イノシシ肉のバーベキュー中、地元の方が「保定具」を見せてくれた。
保定具とは、わなにかかった害獣を仕留める前に身動きがつかないようにするための拘束具だ。
くくりわなの場合、まだ片足しか捕まっていない。これだと、わなを固定している木を中心にぐるぐると円形に自由に動き回ることができてしまう。こんな状態では、急所を狙って仕留めるなんてのは無理だ。
写真に写っている金具は「チョン掛け」という器具で、くくりわなのワイヤーに引っ掛ける。そして、わなを固定している木とは別方向の木にチョン掛けに取り付けられたワイヤーを固定することで、害獣の動きを抑止する。
殺されまい、と猛烈に暴れている動物を前にこんな作業をやるのは、人間にとっても命がけだ。
そしてこのマジックハンドみたいなものは足かせ。名前のとおり足にはめることで動きを止める。
他にも、イノシシの鼻やシカのツノにひっかける「鼻くくり」というものがある。
イノシシの鼻っ面をワイヤーで固定するなんてできるのか?と驚くが、イノシシの習性として目の前にワイヤーを差し出すと噛みつこうとするので、そのタイミングで輪っかを鼻に引っ掛けて固定することができるのだという。
こうやって、害獣をがんじがらめにした上で、こめかみなどを鈍器で殴り気絶させ、頸部や心臓をナイフで刺して仕留める。想像しただけで大変だ。
しかもこれで一件落着、じゃなくて、すぐに簡易的な血抜きをやって、食肉にするなら下界に運び降ろさないといけない。生命の危険のあとは、肉体の限界に挑戦となる。
仕留めた現場で血抜きをどうやるの?と聞いてみたら、「足でドンドン踏む」という。一瞬、「えっ、食べ物になるのに土足で踏むの?汚い!」と思ってしまったが、ついさっきまで野生で生きてきた動物を相手に汚いもへったくれもない。あと、イノシシもシカも分厚い毛皮に包まれているので、どうせ食べる際にはそれが剥がされる。毛皮のカーペットにくるまれた肉だ、と思えば、土足で踏まれても全く問題はない。
夕方になって雲が重たくなってきた。
そんな空に、大量のカラスが旋回している。仕留められたシカが軽トラで運ばれてきたのを目ざとく発見したのかもしれない。僕らがイノシシ肉のバーベキューをやっているのを羨ましく思っているわけではないだろう。
これだけカラスが集まってくるからこそ、近くの木の下にはカラスの死骸が吊り下げられて「脅し」になっているのだろう。
大きなイノシシとシカの人形。かわいい。
なんでこんなのがあるのか謎だけど、なにかのイベントやキャンペーンのために買ったのかもしれない。
これを見ると「かわいいですね」になってしまうけど、実際は厄介者だ。
イベント終了後、「日本猪祭り in東京」というパンフレットを見せてもらった。「今期最高の猪決定戦!全国利き猪グランプリ!!」なんて銘打たれている。
「おっ、最近はジビエをブランド化する自治体が増えてきたんだな」と思うが、鋸南町の一連の害獣対策の話を見聞きしているとそんな「新しいお金儲け」で片付けられる話じゃない。どこも大変だ。せいぜい、こういうイベントでもやらないと「やってられない」んだと思う。
参加自治体を見てみると、鋸南町の名前がない。あれっ、なんで。
聞くと、処理施設がある自治体がこのイベントに出場できるのだそうで、鋸南町は処理施設がないから参加できないという。それは惜しい。
お腹いっぱいになりながら、害獣についてあれこれ考えつつ車で東京に戻る。「害獣」といえばゴキブリくらいしか思いつかない、そんな不毛の大地へ。
2019年03月03日(日) 被害対策ワークショップ
一連のワークショップ、最後になるのが「被害対策ワークショップ」だった。
鋸南町のイベントは全6種類だったけど、結局僕は4種類に参加することができた。改めてこの場を借りて鋸南町にはお礼を申し上げる。
今回の会場は、「鋸東コミュニティセンター」という場所だった。一連のワークショップで、町の中のあっちこっちに立ち寄ることができて、とても良かった。よそ者として車で移動するなら、ビューンと高速で通過してしまうような場所にも人の営みがある、ということを改めて実感できたから。
