おかでんの結婚相手となったいし。2019年春に急接近してから2019年12月に結婚式を挙げるまで、猛スピードであれこれをこなしていた。
多分僕自身テンションが高かった時期なんだと思う。そうでないと、このときのアクティブさは説明できない。
「結婚は勢い」ということを言う人がいる。実際そういう要素はあると思うが、僕の場合は勢いがありすぎだ。なにしろ、8月お盆明けにいしの実家にご挨拶に伺ったあと、9月・10月に結婚式の打ち合わせのため挙式予定の倉敷に一泊二日を連発。その合間に富士山登山、そして今回の旅行となる。
さらには、東京にいる間も全6回のオフ会イベント「激辛グルメ駅伝」を主催し、毎週のように胃腸に負担がかかる激辛料理を食べていた。

さらにはお芝居にも関わったり。

活動がアクティブになっていたのは、「来年になるといしがアフリカに行ってしまう」という事情もあった。今見ている季節の風景を来年は一緒に見られない、というのはとても残念なことだった。なので、今のうちにあれこれ日本で二人の思い出を作っておきたいと願っている。
それは僕にとっての、ささやかな抵抗だった。季節感のないアフリカに行くいしが、「日本の四季が恋しい」と思って望郷の念に囚われてくれれば僕は溜飲が下がる。「アフリカ、すっっげえええええ楽しい!」なんていしが言っているようじゃ、僕は悔しい。
そう、僕はこういうところで性格がすごく悪い。パートナーとなる相手をホームシックにさせるために、今とてもいい思い出を用意する。
とはいっても、しばらく日本を離れるいしが「出国前にやっておきたい」と言っていることはできるだけ叶えてあげたいし、その傍らに僕もいたい。で、彼女が何をやりたいのかというと、
- 富士山登山 ←8月に済
- どこか地方で開催されるフルマラソンに参加
- 乗鞍岳を自転車で登る
なのだという。なんだこのスポーツマン。若いってすごいな、体力が有り余ってやがるぜ。12歳年上の僕ならば全く思いつかないアイディアだ。素直に羨ましい。
フルマラソンはともかく、乗鞍岳を自転車ってなんだ?
聞いてみたら、知り合いが乗鞍岳を自転車で上ってとても楽しかったらしい、と言う。で、私も登ってみたい、と。ええ?その程度で?
乗鞍岳。長野県と岐阜県の県境にある山で、標高3,026メートル。
長野県側の山腹にあたる乗鞍高原にはレンタサイクルがあるので、そこで自転車を借りて標高2,700メートルの畳平まで車道をグイグイと登っていく、という話なのだろう。乗鞍岳は長野県側に「エコーライン」、岐阜県側に「乗鞍スカイライン」という車道があり、山の稜線を乗っ越す畳平標高2,700メートルが「日本国内における車道最高地点」ということになる。
アワレみ隊が乗鞍岳にドライブした1998年時点では一般車両が通行できた。しかしその後、環境保護の観点で許可されたバスとタクシーのみの通行となって今に至っている。

