いしとの関係が急速に深まっていった2019年。「ご近所のメシ食べ歩き仲間」という関係性から4月に我が家に出入りするようになってからが全力疾走だった。7月に初めての二人の旅行として上高地キャンプ。今思うと、初回の旅行で上高地、しかもキャンプってなんなんだと思う。
でも、そういうのに「いいですね!」と気さくに応じてくれる人だからこそ、僕のような癖のある人間でも受け入れてくれたのだろう。なにせ男子校出身で44歳まで既婚歴なし、ともなれば、僕のことを知らない人でも「ああ、癖が強い人?」って思うだろう。
上高地のあと、海の日三連休で僕の実家に行き、両親に「結婚するつもりだ」と報告している。僕の母親なんてウッキウキで、いつまでも結婚しなかった次男坊がついに結婚!ひょっとして生きている間に新しく孫が見られるかも!?と大喜びだ。
でも、そんな楽しいフレンチレストランでのお食事会(のちに、そのレストランで挙式した)の最後に、冷や汗をダラダラかいているいしが「実は・・・」と切り出した。
「来年、アフリカに行く予定になっています。2年」
ここで我々両親、ズコーとずっこけた。特に母親は天から地に叩きつけられたような凹みっぷり。そう、僕らは「結婚はするけれど、その半年後にはいしは2年間アフリカ赴任でその間はほぼ会えない」ということを言い出したのだ。孫?当然、最短3年後、いや、赴任まであと1年近くあるから、実質最短4年後か。そりゃあ、お母さんはがっかりする。それなりに高齢なので、自分の寿命を思わず指折り計算してしまっただろう。
今回の旅行は、そんなやりとりがあった2週間後の出来事。
相変わらず、いしは多忙を極めている。夜勤もある・土日勤務も当たり前なシフト勤務の仕事なため、どこかに旅行するとなると1ヶ月半前には僕といしとの間で日程調整が合意されていないといけない。僕は僕で、カレンダー通りに忙しい。平日二連休というのはちょっと取得しづらかった。
なので、今回8月頭に1泊旅行、というのはまだ親に結婚予告をする前に決めたことだ。ちなみに、この段階ではいし側の両親にはご挨拶に伺っていない。お盆の時期にご実家に顔を出すという段取りになっている。
「まず、女性側の実家に挨拶をして、結婚の了承を取り付けるのがスジだろう?」
なんて言う人がいたけど、それはもう古い考えだ。男女平等のご時世、どっちが先でもいいと思う。というか、まず「パートナーがアフリカに行っちゃうけど結婚するわー」ということについておかでん家側を納得させないとまずい。いし側ご実家の了解を先に取り付けて、「後日報告」的な扱いにすると、おかでん家側が「そんな話は聞いていない。勝手に決めるな」とつむじを曲げる可能性がある。情報を出す順番には気を遣った。
一方で、いしが僕との「ほぼ同棲」関係を「完全に同棲」に切り替えるための算段はどんどん進んでいた。
どうせいしが来年アフリカ赴任となるなら、今の住まいは退去することになる。聞くと、寮住まいで月5万円の支払いなんだという。だったら、どうせいずれ結婚するんだし、今でも事実上同棲しているんだし、とっとと寮を引き払っておかでん邸に移住すればいい。どうせ、交通費は勤務先から支給されるんだし、早く移住すればするだけ、寮費が浮く。結婚まで待つ必要なんてない。・・・そんな論理だ。
そんなわけで、今回記事にする1泊旅行が終わった次の日、つまり2019年8月5日にいしは僕の家に正式に引っ越ししている。実際に住民票が移ったのはさすがにいしのご両親に挨拶を済ませた後の半月後になるけれど。とにかく超特急だ。
超特急といえば、彼女の引っ越しもすごかった。赤帽みたいな個人商店的運送会社をどこかから見つけてきて、2トントラック1台、1万円ちょっとのお支払いで引っ越ししてきちゃった。聞くと、殆どの荷物を捨ててきたのだという。これもいしならではの割り切りの良い性格だ。
