激辛グルメ駅伝2022

今日は喉をいたわらないといけない。

「痛い」と感じてから飲みものに手を伸ばすんじゃ遅い。痛くなる前に飲む。飲んだら食べる。その順番でいこう。

しかし、ペットボトルを開けようとして困った。開けられないからだ。

「痛い」でもなければ、「これ以上力を入れたら、腫れた皮膚がズル剥けになってしまいそうでやばい」でもない。ただただ、キャップをひねってあけることができない。

もちろん、水疱が裂けるんじゃないかという怖さはある。そのせいで無茶ができないんだけど、それ以前に指が腫れていてキャップを握りしめられないのだった。

痛てて、痛みより先に飲み物を飲む!キリッ!と偉そうなことを考えていたのに、間に合わなくなったよ。モタモタしているうちに海老の辛さが喉にキター。

手は痛いし、喉も痛いし、これはひどい。手足口病満喫。

ハンカチかなにかを使えば開けられるんじゃないかって?やってみたさ。でも、厚手のハンドタオルなので、手が滑るのだった。やばい!手がすべるたびに指がピンチ!

身の危険を感じた僕は、最終的に「さっきまで口を覆っていた使い捨てマスク」を使ってキャップをこじ開けた。たかだかペットボトルのキャップでここまで苦労することになるとは。

18店舗目 OKINAWAN BAR MAMI-ANA

だいたい各店舗、実際にオーダーしてお金を払うところにメニューが置いてある。しかしこのお店の場合、テントの軒先にはメニューがあるけれど、テント下に入ってしまうとメニューがなかった。ええと、何を頼もうか。店員さんから「いらっしゃい!」と言われて、一瞬だけ途方にくれてしまった。

とっさに頼んだのが「地獄のおつまみコリコリミミガー(沖縄定番おつまみをしびれる辛さに!)」。

「こりこりしているヤツ=勢いよく噛んで飲み込めば喉に絡みつかないだろう、喉をいたわるには向いているかも」

という判断だ。もう、激辛を楽しみに来ているんだか、激辛を避けているんだかわからない一日になってきたぞ。

メニューによると辛さの種類は「辛」と「激辛」があるようだ。あと、店頭には「0辛にもできます」という張り紙が貼ってあった。

僕は「ミミガーください」とだけ伝え、店員さんは辛さを聞かなかった。なのでこれがどの辛さに該当するのか、よくわからない。敢えて店員さんに確認もしなかった。僕自身、完全に腰が引けていたからだ。

辛くないなら辛くないでいいや、という気持ちが強いので、何も聞かなかった。聞けなかった。

料理は、豚キムチの豚肉をミミガーに置き換えたもの。辛さは、まずまずといったところ。おっかなびっくり食べているので、辛いんだか辛くないんだかさえよくわからない状態だ。なので、これが「辛」なのか「激辛」なのかさえわからない有様。

おい、辛い料理を欲していないならもう帰ったらどうだ。何をしにここまでやってきたんだ?痛い足を引きずってここまで来て、まともに動かない手を使って料理を食べ、「ひゃあ!」とか叫んじゃってる謎。

ちなみに、指は痛いだけでなく熱さにも弱くなっていた。できたての料理をお店から受け取ると、紙皿を伝ってくる暖かさが手と指に突き刺さる。数秒程度しかお皿を持てないので、料理を運ぶ際にうっかりお皿を落とさないよう、とても気を遣った。

19店舗目 チュクミドサ

このお店は明日が最終日となる。今日ここに来たからには、食べておきたい。明日また改めてこの地を訪れる気力は、今のところないからだ。それだったら今日、無理してでも食べる。

本当ならお持ち帰りができれば良いのだけれど・・・どこもお持ち帰りできる容器、使っていないんだよなぁ。蓋がついている時点でコスト高になるから、使いたくないのだろうか?いいじゃん、持ち帰りOK!ってやれば売上が伸びるような気がするんだけどなぁ。

もう僕には「このお店で一番辛いやつを。」だなんて頼む気力は残されていなかった。というか、そもそも最初からなかった。このお店の看板にばばーんと掲示されているような、ドロっとしたやつはとてもじゃないけど頼めない。もっとサクッとしたやつを。もっと喉をするっと通過するやつを。

その結果頼んだのがこれ。なんだこれ。

キムチチャーハンを薄く平べったく押し固めて、フライパンで焼きました!みたいな料理。「とびこチャーハン」だって。なるほど、確かに黒い海苔に気を取られがちだけど、よく見るととびこ(トビウオの卵)があちこちに見える。

ちなみに辛さは中辛。

辛さにはもう拘らない。この舞台に今日、立っているだけで十分だ。だって立っているだけで痛いんだぜ?