森林限界を突破した場所をドライブできる貴重な場所だったので、惜しい。とはいえ、僕はもう百名山登山で乗鞍岳は登頂済だし、良い場所とはいえもう畳平に行く機会はないだろうな、と思っていた。だってバス代は結構高いし。
・・・と、そこで「乗鞍岳に自転車で登る」という提案ですよ。マジか。確かに、一般人の車は入っちゃいけないことになっているけど、自転車までは禁止されていなかった。しかし、標高差1,000メートル以上あるだろう道を徒歩ではなく自転車で登ったことなんて、僕には経験がない。どれだけしんどいのか、所要時間はどの程度なのか、想像がつかない。
むしろ面白い。やってみようじゃないか。
とはいえ、やるとなると時間が残されていない。というのも、標高2,700メートルの道がいつまでもオープンしているわけがない。10月末をもって閉鎖、次のオープンは翌年の夏頃だ。つまり、来年アフリカに行くんだったら今いけ、今しかないぞ、というわけだ。
結婚の打ち合わせや決め事はたくさんあるけれど、なんとかいしに2泊3日分の空き日程を工面してもらい乗鞍岳を目指すことにした。いやあ、富士山の次は乗鞍岳ヒルクライムサイクリングかよ。
年下の人と付き合い、結婚するということはこういう「自分では想像もしていなかった展開」があり得るのでエキサイティングだ。一方で、年甲斐もないことに手を出してしまい、疲労困憊してイヤになる可能性もある。何でもかんでも一緒に行動しよう!とは思わないほうが良さそうだ。
今回、乗鞍岳ヒルクライムという無謀な企画に応じたので、「じゃあせめて宿はキャンプで。」ということにした。幸い、乗鞍高原にはキャンプ場がある。そこにベースキャンプを設置して、2泊3日の2日目に畳平を目指すということにした。
最近、今更ながらキャンプの良さを楽しんでいる。五感に入ってくる情報をできるだけ減らし、静かに時間を過ごすことの素晴らしさ。日常生活では得られない贅沢だ。たぶん僕、今なら「海外に行ってビーチリゾートでのんびり過ごしているだけの旅行客」に対して同意できると思う。昔だったら「ありえない!観光地を巡ろうぜ、せっかくの外国なんだから」って思っていたはずなのに。
2019年10月13日(日) 1日目

09:42
前の日、2019年10月12日はとんでもない一日となった。猛烈な勢いを持った台風19号が関東地方を直撃し、関東のみならず東北方面まで広い範囲に甚大な影響を与えた。なにしろ、50万戸以上が停電し、50人以上が台風が原因で死亡するという痛ましい天災だった。
僕は前日、暴風雨の中いしを職場に送り届けるために車を運転したのだけど、ワイパーが役に立たないレベルの大雨と強風だった。たぶん、僕の人生では最大級の台風だったと思う。
おかげで翌日は台風一過、東京は快晴となった。
そんな天気の中、夜勤明けのいしを職場に迎えにいく。今回もいつもどおり、「旅行に出かける前の日は、いしは夜勤」という展開だ。夜勤明けでないと休みが確保しづらい仕事だからだ。

10:48
10時に彼女を職場でピックアップし、中央道で乗鞍高原を目指す。
今日は昼下がりに乗鞍高原に到着し、テントを設営してゆっくり過ごす予定だ。天気が良いし、まだ本格的に寒くなっていない季節だ。きっと快適だろう。
・・・と思ったら、あれれ?中央道、通行止め?
台風の余波はこんなところにも。八王子から先、小仏峠あたりが土砂崩れだか倒木だかで車が通れない状態になっているのだという。なので、車は強制的に八王子ICで高速道路をでなければならなかった。
これは参ったなあ。優雅にテント脇で時間を過ごす、という計画が狂った。
カーナビが示す、「目的地への到着予定時刻」はジリジリと後ろにずれていく。そりゃそうだ、まず八王子ICから下道に下りるまでのところで大渋滞だ。

12:00
夜勤明けのいしは、当然この渋滞の最中は寝ている。せめて渋滞の間に疲れを回復させてほしいが・・・これは大変だ。下道もとんでもなく渋滞しているからだ。
道は大渋滞、そしてカーナビの地図は「通行止め」を示す黒い道路表示がいっぱい。東京と山梨との県境は、すっかり台風で通行が厳しくなっていた。

13:25
八王子市街地を脱出するまでに相当時間がかかり、右往左往した。最初は「高速道路がだめでも、並走している国道20号を進めばいいや。時間はかかるけどしょうがない」程度に思っていた。しかし中央道が台風で寸断しているなら、国道20号もやられていないわけがなかった。
結局、津久井湖を経由して相模湖に向かい、そこから中央道に復帰するルートをとることになった。
とはいっても、ここしか迂回ルートが存在しないため、すべての車が津久井湖めがけて密集する。せっかくの迂回ルートなのに、通過にものすごく時間がかかった。
津久井湖を通過する際、湖面がちらっと見えた。水は茶色、湖面には流木がどっちゃり。事態の凄さが伺えた。
津久井湖を超えてからも車は右往左往する。道路がふさがっている箇所が細かくあちこちにあり、その都度住宅地の脇道に入るよう現場を警備する人に指示される。地元の方は大変だ、幹線道から外れた道で静かに暮らしていたのに、この日は目の前を車が渋滞しているのだから。
で、そんな急ごしらえの「迂回ルートの、そのまた迂回ルート」なので道幅が狭い。あちこちで車がすれ違うことができず、立ち往生となっていた。その立ち往生が解消するまで、さらに時間を要する。とにかく、そりゃあもうひどい有様だった。

