【No.29 日本三大朝市(その2):高山(岐阜県) 09/22 13:07】
13時を回った頃、ようやく高山に到着した。名古屋から至近距離だと思っていたのだが、案外遠いもんだ。
・・・で、朝市会場はどこだ?

おかでんよりは高山に詳しいしぶちょおが、「だいたいこのあたりじゃないか?」と言いながら車を右へ左へとコントロールする。おかでんも朝、高山に来たことがあるのだが(へべれけ紀行第一話参照)、どこが朝市会場だったかは覚えていない。
「とりあえず車を停めよう」
ということで、鍛冶橋近くのタワーパーキングに車を停め、うろうろしてみる。
・・・あ!川沿いに、「宮川朝市」と書かれた横断幕が下がっているぞ。まさか、ここが朝市会場なのか?
しかし、その通りはがらーんとしていた。「市場」の面影はからきし、無い。本当に朝市らしい。昼イチには全く、跡形もない。

うーん、「ひょっとしたら別のところかもしれない」という一縷の望みを託したが、やはりここが朝市の会場らしい。
鍛冶橋のたもとに、「宮川朝市」という看板がたっていて、「4月~10月:午前6時~正午まで」という記述があった。
やっぱり、お昼になったら市は終わってしまうらしい。
「で、日本三大朝市なわけだが」
「まあ、とりあえず満喫してみるかね。形だけでも」

朝市会場を歩いてみる。
「宮川朝市」とかかれた横断幕が恨めしい。
「いやぁ、日本三大朝市だねえ、さすがに」
「すごいね、日本三大と言われる訳がよくわかったよ」
適当なことを言いながら、お互い感心・・・したふりをする。何しろ、明日の朝までここに足止めを食らうのだけは絶対にイヤだ。「日本三大朝市」をなんとしてでも満喫したことにしなければ。
朝市会場と思われる道路を端から端まで歩き、適当に近隣のお店を冷やかし、朝市満喫終了。
「うん、すがすがしい朝だった」
むちゃくちゃな総括だ。でも、これでよし。日本三大朝市、高山の朝市はこれにて満喫終了。いや、文句は言うなよ。満喫したって本人が言うんだから信じなくちゃいかん。

そういえば、お昼ご飯をそろそろ考えないといけない。
何でも、高山は「高山ラーメン」なるご当地ラーメンが最近はやりだそうで。そんなの、初めて聞いたのだが、どうやらそういうことらしい。
何でも、特徴としては細い縮れ麺で、寸胴の中に醤油だれが最初から入っている状態でスープが煮込まれているという。なるほど、それはちょっと珍しい。
「朝市」のために訪れるつもりだった場所だけに、お昼ご飯の場所なんて全く考えていなかった。「とりあえず高山ラーメンを食べてみよう」となっても、どのお店がおいしいのかさっぱりわからない。
考えるだけ無駄なので、鍛冶橋たもとにあったその名もずばり「鍛冶橋」に入ってみることにした。観光客相手っぽい店づくりで、味はどうかな?という気がしたが、いやいや、アンタらまさしく観光客じゃないか、ということで。こんなところでお店選びに時間をかけるのは愚の骨頂だ、まだまだ先は長い。この後日本海沿岸に向かわないといけないんだから。


鍛冶橋の中華そば。独特な風味で、「へぇー」と思わず口走ってしまう味だった。ちりちりに縮れた麺がなかなかよし。
この「鍛冶橋」の横っちょには、飛騨牛の串焼きを提供するテイクアウト専門のお店があった。飛騨牛の串焼き、という響きに激しく惹かれていたのだが、中華そばを食べてしまったら満腹になってしまい、買って食べるだけのガッツがうせてしまった。惜しい。

