ながら、現在は閉店してしまった。今訪れても、お店はやっていない。

「さくら」閉店はご主人の都合があったのかもしれないが、このお店に限らず倉敷界隈のお店の移り変わりは本当に激しい。長続きしているお店がある一方で、消えてしまうお店も後を絶たない。
観光客がどんどんやってくる土地なのだから、殿様商売で儲かるっしょ・・・というのは甘い考えなのだろう。もともとその土地や建物を所有しているならともかく、賃貸にするとかなり高くつくに違いない。その賃料に見合った売上げが上がらないと、すぐにギブアップせざるをえない。
昔は梅宮辰夫の漬物のお店があったし、五木ひろしのお店もあったっけ。こういう芸能人ショップは、あっけなく消えてしまう。しかし唯一、「星野仙一記念館」は長続きしている。

如竹堂。
比較的新しいお店だと思う。昔はなかったはずだ。
断定口調になっていないのは、ひょっとしたら「昔は地味なお店だったけど、超絶リニューアルして目立つ存在になった」かもしれないから。
売っているものは便せん、マスキングテープ、紙風船、ぽち袋といった紙製品。
林源十郎商店もそうだけど、マスキングテープを売っているお店が多い。2015年当時の流行りなのだろう。

車の往来が結構ある通りを横断したところが、東町と呼ばれるエリア。
観光客がさらに少なくなって、静かな空間となる。ただし、これといって観光客が楽しめるようなお店は少なく、見るべきところはこの通り一本だけだ。

そんな東町に忽然と現れるのが、イタリア国旗を掲げた「トラットリアはしまや」。
町屋作りの建物を大胆にアレンジした外観は、「よく倉敷市が許可したな!?」と驚かされる。というのも、この界隈の建物は、人目に触れる外観(屋根を含む)をいじる際は役所の許可が必要なはずだからだ。
ガラス張りのショーウィンドー、レンガの入り口。しかし不思議と嫌みな感じがしないので、よく考えられていると思う。
味は良いと地元の人から聞いたことがあるので、小洒落た飲食店を探しているならばここも選択肢に入れて良いと思う。
「トラットリアはしまや」の向かいにあるのが「はしまや呉服店」。「はしまや」というのは、楠戸家という、これもまた倉敷の名家が営む呉服店の屋号だ。
大きな店を構えているけれど(母屋は重要文化財)、「呉服店」なのでお客さんがひっきりなしに出入りするような場所ではない。ブティックのように服がハンガーに吊されて展示販売されているわけでもないので、このお店がどのようなものをどれくらいの価格で売っているのか、僕は未だに知らない。
ちなみに楠戸家は明治初期に倉敷市羽島からこの地にお店を構えたので、屋号を「はしまや」にしている。当時はこういう出身地を屋号にすることがよくあったようで、大原家ももともとは出身地である倉敷市児島の名を使い、「児島屋」という屋号を使っていた。

そんな重要文化財・はしまやの脇に、こそっと地味な看板が出ている。
「夢空間はしまや」
とだけ記されている。はしまやの蔵を改造した、カフェだ。

なにせお店はこの奥にある。
いくら店頭に看板が出ているとはいえ、事前情報がない一見さんならびびって近寄らない。・・・はずなんだけど、最近の観光客はしっかりしているので、「こういう路地奥にお店があって、面白そうだ」ということを事前学習している。
なんでこんなマニアックな場所なのに混むの?というくらい、お客さんがいるので驚く。このお店ができてから20年くらいが経つけど、どんどん知名度が上がっている印象を受ける。

石畳を何十メートルか歩いた先に、はしまやの中庭に入る入り口がある。

先ほどの通りを振り返ったところ。
黒板としっくいの壁に挟まれ、かなり密着感のある路地だ。しかし、ぴんと一直線で凜としている。フォトジェニックな道の一つ。

はしまやの中庭。
右側に蔵があり、そこが「夢空間はしまや」。左側が呉服店とおそらく住居になっている母屋。
このあたりの大きな商人の家は、城塞都市のように壁と蔵で完全に外界から遮断された作りになっている。

「夢空間はしまや」の入り口。
大きな引き戸をゴロゴロを横に開けて、中に入る。

はしまや店内。
蔵を改造したものなので、独特の空間になっている。
比較的大きな建物なのに、支柱が空間の中にない。あと、木と土としっくいで作られた空間なので、音を吸収して独特の静けさがある。

キッチンスペースの上部にロフトがあり、そこにも客席がある。
ロフト席から蔵を見下ろすというアングルもいいし、一階の席から高い天井を見上げるというのも気持ちがよいものだ。
良いお店なのだけど、いかんせん「蔵」なので広くはない。客席数は写真に写り込んでいるのが全てで、20席程度だと思う。大人数での訪問は向かないし、混んでいることも多いので注意。

お品書き。
値段はこの空間を楽しめることを踏まえると、とてもリーズナブルだと思う。
僕は知らなかったのだけど、カフェメニューとしてハンバーグランチなどもあるそうだ。


お抹茶とコーヒーをいただいて、しばらくくつろぐ。
(つづく)
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