14:20
改めてレインウェアを全身身にまとい、位ヶ原山荘の外に出る。山荘の方にお礼を伝え、下山を開始だ。30分くらいの滞在だった。
16時までに自転車を返そうとすると、どう考えても今から登り続けるという選択肢はない。「ワンチャンいけるかも?」という淡い期待を抱かせない、潔い時間切れだった。
9時半に自転車を借りて、16時までに返すという今回のタイムスケジュール。6時間半の猶予では、到底行って帰ってこれなかった。脚力自慢の人ならともかく、一般的な大腿四頭筋の持ち主なら厳しい、ということだ。
・・・と思ったら、この次のシーズンからか、乗鞍高原では「e-bike」という電動アシスト付きスポーツサイクルのレンタルが始まった。そりゃそうだよな、下界でこれだけ電動アシスト付き自転車が市民権を得ているんだから、観光地の、アップダウンがある場所での観光用レンタサイクルだって電動化の波が来るのは当然だ。
ちなみにレンタル料は1日8,000円。おおう、相当高い。安い温泉旅館に一泊二食付きで泊まることができる金額だ。でも、このお金さえ払えば、憧れの畳平にまでたどり着く可能性がグンと上がることを思えば、喜んで払える。
ただし、現時点(僕がこのe-bikeの存在を知った2021年シーズン時点)ではバッテリー能力にまだ限界がある。アシスト能力は3段階あるのだけど、一番強くアシストしてくれる「ターボ」モードにすると、クライムヒルの途中でバッテリーが切れてしまうのだという。なので、三本滝のレストハウスまでは極力バッテリー消費を抑えて走行し、そこから畳平までのつづら折れをターボでグイグイ登ることが推奨されていた。
14:55
下りは一気だ。
35分で三本滝のレストハウスまで下ってきた。
「すごい!この間、一回もペダルを漕がなかった!」
と自転車を降りてお互い話をする。
とはいえ、楽しいダウンヒルだったかというと全然そんなことはない。なにしろ、路面は濡れているのでいつ滑るかヒヤヒヤする。そしてつづら折れの道なので、慎重に、慎重に減速してターンすることになる。常にブレーキレバーを引きながらの下山なので、手のひらが痛くなる。
うっかりスピードが出てしまい、慌ててブレーキレバーを強く引いたとしよう。多分、強力なディスクブレーキが作動してバランスを崩し、転倒するだろう。
結局、すごくモヤモヤしているような感覚で、ダウンヒルをしていくことになる。晴れていればもう少しスピードを上げられただろうが、雨ならば奥歯にものが挟まった状態で自転車を進めることになる。
15:06
位ヶ原山荘を出てまだ1時間も経っていないんだけど、三本滝レストハウスの軒先でコーヒーを淹れることにした。本当なら、これは標高2,700メートルの畳平で淹れる予定だったものだ。
この調子でいけば16時までには自転車が返却できそうだ、という目処が立ったのと、「これだけ雨が降ってりゃ、今晩はやっぱりキャンプをするのは無理だわー」という諦めがついたからだ。
ついさっきまで、「隙あらば、昨晩できなかったキャンプを今晩こそ」という野望があった。天気が回復してくれれば・・・という条件付きで。でも、この空模様じゃ、どうやっても無理っぽい。それに、この後自転車を返却して、冷えた身体を温めるために温泉に入って、さて食材調達はどうするの、テントを建てるのはどうするの、と考えると日没に勝てそうにない。
そもそも、今こうして濡れて寒い思いをしているのに、また一晩テントで濡れるのはいやだ。
しょうがない、退却するかァ。あした一日、ふたりとも丸一日空いているんだけど、今のところ特にアイディアがない。まずは安全に下山することが先だ。
ガスストーブに手をかざして暖をとるいし。
ダウンヒルになると、自転車のスピードが上がるので風を強く受けることになる。濡れた身体に風が当たると、猛烈に体温と体力が奪われる。登りのときの比じゃない。
16:09
「コケたら骨折もあり得る」と警戒しながらのダウンヒルだったので、身体が固くなってしまった。冷えるし、下半身はほぼ同じ姿勢だし、上半身は姿勢維持とブレーキのコントロールで力みっぱなしだし。
無事自転車を返却したら、何はともあれ温泉で身体を温めないと。今晩以降あしたの計画?そんなのは後だ。
「そんなのは後だ」とこの時間で言っている時点で、この界隈の温泉旅館などに泊まることは放棄していることになる。温泉旅館に泊まるんなら、もうこの時間には宿の手配が終わっていないと遅い。
そういうことはわかっていても、「とりあえずお風呂」だった。
寒いし、濡れた服を着替えたい。
乗鞍高原観光センターの斜め向かいにあるのが、「湯けむり館」という日帰り入浴施設。ここのお風呂であたたまることにした。
入浴料金730円。
1時間しっかりお風呂に入って、やれやれと一息つくことができた。
せっかくだから、牛乳でも飲もうか。
「信州安曇野牛乳」を飲むいし。
昨日は日没になってから乗鞍高原到着、今日は雨の中のサイクリングで「信州安曇野」の満喫という点では微妙だったけど、これで若干取り返した感がある。
信州安曇野を胃袋にズドンと落としこむ。
乗鞍高原、そして畳平に通じる道を解説したマップを二人で眺める。
「うーん」
惜しかったね、ともこりゃ無理だね、というのもよくわからない。晴れていればもっとペースアップできたのか?位ヶ原山荘で休憩しなかったら、畳平までいけたか?とかあれこれ考えてしまうが、正解がわからない。まあ、時間がない上に体力を消耗してしまったんじゃ、事故の元だ。まだ余裕があるうちに引き返す判断をしたのは正解だったんだろう。
そもそも、マウンテンバイクは畳平を目指すものというより、一の瀬園地あたりをうろうろするためのものだ。
僕らはよく頑張ったほうだと思う。ヒルクライム未経験者なりに。
湯けむり館内に、「こころのかどがとれていく」と書かれたポスターが2枚貼ってあった。
見たことがある光景だ、とすぐに気づいた。ああこれ、上高地だ。
左が河童橋。バスターミナル方面から撮影したものだ。右が小梨平キャンプ場。今年はすでに2回、ここで「こころのかど」を取ったぞ。
実は今年、あともう一回ここを訪れる計画がある。しかも、上高地が冬季閉山中の11月23日に、だ。つまり、来月、信州安曇野に僕らはまたもどってくるぜ。結婚式半月前なのに大丈夫か?と思うけど、この冬季上高地入山が僕らの新婚旅行になる予定だ。
先日の富士山登山にしろ、今回の乗鞍高原ヒルクライムにしろ、今度の冬季上高地にしろ、結構アクティブに動くカップルだ。
(つづく)
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