中辛なので、これは楽勝だろう。

・・・と思って食べてみたら、案外辛かった。それはこの料理に至るまでの辛さの蓄積で僕の痛覚が敏感に反応したのか、それともこの料理そのものがマジで辛いのかはわからない。わかろうとも思わない。ただひたすら、「うう」と言いながら耐えて食べるだけだ。

なにしろ、フォローしてくれる人が誰もいない。食べかけをお持ち帰りする袋もない。今目の前にあるものは、きっちり残さずにおいしく食べきらないと。

今回、僕が一人で料理を食べる際に心がけていることが一つある。それは、「一品ずつ食べる」ということだ。いくつもの料理を買ってきたとしても、お行儀よく三角食べはしない。

何故かというと、料理それぞれに「辛さのポイント」が異なるので、それをじっくり体感したいからだ。ある料理は食べた瞬間に口の中が燃えるし、別の料理だと食べ終わってしばらくしてからじわーっと炭火のように辛さが伝わってくる。

一口食べたくらいではその個性はよくわからないので、一人で一皿まるごと堪能してみることが大事だ。仲間がいない単独回ならではの楽しみ方だし、贅沢だ。でもその分、「いててて!」とダメージは大きくなる。三角食べをしている方が、辛さ、というか痛さのポイントが分散するのでしんどさが少ない。

なんでこんなに体調が悪いのにわざわざしんどいルールを適用しているのか?と思うが、なにせ体調が良いときにそういうルールを自分に課しちゃったんだから仕方がない。まさか手足口病になるなんて、そのときは想定していないから。

ひどい体調の中での来訪だったけど、幸い3店舗分の料理をつつがなく食べることができた。

病気の症状のうち、発熱直後に喉の痛みが出たけれど、その分治りも早かったらしい。手と足、そして顔やら首やらが発疹だらけになっているけれど、喉野中の発疹は潰瘍にならずにすでに快方に向かっているらしい。今回の激辛料理で悪化しなければ、の話だけれど。

いや、絶対やっちゃいけないと思う。医者100人のうち100人が止めるパターン。「手足口病で発疹が出ているんですが、激辛料理を食べて良いですか」って聞いて「いいね!」という医者がいるわけがない。というか、「病気以前に、激辛料理は胃腸に悪いのでそもそも食べないほうがいい」と言われるに決まっている。激辛料理は、おそらく胃がんのリスクを無駄に高めることになると思う。

さて、3品食べてしばらく間を空けると、だんだんまた欲が湧いてきた。「せっかく無理してここまで来たんだ。今この勢いのままいったほうが良いのでは?」と。しかも時刻はそろそろ12時。だんだんと来場者の数が増えてきている。買うなら今しかない感が高まる。

うーん、どうしたものかな。お持ち帰りできる品を探してみる。

会場の客席内をウロウロしてみる。まるで置き引きを狙っている泥棒のようだ。お目当ては、お客さんが食べている料理のお皿。蓋つき容器はないだろうか?平皿、お椀じゃ駄目なんだ。

探してみると、どうやら1品、蓋つき容器で提供されている料理が存在するようだ。ちらっと見た限り、肉っぽい塊が入っている。そういう料理を出すお店って、どこだろう?

「親鳥専門店 ばかたれ」に行ってみて、店頭にいた店員さんに「ここって、お持ち帰りはやってます?」と聞いてみた。すると、「やってないんですよー」という回答。あ、ここじゃないのか。

これでもう僕はすっかりやる気を失ってしまった。お店に聞く気力を喪失。なにせ体調が悪い、気が萎えるのがやたらと早い。

蓋つき容器の中には唐揚げが入っている可能性がある。だとしたら、「拉麺一匠 DEAD or ALIVE」も可能性としてある。ほかにも、「自家製麺ほうきぼし」が揚げワンタンを売っているので、そっちの可能性もありか・・・。さて、どちらに賭ける?お持ち帰りできるか、それともここで食べることになるのか。

それにしてもDEAD or ALIVE、怖いなぁ。店名も気弱になっている今の僕にとって怖いし、料理名もやばい。「朝天麻辣白湯麺HADES ハデス」ってなんだよ。ハデス!いや、何の意味か知らないけど、なんか怖そうな名前だ。悪魔の名前かなにかだろうか。

じゃあ唐揚げは怖くないのか、というとやっぱり名前が怖い。「三重熊野産激辛プリッキーヌを贅沢に使用 旨辛!唐辛子研究科の唐揚」だって。「中辛」と書いてあっても、この長いネーミングがすごく怖い。ゾッとする。

