08:15
特急レッドアロー号は、その名のとおり矢のようにびゅーんと西武線を隅から隅まで突っ走り、西武池袋駅に到着した。
本来なら、「さあ観光を楽しもう」となるはずなのだけど、僕が目指すのは人里はなれた山の奥。まだここは人口密度が濃すぎる。もっと遠くへいかないと。
西武池袋駅には、駅構内に「仲見世通り」という売店がたくさん並ぶ通りがある。それがちょっと楽しみだったのだけど、いざ訪れてみると大絶賛改装中で跡形もなかった。なんてこった。朝早くから営業しているお店があったら、団子でも買おうかと思ったのだけど。
西武秩父駅のロータリーに出る。
目の前に、秩父の象徴的存在である武甲山がそびえている。独立峰で、秩父のいたるところからこの山を眺めることができ、「ああ、秩父市街はあのあたりだな」と知ることができる。
この山が特徴的なのは、石灰岩でできた山ということからセメント用に掘削が盛んで、山の半分がごっそりと削れてしまっていることだ。「山の半分」というのは誇張でもなんでもなく、山頂直下から数百メートル、削られたことによってできた崖が続いている。現在も、山麓にある三菱マテリアルや秩父セメントがガンガンダンプカーを走らせ、武甲山の破片をどこかへと運び出している。
標高1,304メートル。手ごろな標高であり、山頂の景色が良いこともあって登って楽しい山だ。浦山口駅方面に下山すれば、トリッキーな鍾乳洞もあって、そこで探検気分を味わうのもまた楽しい。ただし、横瀬駅から登山口までの間はダンプカー銀座で、砂埃をあげながら道路いっぱいに走ってくる車をよけながらの歩行になる。
僕が大学時代、登山を始めたのはまさにこの山だ。一眼レフカメラを購入したばかりで、「・・・さて、このカメラをどこで使おうか?」と思った際に思い立ったのが登山で、この武甲山だった。それまでは「登山なんてマゾ専門の趣味だ」と毛嫌いしていたのに、これで一気に方針転換をした。そんな思い入れ深い山。1993年頃だと思う。
西武秩父駅は、西武線の専用駅だ。すぐ脇を通る秩父鉄道と直接は接続していない。
お互い嫌っているわけではないだろうに、なぜかこのあたり、利便性が図られていない。そのため、秩父鉄道に乗るためには、駅の裏手に回りこんで徒歩5分、御花畑駅に向かう必要がある。この接続が若干わかりにくいため、初めて訪れた人は軽く混乱するだろう。
ちなみに、秩父鉄道の「秩父駅」は御花畑駅からもう一駅先。ぜんぜん違う場所だ。これもまた、まぎらわしい。
08:18
狭い道を歩いて進んでいくと、秩父鉄道の線路に出た。御花畑駅が前方に見える。
この秩父鉄道、ドがつく山奥・三峰口に向かう路線だというのに電化されている。ローカル鉄道だからといって舐めてはいかん。西武鉄道が乗り入れをしている都合かもしれない。
あと、この路線は武甲山で算出された石灰岩が運搬される貨物ルートでもある。そういう点で、比較的お金を持っているのかもしれない。推測に過ぎないけど。
08:19
御花畑駅、通称名「芝桜駅」に到着。
こんな通称名、あったのか。知らなかった。
芝桜といえば、春の秩父の名物でもある。その名物にあやかった名前にしたのだろう。
御花畑駅前にあるレストランの建物。ガラスが割れているので、今営業しているのかどうかは不明。
味わい深い、レトロなフォントがいい。
08:20
御花畑駅には、カウンターのみの立ち食い蕎麦屋が併設されていた。「駅麺屋」というらしい。昔からあったっけな?覚えていない。
「元祖立ち食いそば店」とのれんに書いてある。マジか?・・・この手の「元祖」を名乗るお店って、いったいなにをもって「元祖」なんだろうか。定義が知りたい。
ここで、登山前の腹ごしらえをしてもいいなあ・・・と思う。