さて、時はすでに14時近く。あっというまに夕方が迫ってきている。
「今晩くらいは宿に泊まりたいな」
と、どちらともなくぽつりとつぶやく。今回、4泊5日の長丁場な旅ではあるが、今のところ宿に泊まっていない。
健康ランド>テント>しぶちょお宅
と3泊を進んできたので、実は宿泊費はそれほど要していない。
予算の余裕という点もあるが、いい加減われわれは毎日の長丁場でくたびれきっているということもあった。せめて、この企画最終夜となる今晩くらいはゆっくりと温泉に浸かって、おいしいご飯を食べたい・・・そんな気持ちは、二人共通のものだった。
しぶちょお・おかでんにとって「宿に泊まる」ということは、限りなくイコールで温泉旅館ということになる。温泉旅館に泊まるとなれば、必然的にその日の行程を18時までには終わらせるスケジュールにしなくちゃもったいない。ってなわけで、「日没頃にその日の旅程をうち切ってしまう手抜き」でもあるが、「疲労困憊しているわれわれにひとときの休息を!」という気持ちの前では全くもって正当化される対応といえる。
車載の温泉ガイドをめくりながら、宿泊場所を探す。・・・うーん、せっかくだから加賀温泉郷あたりに泊まってみたいのぅ・・・と、調べてみるのだが、これが結構高い。加賀温泉郷に限らず、北陸地方の温泉旅館っていずれもちと高いんじゃございませんか?
しぶちょおも、「確かに、北陸は高いよ。費用対効果の点ではコストパフォーマンスがあまりよくない」と言う。
一カ月前から「この温泉に行くぞ!楽しみだな!」と企画して、当日は15時チェックイン!なんてことができるなら、一泊に少々のお金をつぎ込んでもいいと思う。しかし、われわれのように、どうせチェックインは19時近く、すぐに夕食、おかでん酔っぱらってすぐに寝る・・・というありさまだと値段の高い宿は無駄だ。1万円以下の宿を探さないと。
ってなわけで、探しているうちに「いこいの村能登半島」という場所を見つけた。能登半島の中央、羽咋にある「志賀の郷温泉」というところらしい。どうせわれわれは、明日は輪島朝市に行かなければならないわけだ、ここでちょうどいいだろう。
とはいっても、今日の今日で予約がとれるとも思えなかったので、駄目もとで連絡を入れてみたら・・・あらら、予約とれちゃいました。いや、弱ったな。いざ取れたとなったら、ルート設定をかえなければならない。
せっかくの宿だから、ゆっくりとお風呂に入りたいしご飯も食べたい。ってなると、遅くとも18時には現地に到着したい。・・・ん?どうすりゃいいんだ?今のところ、富山県の「愛本刎橋」「称名の滝」を訪問してから、輪島朝市に向けて進む予定だったわけだが、この2カ所を経由していたら現地着が20時時近くになってしまう。
「どうする?」
「さあ、どうしたもんかな」
車中、議論が行われる。とりあえず高山から北に向かいつつも、行き先はまだ決められなかった。
議論の焦点は、今日のルート以外にも明日どうなるかという点にも及んでいた。おかでんが自宅に戻るための時間、しぶちょおが名古屋のひびさんと合流して、広島の実家に帰省するための時間などを考慮しなくてはならない。そういう、もろもろの時間を考慮したら、どう考えてもわれわれは今回の企画で敦賀までは進出できないことが確実になってきた。せいぜい、金沢止まりだ。
ならば、今日・明日で行ける場所といえば、「三大庭園:兼六園」「三大銘菓:長生殿」「三大朝市:輪島」「三大奇橋:愛本刎橋」「三大名瀑:称名滝」しかない。これらを、あと24時間で巡るのが精いっぱいだ。
結局、「称名滝」「愛本刎橋」という富山県の観光地は明日にずらすことにした。今日は、このあと金沢市入りして、「兼六園」を見学して「長生殿」を購入して、宿泊地を目指すことにした。最終日である明日は、「輪島朝市」ののち、「愛本刎橋」と「称名滝」を巡って、富山駅で解散という段取りだ。うーん、不本意だけど現実ってそんなもんだ。
「アワレみ隊はやればできる子、しかし非現実的なことはできないんだなあ」
と当たり前のことを嘆息する。

