ふたたび温泉療養に戻る【那須湯本療養2】

13:17
雪が深くなってきた。こりゃ駄目だ、老松温泉、陥落せり!跡形もなくなっているっぽい。

目の前に小さな木造の民家らしきものが複数棟、見える。でもここもやっぱり人の気配がない。

その奥には、廃墟となった旅館跡が見える。「那須温泉昔語り館」の隣にあった廃墟だ。これは昨日、すぐ脇を通ったので見覚えがある。

湯川を挟んで向かい側に、ごついトーチカのような建物が見える。映画「プライベートライアン」で、ノルマンディ上陸作戦を阻もうとしてドイツ軍がオマハ・ビーチに作ったトーチカのようだ。

大胆に、建物中央がごっそり窪んでいる。あそこが露天風呂だったのかもしれない。

・・・いや、違うな、今は結果的に露天風呂状態だけど、昔は大きな窓枠があったようだ。建物奥に、外れて内側に倒れ込んだサッシが見える。露天風呂じゃなくて、大浴場だったようだ。左右非対称の建物、ということは、男湯と女湯があったからだろう。

あんな旅館跡、あったかなあ?民宿街を通ったときに見た記憶がないぞ。川原湯に向かう途中の道路脇にある筈なんだけど。

後で地図とストリートビューを確認してみたら、地上部分の建物は取り壊され、コンクリートの土台部分だけが取り残されていた。そして、地下部分となる崖から下のところは、壊すのが面倒だったのだろう、今でも放置されている。

今後これ、どうするんだ?誰が責任取るんだ?

なかなか歩を進めないのは、この先どこまで行けるのだろう?というのが心配だったからだ。

民家っぽいのが車すら通れない歩道のような道の両脇にある。人が歩いた形跡はあるので、全くの人里離れた土地というわけではなさそうだ。

標識が立っている。

ここから湯本駐車場まで0.5km、と書いてある。ん?ということは、このまま通り抜けることもできるのだろうか。でもどうやって?湯本駐車場って、バス停があって温泉神社がある場所だけど、あそこに通じる道って他にあったっけ?

あと、完全に雪で埋まっているけれど、「いこいの家」まで0.2kmという標識があった。地図で見ると、ここから崖を登ったところに「いこいの家」なる公共施設がある。

ここは激安だ。素泊まり3,700円、一泊二食で6,800円。

「公共の宿」那須いこいの家
那須いこいの家からのお知らせ   ※令和2年7月15日は施設のメンテナンスのため、日帰り入浴を休止させていただきます。 大変ご迷惑とご不便をおかけしますが、ご理解頂けますようお願い申し上げます。   いこいの家では、季節のお...

「いや、これは地元(那須町)の人向けの価格でしょう?」と思うけど、一般客がこの値段。町民だとここからさらに割引がきくそうだ。すげえな。

雪がなければ、ここからいこいの家まで散歩したい。でも、雪のせいで全く道が見えないので諦めた。

正面の民家らしきところを通り抜けるのはちょっと躊躇する。私有地通り抜けみたいだからだ。「湯本駐車場」と行き先案内の看板が出ているので、多分問題ない筈だけど・・・。

先ほど通り抜けた、白壁の建物を振り返ってみる。うーん、これも老松温泉ではない。

そもそも、雪があたりを覆ってしまい、どこまでが地面でどこまでが建物なのか、区別がつかない。

しかし、この建物が道路(というか、通路?)より一段下がったところに建てられていることはわかった。

みんな、崖のギリギリに家を建てるのが好きだな。

この道沿いに電線があるのだけれど、よくあるコンクリートの柱ではなく、木製の柱だった。随分古い作りのまま、時代に取り残されている。

13:19
その電線の行き着く先が、この「民家っぽい建物」だった。

窓のひさしが破れて、用をなしていない。しかし、壁面は比較的新しい板のように見える。補修されているっぽいぞ。

隙間風が吹き込みそうな窓だけど、一応機能しているし。

・・・って、あれれ!

この建物の入口部分の上に、木の看板が掲げられている。そしてそこには「内湯 名湯老松温泉」と書かれていた。

これか!

これが噂の老松温泉か!!!

いやでもそんな馬鹿な、僕が見たことがある老松温泉は、建物が崩壊していたぞ。

目の前にあるような、一応・・・と言っては失礼だが、ちゃんと建っているような代物じゃない。

見間違いだろうか?

それとも、あまりに建物が古すぎて、さすがに再建したのだろうか?

いや、やっぱりさっき見た、コンクリートの廃墟が老松温泉だったのだろうか?

怪しい。状況がよくわからない。

恐る恐る、看板が出ている入り口に近づいてみると、そこには張り紙が貼ってあった。

老松温泉 喜楽旅館(午前8時~午後8時)
外来者入浴 1回四十五分
大人500円(割引回数券あり)
子供300円(0歳~10歳)
休憩・宿泊ができます 年中無休

えええ、これ、ホンモノだ。捜し求めていた「老松温泉」とは、ここだったのか。

じゃあ、さっきまで見てきた建物群は何だったんだ?

昔は広大な敷地を誇る大旅館だったのか?