16:55
結局、中央自動車道諏訪湖SAに到着したのは17時近く。おーい、キャンプなんてやってる場合じゃないぞ。キャンプ場のチェックイン時間なんて当然間に合わない。まだここから2時間弱はかかる場所だから。
しょうがないので、予めキャンプ場には電話を入れて本日キャンセルで、とお願いしてあった。そうすると、キャンプ場は台風の状況をご存知だったのでキャンセル料なしでキャンセルさせてくれた。ありがたい。
かわりに、宿探しだ。
乗鞍高原なら、白濁したお湯が湧き出る温泉宿がいくつもある。しかし、当日夕方ともなるとなかなか宿が見つからない。
目を覚ましたいしが宿を探し、直接電話をかけて、1軒の宿の予約がとれた。まずは良かった。
良かったけど、キャンプの予定がまさか温泉宿になるとは予想外だった。そうか、台風一過で快晴だからといって甘くみていた。まさかこんなにひどい渋滞になるとは。
なにしろ、東京から諏訪まで8時間だぞ?運転している僕も相当疲れた。

宿が決まったことだし、開き直って諏訪湖SAで長野県のお菓子を買う。というか、いしが張り切って買った。「今晩のおやつにするんだ」と言いながら。
「焼きモンブラン 諏訪の栗」と「信州名物どら焼き そばドラ」を買っていしはご満悦。

17:36
宿には到着が遅くなることを伝えてある。遅くの到着でも夕食は提供していただける、ということで感謝することしきりだ。当日午後の予約で、しかも到着が遅いということで宿にはお手間をかけさせてしまった。それもこれも、土砂崩れで道がふさがっていたからなんだけど。
松本市に入ると、分厚い雲に覆われてはいたけれど天気は悪くなかった。早く到着できていれば、キャンプができただろうに残念。
乗鞍高原に向かう前に、その手前で食料品の買い出しをしておく。今晩、部屋で飲み食いするためのお菓子や飲み物、そして明日のサイクリングに向けた準備のためだ。
乗鞍高原エリアではスーパーがない筈なので、手前で買い物をする。
おそらく、だけど、乗鞍高原や上高地に向かう道すがらではここが一番現地寄りのスーパーだと思う。デリシア波田駅前店。
諸々の買い出しをするにはまったく不自由はない規模のお店だった。

18:50
外は真っ暗だ。乗鞍高原に向かう高原ドライブを満喫するということもなく、黙々と夜道を走る。そしてたどり着いたのが本日の宿。
あたりが真っ暗すぎて、宿を探すのにちょっと手間取った。このあたりの土地に精通しているわけじゃないので、明かりが灯った建物があっても民家なのか宿なのかわからない。メインの道路から一本脇にそれたところにある宿なので、カーナビの表示が若干怪しい。
不法侵入と思われたらやだな、と思いながらソロリソロリと車を進め、宿を見つけた。あ、ここだここだ。緑山荘。

小さな宿のフロント。
カウンターの奥に、今どき懐かしいブラウン管のPCモニターが置いてあってちょっと感動した。まだあれ、現役だろうか?

今日は3組の宿泊らしい。僕らは飛び込みに近いかたちでの宿泊となったけど、ちゃんとウェルカムボードに名前が書かれていた。
「10月になり高原の紅葉も見頃になります」と書いてある。よし、明日は紅葉見物だ!
・・・しかし、天気予報によると明日は雨らしい。えー、台風一過でしばらく晴れてくれるんじゃないのか。雨の中でサイクリング、どうかなぁ。霧雨くらいなら決行だけど、本降りならもちろん断念だ。ここまで来て雨だったら、もう開き直って温泉で身体がくりゃんくりゃんになるまでくつろぐしかない。
(つづく)
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