禅師峰寺から眼下を見下ろす。高知市の郊外が見える。
禅師峰寺は桂浜のすぐ近く。「心はいつも太平洋ぜよ」と思わず口をついて出る。
しかし、あと2日もすれば「心はいつも瀬戸内海ぜよ」に切り替わってしまうんだけど、僕ら。
[33番札所 雪蹊寺(せっけいじ) 高知県高知市]
9km進んで雪蹊寺。桂浜からいったん内陸に入ったところにある。
「雪」にちなんで、雪がふわふわ降っているようなポーズをとって記念撮影をしてみた・・・けど、「ばぁ」とおどけている写真にしか見えない。
[34番札所 種間寺(たねまじ) 高知県春野町]
地図上で見ると海には近いんだけど、海沿いは走らせないぞという距離感で車は走る。
ほど近く、7kmで種間寺に到着。
種まきをしているポーズで記念撮影。
本堂はコンクリート製でちょっと不思議だった。「お寺=木造」とは限らないのは当然なんだけど、木造を見慣れちゃってるからだな。
ここの薬師如来は国の重要文化財だけど、1年に1度しかご開帳しないのでわれわれはただ「おんころころせんだりまとうぎそわか」と真言を唱えるのみ。
既にお昼時になっているので、昼食を考えないといけない。
種間寺の近くに売店有り。食べるものも簡単ながら売っている。
先に少しでも進みたいばばろあは「ええじゃん、ここにあるのを買って車中で食べれば」と言う。しかし、食にはこだわりたいおかでんとしてはこの意見に反対。「食事はしっかりとりたい。ご当地グルメをぜひ取り入れたい」と主張。
おかでんが巡礼開始前に作成したお遍路冊子には、札所近くの名所、グルメ情報などが掲載されている。今までも、その冊子に掲載されている釜飯や鯨料理を時間の都合で見送ってきているので、大変に残念に思っていた。
しかし、結局ばばろあが言い勝ち・・・というか、「わしもう買うで」と半ば強引に終止符を打ち、店内で焼き芋を買い出したので議論終了。
おかでんも「今日はしょうがないが、明日こそは食うぞ!?」と捨て台詞を残してばばろあに追随。
今日のお昼ご飯、焼き芋とジュース。
おかでんは釈然としない顔をして写真に収まっている。この表情から、いかに納得がいっていないかというのが分かる。
「この先に、カツオ料理の店とか鮎料理の店があったんだがなあ・・・」
10分もしないで昼食終了。次の札所を目指す。
焼き芋だけじゃ足りないだろう、ということで車中食用にばばろあが追加で食べ物を購入していた。
・・・芋けんぴ。
「また芋か。芋好きだなあ」
「いや、車中でつまめるものってこれがちょうど良かったけえ」
「車中でおなら厳禁だぞ?」
外はまた雨だ。困ったもんだ。
[35番札所 清滝寺(きよたきじ) 高知県土佐市]
「おいおい随分登るじゃあないか」という声が車中であがるくらい、山をぐいぐい登っていく。清滝山という山の中腹標高400mのところにあるのが清瀧寺。われわれは車だから助かっているが、ここも歩き遍路泣かせの急坂だ。八丁坂という。
登りつめた先にある札所では、巨大な薬師如来が鎮座。高さが12mもあるという。まさかあの巨大仏を拝むのかと思ったが、さすがにさにあらず、本堂内にもちゃんと仏様がいらっしゃった。これで本尊が地蔵菩薩とかだったら微妙な空気だが、大仏と同じ薬師如来。これで札所3カ所連続で薬師如来だ。
[36番札所 青龍寺(しょうりゅうじ) 高知県土佐市]
海沿いに出た。「おお、海だ」とちょっとだけ感動する。別に珍しくもなんともないんだけど、とにかく長い行程、メリハリが無いと辛い。宇佐大橋、という半島を繋ぐ橋を渡り、半島へ。15kmで次の札所、青龍寺。
2001年当時には存在しなかった話なのでこれは余談だが、この近くにスポーツで有名な明徳義塾高校がある。大相撲の横綱朝青龍はこの高校でスポーツ留学していた。いわば、「朝青龍」という名前の生みの親がこのお寺になる。
しょうりゅうじ、なのでゲーム「ストリートファイター」で登場する格闘技技、「昇龍拳」のポーズで記念撮影しようとした。すなわち、しゃがんだ状態からアッパーカットのように跳ね上がる。
・・・やってみたら、思いっきりブレてしまいわけがわからない心霊写真になってしまった。諦めてもう一枚、普通にぬぼーんと突っ立っている写真でお茶を濁した。
仁王門から結構な急坂を登って本堂へ。ここの不動明王も国の重要文化財。もう重要文化財クラスでは驚かなくなったぞ。国宝だったら土下座して拝むけど。うわ、卑屈な精神。
本堂の向かい側にはずらりと並んだ三十三観音。
[37番札所 岩本寺(いわもとじ) 高知県窪川町]
でた、修行の高知。
青龍寺から67kmという長丁場。車でも2時間コース、歩き遍路だと途中で野宿か宿をナイスタイミングで見つけるかのどちらかだ。
この次の38番金剛福寺までがなんと87km、金剛福寺から39番延光寺までが79km。とてつもなく長い。ちょっとした連休を使って区切り打ちで歩き遍路をしている人にとっては、涙が出てくるようなキツい行程だ。歩き始めまでの・歩き終わりからの公共交通機関による移動時間と費用を考えると、よっぽど根性が座っていないと無理。ここまで歩いてきたんだから、根性は既に座っているだろう・・・と言う事なかれ。これまでとはレベルが全然違う。
