11:09
ゴーッと音がして、間欠泉が吹き出した。定刻より若干遅れ気味だ。
この「定刻よりちょっと遅い」という加減が、なんとなく自然感を醸し出している。でも、たぶん裏で水の栓を開けたり締めたりする人がのんびりしていただけだと思う。または、時間になったらタイマー起動するよう仕組みがあるのだけれど、時刻合わせがきっちりしていなかった、とか。
最初にこの間欠泉が湧き出た時は高さ50メートルまで噴き上がったというのだからすごい。しかしいくら大自然とはいえ、そんなに景気よく吹き続けるのは限界があったようだ。だんだん吹き上がるペースが落ち、しまいには自噴しなくなった。
今ではコンプレッサーを使って後押ししてもらって、それで重い腰を上げて吹き上がっているのだという。
その高さ5メートル。往年の1/10だ。
とはいえ、今更50メートルも噴いたらこの近辺の建物が迷惑だろう。5メートルくらいがちょうど良いサイズ感だ。だってほら、間欠泉をバックに記念写真を取ろうとして、5メートルの高さでさえアングルに苦労するというのに。
吹き上がった温泉は「液体」なので実態がない存在だ。だから、写真がちゃんと撮れるようにと右往左往する羽目になる。太陽の向き次第で、微妙な写りになるからだ。
11:04
諏訪湖間欠泉センターの中では、「間欠泉ゆでたまご」が売られていた。1個100円。
「えっ、買うの?」
玉子に手を伸ばすいしにびっくりして、僕は思わず声をかけた。
「玉子、好きなんですよ」
「そうかもしれない。でも、間欠泉で茹でたからといって何か味が変わるわけでもないぞ?」
「いいんです。食べたいんで」
いしが嬉しそうに食べている間欠泉ゆでたまごを横から見てみたけど、何の変哲もない固茹で玉子だった。特に半熟というわけでもない。でも、「今!見たばかりの!あの間欠泉で茹でられている!」というこの驚きと興奮が最高のスパイスだ。
「一口食べますか?」と水を向けてもらったけど、「いや、いいや」と辞退した。ホテルで食べた朝ごはんで、スクランブルエッグを食べてるし。
11:49
南下して、諏訪大社上社にやってきた。本宮、前宮がある。前宮、というのはこれまでその存在すら知らなかったので初訪問だ。
それにしても諏訪大社、4つもあるのだからすごい。でも、「4つある」ということだけ切り取ると、つい「フフフ・・・奴は四天王の中でも最弱」というネットでよく見かける言葉を思い出してしまう。
駐車場の近くの売店にて。
クレープ屋さんが焼いた手作りアップルパイ、と書いてある。「クレープ屋さんが焼いた」ということがどの程度アップルパイのクオリティを担保するのか、よくわからない。
目の前にいるマダムが数個まとめ買いをする。「買いたかったのよ、これ」と言いながら。テーブルに残されたアップルパイはあと1つ。
それを見たいしが、「私も買う」と言う。「だって、残り1つだし」
残りの数が何個かどうかは買う理由にはならないはずだ。でも、こうやって目の前で売れていき残り1個、となると「買っておかなくちゃ」という気になる。結局いしは先ほどの間欠泉ゆでたまごに続いてアップルパイを買っていた。
「なにこれっ!!驚きの新食感」と銘打たれた「ぬれしみせん」。試食できるようになっていたので、あれこれ試してみた。うん、「なにこれっ!!」とは驚かなかったけど、美味しかった。いわゆるぬれ煎餅だ。
諏訪大社本宮は変わった作りをしている。
参道から90度横を向いた状態で拝殿が位置している。神社って、多くの場合は山を背に拝殿があるものだが、ここは山にそっぽ向いている状態。
北参道から見た境内。
鳥居の左奥に御柱(一の柱)が見える。
境内を右へ左へと曲がりながら進んでいくと、行き止まりになっているところにあるのが参拝所。拝殿ではないし、ましてや本殿でもない。
参拝所からさらに奥が拝殿。
拝殿が左右対称になっていて、左右中央の3つの建物で構成されているのは下社と同じ構造。
土俵、神楽殿。
入口御門、そして布橋。長い回廊。
岡山県にある吉備津神社の回廊を想起させる。
いやちょっとまて、「想起させる。」じゃねぇよ、なんで神社仏閣巡りをしてるんだっけ僕ら。
本当ならキャンプをやって、自転車で標高2,700メートルまで登る三昧のはずだったのに、どっちも実現しなかった挙げ句に神社を見て神妙な顔つきになってる。こんなはずではなかったのに。まあ、楽しいからいいけど。
(つづく)
コメント