ルートを金沢方面にとることになったので、ショートカットルートを採用した。最短と思われる山道に突入。
・・・またもや失敗。想像以上に山が深い。道幅が狭い。ぐねぐねと道はくねり、思うように前に進めない。

走っている最中にこんな湖も。

「やっぱショートカットルートってのは無理なのかねえ」
とぼやきながら、ひたすら山道を越える。

途中、道路脇に滝を発見した。
「ちょ、ちょっと停めて!」
アクセルを踏むしぶちょおを制し、いったんここで休憩をとる。
「うーん、さすがは日本三大名瀑だけある。すばらしい滝だ」
いきなり、滝をみながら感心しはじめるおかでん。写真撮影をはじめる。
しぶちょおもおかでんの意図に気づき、
「そうだな、これぞ日本を代表する滝だ」
なんて適当なあいづちをうつ。
「僕ら、袋田、華厳と滝を見てきたわけだけど、やっぱりこれが一番だと思わないか?」
「そうだねぇ、これぞ滝って感じがする」
いい加減なことを言う。そして、最後おかでんが決定的な発言を。
「よし、今日からこの滝を『称名の滝』と名付けよう!」
いいのか、そんなことで。

ようやく道が広くなってきた。ありがたや。
と思ったら、すぐに狭くなる。

金沢に到着。
ここよりも東に位置する称名の滝、愛本刎橋を差し置いて金沢入りするというのは、作戦上仕方がないとはいえ罪悪感を感じてしまう。最短ルートを常に検討し、採用してきたわれわれからすれば大きな方向転換だ。
しかし、明日のこの時間には、それぞれが帰路についていないといけない。しゃーないのですよ、現実問題として。

金沢市街の中心にある兼六園に到着。観光物産館正面の駐車場に車をとめ、兼六園に向かう。

おっと、この手の記念撮影用パネルがあったら、撮影せずにはおれない二人であた。
前田利家は、右手を「エイエイオー」のポーズにして非常に勇ましいのだが、胴体の部分のパネルがはげ落ちてしまい、後ろにいるしぶちょおの体が見えてしまっているのが何ともうすら寂しい。

兼六園と道路を挟んで向かいにある、石川門。重要文化財。
この門の向こうには金沢城公園が広がっているらしいが、今回は割愛。なぜなら、日本三大ではないから。
うわ、あんまりな論理。
【No.30 日本三大庭園(その2):兼六園(石川県) 09/22 16:54】
さあ、兼六園だ。お昼過ぎに高山にいたはずなのに、もう今や日没が迫ってくる時間になってきた。今日は日本列島横断となったため、案外数が稼げなかったなあ・・・。いや、今日に限らず、全般的に全然数が稼げていない。気持ちよく数をこなすことができたのは初日だけだ。

兼六園が17時閉門だったら困ったもんだな、という会話をしていたのだが、幸い18時まで開門されているとのこと。ここまで来て中に入れなかったら悲しいので、まずは一安心だ。
まあ、中に入れなかったとしても、今朝名古屋城でやったみたいに「外から満喫」したことにすればいいのだがね。うふふ。

兼六園地図。入場料は300円。

中に入ってすぐのところに、団体観光客がたむろしている場所があった。池のほとりなのだが、バスガイドさんがいくつものカメラを預かって、かわるがわる記念撮影している。ありゃいったいなんだい?
「ペ・ヨンジュンの銅像でも建っているのか?」
あんまりなおばさまブームのため、いぶかしんだが、そんなわけはなく、石灯籠があった。
「あー、ここからのアングル、写真で見たことがあるよ」
「そういえば、兼六園といえばこの石灯籠だよなあ」
感心する。何せ、事前学習を全くといっていいほどやってないし、現地に着いてからもあわただしいので、パンフレット等の熟読はいっさいやっていない。現地でいかに「気づく」ことができるかが重要なのであった。
ちなみにこの灯籠の名前は「徽軫(ことじ)灯籠」という。・・・ということを、今この文章を書いていて、調査してみてわかった。遅すぎ。

