11:00
ほら貝の音とともにレースがスタートした。
こうやってスタートラインから出走者の背中を見送るのは初めての体験だ。例年より参加人数が半分とはいえ、かなりの迫力がある。
走りだした人たちの最後尾は「制限時間内に完走できれば良い」と考えている人だ。そのため、レース開始直後とは思えない、躍動感のないポーズで前に進んでいるのが写真からでもよく分かる。僕も昔はああいうポジションだった。
この「のっとれ!松代城」が素晴らしいのは、歩いてゴールを目指しても、ギリギリ制限時間内にゴールに到着できる時間配分になっているということだ。レースに参加したみんながハッピーな気持ちで会場に戻ってこられる。
村山統括軍師殿の「かかれーッ!」という大きな掛け声、そして聞いたことがない法螺貝の音、それと同時に一斉に多くの人たちが走って行ってしまったこと。それら全ての状況にびっくりして、その場に立ち尽くす弊息子タケ。
「ヨーイドン、のかけっこだよ」と彼に教えても、彼は納得した顔にはならなかった。
彼にとってかけっこというのは、10メートルとか20メートルとか、目に見えるゴールに向けて走っていく行為だ。なのに、ここにいた人たちは全員どこかに姿を消してしまった。一体何が起きたのか、彼には全く理解できていなかった。
11:04
出走者全員が視界から消えるまで見送ったら、僕らはすぐに場所を移動する。
田んぼが広がるエリアを走って、一旦選手たちが会場に戻ってくるからだ。
今回、初めて先頭を走るような屈強なアスリートの動きを間近に見ることができる。一体どんな機敏な動きなのか、やってくるのが楽しみだ。
だって、そういう人たちの走りを見たことが僕はこれまで一度もないからだ。同じレースに出ているからこそ、速い人のことを全く知らない。
崖の上からコースを見下ろしていると、雪に埋もれた田んぼから続々と選手がやってきた。
嘘だろ?さっきレースが始まったばかりだぞ。わずか4分しか経っていない。
ちなみに僕ならば、20分かかる距離だ。もちろん、体力の差もあるけれど、順位が後ろになればなるほど渋滞してしまい、スピードが遅くなる。コースが狭いので、いかに渋滞に巻き込まれずに前を走るかがこのレースでは重要だ。
だから、上位を狙う選手たちはスタートダッシュが熾烈だ。
11:05
崖下から、会場に向けて急な坂を登ってくる選手たち。直登なので、結構きつい場所だ。
それを先頭集団の選手たちはヒョイヒョイと登っていくので、その身体能力に僕は驚く。なんて身軽なんだ!
それもそのはず、先頭集団でデブはいない。みんなアスリート体型だ。
この急坂、一歩歩くたびに雪に足が埋もれてしまう特徴がある。僕が400番くらいの順位でこの坂を登ったときでさえ、雪は踏み固められておらずにズブズブと足が雪に沈んだ。そんな場所なので、先頭を行く人は特に歩きにくいだろう。
しかも、上位入賞を狙ってここまで全力疾走してきた人たちだ。坂を登るのは相当疲れるはずだが、そんな気配を見せずにあっという間に坂を登りきってしまった。
例年なら坂を登りきったところに障害物があって、その障害物を乗り越えるために時間がかかる。
しかし今年は障害物が省略されたので、坂を登りきった選手たちはあっという間に走り抜けていった。
とてもあっけない。
11:10
この急坂は、レースの中でもっとも渋滞する場所だ。障害物を乗り越えるための順番待ちのため、坂の上から坂の下までびっしりと選手が並ぶ。
しかし今年は障害物がないので、この坂が渋滞することはなかった。みんな、マイペースで坂を登り、先へと進んでいく。
あっ、勇者様がやってきたぞ。そして我がパートナー、いしもやってきた。
「頑張れー」と大きな声援を送る。
勇者様が坂を登り終え、会場内のコースを歩いていく。重装備なので、坂を登るのはかなりつらいはずだ。
11:11
いしも坂を登り終え、僕らにちょっと手を上げてみせた。
僕に抱っこされているタケもいしに手を振る。でも彼は一体これが何なのか、今だに理解できていない様子だ。彼の癖である、左眉をしかめながら、状況を把握しようとしていた。
なにしろ、さっき地響きを立てて走り去っていった人たちが、今度は違う方向からまた現れて、そして消えていくのだ。2歳児には理解できない光景だ。そしてその中に自分の母親も混じっているのだから。
11:13
障害物「馬落とし」を乗り越えていく、いし。
雪で出来た障害物なので、滑りやすい。障害物を乗り越えようとジャンプして、上半身だけ段差の上に登れてもそこから下半身が登れない、ということが発生する。
いしも何度か挑戦と失敗を繰り返していた。
11:13
大きな段差がある、ピラミッドみたいな雪の山をよじ登っていく障害物「砦越え」に挑戦するいし。
彼女は目の前の障害物攻略で忙しいが、僕らも忙しい。彼女の前進に合わせて僕らも場所を移動しないといけないからだ。声援し、写真を撮り、あっけにとられているタケに今この状況を説明し、を繰り返す。
「砦越え」をクリアし、雪の坂道を駆け下りてくるいし。
僕らに手を振って、彼女はそのまま会場外のコースに走り去って行った。出走者の中ではほぼ最後尾だが、このペースなら十分制限時間内にゴールできるだろう。
僕らも彼女をできるだけ見送ろうと後を追ったが、片手で13キロの子どもを抱っこし、もう片方の手でバギーを持っている僕の足だと彼女に全く追いつけなかった。会場外の車道に出てみたら、すでに全選手が走り抜けていった後でだれもいなかった。
(つづく)
コメント
コメント一覧 (11件)
エントリーしようかどうしようか思案した結果、今年ものっとれ!に馳せ参じることに決めました。
2023年はいしが出走しましたが、2024年はおかでんが出走します。(いしは弊息子タケと会場で過ごします)
今後、1年おきに夫婦が交代で走ることにしてはどうか、と考えています。
小さい子どもがいる家族が手軽に泊まれる宿が十日町にはないのが悩ましいところです。
結局、今年もお隣の六日町市に宿をとることになりました。