2001年05月04日(金曜日) 7日目
最終日の夜が明けた。
恒例の「こんなところに泊まってました」コーナー。
何かの施設があるが、一体何なのかは不明。
その施設の駐車場に車を突っ込んでいたことになる。他にも、ワンボックス車が2台停まっていたが、中に人がいるのかどうかまでは未確認。
何しろ、われわれの朝は早い。残り10番となり、今日は強行軍を組まなくても良い状態だが、相変わらず「朝7時に最初の札所に到着する」方針に変更はない。よって、朝6時起床。
ため池の湖畔。
池の水面を眺めて「いいですなあ」なんて言っている余裕はない。もう6泊もしているから慣れた手つきで、撤収準備に入る。テントは雨が降っていなくても地面に接しているところが湿ることが多い。地面から上がってくる湿気を受けるからだ。だから、仕舞う前には天地をひっくり返して干す作業が必要。
というわけで、起きたらまずテント内の荷物を全て外に出し、テントのフライシート(テントの外側を覆っているシート)を取り外し、テントをひっくり返す。そこまでしてから、荷物の片付けと朝食の準備だ。朝食が終わったらテントを解体する。
各自各様の朝食をとる。しぶちょおだけは、火力を使った汁物を作っていた。3日目朝に火災を起こしたカセットコンロストーブを使って。
ひっくり返されたテント。
フライシートは広げられ、コンクリートの上に干されている。
テント内に敷いていたウレタンマットは立てかけられて天日干しだ。
とはいっても、起きてから移動開始まであまりに時間が短い。干すことにどれほどの意味があるのかは正直疑問ではある。「とりあえずやることはやりました」的感じだ。
ちなみにこの写真が撮影されたのは6時20分。起きて20分で、朝食を各自済ませて片付けに入っている状態。
この後テントはばらされたので、テントの裏面を天日干しにしたのは正味30分もなかった。
今日でこのテント泊も終わり。どうもお世話になりました。今晩はホテル泊だ!
確実に一つ一つ、「旅の定番行事」が終わりを告げていく。旅は終盤。
[79番札所 天皇寺(てんのうじ) 香川県坂出市]
いつも通り朝7時に天皇寺到着。一番乗りだ。
まだ誰もいない境内を歩く。凜、とした空気を体で切り裂いていくような感覚を覚える。それも今日で最後。
「ありがたいねえ」「寺はやっぱり朝だねぇ」
毎日繰り返されてきた会話を、今日も行う。これもまた、最後。
[80番札所 国分寺(こくぶんじ) 香川県国分寺町]
7km進んで国分寺。いよいよ80番台の札所に突入だ。
「ん・・・国分寺、って以前別の場所でもなかったっけ?」
「ええと、どうだっけ」
さすがに80番も札打ちをやってると、記憶が曖昧になってくる。
過去に「国分寺」という札所を巡礼したのは事実。しかも、3箇所も、だ。聖武天皇が天下太平を祈願して全国66箇所に建立した国分寺。その名の通り、各国に一つづつあるが、四国の場合その全てが札所になっている。
阿波:15番国分寺、土佐:29番国分寺、伊予:59番国分寺、そして讃岐国分寺がここ80番。
大師堂でお経を唱える一同。
ちなみに本堂の千手観音菩薩は重要文化財だけど秘宝なのでお見せできませーん、とのことだった。でも、本堂そのものも重要文化財。
いっそのこと、本堂ごと非公開にすれば・・・と思うが、さすがにそれだとお寺として成立しないのでやらないか。
一体、何の基準をもって「秘仏」となるのかがよくわからない。
開示して塗装が劣化するのは困る、というのであればいっそのこと博物館に寄贈してはどうか。いや、さすがに本尊を寄贈しちゃまずいだろ、それこそお寺として成立しない。
[81番札所 白峯寺(しろみねじ) 香川県坂出市]
7km進んで白峯寺。
お経にも熱がこもる。さすがにここまでで160回以上同じお経を唱えてきたわけで(真言はご本尊によって異なるため除外)、各自堂に入ったものだ。最初は「この節回しで正しいのだろうか?間違ってないか、俺?」」と不安を感じながら読経していたものだが、もうこの段階になるとそういうのは関係ない。各自が「自分なり」のお経を唱えていた。みんなバラバラだが、それはそれで良いと思う。
このお寺の本尊である千手観世音菩薩は「身代わり観音様」として信仰されており、人々をいろいろな災難から救ってくれるらしい。一体今までどれだけの身代わりをしてきたのだろう。満身創痍だと思うが、まだそれでもご健在というのはさすが菩薩。レベルがわれわれとは違うぜ。
