ふたたび温泉療養に戻る【那須湯本療養2】

13:10
老松温泉に向けて雪中行軍している最中に見える、川向うの光景。

結構ダイナミックに崖にせり出した建物があるものだな。人は、崖があるとギリギリまで行ってみたくなるものなのだろうか?

このあたりは那須連山の噴火によって排出された溶岩で大地が覆われている。そのため、水の流れには弱いようで、川が流れているところはどこも深い谷が刻まれている。那須高原の地図を眺めていると、「どうしてこういう無駄に大回りさせるような道路レイアウトになっているんだ?」と不思議に思うことがあるが、地形図をオーバーレイさせて眺めてみると、その実情がわかる。あちこちに谷があるので、その谷を迂回しているのだった。

で、この川も、水流は少ないわりにかなり深い谷となっている。賽の河原から始まっている川なので、源流からここまでの距離はわずか数百メートルだ。それにしてはかなりの削りっぷり。

そしてその大自然の威力に逆らうかのように、崖にせり出した建物をこしらえるのが人間の性だ。

何の建物か、こちらからはわからないが、さすがに民家ではないだろう。崖の建物は2階建てだけど、その1階部分はどうも大浴場っぽい。窓の形が、倉庫とか居室だとは思えないからだ。ということは、あそこは温泉旅館か。

地図でみると、「湯川屋旅館遊季荘」のようだが、違っているかもしれない。いずれにせよ、崖の建物が使われているようには見えない。もう、老朽化が進んで使われなくなっているっぽい。

でも大丈夫、すぐ隣が共同浴場の川原湯だ。そっちを使ってください、ということなのだろう。

それにしてもこういう建物、ワクワクするよな?まるでひな壇のように建てられている。建物の作りや壁の色を見比べてみると、増改築を繰り返して今の形になったことがよくわかる。外から見ても楽しいけど、宿泊して中を探検するのもきっと楽しい。

ただ、こういう宿を「探検」できるのって、歳を取ってからだと無理なんだよな。足腰が言うことをきかなくなっているかもしれないから。渋い宿巡りこそ、若いうちにやっておくべき趣味だと思う。

13:11
キターーーーー

老松温泉!これか!噂にはかねがね聞いておりました。恐れ多くも、ようやくお伺いすることができました。

白いコンクリートの壁に、直接ペンキで「老松温泉」と書いてある。

ええと、あれれ?

僕が知っているのは、木造の建物で、それがまるで再開発で取り壊し中の家みたいにバキバキになっているものなんだけど。コンクリート?これ、僕知らない。

老松温泉、というのは実は一軒宿ではなく旅館街があったのだろうか?

しかし、よく見ると「老松温泉」と書かれている横に「喜楽館」と小さく書いてあった。あ、これで間違いない。

おかしいな、まさか「ぼろい」とさんざん温泉マニアに面白がられたのが悔しくて、建て直したのだろうか?いや、そんなバカな。建て直したにしては、随分年季が入っている。

状況を理解できないまま、建物を回り込んで見る。

すると、この建物はすっと地面に埋没するように、背後がほとんどない建物だということがわかった。

「あれ?」

困惑する。あまりに雪が深すぎて、建物の後ろ半分が見えないのだろうか?でも、今いるところが急斜面というわけはないし、不自然だ。建物そのものが、横から見ると三角形っぽい形をしているようだ。

じゃあ、この建物はなんだ?実は、温泉宿は地下に存在して、その入口がここ・・・?

ありえない、そんな馬鹿な。

じゃあ、僕が写真で見たことがある「木造のぼろぼろの建物」はどこに?

既にきれいさっぱり倒壊して、残ったのはコンクリートで作られた部分だけ、ということなのだろうか?

頭がぐるぐるする。わからない、わからない、わからない。

建物の入り口と思しきところから、扉を開けて中を覗いてみよう・・・とは思えなかった。なんだか薄気味悪いし、どう見てもここが営業をやっていて、人がいるようには見えないから。

13:12
途方に暮れながら、しかたがないのでもう少し奥まで歩いてみる。

道路はすっかり雪に覆われてしまった。しかし、わだちがあるので、この先までまだ進むことはできそうだ。本当の雪中行軍になってきたけど、しょうがないので前に進む。

謎のコンクリート建物の奥に、「老松温泉駐車場」と書かれた石碑のような看板がぽつんと立っていた。ああ、やっぱりここは老松温泉なんだ。そして今や、主がいない建物と、雪原しか残っていないんだ。諸行無常だなぁ。

それにしても、雪があるせいで状況がまったくわからない。雪さえなければ、建物の基礎部分とか、昔の名残を確認できるのだけれど。

「老松温泉駐車場」なる空間の奥に、コンクリートの塊がある。崖崩れ防止のための法面補強ではなさそうだ。じゃあ、これは何のために?わからない。

13:13
これもわからない建造物だ。礎石の上に煙突のようにコンクリートがそそり立っている。

さきほどの駐車場のコンクリートブロックと関係があるような位置関係だ。吊橋でもあったのだろうか?駐車場の塊がアンカレッジで、この塔は橋を釣るための柱。・・・うーん、推測の域を超えない。

「老松温泉」の看板が出ているコンクリートの建物の裏口?部分。ふさがっていて、中の様子は見えないっぽい。来るものを完全に拒んでいる。いや、元々いた人さえも、もう中に入るつもりはない、という意思が感じられる。

13:15
駐車場から崎は先は、もう何もなさそうだ。ちょっとした雪原になっている。

ここが駐車場だったのか、それとも建物が建っていたのか、雪が真実を覆い隠してしまっている。

しかし、わだちはこの先まで続いている。道はあるようだ。

前に進んでみよう。

あれ、なんだこれ?

比較的新しい石碑が建っている。そこには、「那須の珍湯 老松温泉 喜楽旅館」の文字が彫られていた。

状況がよくわからない。誰が、いつ、なんのためにこの石碑を設置したのだろう?「珍湯」なんて名乗っているのが、状況をますますわかりにくくしている。

なぜ「珍湯」と呼ばれているかというと、それはお湯の特性というよりも「倒壊した建物だけど、入浴を受け付けている」という状態だからだ。そんな建物なのに、石碑だけ立派なものがあるというのは不可解だ。じゃあ、温泉マニアたちが、「昔ここには珍湯があった。それを偲んで、石碑を立てよう」と思ったのだろうか?

いずれにせよ、この石碑が建っているところには、なにもない。

まだわだちが続いているので、行けるところまで行ってみることにする。

建物が道路脇にあるけれど、これは明らかに「旅館」でも「旅館跡地」でもない作りだ。

目の前の白い建物は、外壁が一部剥げ落ちていた。人が住んでいるのだろうか?それとも廃墟だろうか?

こういうサイトで文章を書く以上、うっかり人が住んでいる家を「廃墟」などと表記してはまずい。若干注意しながら、言葉を選んでいる。

(つづく)

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