そんなの当たり前でしょ?と思うだろう。でも、本当に都会の人間というのは、田舎と呼ばれる場所に住む人たちの生活について、おそろしく想像力に欠いている。
害獣駆除に対する理解とか支援以前に、自然に隣接して暮らす、ということをわかっていない。
今回のワークショップは、そういう自分を再認識する良い機会だった。主催者側には多大なる手間暇がかかってしまうけど、こういう取り組みは本当に素晴らしいと思うし、こういうのこそが「修学」だと思う。修学旅行はこういうのでいいと思う。ディズニーに行く、みたいな娯楽じゃなくて。
鋸東コミュニティセンター。
今日は雨が降っているので、屋内ですべてが行われることになっている。
会場内。
前回の「けもの道トレッキング」同様、座学用にプロジェクタが設置され、畳の間に座布団が並ぶ。
法事のとき以外、こうやって隣同士近い状態で座布団にあぐらをかいて座る機会がない。だからちょっと疲れた。人間、本当にやらないことをやると疲れるものだな。
本日のアジェンダ。
10:10~12:00 害獣の生態・侵入防止柵の効果的な設置
13:00~16:30 侵入防止柵設置体験
となっていた。今回も前回同様、千葉県農林総合研究センターから研究員の方をお招きして、講演してもらう形態。
同じ講師の方だから、前回と同じ資料が使い回されるのだろう・・・と思ったら、違った。いやあ、これもまた深い。大変によくできた、わかりやすい資料がみっちり。
非常に実践的なことが書かれている。僕のように実践の場を持っていない人間がここで「参加者定員のうち1名」を消費してしまっていることが申し訳なくなるくらいだ。
もちろん僕同様に、知的好奇心で参加している方が他に何人もいらっしゃる。一方で、県内からもガチ勢が参加していて、被害をどうにかしたいんだ、ということを仰っていた。
参加させていただけたのはありがたいけど、まずは千葉県内の農業従事者やその周辺の方々を優先的に抽選で当選せたほうがよかったんじゃ・・・と他人事ながら心配になる。鋸南町役場、厳正に抽選しすぎ。人がいい。
これまで、害獣としてイノシシ、シカの話題が中心だった。
でも実際は他にもアライグマ、ハクビシン、タヌキ、サル・・・といった多くの種類の害獣がいる。その全てに対応するのは到底無理だけど、どうやって最大公約数的な対策で農作物被害を最小化するか、が大変だ。
「おっ」と思ったのが、千葉県ではキョンもいて、こいつもなかなかに害をもたらすそうだ。キョンといえば八丈島にいる、小さなシカみたいな動物だけど房総半島にもいたのか。
今回は防護柵を午後にこしらえる、ということになっていいる。
そのためにも、まずは対峙するイノシシのスペックを確認。このスペックに耐えられないと、柵が役に立たない。
研究員の方も、「人間のミスによって柵の設置が甘いと、そこをついて侵入される。一度農作物の味を覚えた害獣は、繰り返し害を及ぼすようになる」と仰っていた。
とはいってもなにこの生き物。時速45km/hと俊足だし、1.2メートルも跳躍できるし、鼻で70kgを持ち上げられる。御冗談でしょう、というハイスペックだ。しかも、毛深い表皮のせいで有刺鉄線がきかないし電気柵も、鼻っ柱以外は効果なしだ。チートすぎる。
この鼻のちからが曲者で、せっかく田畑を取り囲んだ保護柵も、掘り返されてしまうのだという。理想は、柵の向こう側に餌があるとわからないように、柵+トタン板で視界を遮ってしまうことだけど、膨大な資材がいる上に頻繁にメンテナンスをしておかないと、いずれ隙間ができて侵入を許してしまう。
座学のあと、鋸南町のブランド米「地すべり米」を使ったお弁当を今回もおいしくいただく。
毎回、品数多いおかずで嬉しいお弁当だ。
(つづく)
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