「あれ?菩薩の道場:伊予はもう通過したよな・・・」
現在は「涅槃の道場:讃岐」。
いや、他人の身代わりなんてとてもじゃないけど引き受けられないです、勘弁してくださいホント。
結局何も悟っていない。まあ、誰だってそうだとは思うが。
[82番札所 根香寺(ねごろじ) 香川県高松市]
4.5km進んで根香寺。
いよいよお寺は香川県の県庁所在地である高松市に入ってきた。とはいっても、市街地にあるお寺ではなく周りは木々に覆われた、静かな場所。
堂内は信者が寄進したという3万体にも及ぶ観音像が祀られており、一種独特。
このお寺の駐車場にも野良犬が。
どうも昨日からやたらと野良犬を見るな。ホントどうなってるんだ犬の国讃岐。
なぜか一匹飼い犬らしき、首輪をつけたヤツが紛れ込んでいたがこれは一体どうしたんだろう。飼い主の元から脱出して野良犬化したのか、それともご主人は巡礼中で「お参りが終わるまで駐車場で遊んでなさい」と放し飼いにされたのか。
「わっ」
車から降りた時には気付かなかったが、いざ巡礼が終わってアワレみカーに乗ろうとしときに気がついた。
車の正面に、なにやら奇っ怪な怪獣の像が立っている。
全力で逃げる一同。・・・という写真を、一同に指示して撮影するおかでん。
何もその場に解説はなかったが、手持ちの手作りガイドによると
今から400年前、この山に牛鬼という怪獣が出現し、人畜を害した。こまった人々は弓の名手・山田蔵人高清に対峙を頼み、高清は当寺の千手観世音菩薩に願をかけて、みごと牛鬼を射止めたという。
だ、そうで。
でも、ゴキブリと一緒で「一匹みつけたら30匹いると思え。」なんじゃないかな。突然変異でいきなりこの牛鬼は一匹だけ現れたんだろうか。それにしても「牛の鬼」って、怖そうで怖くないような、微妙なネーミングだな。
[83番札所 一宮寺(いちのみやじ) 香川県高松市]
13.5kmとやや離れたところにある一宮寺。
このお寺の納札入れに金色に輝く一枚の札が。
あっ、金の納札だ!
納札はルールがあって、巡礼回数によって色が変わる。
1~4回:白札
5~7回:緑札
8~24回:赤札
25~49回:銀札
50~99回:金札
100回以上:錦札
すなわちこの方は50回以上もぐるぐると巡礼をしているわけだ。暇人!・・・って言ったら元も子もないか。すごい!その執念たるや相当なものだ。さすがに歩き遍路ではないと思うが、車だとしても50回以上というのは並大抵のものではない。しかもこの人、愛知県から訪れているし。一体どんな人なんだろう。
巡礼中、赤札は時々見かけた。赤(8~24回)というのも驚異的だが、それを上回る金があるとは。
位の高い(?)札は貰っても良い事になっている。持ち歩いているとその方の功徳を分けてもらえるんだとか。謹んで車遍路1回目のおかでん様が貰い受けることにした。
それにしても金札になると気合いが違うね、わざわざ専用に印刷してるもん。業者に発注したんだな。
84番屋島寺まで14km。屋島、といえば源平合戦で有名なあの屋島だ。公共交通機関を使うのであれば、屋島登山鉄道というケーブルカーがあるが、車だと屋島ドライブウェイという有料道路を使ってお寺がある山の上までのぼることができる。
※ちなみに屋島登山鉄道は2001年に経営破綻し、2005年に廃業している。
その屋島へのアプローチ口に「四国村」という四国の古民家を移築したテーマパークがある。その中に、「ざいごうどん わら家」という有名なうどん店がある。まだ昼食には早いが、せっかくなので立ち寄ることにした。道中だし。
今日はこの後ジーニアスと合流する予定になっているが、合流地点の指定をわら家とした。
わら家は大繁盛。昼時にはまだ早い11時だったが、広い店内は大混雑だ。われわれも、予想外の足止めを食らうことになったしまった。
ようやく出てきたのは釜揚げ。400円程度だったと記憶しているが、正確な金額は覚えていない。ただ、200円出せばうどんが食べられるうどん王国讃岐においては、やや高め・強気の価格設定だ。
「うん、うまいうまい」
待たされた分だけうまさもひとしお。
客席数は相当ある広い店内だが、うどんは店で手打ちしているんだという。一体どれだけうどんを打っているんだ。もの凄い労力が必要だと思われるが、大丈夫か。
釜揚げはシンプルさが命。それゆえ、時間が経って延びてしまっては意味がない。一同、そそくさと食べる。