「さすがに300円とるだけのことはあるな」
非常に整備された庭園内を散策しながら、感心する。
「水戸の偕楽園は、無料でとてもよろしかったのだけど、面白味には欠けていたからなあ」
「こちらは、アトラクションだよな。いろいろ手換え品換えして見るものを楽しませてくれる」



いろいろ歩いてみる。

自然の水圧で吹き出る噴水。
先ほどの灯籠があった霞が池との高低差を利用して、水が吹き出るらしい。その高さ3.5mというから、なかなかなものだ。

本当は2-3時間かけて、ゆっくりと満喫するべきなのだろうが、せっかちなわれわれはそういうわけにもいかず。1時間もしないうちにひととおり見て回り、兼六園を後にした。
おっと、忘れちゃいけない、日本三大銘菓「長生殿」を買っておかなければ。
ちょうど、駐車場すぐ近くの観光物産館で長生殿は売られていたので、ひと箱購入しておいた。

海沿いの道を、能登半島に向かう。
「急げ、急げ。もう日没だ。温泉が、夕食が待っているぞ!」
ちょっと気持ちがはやる。
おかでんは宿の料理が大好きだ。値段の割に味はどうかと思うことがしばしばあるが、「何がでてくるんだろう」というわくわく感と、何皿も料理が並ぶ楽しさ、そしてそれを肴にお酒をのむ痛快さを好んでいる。
昨日松阪で食べた焼き肉は大変に結構であったが、それ以上の期待感をもって本日のお宿を目指した。
【本日のお宿:いこいの村能登半島(石川県) 09/22 18:49】
いこいの村能登半島に到着。

ゴルフ場をはじめとしていろいろな施設がある広大な敷地なため、真っ暗になってからの到着はちょっとだけ道に迷いそうになった。 近くに原子力PRセンターがあるこおからして、原子力発電所が周辺にあるのかもしれない。
宿で18時を回れば、時はすでに宴会のお時間だ。われわれも、ちょと気が急く。急ぎながら、逆算をする。えーと、おそらく「ご夕食は21時までに終了させてくださいね」と言われるはずだから、夕食に1時間30分、その前にお風呂に入らせてもらって30分、チェックインして荷物をほどいて15分か。うん、なんとかなりそうだ。
おかでんは「宿の夕食=お酒を飲む場」という認識でいるため、夕食時間は最低でも1時間半はほしい。可能ならば2時間ほしい。そんなことを前提に、あれこれ試算しつつチェックイン。
遅れ気味に到着したにもかかわらず、丁寧な応対で従業員さんはわれわれを遇してくれた。「ご夕食の前にお風呂に入られた方がよろしいですよね、ではご夕食の開始時間は19時半くらいでよろしいですか?」なんて気配りも。Goood。それ、僕がまさに考えていたスケジュールよん。

建物は全体的に小きれいで、まだ作られてからそれほど間が経っていないことが伺えた。指定された部屋に到着すると、おや、既に布団が敷かれていた。じゃあ、今日も長丁場だったことだし早速寝ることに・・・待て!ご飯とお風呂がまだだ!

部屋付きのお手洗いはウォシュレットになっていた。トイレットペーパーは二つ。なかなか親切だ。一泊二食付きで1万円を下回る温泉宿にしては設備がよい。

明るいときに訪れると、こんな感じらしい。部屋に備え付けの館内案内資料を撮影。
ゴーカート、グラウンドゴルフ、テニス、サイクリングなどが施設内で楽しめるという。変わり種だったのは、「ビームライフル」も楽しめるんだと。ビームライフル?ガンダム世代のわれわれとしては、思いつくものはどう考えても地球連邦軍の武器でしかないのだけど、いったいどんな遊びなんだろう。

ビームライフルに思いを馳せつつ、とりあえず風呂を目指す。さっさとお風呂に入って、夕食兼うたげの開幕をしないと。
こうやって廊下を見ると、人が二人並んで歩くには難儀する幅だった。あと、部屋のドアも非常にシンプル。こういうところでコストを抑えているというわけか。嫌みにならない程度のコスト削減策で、よいと思う。