このお寺はご丁寧に、というか欲張ったというか、ご本尊が五体もある。不動明王、聖観世音菩薩、阿弥陀如来、薬師如来、地蔵菩薩。すなわち、真言もそれぞれ唱えないといけない。しかし、都合が良いことに省略形の真言があるようで、われわれは5真言×3回唱えるということはなかった。ちなみに省略真言は「なむ ほんぞん かいえ かん」。
ここの本尊5体全てが秘仏。60年に一度にご開帳される。何で60年という中途半端なんだ、と思うが決めた時にはそれなりの理由があったんだろう。ちなみに前回ご開帳されたのは2000年。あらー、1年遅かった。ということは、次のご開帳は2060年。もう死んでる可能性高し。生きていても、ここまでやってくる気力と体力は無いだろうな。
岩本寺への長丁場であっという間に夕方だ。ここから87km進んで足摺岬の先っちょにある金剛福寺に行く時間はもう残っていない。今朝同様、「次の札所の駐車場で一泊」するにしても、車で3時間かかる。到着した時点では真っ暗だ。今日は早めに打ち止めにしよう。
雨に打たれて体がべたつくし冷えるので、風呂に入りたかった。こういうとき助かるのがカーナビ。ありがとうカーナビ、おかげでスーパー銭湯を発見したよ。
「ふうー、極楽」
思わず湯船で声を出してしまった。コラ、遍路途中で極楽とは何事か。まだまだ修行の身だぞ。
大変にさっぱりして余は満足じゃ状態。しかし、一歩外に出るとそこは大雨が待ちかまえていた。小走りでアワレみカーに走り寄り、個人個人が荷物をトランクに詰めるのだが、それだけの時間で既にびしょ濡れ。
せっかく気持ちよかったのが、またもとに戻ってしまったよ。
晩ご飯の買い出しでスーパーに行った際、ばばろあ料理長が「もうわし料理せんでええじゃろ」と言い出した。「お総菜がたくさん売られとるけぇ、それでええじゃん。無理に自炊にこだわることはないと思うで」という。
原理主義のおかでんは「イヤやはりアワレみ隊としてはですね、自炊した方が良いと思う。面倒でも、作ってこそ価値があると思うんですよ」と激しく抵抗。しかし、「水が無い場所だったらどうするんや。鍋とか洗えんで。まだどこに泊まるかも決まっとらんのじゃけえ、そういうリスクを背負うのはやめようや」と言われ、加えてお総菜が既に買物かごに放りこまれ始めている現状に、「うーん、仕方がないかあ・・・」と言わざるをえなかった。二食連続でばばろあに言い負かされた。
結局おかでんはセンチメンタリズムで行動する人間なので、論争になると勝ち目がはなから薄い。
まあ、そんなやりとりをしつつ買い出しを終了し、次は寝床探しだ。「人があまりいないところ」で「広いところ」はどこだろう、とカーナビや地図を使って探す。そうすると、運動公園が町外れにあることが判明した。運動公園だったら、夜は当然人がいない。駐車場は当然ある。そして、お手洗いが駐車場そばにある可能性が高い。ここにしよう。
行ってみたら、案の定誰もいなかった。漆黒の闇の中、雨がしとしとと降る音だけがあたりに響いていた。
今日はここを幕営地と決めた。
おい。
テントを組み立て、そそくさとテントの中に逃げこむ。外の雨はもううんざりだ。
そして、ガサゴソと買い出ししてきた本日の夕食を並べてみたら・・・
誰だ、こんなに買ったのは。
多くは刺身類なのだが、そのほぼ全てに「半額」シールが貼ってあった。半額、という言葉につられて、各自が各々買い物かごに放りこんだのが原因のようだ。
「連帯責任だな。残さず余さずおいしく食べなくては」
膨大なおかず=お酒が進む、ということで、ついつい飲み過ぎてしまったおかでん。
まだ就寝体勢に入っていないが、おしゃべりしながらうつらうつらしている。
三日目終了時点で37札所巡礼終了。1日平均12.3寺。あれっ、このペースだと7日間で八十八カ所を回ることができないぞ。明日もいきなり長丁場だし。・・・まあ、愛媛県、香川県は比較的集中して札所があるので挽回可能だとは思うが。しかし「佐田岬の先端に行きたい」というおかでんの願いは無理っぽいなあ・・・。
2001年05月01日(火曜日) 4日目
4日目の朝を迎えた。雨はひとまず止んでいるが、どんよりとした空模様。いつ降り出してもおかしくない。
ばばろあがアワレみカーからのそりと起き出す。昨晩から4名に増えたテントは狭いということで、彼は自ら志願して車中泊に名乗りを上げたのだった。
「いやぁ・・・眠れんもんじゃねえ」
そりゃそうだろう。寝返りすらまともにうてなかったはずだ。
「でも狭いよりかはまだましじゃったで」
ほう、それはそれは。以降、彼はこの旅が終わるまで車中泊で過ごすことになった。ある意味これも修行なのかもしれない。
毎朝恒例の「あっ、僕たちこんなところに泊まっていたのね」コーナー。今朝はこんなところでした。
すぐ背後にナイター設備付きの野球場があった。ナイター野球やってなくて良かった。そうしたらわれわれは泊まるところをまた別に探さなければならなかった。
朝食は昨朝同様、「各自が食べたいものを自分で調達する」方法をとっていた。故に、火を使う人は使うし、使わない人はそのまま食事。
おかでんの朝食、たらこスパゲティ。朝にしてはボリュームが多すぎた。
ばばろあの朝食。サンドイッチ。これにも半額シールが貼られており大変に経済的。
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