食わずに死ねるか!【東京下町食べ歩き】

ここから当分の間、写真がない。「あれ?うっかり消去してしまったのか?」とこの文章を書くにあたって慌てたのだけど、そうではなかった。どうやら、あまりの暑さにぼんやりしてしてしまい、写真を撮り忘れていたようだ。

「まるごとにっぽん」という商業施設に入る。2015年に開業した、全国の名産品を集めたセレクトショップのような建物だ。

ばばろあが、

「おい、これわしが土産に持ってこようかと思ってたヤツだぞ。ここでも売っとんのか。買ってこんでよかった」

と商品を手にとって言う。

「やっとれんね、ここに来ればいろいろ買えるじゃないか」

感嘆というより、ぼやきに近いセリフを吐く。

二階に上がると、期間限定ショップとして、越前焼のお店が出ていた。越前焼のろくろ回しの実演もやっているようで、わざわざ店頭にはろくろが据え付けてあった。

ここでばばろあ、俄然目の色が変わった。

「ちょっと待って」

と言いつつ、品評人の顔つきで棚の器に手を伸ばす。あ、そうだった、ばばろあといえば砲台跡のイメージが強かったけど、器も大好きな人なのを忘れていた。

17年も前の記事で、「たまたま立ち寄った蕎麦屋に置いてあった一輪挿しに一目惚れし、ご主人に頼んで無理矢理売って貰った」ということが書いてあるくらいだ。

昔は第二次大戦の頃のガスマスクを蒐集するのも趣味だったけど、さすがに今はやめてしまったという。保管しようにも場所を取るし、ゴムが劣化するので慎重に保管しないといけないのが大変らしい。

「まだ残っとるのもあるで?なんなら譲っちゃるで?」
「いらんいらん、ガスマスクは扱いに困る」

「剥製の鹿の首」みたいに、壁に掛けて鑑賞するわけにはいかない。部屋の雰囲気が一気に重たくなる。かといって、サバゲーに持っていくわけにもいかない。貰っても困惑するだけだ。希少価値がある分、捨てるに捨てられないし。

そんなばばろあだけど、器蒐集の趣味だけはまだ続けているようだ。

「そうはいっても、よっぽど気に入ったヤツしか買わんで?場所がいくらあっても足りんし、カネがいくらあっても足りん。今は、自分が酒を飲むときに使う酒器くらいしか買わんようにしとる」

あ、そうなんだ。酒器というのはその日の気分によって使い分ける楽しさがある。清酒を晩酌で飲む趣味があるなら、なおさらだ。

「で、今どれくらいあるんだ?」
「今は絞って、百くらいかのぅ」

多いな、さすがに。彼が欲しいのは、骨董品屋で売られているような古伊万里とか九谷とか、そういう器だ。ダイソーとか無印良品とか東急ハンズとかで売っているようなものではない。一つでもそれなりの値段がするものだ。飛び抜けた名品は持っていないかもしれないが、お金はかなりかかっている筈だ。つくづく趣味人だ。

そんなばばろあは、しきりに杯を手に取り、さすってみたり握ってみたりしている。

「手になじむやつが欲しいんよ」

結局彼は店員さんと喋りつつ、悩みつつ・・・といっても、事実上「悩んだふり」をして、購入を自己正当化しているだけなのかもしれない・・・杯を購入していた。

釣られて買った越前焼

ばばろあがそうやって悩んだ末越前焼きを買っているのを目の当たりにして、僕もなんだか釣られてしまった。器なんて欲しくない筈なのに、ついつい杯の3つセットのものに手を伸ばしてしまった。

お酒、飲まないのに。

「いやまあ、食事をする際に、ここに塩辛とか、いくらとか、そういう珍味系を入れればいいかなと思うわけで」

と、なんとか利用シーンを妄想する。

でもちょっと待て、それは「温泉旅館の会席料理」のイメージだろ。イカソーメンが入ってます、みたいな。でも、一人暮らしの自炊でそんな面倒なことをわざわざやるとは到底思えなかった。思えなかったけど、買っちゃった。あー。

