今まで主に平地にあったお寺だが、だんだん徳島県の奥に向かっていくにしたがって傾斜地に立地するようになってきた。
お堂を巡る際もこのように階段を上る。
車遍路だと金剛杖は単なる飾りのようにも感じられるが、実際は駐車場から境内の各お堂を巡る際に活躍した。無ければ困るものではないが、あると便利。お大師様の御利益、といったところか。
[九番札所 法輪寺(ほうりんじ) 徳島県土成町]
このあたりになってくるとやや道がややこしくなってくる。ただし、道路のあちこちに遍路道を示す看板が出ているし、そもそもアワレみカーにはカーナビが完備だ。道に迷うことはない。
道に迷ってこそ遍路、と言えるのかもしれないが、科学技術の進歩は確実に遍路の世界を変えた。車が登場し遍路は一つの転機を迎えた。そして、カーナビという技術が登場し、また一つ転機を迎えたといって良いのではないか。
法輪寺境内。
仲良く、本堂と大師堂が並んでいる。
こじんまりとしたお寺だ。
ここのご本尊である釈迦如来は八十八カ所唯一の「涅槃仏」だということだが、秘仏ということで実物をみることはできない。なんでも5年に1度のご開帳なんだとか。
見えないながらも、釈迦如来の真言である「のうまくさんまんだぼだなんばく」を唱える。
[10番札所 切幡寺(きりはたじ) 徳島県市場町]
お寺は切幡山の中腹にあるという。山麓の駐車場に車を停めたら、そこに待ちかまえていたのは延々と続く石段。
ご丁寧に、石段の登り口に「是より三三三段」と書いてある。脅しか?応援か?
金剛杖大活躍。おかげ様で三三三段を心地よい汗とともに登ることができました。GWシーズンで良かった。夏だったら大汗かいているぞ。
それにしても、歩き遍路の人たちはこのようなアップダウンを毎日繰り返しているんだなあ。凄いと思う。
切幡寺、なので「袈裟切り」のポーズをとって山門で記念撮影。
ここの観音様ははさみを持っているということだった。さすが「切幡寺」という名前だけある。しかし、はさみを目視することはできず。
11番札所藤井寺まで10キロ強のドライブとなる。ちょっとした空白地帯。
そんな中、アワレみカーは対向車が来たらすれ違えないぞ、という道路に入った。そこにあった橋がとてもユニーク。
橋に欄干がない。沈水橋だ。
これは、川が氾濫した際、欄干に流木や大きなゴミがひっかかってしまわないようにするという一種の技法だ。「橋があっても、上流から流れてきたものは食い止めない。基本的にスルー」というわけだ。話には聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだったので一同感心することしきり。
ただし、歩き遍路の人がここを通るのだとすれば相当怖いだろうな。足下がふらついたら、即川に転落だ。車がやってきたから避けなくちゃ、って身をかわしたらそのままどぼん、なんて事もあり得る。
[11番札所 藤井寺(ふじいでら) 徳島県麻植郡鴨島町]
藤井寺到着。特にポーズは思いつかなかったので無し。
ここにはミニ八十八カ所巡りがあるという。「お遍路の中にまた遍路」というのは面白い。全国各地に、ミニ遍路というのは存在するが、それは四国巡礼に行けない人のために身近なお寺やほこらを札所に見立てたものだ。しかし、ここは四国。しかも札所の一つ。なのにミニ遍路があるとは。
へんろ道、と書かれた行き先表示が境内の隅にあった。
12番焼山寺へは、山をわけいっていくルートが指し示されていた。
歩き遍路は、何も車道を歩くわけではない。「歩き」ならではの、山道ルートが数多く存在する。ここもその一つ。いよいよ山岳ステージに突入というわけか。
12番焼山寺は山奥深いところにあるお寺としてお遍路では有名。この地・藤井寺から13kmもある。しかも藤井寺には宿坊がないので、11番札所-12番札所踏破はそれなりの時間タイミングと覚悟が必要になってくる。
焼山寺への道が困難なのは車とて一緒。立派な二車線道路がお寺に向かってまっすぐ、なんて事はない。
大変であるという事は聞き及んでいたので、まずはここで一息入れ、気合いを入れ直す。
ニッキ水、なるものが売られていたので買って飲んだ。
ニッキ水。「昔なつかしい味」なんだそうだが、われわれからすると未体験の味だ。昔なつかしすぎる。一体いつの時代の飲み物だ。
ニッキとは、要するに肉桂=シナモンのことだ。シナモンをスゲー甘くしてスゲー着色しました、というのがこれ。
飲んでみたけど、甘いやらくどいやらシナモン風味がうっとおしいやらで、今の人の味覚にはあわない飲み物だと思った。
でも、お遍路の途中で飲むからこれまた風情なり。
焼山寺への車道は、予想していたとおりにキツい道だった。
自動車遍路用のルートマップだと、最短距離で行ける道ではなく大回りする道を推奨している。しかしわれわれはそのまま最短距離ルートに突撃したわけだ。
するとまあ、道が細い!これ対向車が来たらどうするの、という道だ。2度ほど対向車と遭遇してひやりとしたが、たまたま運良くすれ違える場所に近かったため事なきを得た。しかし、場所が悪いと延々とどちらかの車がかなりの距離をバックしなければならなかっただろう。
車道のすぐ脇は、崖。
アワレみカーがデミオというコンパクトカーだったから良かったけど、ミニバンや大型車だと対向車なしでもヒヤヒヤものだと思う。ましてやハンドルさばきが難しいバックになると、もう。