わからない。ネットで探しても、多分「朽ちたあとの老松温泉」の紹介ばかりで、在りし日のこの温泉を紹介した情報はほとんどないだろう。残念ながら、インターネットが隆盛する2000年以前の情報、しかもお年寄りしか知らない細かい情報というのはネットにあまり載っていない。

それにしても、入浴はともかく「宿泊ができる」ってマジか?

でも、宿泊はともかく、入浴ができるのかどうかも、疑わしい。何しろ、この張り紙の後ろは、カーテンが閉められているからだ。人が行き来することを前提にしていない。

うーん。

で、この張り紙、最後にこう書いてしめくくってあった。

「受付は後ろです」

いや、後ろったって、これですけど。

本気?

後ろはたぶんこれしかないんだけど、この扉をガラガラっと開けて、「ちわーっす」と声をかける勇気がわかない。そもそも、ここって人がいるのか?

倒壊しているはずの建物は倒壊していないし、人の気配はないし、カーテンは閉まっているし、受付と言われている場所は、一見さんにはハードルが高い雰囲気だし。

まいったなぁ。

「結局、老松温泉は見つけられませんでした」

ということにして、この場を立ち去ろうかと思った。でも、その「後ろの建物」の入り口をよく見ると、ちゃんとガラスに「入浴、休憩 受付 老松温泉」と書いてあった。

やべえ、本気でここらしい。

色あせたカーテンの隙間からちらっと中を見ると、コタツに入っているおじさんがいるようだった。

ビビったので、一旦退避だ。僕は臆病だから。

「僕は老松温泉には関係ありませんよ、ただ単に道を通り過ぎた人ですよ」

感を出しつつ、いや、出したつもりになって、

一旦この建物をやり過ごす。

ふう、危なかった。

なにが?

いや、僕自身どうすればいいのかわからなくって。

一旦やり過ごしてから、建物を振り返る。

すると・・・

あっ、これだ!

倒壊しかかった建物。

これぞまさに、僕が「老松温泉」として認識している絵だった。

「こんな壊れかけた建物でも、入浴ができる!」というのが、驚きをもって紹介される。それが老松温泉。

確かに凄い壊れっぷりだけれど、これまでの驚きと緊張と逃避のせいで、今更この光景を見ても驚きはなかった。「ああ、やっぱりこれか」と。

もうちょっと、映画「猿の惑星」のエンディングで、自由の女神を発見したような驚きがあるかと思ったのだけど、案外自分は冷静だった。

というか、みんなこのアングルからの写真を撮りすぎだ。老松温泉といえば、このアングルばっかりになる。でも実際に、僕が歩いてきた方面からだと、比較的しっかりした建物だ。逆から見たらご覧の有様だけど。

右が、温泉がある建物。屋根も壁も剥がれ落ちている。温泉の泉質のせいで、建物の劣化が早いというのも理由にあるのだろう。

そして、左側が「受付」。こちらもかなり年季が入った建物だけど、この写真のとおり比較的新しい建物も併設されている。この温泉の湯守をやっている方は、こちらのきれいな建物にお住まいなのだろう。

ここが完全に僕の認識通り「老松温泉」だとわかったからには、入らないわけにはいかない。

人見知りするんだけどなあ、緊張するなあ、とぼやきながら今来た道を戻り、受付と書かれた扉を開ける。

「あのーすいません」
「お風呂?」
「はい、そうです」

気難しい、扱いづらいオヤジなのかと思ったが、気さくな人だった。

「今日は入れないよ。ここって沸かし湯だから。事前に連絡くれてれば用意できたんだけど。ほら、こんな雪だから、お客さんが来るなんて思ってなかったし」
「ですよねえ」
「週末だったら、冬でもやってるんだけどね」

そうですよね、としか言いようがない状況だった。道理で、途中に温泉目当ての車が駐車されていないわけだし、温泉棟の入り口もカーテンが閉まっているわけだ。

それにしても、沸かし湯だったんだな、老松温泉。

そもそも、那須湯本温泉は強酸性の湯だ。しかし、老松温泉は弱アルカリ性。そして、ここから崖を登ってすぐのところにある「那須いこいの家」は中性の単純泉だ。温泉というのは気まぐれなものだな。

13:20
ご主人から「入れないよ」と言われた以上、どうしようもない。

「じゃあ、明日朝お伺いするのでよろしくおねがいします」ということもできたけど、自分ひとりのためにお湯を沸かしてもらうのは悪いので、やめた。朝8時から入浴できるということなので、時間的には可能だったのだけれど。

お湯には入れなかったけど、ここまでの探検で僕は大満足だ。いろいろな「?」と「!」がある場所だった。雪景色だからこその謎があったし、冬だからこそ木々が枯れて見晴らしが確保できたのも探検に都合が良かった。

さて、帰ろう。

今来た道を戻ろうかと思ったが、ここからまだ先に歩いていけそうな気配が若干ある。

わずかながら、人が歩いた足跡が雪に刻まれていた。

遠くを見ると、湯川をまたぐ橋がかかっているように見える。ひょっとすると、あの橋を渡って民宿街に戻れるのかもしれない。

でも、橋に通じる道って、民宿街にあったっけ?全然見覚えがない。

行き止まりじゃないか?

でも、ここまで来た以上、行けるだけいってみよう。

(つづく)

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