なかなかどうして、1万円の宿にしちゃメリハリが利いているんである。脱衣場もほらごらんの通り。立派なもんだ。「ほー」とさっきから感心しっぱなしだ。

泉質にははなから期待しちゃいませんです。何しろ、お昼には「日本三大名湯」の下呂温泉のお湯をいただいたのだから。
周りの観光施設を見るにつけ、どうもここは地下深くからボーリングしてお湯をくみ上げてます説濃厚。
えーと、ちゃんと志賀の郷温泉っつー名前になってるんですね。泉質は「ナトリウム-塩化物泉(アルカリ性低張性低温泉)」だそうで。ま、要するに海水ぽい温泉っていうことですか。PHは8.5だからややアルカリ性。泉温29.4度。

ちょうど夕ご飯時だったため、お風呂を独占することができた。ありがたい、浴室の写真撮影を今のうちにやっちゃえ。

露天風呂も用意されていた。こちらも写真撮影。
天下の名湯下呂温泉も良かったのだが、針のむしろ状態であってあまりくつろげなかった。やっぱり、のびのびと手足を伸ばし、体や頭をあらってさっぱりできた方がいいわ。
温泉のランクとしてはともかく、満足度という点だけでいえば
志賀の郷温泉>下呂温泉
という結果に。ああ。

さて、宴会ですよん。
お酒を全く飲まないしぶちょおからすれば「夕食」なわけだが、おかでんからすれば「宴会」であり「飲み会」である。さあ、飲むぞぅ。
おかでんは麦で作られた炭酸飲料を従業員さんに注文し、その間にしぶちょおは自分のご飯をコテコテとお茶碗に盛りつけ始めた。毎度の光景だ。
おかでんはしこたま飲む。しぶちょおはしこたま食べる。二人でちょうどバランスがとれる。
・・・何のバランスだ?

「じゃ、今日もお疲れさまでした」
「明日は最終日、無事故で頑張ろう」
という声とともに、乾杯。しぶちょおはお茶の入った湯飲みで乾杯だ。
ぐぐぐー。
わーい。
座ったままだけど、心ではスタンディングオベーション。一人だけどウェーブ。

本日の夕食はこちら。
牛肉の陶板焼きに、鮭の焼き物、お造り、天ぷら、ごま豆腐、魚の煮物、茶碗蒸し、香の物。これにおみそ汁とご飯。
ヤドメシの品数としてはやや少ない印象を受けるが、実際はこんなもので十分なんですよねえ。お酒を飲むにしても、ご飯を食べるにしてもこれで必要十分量だと思う。大食らいのおかでんでもそう思うんだから、その他大勢の人も同じような見解ではないか。なぜ、多くの旅館ではお盆に乗り切らないくらいの料理を並べたがるのか、不思議だ。いや、おもてなししたいってのはわかるし、料理でお金を稼ぎたいっていう気持ちもわかるんですけどね、ちょっとやりすぎじゃん、というのが多い。
でも、旅ってのは「ハレ」の日だから、おなかいっぱい食べ過ぎたー、太っちゃったー、っていうのがあってもいいのかもしれない。
ちなみにおかでん、夕食がこの程度の量であれば体重はイーブンだ。

「それにしても、定番だなあ」
しぶちょおが、火のついた陶板焼きと手にした茶碗蒸しを交互に見ながら、言う。
「おもしろいよな、日常生活で陶板焼きなんていっさい食べないんだけど、旅館に泊まると70%くらいの確率で登場してくる」
「茶碗蒸しだと、たぶん100%だぞ?」
茶碗蒸しにしろ、陶板焼きにしろ手頃に出せる料理なのだろうが、どうしてここまで定番になってしまったのだろう。旅館料理の歴史を紐解いた本があったら読んでみたいものだ。
そういえば、天ぷら、お造りというのも定番中の定番となる旅館料理だ。この宿、「王道」を地でいく料理ばかりを並べているな。
「陶板焼きって、うまいと思うか?」
「いや、全然。何でこんなイマイチな料理が幅を利かせているんだかさっぱりわからん」
旅館料理論に華がさく。

