お風呂上り、フロント脇にある売店を観察する。
「福島銘菓 会津地鶏まんじゅう」なるものが目を惹く。
・・・これは、まんじゅうの中に地鶏が入っているのだろうか。鶏そぼろみたいな形で?
そうなると、これは「あんこがはいったまんじゅう」なのではなく、「肉まん」みたいな食べ物なのかもしれない。
と、あれこれ想像をしていたのだけど、パッケージをよく読むと単なるまんじゅうに過ぎないことがわかった。えー。
「ひよこ」という銘菓があるけれど、中に本当のひよこが入っていないのと一緒、ということか。
夕食の膳。海のもの山のもの、いろいろ。
刺身もあるしメロンもあるぞ!
こういうのが「ご馳走」というものなのだろう。客をもてなすために、主人があちこちを走り回って食材を揃えてくれている。ありがたいことだ。
グローバル化しているこのご時勢、「せっかくならもっと遠くのものを振舞ったほうがもてなしになるのではないか?なので、ボルシチを用意しました」といったことがあってもよいのだけど、だいたい温泉宿のメシというのは、日本列島の範囲内で収まるようになっている。
酒でも飲めりゃ、こういう品数が多い宿メシというのは楽しいのだけど。
なにせお酒が飲めないので、正直言ってここまであれこれ料理はいらない。または、もうちょっと薄味にしてほしい。この宿に限った話ではなく、全体的に言えることだ。量をもてあましたり味に飽きがくるわけじゃないけれど、「塩っ気」に飽きがくる。
えーい、ビールのかわりに烏龍茶で。
宿の予約をした際の特典で、烏龍茶がついてきたので。
それにしても、瓶の烏龍茶を飲むのはすごく久しぶりだ。めったにお目にかかるものではない。
「やっぱり瓶の烏龍茶の方が美味いな!」
と適当なことを口走るが、ぜんぜんその違いはわからなかった。それよりも、「量が少ない」という印象の方が強い。
食後、あらためて露天風呂に行く。
相変わらず誰もいない風呂。やっぱり温泉は平日に限るな、静かに暮らせる。
お湯の注ぎ口にプラスチックのコップが置いてあった。「これで源泉を飲め、きっといいことがあるぞ」という意味らしい。
酸性が強い温泉なので、食後にはちょうどよさそうだ。胃酸の働きを助け、ますます消化がよくなりそうだ。
・・・と思ったら、思わず「ひゃー」と声を上げてしまった。周囲に誰もいなくて良かった。
すっぱい。
当たり前すぎるが、強酸性のお湯なのですっぱい。
ああ、これはいけません、あとでちゃんとうがいをしておかないと歯が溶ける。
そりゃそうだよなあ、レモン果汁をゴクゴク飲むなんてことはしないのに、「温泉だ!ご利益ありそうだ!」と貧乏根性丸出しで一気飲みだもの。
風呂上り、館内をさまよってみる。
温泉宿は、館内探検が楽しい。最近のビジネスホテルは、建物の端から端まで一直線に廊下が走っていて、見渡す範囲が全て、というところがおおい。こういうのは探検するだけ無駄だけど、温泉旅館はいいよな。
ほら、真っ暗な空間に「磐梯の間」という部屋を発見。
中をのぞいてみると、大広間だった。
団体客の宴会に使われる部屋なのだろう。
単にがらんとした広い畳の間にすぎないのだけど、こういうのを見つけると「おおう」と思わず声が出てしまう。ワクワクするよな。意味もなく。
昔は宿に泊まるたびに自販機の値段チェックを行っていたものだ。しかし最近はずいぶんそれもおろそかになってきている。お酒をやめてしまったので、「旅館でビールを買う」ということがなくなった。なので、値段がどうでもよくなってしまった。お茶やジュースは、わざわざ館内で買わないで、スーパーで買うことが多いし。
昔はかなり厳しく、「館内に飲食物を持ち込まないでください。見つけたら許さん」くらいの勢いの宿が多かったけど、気が付いたら今はほとんど見かけなくなった(気がする。僕の観測範囲では)。宿の冷蔵庫も、「どうぞ飲み物を冷やして下さい」といわんばかりの空っぽになっていて、良い時代になったものだ。
「保健所の指導がありましたので、館内に飲食持ち込み禁止」を謳っていた宿はどうなったんだろうな。保健所の指導が緩和されたのだろうか?当時から、「本当に保健所の指導があったのかよ」と疑わしく見ていたけど、そんなわけないよな。「保健所の『ほう』から」の指導だったのだろうか。
夜の廊下。
建物というのは、あらゆる要素によって「時代感」が出るものだな、と思う。
廊下の柄ひとつとっても、そう。
平成のセンスではない。どこがどう違うのか、といわれるとうまく言語化できないけど、やっぱり「何かが違う」という印象はある。
そういえば、今は花柄のポットとか鍋って見なくなった。昔は、ポットなんて側面に絵が入っていてナンボみたいな家電製品だったのに。こういうのも、微妙な流行の変化だ。
「夜間は虫が入ってくるので窓を開けないで」という注意書きが、部屋の窓際に貼ってあった。
それはその通りだと思う。都会の感覚で窓を開けると、虫がバンバン飛び込んでくるのだろう。自然を舐めるな、ってことだ。
しかし、この張り紙には物騒なことが書いてある。「害虫が入ってきます。」と書いてあるのだ。単なる「虫」ではなく、「害虫」が入ってくるのだから恐ろしい。まさか、温泉成分を長年浴び続け、突然変異した恐るべき虫でもいるのだろうか?
(つづく)
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