おかでん邸には、歯ブラシをはじめあらゆるものが既に用意されているから、というのも理由のひとつだ。僕は「我が家に泊まりにきていただくからには、あらゆる不自由や居心地の悪さはないようにしたい」と心底願っていた。そのため、寝間着だって勝手に買って押入れに入れておく有様だ。傍から見るとキモいかもしれないけど、いしはこういう必要以上の気配りを「重たい」と感じないキャラだったので、僕と馬があったのだろう。
2019年08月03日(土)
今回もキャンプだ。
やっぱりキャンプは楽しい。これまで、「温泉旅館の畳の部屋で、ゴロンとするのは至極」と思っていたしその気持ちは今でも変わっていない。しかし、より非日常感のアドレナリンを体感するなら、キャンプの方が勝る気がする。
あと、とにかくお安く済むのが嬉しい。やっぱね、40歳も半ばに差し掛かってくると、そろそろ自分の生涯賃金とか老後の生活とかがチラチラ気になってきはじめるんですよ。昔なら、バーンと気ままに散財できたけど、今この歳になるとためらいがある。大丈夫かな?と頭の中で計算してしまう。ましてやこれから結婚を控えているともなりゃあ、なおさらだ。
とはいえ、これまでのように上高地でテント生活、というのは移動にも飲食にもお金がかかる。軽装でキャンプできる気楽さがあるけれど、毎度毎度上高地というのはやめておきたい。
ならば、ということで、上高地キャンプの残り香が漂っているうちに、もうちょっと利便性が劣る場所でキャンプをやってみよう。そうすることで、「あ、この装備がないとキャンプ生活に不自由するな」とか、「これは持参しなくてよかったな」というさじ加減がわかる。
昔のアワレみ隊みたいに、マイカーを持ってます、車の後部トランクには常時オートキャンプ用品が積まれています、という状況とは違う。今は登山装備を前提とした、軽量コンパクト小規模な装備でのキャンプだ。余計なものはできるだけ持っていかないし、そもそもオートキャンプ時代の装備品はほぼ現存していない。
なので、今回は「足りないものがあったらあったらでしゃーない。次回の参考にしよう」という位置づけのキャンプだ。
場所はどこにしようかと思ったけど、以前からトライしてみたかった日光湯元キャンプ場に決めた。
日光湯元温泉は、1年前に日光白根山登山のために一泊した。
でも、温泉をゆっくり満喫したり、日光湯元の温泉街を散策する余裕がなかった。なにしろ登山目的なので、朝が早い。それが心残りだったので、今回改めてキャンプをすることにした。
なにしろ日光湯元は、中禅寺湖界隈の宿まで引湯で温泉を供給するほどの湯量を持っている。そして、日光湯元温泉のすぐ脇にある湖は「湯ノ湖」、そこから流れる川にある滝は「湯滝」だ。名前からして、温泉のパワーを感じさせる。楽しみだ。
今回も、いしは夜勤明けでの参加となる。前日のうちにいしの分まで荷造りを済ませておき、当日朝はレンタカーを借りたら荷物を詰め込んでおく。で、いしが仕事を終えるまで、職場近くのマクドナルドで待機だ。連絡が入り次第、彼女をピックアップする。
いしが定時上がりなら、朝9時ころには合流できる。しかし、実際にはいつ仕事が終わるかわからない。10時かもしれないし11時かもしれない。それくらいザラに残業がある職場なので、こちらも気長に待つしかない。
彼女とどこかに出かけるなら、予定をあれこれ詰め込まないことだ。特に初日は。
今日も、とりあえず日光に到着できればいいや、程度にしか考えていない。
14:12
案の定、出発が随分遅くなった。夏休み期間で行楽シーズン真っ只中の土曜日ということもあり、高速道路はどこも渋滞。さて、どうしよう。
いしは餃子が大好きだというので、日光に向かいがてら宇都宮で餃子を食べることを想定していた。しかし、東北道方面の渋滞が厳しかったのでその計画は中止。上越道に進路をとり、群馬県の沼田から金精峠を越えて日光湯元に向かうことにした。