冗談でも大げさでもない。このときは真剣に恐怖を感じていた。先程までの3品はなんとかおいしく食べられたけど、なにかの料理、たった一撃で僕の喉はひどいことになる。そういう身の危険を真剣に感じているからこそ、足がすくむのだった。

この会場のすぐとなりに大きな都立大久保病院がある。なにかあっても救急外来があるから大丈夫・・・とはいかない。そんな無理はしたくない。

とはいえ、「中辛」という言葉に一縷の望みを託し、この「DEAD or ALIVE」に並んでみることにした。

注文口の行列のところに店員さんが1名いて、「ご注文ですか?今、当店のインスタをフォローしてくださったら、通常の麺を唐辛子麺に変更することができますのでぜひ!」と声をかけられた。いやもう勘弁して。ただでさえビビっているのに、そんな怖い提案やめて。

「インスタやってないんで」と、つかなくてもいい嘘をついてこの提案を回避。インスタやってるくせに。

せっかく声をかけられたので、店員さんに「ここってお持ち帰り用の容器で料理を提供してますかね?」と聞いてみた。すると店員さん、そういう質問はまったく想定していなかったようで、若干答えに困りながら「あ、いや、うちは・・・そうですね、普通のお皿ですよ。他のお店と一緒の。お椀みたいな形をした」と教えてくれた。

蓋つきじゃないんかー。外れたー。

とはいえ、もう列に並んでしまった以上、今更「じゃあやめます」というのも無粋だ。並んだのはなにかのご縁、ということでお持ち帰りができなくても唐揚げを買うことにした。

そうやって列に並んでいたら、一人のお客の兄ちゃんがすっと厨房の店員さんのもとに近づき、

「今食べたんですけど、すっげー辛かったっす。いやー、よかったっす!」

と大絶賛の声をかけていた。店員さんも「でしょう、喜んでいただけてよかったです」なんて嬉しそうだ。なんだなんだこの会話。

見ると、お客の兄ちゃんは店員さんと同じ黒いTシャツを着ている。あ、店名が書かれたTシャツ、おそろいじゃないか。ということは、兄ちゃんはお店の常連さんなのだろう。

そんな常連さんが「辛かった、よかった」とベタ褒めしているんだ。これは相当に辛いんだろう。やべー、改めてやべー。ハデスとかいう謎料理に手を出さなくて良かった。僕が頼んだ唐揚げだったら、さすがに大丈夫だと思う。だって「中辛」だし。

渡された唐揚げがこれ。

あれっ!?蓋つき容器だ!

拍子抜け、というかびっくりした。あ、ここで手に入るのか、と。

じゃあこれはお持ち帰りにしよう。家で、喉が落ち着いたときに改めて夫婦で食べよう。僕ばっかりが外食費をかけまくるのは罪悪感が強い。僕の喉を守るためというよりも、パートナーのいしにもこの料理を味わってもらいたいので、持ち帰りにしよう。

20店舗目 自家製麺 ほうきぼし

テイクアウト可能な容器に入っているのはどの料理だ?選手権で、先程のDEAD or ALIVEの唐揚げと競っていたのが、ここ。「辛いソースの揚げわんたん」を売っている「自家製麺ほうきぼし」だ。

今日から出店開始、ということで、新装開店1時間ちょっとのためにオペレーションが安定していない様子。オーダーがわからなくなったり、料理待ちの長蛇の列ができたり、店員さんが慌ただしい。

たぶんここの揚げわんたんは蓋つき容器じゃないだろう。どっちにしろ、もう一つの「スパイスを食す!スパイス汁なし担々麺」というメニュー名を見てしまったら、ついそっちを選んでしまう。「スパイス」を前面に押し出されると、つい食べたくなってしまう。どんな味なんだろう?と気になるからだ。

ということで、ついうっかり「汁なし担々麺ください。激辛で」と店員さんにオーダーしちゃった。

先ほど食べた3品に続いて購入した2品。

奥の唐揚げは家に持ち帰るとして、手前の「スパイスを食す!スパイス汁なし担々麺」は今ここで食べて帰らないと。

明らかに食べ過ぎだ。でも、今日食べておかないと、来週水曜日じゃこのお店も営業していないんだよ。僕が今食べるしかないんだよ。

おかしいなあ、もっとみんなでアハハハと笑いながら食べる企画だったのに、なんでこんなに悲壮感がある、冗談ぽさが全くない苦しい時間になっているんだ?

(つづく)

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