で、案の定、買ってから3カ月経っても、未だに一回たりとも使っていない。どうしようか、これ。

毎朝、黒酢をこれに入れて、カッ!と一気飲みして気合いを入れる、みたいな使い方でもしようか。

駒形どぜう

18:20
「まるごとにっぽん」を出たあと、合羽橋道具街に行き、いろいろ見て回る。

包丁専門店に入り、ばばろあがしきりに感心している。

「どうよ、ええ包丁持っとくと料理がはかどるで?」
「ゾーリンゲンのステンレス包丁を持っているぞ」
「そんなんダメよ、もっとええもん持たないと。ほら、ここにあるやつなんて」

数万円レベルの包丁が、ずらりと並ぶ。さすが専門店。岐阜とか新潟といった国産の包丁で、鉄がギロリと鈍く光る。

「おっちゃんどうせこの近くに住んどるんじゃけえ、包丁の切れ味が落ちたらこういうお店で研いでもらえばええんよ」

ああ、そういう手もあるのか。なるほど・・・でも、今回はパスだ。今使っている包丁が本当に買い換え時期になったら、良い包丁を探してみよう。

その他、蒸し物に使うせいろを見たり、中華鍋を見たり、いろいろなお店を巡った。

その後、頃合いよし、ということで向かったのが、「駒形どぜう」。どじょうといえば童謡「どんぐりころころ」に出てくるほどの生き物だけど、いざ食べようとすると、滅多にお店が見当たらない。そもそも、「いざ食べよう」と思う人が少ないという理由もあるだろう。

今日、「どじょうを食べよう!」と息巻いている我々だって、別に「どぜう鍋」が絶品である、とは全く思っていない。単に、雰囲気を楽しみに行くという発想だ。鍋の中に入っているのがどじょうではなく、小イワシであっても全然構わないだろう、味だけを問題視するならば。

そんなわけで、「東京で何か江戸っぽい食事をしたい」⇒「どじょうを食べると、なんだかそれっぽい」⇒「ならば、駒形どぜうに行くか」という連鎖反応になる。どじょうといえば、駒形どぜうが真っ先に思い浮かぶし、二番目に思いつくお店がそもそもみあたらない。

もちろん、探せば居酒屋メニューの一品とかでちらほら見つかるかも知れない。しかし、「よし、今晩は江戸っぽくキメよう」と思った時のどじょう、となると、このお店ほど最適なお店はないと思う。

・・・ところで、「江戸っぽくキメる」って何だよ。自分で書いておきながらよくわかんねーよ。

のれん

もともと「どじょう」は、江戸時代の言文不一致時代だと「どぢやう」という書き方だったらしい。決して、「どぜう」ではない。しかし、駒形どぜうの初代が、のれん三枚に一文字ずつ書けるように、ということで「どぜう」という言葉を使ったという。つまり、造語だ。

そんなうんちくをばばろあに語りながら、いざ駒形どぜうの前に到着してみたら。

「あれ?どぜうの文字が縦書きだ」

のれん三枚に一文字ずつ、という話はどこへいった。僕の勘違いだろうか。それとも、代替わりしてのれんも変わったということか。

ちなみにこのお店ののれんは、5枚1セットになっていた。だから、「どじょう!」とか「どじょょう」と5文字にしたって大丈夫だ。少なくとも物理的には。

店内

18:21
僕は過去に1度だけ、どぜう鍋を食べたことがある。それはばばろあと二人で、渋谷にある駒形どぜうの支店だったことを思い出した。かれこれ20年近く前の話だ。また同じメンツで、場所は違うものの同じ店でどぜう鍋をつつくことになるとは。

入ってすぐのところに下足番さんがいる、というのが古いお店ならではの流儀だ。下足番、というのは、下駄箱の番人とも言える人で、お客さんが脱いだ靴を棚にしまったり、お客さんのお帰りの際には靴を出すのを専門として行っている。贅沢な店員の使い方で、今時下足番さんがいるお店は珍しい。