だったら、沼田の手前にあるもつ煮の名店、「永井食堂」でお昼ごはんだな。
14時過ぎ、永井食堂に到着。こんな時間だというのに、相変わらずの長蛇の列。本当に繁盛店だ。
いしは東京を出発早々、助手席で寝ていた。
これから先も、移動中はほぼ寝ていた。夜勤というのは本当に大変だ。
でも本人に言わせると、「稼ぎはいいし、これまでやりたいけど日勤だと忙しくて出来なかった作業ができるので良い」なのだそうだ。ケロリとしている。
とはいえ、不規則な生活ゆえの肉体ダメージは当然受けるわけで、それがこの爆睡シーン。少々声をかけたくらいでは起きない。
14:13
国道沿いとはいえ、山の中にこつ然と現れるドライブインだ。そこにこんな車がずらりと並んでいるのは壮観。知らない人が通り過ぎたら、「えっ?一体何が起きてるんだ?」と思うだろう。まるで中古車販売店のように、ずらりと車が並ぶ。
14:29
行列が長くても大丈夫。とにかく回転が早い。料理がでてくるのが早いし、お客さんも食べるのが早い。なにしろ、カウンター席しかないお店なので、観光気分でくっちゃべる人なんて皆無だ。殺伐と食べている、というほどではないけれど、みんなバババッと食べて、サッと立ち去っていく。クール!
なので、「うわあ、相変わらず人が多いなあ・・・」とお店の駐車場に到着してわずか15分で、着席&料理が届いている状態。
頼んだのはもちろんもつ煮定食。
この、マッサマンカレーばりの赤くて白いつゆ。これがうまいんですよ。もつもとろとろなんですよ。
牛乳が混じっているつゆということで、濃くて塩っぱい飲み屋のもつ煮とは全然別物。具はもつとこんにゃくしか入っていないのに、なんなのこの満足感。
いしも、寝起きだけど「これは美味しい」とご満悦で食べていた。良かった、喜んでもらえて。
15:37
国道120号を走って、群馬県から栃木県を目指す。
道中、天然記念物・吹割の滝があるので立ち寄ってみた。
ここは駐車場選びに難儀する。無料の駐車場もあるけれど、お土産物屋さんが駐車場の客引きを路上でさんざんやっていて、無料かと思ったら「500円以上お店で買ったら」という条件付きだったりする。どこの駐車場に停めれば正解なのか悩ましく、それが面倒くさくて殆どここを訪れたことがない。
15:40
吹割の滝。
大きな滑滝というだけでもびっくりだけど、急に割れ目が出来ていてそこに水が吸い込まれていく光景も珍しい。
ただ、地味ではある。すごく珍しい滝だけど、派手さはない。わざわざ見に行く価値があるか、と問われると、うーん、と僕は思う。
割れ目に水が吸い込まれていく。
そのすぐ近くの岩の上まで人が立ち入ることができるのも、珍しい。
ただ、一般的な滝が「近づけば近づくほど、迫力が増す」のに対し、この滝は近づいてもさほど迫力は増さない。むしろ、ちょっと引いた場所から見た方が滝の全容がわかって、面白い。
15:46
とはいっても、滝から見えた上流の吊橋に行ってみたら、さすがにこれは引きすぎた。
滝が遠すぎてよくわからない。
でも、こういうおだやかな川の水がいきなりガクッとひび割れたところに吸い込まれていくのだから、そのギャップは面白い。
15:56
天然がもたらす神秘に大いに感心し、満足していた僕らだったが、遊歩道から車道に出たところにあった酒まんじゅう屋にいしが敏感に反応。
「ちょっと様子を見てきますね」
と言ってお店の中に入っていった。いや、様子を見るといっても酒まんじゅうが置いてあるだけだろう。それ以上でもそれ以下でも。
・・・で、結局滝を見るよりもウッキウキ状態のいしは、酒まんじゅうを買って嬉しそうに頬張るのだった。たぶん彼女、後日滝のことをほぼ忘れるぞ。それくらい、甘いものとの遭遇に大喜びだった。本当にこの人は無邪気に喜ぶ。少女のようだ。
(つづく)
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