うどんは案外食べ終わるのが早いものだ。釜揚げは具が無い分、特にするするっと早く食べ終わる。
・・・ジーニアス、待っているのも時間がもったいないなあ。
行っちゃうか、先に。
ジーニアスとの合流点であるわら家を見捨てて、われわれは先に屋島寺に行ってくることに決めた。行って帰ってきたらちょうど良いタイミング、って事になってるかもしれないし。
屋島ドライブウェイを走る。
岬の山上に屋島寺はある。ぐいぐいと標高を稼ぐ。
対岸にも一つの岬が見える。崖がむきだしになった険しい山がある。あそこにこの次の札所である85番八栗寺がある。
[84番札所 屋島寺(やしまじ) 香川県高松市]
広い駐車場完備のお寺。情報によると400台停めることができるらしい。山の上なのにすごいな。
駐車場からお寺に入る門のところで撮影。しかし、どうも造りが新しいし尊厳がない。造りが安っぽいというか、観光客向けというか。境内をうろうろしてみたら、別のところにちゃんと立派な仁王門があった。そちらであらためて記念撮影。
境内は観光客がいっぱい。観光地としても集客力があるようだ。それゆえにか、お寺の造りは立派で、広々している。
お寺の一角に、鳥居がずらりと並んだ場所があった。お稲荷さんでも祀っているのかと思ったが、違った。鳥居の脇にたたずんでいたのはタヌキ。蓑山大明神という、日本三大狸の一つを祀っているんだそうだ。そうか、キツネがおいなりさんとして祀られているくらいだから、タヌキが祀られていてもおかしくないな。妙に感心。
ここでジーニアスから連絡。わら家がどこにあるかわからん、と。われわれは現在屋島寺にいるから、四国村で合流しようではないかという話をしたが、うまく伝わったかどうか。
案の定、うまく意図が伝わらず、ジーニアスは有料道路の屋島ドライブウェイを登ってくる羽目に。で、われわれアワレみカーご一同様は四国村で「あれぇ?居ないなあ」状態。また連絡が入り、「現在屋島寺にいるけどどうなってるんだ」と。いやこっちもどうなってるんだか。早く下りてらっしゃい。
ジーニアス車を確認後、アワレみカー先導で二台連なって85番八栗寺に向かう。
アワレみカー内では戦々恐々。
「絶対ジーニアス怒ってるぞ。どうなってるんだ、って」
「やばいな」
そうこうしているうちに、八栗寺手前で渋滞になってしまった。車が完全にストップ。すると、後ろのジーニアスがアワレみカーに向かって「一人こっちに来い!」とジェスチャーをしている。
「うわ、俺やだぞ。怒られに行くようなもんだ」
「俺もヤだ」
全員が嫌がったが、おかでん名指しでジーニアスから来るようにとの指示(ジェスチャー)があったため、おかでん一人が身代わりとなって一人生け贄として献上。何を言われるかと思ったが、
「いやね、俺だけ一人で車運転してると寂しいじゃん。そっちは4人いるんだから、一人くらいこっちにこい、と」
よかった。てっきり、合流の際の不手際を追及されるのかと思った。
それにしても何だこの渋滞は。八栗寺へはケーブルカーで登ることになるのだが、その駐車場がいっぱいなのだろうか。
・・・しばらくして、原因が判明。八栗寺行きケーブルカー乗り場手前に、超有名店であるうどん屋「山田家」があるのだが、そこの駐車場空き待ちで渋滞が発生しているのだった。たかがうどん、されどうどんだな。大渋滞しとるやんけ。そこまでしてでも食べたいうどん、というのには惹かれるが、あいにくさきほどわら家で食べたからもういいや。思い切って渋滞を尻目にずいーっと前に進んだら、そのままケーブルカー乗り場の駐車場に到着できた。とはいっても、ここも混雑しており、少し待つ事になったが。駐車場100台分あっても、足りない。いやぁゴールデンウィーク真っ最中ですなあ。
大変にレトロな風情であるケーブルカーで八栗寺を目指す。ボンネットバスのような外観だ。
ケーブルカーは遍路ケーブルといって良いほど白衣だらけ。今までも白衣だらけのロープウェイに2回乗ったが、白衣だらけのケーブルカーというのも一種異様だ。
最初3名でスタートした遍路だったが、高知でちぇるのぶ参加、そして85番という大詰めにしてジーニアス参加、総勢5名にふくれあがった。残り4番、一体どんなカタルシスが待っているのか。
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