おや、天ぷらそばが370円なのに対して、ざるそばも370円。だったら天ぷらがついている方がお得だな、などと真剣に眺めてしまう。
しかし残念なことに、乗る予定の電車はまもなくやってくる。蕎麦なんてすすっている場合じゃない。秩父鉄道もダイヤは薄いので、気をつけないといけない。
秩父鉄道の改札。
こじんまりとしていて、ほっとする小規模な作り。
土曜日の朝ということもあって、ザックを背負った登山客が多い。僕と同じ三峰口方面に向かう人もいるが、逆の長瀞方面に向かっていく登山客もそれなりにいた。
秩父鉄道の路線図。目指す終着駅、三峰口駅までは6駅440円。
逆方向に向かえば、川下りで知られる長瀞があり、そのまま荒川沿いに進んでいくとJR高崎線の熊谷、そして最果ては東武伊勢崎線の羽生駅に到達する。羽生といったら、東北自動車道のPAがある場所だ。秩父のイメージが全くない土地柄だけど、どっこい線路は続いている。
今日夕方の帰り道は、いっそのこと羽生まで秩父鉄道乗り倒しをしようかと考えている。西武線で都心に戻るのが一番早いのだけど、行きと同じルートじゃつまらない。
きっぷを買う。
ありゃ。昔は硬券だったのに、今やありふれた、薄いきっぷになってしまった。
硬券を駅員さんがパチン!とはさみを入れるところに喜びを感じていたのだけど、時代の流れに逆らえなかったか。わざわざ硬券にして、観光客を喜ばせるのが目的だと思っていたのだけど。
僕もいい加減ずいぶんなオッサンだ。「ああ、そこには行ったことがあるよ」「それは知ってる」という知識が、よくよく考えてみると10年前、20年前ということが多い。知識量は多くても、時代遅れの情報だらけになっているのが現状だ。ああ、これが老害の始まりなんだろうな。僕も「若き老害」を名乗るべきなのかもしれない。
秩父鉄道の時刻表。
毎時1本~4本、運行されている。4本も走っている時間帯があるのだから、決してローカル路線とはいえない。僕が昔住んでいたJR埼京線なんて、池袋まで20分もかからない駅なのに平日昼間は20分に1本なんてことがあった。
御花畑駅のホーム。三峰口方面は、陸橋を使って対面にあるホームに・・・
というのはトラップ。
対面にあるホームには、「西武線直通ホーム」という記述がある。
複線に見えるこの路線だけど、実は単線で、上り線も下り線も改札入ってすぐのホームで乗降する。じゃあ、「西武線直通ホーム」って?
答えはこれ。
御花畑駅から西武秩父駅方面(三峰口方面)を見たところ。線路左側に、西武秩父線の白い車体がちらっと見える。あそこが西武秩父駅。
御花畑駅から伸びた線路は、坂を上ってこのまま西武線と合流する。しかし、西武秩父駅には間に合わないため、その先で合流することになる。
西武線は、週末を中心に池袋から秩父鉄道長瀞・寄居に直通する電車を運行している。その場合、この連絡線を用いるため、西武池袋駅には停車しないというトリッキーな動きをする。
これとは別に、池袋から三峰口に直通する電車もあるのだけど、その場合はいったん西武秩父駅に入り、客の乗り降りを終えたのちにスイッチバックして秩父鉄道に合流する。この場合はそもそも方向が違うので、御花畑駅は通らないし止まらない。
なんでこんなに面倒くさいんだ、と思う。西武秩父駅があともう少しどうにかすれば、こんなややこしい運行をしなくて済むのに。線路同士が遠く離れているならまだしも、すぐに隣り合っているのに。
でもきっと、深い理由があるのだろう。
08:22
三峰口行きの電車がやってきた。ステンレス色の無骨な電車。
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