「とりあえずビール」を楽しんだ後、お酒を飲んでみることにした。最終夜だし、宿に泊まっているわけだし、少々飲んでもバチはあたるまい。
「えっと、冷酒と熱燗を一つづつ」
変なオーダーの仕方だ。
このとき、従業員さんがオーダーの聞き取りミスをしてしまい、届けられたのは生酒と燗酒2本だった。
「ありゃ、想定外の量が届いたぞ?」
「一本よけいだねえ。で、返すの?」
しぶちょおが、おかでんの反応を試すようなことを言う。
「いや、これも何か神の思し召し。いただくしかあるまい」
「やっぱりな」

とはいっても、ビール2本をいただいたあとにこの量はちょっと多すぎっすよ。
飲む前からこんなありさま。
【No.31 日本三大銘菓(その2):長生殿(石川県) 09/22 21:09】

石川県の美酒に酔い、料理に酔い、そして戦友(とも)との会話に酔い。
なかなか楽しいひとときを過ごしたのち、部屋に戻ってきた。これで今日の行程は終了、というわけではない。忘れちゃいけない、まだ企画は続いているということを。
そう、夕方、物産館で購入した長生殿を満喫しなければ。
じゃじゃーん。お茶も完備し、長生殿の登場です。

箱をかぱ。
でてきたのはこれぞ落雁、という紅白のお菓子。
まあ、購入する際にショーケースのサンプルを見ていたので、今更驚きは無いんですけどね。
実はこの長生殿、「本来のサイズ」よりも半分くらい小さいミニサイズを購入した。昔からあったとされる「本来サイズ」は1個がお習字で使う墨・・・いや、それよりでかいな、金の延べ棒みたいなでかさだった。おい、お茶請けの落雁にしてはでかすぎるぞ。「いただく」というより、「かじりつく」という表現がぴったりだぞ。しかも、でかさに比例してお値段が相当によろしい。
われわれは小さい6個入りを購入した。これで十分です、いやほんと。
なんでも、長生殿は加賀藩主前田利常が「天下一の落雁を作れ」と命じて作らせたものらしい。前田利常といえば、江戸幕府から前田家が睨まれっぱなしなので、鼻毛をわざと伸ばしてアホな殿様を演じて「僕は人畜無害ですよ」と演出していたというキテレツな人物だ。裏ではこんなことをやっていたのだな。討ち入り前の大石内蔵助みたいなものか。

落雁をいただく。机で食べたいところだが、布団が敷かれてしまっているので、寝っ転がりながらでご勘弁を。
こちらも長岡の「越の雪」と同じく、和三盆糖で作られている。がりっと噛むと、ふわっと甘みがたちのぼり、そしてはかなく舌のあたりをダンスする。うん、上品な味だにゃあ。和菓子と聞いて、アンコの甘さを連想しているようじゃ、駄目ですな。

呉越同舟ということで、まだ残っていた越の雪と並べてみた。
!!
越の雪、ずいぶんと角がとれてしまている。「粉状越の雪」がたくさん。
そうか、柔らかいお菓子だから、車に積んで右へ左へと揺すられていたら崩壊してしまうのだな。ああ、切ない。
その点長生殿はがっちりとしていて壊れる心配はないが、口当たりの妙という点においては二人そろって越の雪に軍配をあげた。

長生殿を食べたあと、ぼそぼそとしゃべっているうちにおかでん沈没。
最近、こういうパターンが非常に多い。お酒に酔っぱらっているので、眠るのが早い。枕を抱きかかえるようにして、変な姿勢で寝ている。

当然寝る体勢を整えていたわけじゃないので、めがねもごらんの通り。
自慢じゃないが、寝相が悪くてめがねを壊したことは一度もない。
しぶちょおは、しばらくおかでんの寝顔を撮影していたようだが、一人取り残されてしまったのであきらめて彼も就寝となった。
4日目夜は、こうして中途半端な幕引きで終了。
さあ、明日はこの企画最終日。この中途半端な旅は、どういう終わり方をするのだろう?
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