おそらく、「食い逃げ」防止の役割もあるのだろう。靴を人質代わりにすることで、食い逃げの抑止効果が期待できる。実際このお店は、お会計済みであることを示す札を下足番さんに示さないと、帰りの際に靴を出してもらえない仕組みになっていた。面白いものだ。

店員さんに、「お座敷にしますか、椅子席にしますか」と聞かれる。一瞬言葉に詰まったが、店内を見渡すと一階は大広間になっていて、みんなそこで座布団に座って背中を丸めながら小さなどぜう鍋をつついている。うん、お座敷でお願いします。

ちなみに足腰が悪い方向けには椅子席が向いているのだけど、そちらは地階か二階にある。

二階席だと、窓からの眺めが良いのではないか?地階よりも二階の方がいい!と思うかもしれないが、二階席にも窓はない。なんでも、大名行列を見下ろすことがあっては無礼だから、という理由で窓がないのだそうだ。これ、「駒形どぜう」の公式webサイトに載っている話なので本当なのだろうけど、そんなに気を遣わないといけない時代だったのか、不思議だ。

もしこの逸話が本当ならば、宿場町にある通りに面した建物は、みな二階の窓があってはいけないことになる。多分そんなことはないと思うので、この駒形どぜうが特に配慮した結果、ということなのかもしれない。

厨房

厨房との仕切り。濃い茶色の柱が年期を感じさせる。店員さんがよく当たる場所は、色が薄くなっている。元々はこの薄茶色の木材なのだろう。一体何年がかりで、こんなに渋く仕上がったのだろう?

板が敷いてあるだけ

入れ込み座敷、と言われている1階の広間は、床に長い木の板が渡してあり、それをテーブル代わりに使って食事をするというスタイルだった。

「入れ込み」という言葉はあんまり馴染みがないけれど、辞書で調べてみたら「男女混浴」という意味もあるようだ。もちろんここは混浴ではないけれど、隣の人との境界線が曖昧な状態で「かな板」と呼ばれるテーブルを共有することになる。

お品書き吟味中

かな板と、人物の高さ・位置関係はこんな感じ。

うっかりすると隣の人とぶつかるし、薬味や調味料は隣の人と共同で使う。どぜう鍋は青ねぎの輪切りを大量に使うので、隣のグループがねぎをどっさり使うと、自分たちの分がなくなってしまう。もちろん店員さんが適宜補充をしてくれるのだけど、ねぎの残量で意識しあう隣との微妙な距離感。それが入れ込み座敷。

お歳を召した方は、この席は無理だと思う。膝に負担がかかるし、腰にも負担がかかる。足腰が元気なうちに、利用したい席。

お品書き

お品書き。

日本酒からメニューがスタートするところが素晴らしい。

ビール?ふざけたことを言うな、そんなものは後回しだ、という感じがいい。

日本酒コーナーの次は、焼酎コーナーにつづく。ビールはまだ出さない。

お品書き

「最初の一杯はビール」と思っている人が不安に感じたであろう頃を見計らって、ページをめくるとビールが紹介されていた。安心しろ、さすがに置いてある。

ただし、生ビールをジョッキで!というのはダメだ、飲みたければ瓶にしなさい、というところが渋い。

メニューのところどころに、赤い印鑑のようなものが押してある。将棋の成金をイメージしているらしいが、本来将棋駒に「と」と書かれているべきところが「ど」になっている。「どぜう」と掛けた冗談なのだろう。

ところで、この赤い成金は「当店おすすめ」という意味なのだろうか?

