「猪味噌煮」の次の料理、「猪のワイン煮 味噌風味」に備えて付け合せの野菜がすでにスタンバイされている。
数名ずつが座っている調理台ごとに、野菜が盛りつけられている。その美しさに驚かされる。なんだこれは、と。
さすが、プロの料理人を育成する学校の先生だけある。一般庶民向け「料理教室」とは次元が違う、というのがここからもわかる。いや、習っている僕らは完全に一般庶民だけれど。
これが一つの料理ならばまだしも、「各テーブルに配布する、付け合せの野菜一式」に過ぎないんだから。
「猪のワイン煮 味噌風味」 。
付け合せが美しい。このあたりは全部、先生たちが事前に仕込んでくれていたもの。僕らは、プラモデルのパーツを取り付けるように料理に添えただけ。
「鹿肉のポワレ」も添えてある。
これも、僕らが作ったのではなく、すでに用意されていたものだ。美しい色合い。しかし、脂身がない赤身肉のため、素っ気ない味だ。やっぱりイノシシ肉は偉大だ。
三変化目として、「リガトーニ 猪のラグー和え」が出てきた。素晴らしい三変化。
そして地味に素晴らしいのが、分刻みのスケジュールになっていたのをきっちりと守ったことだ。さすがプロの料理人、料理を出す時間から逆算して全ての段取りが事前に完了している。これには驚いた。
「猪のカットチャート」という図があったので、拝見する。たぶん、イノシシ肉を食べるときはバラを使うことが多いと思うのだけど、当然他にもウデやらモモやらの部位も食べられる。とはいえ、牛のように異常なまでに細分化されていないようだ。
講師の先生は、「ジビエは低温で調理すると、個性が際立って美味しい。しかし、現在は保健所からの指導で、ちゃんと加熱調理をしないとお客さんに提供ができなくなっている」と言う。寄生虫がいるからだ。飼育された豚でさえ寄生虫がいて加熱は必須なのだから、野生のイノシシともなるとますますしっかり火を通さないと信用ならない。保健所の指導は正しいと思う。
でも、講師の先生は、「フランスでは50度台とか、低い温度で調理することがあります」という。まじか。タンパク質が凝固しない温度だ。そしてそれが美味しいのだという。へー。僕ら、日本に住んでいる限りそういう美味い肉にはありつけないんだな。
でも、講師の先生は繰り返しジビエの低温調理を実験し、データを取り、厚生労働省にかけあって、加熱義務の温度と時間をどこまで下げられるか議論と調整をしているのだという。どこまでの温度だったら大丈夫なのか、エビデンスを積み上げ中。大変な苦労だ。野生動物は個体差があるから、どこまでの安全を追い求めるのかが難しい。完璧に安全なものを求めるのか、99%安全なものを求めるのか。
こちらは鹿のカットチャート。
散弾銃で打たれて命を失った動物の場合、弾がめり込んだ周囲の肉は食べられない。鉛を含むからだ。なので、ジビエ肉として出回るのは、ナイフ等で止めを刺したものが多い。
趣味のハンティングなら、仕留めた後獲物を意気揚々と下界に運び下ろすことも楽しみのうちだろう。でも、害獣駆除が目的の人たちにとって、仕留めた害獣というのは邪魔な存在だ。「美味しい肉」として流通させるためには、死後できるだけ早く血抜きを行い、処理施設に運び込まないといけない。「駆除」と「食肉としての流通」はなかなか両立しないものだ。食用にするならば、「今日はもう疲れたから、この死骸の処理は明日にしよう」などと呑気なことは言ってられない。
山の中でイノシシや鹿を仕留めたとしても、どうやって下界に下ろす?力任せに引きずったとすると、地面の岩やら木の根っこにゴツゴツと当たり、肉が傷む。じゃあ、背負って下りるか?というと、気をつけないと毛に付着しているマダニに刺される。大変だ。そもそも100キロ超えのイノシシなんてのも存在するので、相手がデカけりゃ数名がかりで運び降ろさないといけない。山の中でバラバラに解体できればよいのだけど、そんなに動物の解体は楽じゃない。
うーん、都会に住んでいて、呑気に「ドローンで料理の宅配とかできるといいっすね」なんて言ってないで、ドローンで害獣駆除+死体の運搬なんてできたほうがよっぽど世のためだ。
害獣対策というのは、大変に難しい課題だということを「料理を美味しくいただく」という至福の一時であっても実感する。
2019年01月26日(土) けもの道トレッキング
鋸南町狩猟エコツアー、また抽選に当たり、「けもの道トレッキング」に参加させてもらうことになった。これにて今シーズン通算3度目。
不人気企画なのではなく、いつも満員だ。町役場の方が抽選をして、参加者が選ばれている。単に僕が強運なのか、鋸南町から気に入られたのか、なにか運命みたいなものがこの企画にあるのかもしれない。
なお、この企画、エントリーはGoogle Formsを使って行われる。「おっ、クラウドで申し込むのか」と感心するが、その後の当選通知は町役場から直接お電話でなされる。そして、参加の意向確認がとれたら、郵便の封書で参加要項が送られてくる。どんどんアナログに戻っていくのが面白い。
毎回、鋸南町のあちこちに出没しているが、今回指定された集合場所は「横根地区コミュニティセンター」という場所だった。
訪れてみると、「なるほど、こういう集落が鋸南町のあちこちにあるのか」と感心し納得させられる。主要道路から脇道にそれ、さらにそれを奥のどん詰まりまで行ったところ。
周囲は低い山に囲まれ、その一部が開墾されて田んぼや畑ができている。昔の人の、田畑への意欲はすごかったのだなと今更ながら驚かされる。北海道に限らず、よくぞまあ日本各地をここまで開拓できたものだ。木を切り倒し、根っこを取り除き、痩せた土地に肥料を与え続け、何世代もかけて農作物がとれるようにしていく。
僕みたいな都会もんは、「先祖から受け継いできた土地」という言葉は単なるノスタルジーだと思っている。人口減少著しい日本なんだし、コンパクトシティにして山間部からは人類撤退でいいじゃないか、とさえ思っている。その考えは今でも変わっていないけれど、こういう山あいの田んぼや畑をまじまじと見ると「はい、出ていってください」とは言えないよなあ・・・と思う。
この道路の突き当りが横根コミュニティセンター。
ワークショップ参加者や関係者の車が縦列駐車で路駐されているので、ずいぶん手前に車を停車させた。
改めてぐるっと周囲を見渡すと、「・・・これはイノシシや鹿が跋扈するよなぁ」という山だった。人の営みと自然との距離がものすごく近い。人間の勢いが弱くなった、と察知されると、俄然自然に攻め込まれる。
なにかの魔除けか、害獣よけか、カラスの死骸が木の枝から吊り下げられていた。ギョッとする。
横根コミュニティセンター。こういう集会所が地方には当たり前のようにあるのだな、というのも今更ながらの驚き。そういえば僕って、町内会にすら入っていないんだよなぁ。マンション管理組合には当然入っているのだけれど。
参加者、ぎっしり。
鋸南町の町長さんや、害獣対策協議会(正式名称わすれた)の会長さんなどもいらっしゃっていて、主催者側のやる気が半端ない。しかも単なる「来賓挨拶」なだけでなく、お二方とも熱弁をふるい、講義の最後までいらっしゃった。
害獣対策がいかに鋸南町にとって大事なことなのか、本気度が伺える。
(つづく)
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