12:55
那須湯本のバス停から、下界に向けて歩いていく。
途中、なにか休憩処のような場所があった。雪に埋もれてよくわからないけれど、屋根とベンチが見える。
看板を見ると、「鹿の足湯」と書いてあった。やっぱり、足湯らしい。しかし、冬季休業中なのか、使える状態にはなっていなかった。
那須湯本で足湯に浸かりたければ、温泉神社の参道入口に「こんばいろの湯」があるので、そちらを使うといい。こんばいろの湯なら、冬でも利用させてもらえる。
バス通りを下っていくと、「諸国民芸とコーヒー みちのく」というお店があった。
カボチャぜんざい、とか甘酒、という文字が店頭に見える。そうか、ここで軽いお昼ごはんという手もあったな。さっきお蕎麦を食べたばかりなので、素通り。
12:57
この道は車の往来が多いので、除雪がしっかりされていた。
12:59
「ああ、これか!」
先ほどから山側を物色しながら歩いていたのだけれど、ようやく昔から探していたものを見つけた。
それは、山の斜面に沿って作られた、排気ダクトのような囲いに覆われた階段。道路があるこの高さと、山の上とをつないでいる。
風のうわさで、このあたりにギョッとするくらいの古めかしい宿(言い方をかえれば、ぼろい宿)があって、それでも「那須界隈では一番効く」と言われている名湯があるのだという。
その名湯には、防空壕のような薄暗いコンクリートのトンネルを通り、長くて急な階段を下らないとたどり着かないのだという。宿は山の上だけど、浴室が山の下にあるというわけだ。なんて無茶な。
そういう宿がこの界隈にあることは知っていたけれど、今回歩いてみてようやくその存在に気がついた。なにせ、湯屋がある手前には普通の民家のような建物が建っているから、わからなかったのだった。
宿の名前は「雲海閣」というらしい。
航空地図で見ると立派な規模を誇る旅館のようだが、ストリートビューで建物正面を見てみると「ん?営業やってるのかな?」と心配になる素っ気なさだった。
この航空写真を見ても、階段部分と湯屋はどれだか、判別がつきにくい。こういうのが「秘湯」だな。
憧れるので一度泊まってみたいものだが、素泊まり専門なのだという。食事の心配をしだすと、心がざわつくのでやめておこう。
13:03
いまどき、どこの温泉地もそうなのだろうが、廃墟となっている建物があちこちにある。
那須湯本の場合、冬の場合は僕みたいな好きもの以外はなかなか訪れない。だから、この地で商売をやるというのは結構たいへんだろう。
13:06
地元民向けのお店。・・・ええと、何屋さんと呼べばよいのだろう?
看板には、「米 LPガス 灯油 器具工事一式」と書かれてある。そして、店頭には薪や炭が積み上がっている。燃料屋さん、という言い方をするのが正しそうだ。
後で地図でこのお店の名前を確認したら、「那須食販」だった。「食販」なのか!
13:07
那須湯本温泉街の端までわざわざ歩いてきたのは、この先にもう一つの秘湯があるからだ。
その名を「老松温泉」という。
那須湯本温泉、とは名乗らないで、独立した温泉地を名乗っている。
那須湯本の温泉街とは、川を挟んだ対岸に位置しているらしい。その名を温泉好事家の間で轟かせているのは、一軒宿であるその建物が半壊しているからだ。どうみても廃墟、という建物なのに日帰り入浴は受け付けていて、しかもそれがかなりの名湯なのだという。
こういう話を聞くと、温泉好きの僕もウズウズしてくる。行ってみたいなぁ、と。
ただ、具体的な場所がよくわからない。川の対岸にある、ということはわかっていたけれど、それ以上の情報がなかった。なので、那須湯本温泉街のはずれ、川下側までいったん山を下り、そこから川の対岸沿いの道を登り返すことにした。
ちょうどバス通りから川沿いの道に入ったところで、「老松温泉」という木の看板を発見した。よかった、ここで間違いはない。この道をずっと進んでいけば、目指す温泉は見つかるだろう。
昨日、共同浴場の川原湯で風呂に浸かりつつ、地元のとっつぁんたちと談笑したときのこと。
「どうだい兄ちゃん、いいお湯だろ?このあたりじゃ最高だよ」
「そうですね、とてもいいお湯です」
「そうだろうそうだろう、鹿の湯なんてわざわざ行かなくても、ここが一番よ」
「そういえばこの近くに老松温泉っていうのがあるんですよね?」
「ああ、あるな」
「あそこはこことは違う源泉なんですか?」
「おう、老松温泉はちょっとこことは違うな。川向うですぐの場所だけど、違う」
というやりとりをしていた。
那須湯本のお湯とは違う、名湯。楽しみでしょうがない。
13:07
川向うは、那須湯本の温泉街の外れ。
崖にせり出す位置で、建物が建っている。どうやら、廃墟のようだ。
なんでこんな崖地に建物を建てたのだろう?
なんで、すぐ崖なのに掃き出し窓になっているのだろう?寒いだろうし。
謎が多い。そもそも、元々が何だったのかもわからない。旅館にしては小さい気がする。
この道は、このまま行くと行き止まりになっているはずだ。だから、老松温泉がぽつんと存在しているだけだと思っていた。
しかし、案外一戸建ての建物が並んでいて、予想外だった。
自然に溶け込むような場所に、古びた温泉宿がある・・・というイメージだったから。
13:09
おっ。
川を渡ることができる橋があった。
なんだ、これだったら温泉街から直接老松温泉にアプローチできたのに。
Googleマップでは記載がない橋だ。なぜ地図に描かれていないのだろう?
・・・と思ってよく見たら、道路はフェンスで封鎖されていた。橋は渡れるけど、そこから先温泉街へは向かえない。
ますます、老松温泉の秘境感が出てきた。
(つづく)
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