お品書き

「どぜう」という一大ジャンルをこしらえて、ドドドドと押し寄せてくるお品書き。さすが駒形どぜうだ。

もちろん真っ先に登場するのは、看板メニューである「どぜうなべ」。お値段、1,800円。「どじょう鍋は江戸時代の庶民の味」という印象があるかもしれないが、少なくとも21世紀の東京においては、かなり高い食べ物だ。僕らも庶民ではあるけれど、1,800円の鍋ともなるとおいそれと頼めるものではない。

お品書き

そんなわけで、うっかり定食なんて頼んだら「あれっ、桁を間違えたかな?」というようなお支払いが待ち受けている。「どぜう定食」で4,800円、「駒形定食」だと6,500円。

「定食」という名前が付けられているメニューの中でお値段が一番高いお店はどこだグランプリ、を開催したら、駒形定食が上位にランクインしそうな気がする。こんな高い定食は見たことがない。

値段が高くなると「○○御膳」みたいな名前になるお店は時々あるのだけれど、ここは一貫して「定食」。

お品書き

「どぜう南蛮漬け」の隣に、「ごぼう唐揚げ」が並んでいる。「どぜう」と「ごぼう」はよく似ているので、うっかり間違えてしまいそうだ。どぜう唐揚げを頼んだつもりが、間違えてごぼう唐揚げを頼んでしまい、料理が届けられた時は随分がっかりするだろうな。

冷酒を頼むばばろあ

「福寿」というお酒の凍結酒がある、というので、ばばろあはそれを頼んだ。300mlの瓶で1,500円。おう、案外あっけなく高いお酒を頼んだものだな。

でも、ビールを2本飲む(1,600円)くらいなら、こっちの方がまったり楽しめるとも言えるか。今日のばばろあは、食いっぷりもカネの払いっぷりも若干豪快だ。

「なかなか東京には出てこられんけえね、遠慮せんようにしとる」

と彼の弁。

凍結種は、その名の通りお酒が凍って出てきた。パフェでも食べるかのようなスプーンを瓶に突っ込み、中でシャーベット状になっている清酒をほぐしつつ、グラスに移していく。

乾杯

乾杯。僕はノンアルコールビールで。

周囲を見渡すと、凍結酒を飲んでいる人が結構いた。これだけ暑いと、ビール!というよりも「半分凍ってます!」という清酒の方が欲しくなるのかもしれない。

どぜう鍋

あまり間を置かず、どぜう鍋がやってきた。

木箱に囲まれた火鉢と、その上に乗っかった小ぶりな鉄鍋。そこにどじょうがびっしりと入っている。ぐらっと煮立ったらつゆがこぼれそうな、そんな盛り方がこのお店の美学。

どじょう鍋はどじょうが沢山入っていて気持ち悪い、という人がいるけれど、ご覧の通り特に頭がついていて、目と目があった、とか、生きたまま火に掛けてどじょうが暴れる、といったことはない。なので全く安全だ。

これで1人前。一人一人前ずつは頼まないと、ぜんぜん量が足りない。

唐揚げ

こちらはどじょうの唐揚げ。揚げてしまうと丸まって、随分とコンパクトになる。どぜう鍋の箸休めにぴったり。

食事中

どぜうなべが煮たってきたら、そこに薬味をどっさりかけて食べる。

薬味は、隣の席との境界線あたりに木箱があり、そこに入っている。大量に薬味を使うので、すぐになくなってしまう。ほら、写真を見ると、まるで「ラーメン二郎」のようなネギの盛りでしょう?

・・・ここまで盛らなくてもよいのだけど。

最初、盛りすぎて、箸を伸ばしても伸ばしてもどじょうにたどり着かず、ネギばかりをつかむ、ということになっった。さすがにネギを盛りすぎた。そこまで盛っても、上のほうのネギには火が通らない。生の苦くて辛いネギをほおばることになるので注意だ。

どぜうと僕たち

19:09
どぜうなべを2人前、どぜう唐揚げ、そして飲み物という夕食だった。

さすがにこのお店で、満腹になるまで飲み食いを続けるとなると大変だ。お金が結構かかる。なので、ほどほどのところで切り上げるのがスマートだ。

「よし、大黒屋で天丼食うで」
「えっ、冗談じゃなくて本気なの?」

本来、こういう食い意地の張った提案をするのは僕の方の役割なのに、今回はすっかりばばろあに圧倒されっぱなしだ。

(つづく)

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