助手席側に座っているばばろあが、運転するしぶちょおに「左は見るな!見たらやばい!」と叫んでいた。
おかでんは、しぶちょおの熟達したドライビング(=遠慮のないハンドルさばきとスピード)のおかげで後部座席をごろごろ転がるありさま。車酔いするところだった。
ずいぶんと山の上にきてしまった。
駐車場に到着したときはほっとしたものだ。
しかし、ほっとするのはまだ早い。駐車場の隣に山門、というわけではなかった。ここから結構歩く。
標高880mという山の中腹にお寺があるため、境内と駐車場を同一スペースに確保することができなかったのだろう。山を回り込むようなかたちで、てくてく歩く。
お寺はどこだ。
まあ、先ほど333段の階段をのぼったので、「駐車場から遠いお寺もある」ということについては耐性ができたけど。
なかなかに距離がある。時折、振り返って景色を眺めつつ、歩を進める。「いやぁ、絶景の国だな四国は」などと言いながら。
[12番札所 焼山寺(しょうざんじ) 徳島県名西郡神山町]
ようやく山門に到着した。駐車場から10分くらいは歩いただろうか?正確に記憶していないのであやふやだが、とにかく相当歩いた。
この門をくぐれば即お堂が見えてくるのかと思ったら、まだ石段は続いていた。一体どこまで距離が離れているんだ。
ここに住むお坊さんは生活が大変だな。山小屋と一緒。生活に必要なもの全てをボッカしなければならない。石段があるので、小型の重機で運搬するわけにはいかないし。駐車場から人力頼みだ。比較的体力があるお坊さんでないと、生きていけないだろう。
焼山寺境内。
場所が場所だけに難易度が高いからか、巡礼者はあまりいなかった。
奥に見える建物は本堂ではなく、本坊・宿坊。次の札所である大日寺まで22kmもあるので、ここの宿坊を利用する歩き遍路は多いだろう。だからか、建物が大きい。本堂よりも大きい。
ただし、宿坊の営業は春先と夏のハイシーズンに限定されているようだ。さすがに、常時巡礼者を迎えていると物資輸送が大変すぎるからだろうか。山小屋のようにヘリコプターで物資輸送をするというわけにもいかないだろうし、難しいところだ。
ありがたくお経を唱える。
やはり、苦労して到達したところで唱えるお経は格別にありがたいものだ。
歩き遍路の人は、こういう「ありがたい」気持ちに毎回なりながら、札所を巡っているわけだ。素晴らしいことだと思う。
われわれなんて、狭い山道の車道を「ひゃー」と言いながら走り抜け、駐車場から10分そこそこ歩いて「ありがたいなぁ」って言ってるんだから、次元が違う。
売店に、「焼山寺まんじゅう」というものが売られていた。その横にはなぜかさつまいもも売られていた。
まんじゅう、3個で300円。「お土産にどうぞ!!」と書いてある。確かに、焼山寺の難易度の高さを知っている人に「ほら、これお土産」といって渡すと「おおおー」と喜ばれそうなまんじゅうだ。
甘党のばばろあが「これは買わんといかんじゃろう」と言ったので、各自100円ずつ拠出して焼山寺まんじゅうを購入。おいしく頂いた。
さすがにさつまいも(焼き芋?)は買わなかった。
でも、歩き遍路の人にとっては、これからまだ先は長い。遍路途中の食料としてさつまいもは珍重するのかもしれない。
われわれは車遍路なので、「その気になれば今日中に徳島市街に行ってホテルに泊まることだってできるぜ」という余裕だ。しかし、歩きの場合はそうはいかない。状況によっては予期せぬ野宿を強いられることだってあるだろう。そういうとき、焼山寺で買っておいたさつまいもで食いつないだ、なんてことはあり得るだろう。そもそも、焼山寺に限らず、その他のへんろ道だって沿道に飲食類を調達できる場所はあまりないのだから。
[13番札所 大日寺(だいにちじ) 徳島県徳島市]
山を延々と下り、再びわれわれは平野部に下りてきた。
11番藤井寺から13kmで焼山寺、そのあと22kmでようやく大日寺だ。歩き遍路だったら、この行程だけで1日作業だ。しかも、山登りと下りをしなければならないので肉体の負担は相当なものだ。さらに途中売店など存在しない。水と食料をしっかりと確保の上で挑まなければならない。
そのご褒美からか、ここから先しばらくは札所の密集地となる。人生苦もあれば楽あるさ、というわけか。
「あれ・・・」
人が境内にいないと思ったら、今日はもうお寺の営業時間(表現が変だが)は終わりのようだった。なんでも、お寺は7時~17時の巡礼が普通なんだという。もちろん境内に出入りは自由だしお経をお堂の前で唱えるのは勝手にできる。ただし、肝心のお堂が閉まっている。
「うーん、ここで打ち止めかぁ、今日は」
ばばろあからは「行けるところまで行っても良いのではないか」という提案があったが、初日ということもあって、まずはひとまずここで打ち止めにすることにした。
これからわれわれとしては、食料調達→ねぐら探索・確保→テント設営→自炊→食事→睡眠、とイベントが続いている。今日は17時30分で打ち止めとなったが、その時間が早すぎるのか遅すぎるのか、見極めることになる。
さて、まず食料品を扱っているお店を探さないと。
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