9月。登山の2018年シーズンはそろそろ終わりが近づいてきている。もちろん、山なんてのは四季折々に登れるし、シーズンなんて言い出すのが無粋なのはわかっている。でも、「百名山ピークハンター」という蔑称をあえて自虐的に使うくらいの登山しかしない僕にとって、10月に入る前が駆け込み需要の時期になる。
10月に入ると、標高が高い山は軒並み凍結が始まる。山小屋は次々に営業を終了し、行ける場所が限られてくる。そもそも、登山口までバスでアプローチする山の場合は、肝心のバスが夏しか運行していないことがある。
日光白根山を一緒に登ったまゆみさん・相方さんのご夫婦と、「今年もう一発、やっときますかぁ!?」という話をしてきた。日光白根山の余韻冷めやらぬ頃から、だ。こういうのはテンションが高いうちに、次の計画を立て始めるに限る。
せっかく仲間と登るのだから、関東近郊の近場の百名山は勿体ない。一泊を必要とする、それなりに遠方で、ボリューム感のある山にしたい。
かといって、2泊以上の山は選択肢になかった。というのは、まゆみ・相方さんご夫婦には飼い猫がいて、猫が寂しがるので外泊は1泊が限界なんだそうだ。それでも、1日留守にして帰宅すると猫はしばらくご機嫌が悪いというのだから、かわいい。
だったら、石川県の白山・・・ということを考えたが、山小屋の予約が取れそうになかったのでやめにした。この神聖な山はご来光を山から眺めるのが好まれ、山小屋泊が一般的だ。
指宿温泉一泊の開聞岳(鹿児島県)はどうだろうか?・・・なんてことも考えた。朝に成田からジェットスターで鹿児島に向かい、そこからレンタカーで指宿に行って一泊。次の日は開聞岳に登って、そのまま鹿児島空港に向かって成田、という流れだ。「えっ、鹿児島県?」とびっくりするけれど、案外素早くアプローチできるし、費用もLCCのジェットスターならばびっくりするような金額にはならない。
そんなことも考えていて、結局決心したのは「苗場山」だった。新潟県と長野県の県境にある、日本百名山の一つ。標高2,145メートル。
苗場、といえばスキー場があったりFUJI ROCK FESTIVALの会場ということで有名だ。
しかし、ちょっとややこしいけど、苗場スキー場があるのは正確に言うと苗場山ではなく、その近くにある筍山の山腹になる。苗場山の中腹といえる場所にあるスキー場は、田代スキー場、かぐらスキー場になる。
このあたりのスキー場はゴンドラで相互に繋がっていて、大きくひとくくりにすれば1つの巨大なゲレンデと言えるのだけれど。
山麓にみつまたスキー場があって、そこから上にあがるとかぐらスキー場があって、山の中を南下すると田代スキー場があって、そこから「ドラゴンドラ」という長大なゴンドラで山を斜めに下ると、そこが苗場スキー場。ゴンドラとリフトの巨大インフラ群がこのエリアには形成されている。
もともと僕は、この山をソロで登るつもりだった。かぐらスキー場のゲレンデ内にある「和田小屋」を起点とし、山頂を踏破したのちそのまま南に下り、歩いてでないとたどり着けない秘湯・「赤湯温泉山口館」に一泊し、そこから苗場スキー場近くまで下山という行程を考えていた。
しかし、3人でこのルートをたどるのは相当厳しいと判断して、やめにした。休憩なしでも、7時間半かかるルートだからだ。累計標高差は2,700メートル。温泉目当てで蛮行に走るにはリスクが高すぎる。
2日目だって、「あとは国道に出てバスに乗るだけ」とはいかない。地図上では近くに見える国道だけど、ここにたどり着くまで4時間近い登山道+林道歩きが求められる。これはこれでキツい。
そんなわけで、複数ある登山口の中で、もっとも標高が高いところにある和田小屋から登山を開始し、登頂したらもと来た道を戻るピストンルートを選んだ。ぱっと見、すぱっと一直線に山頂を目指すようなルートで楽そうに見えたのと、交通の便が良かったからだ。
苗場山のもう一つの主要な登山口として、長野県の小赤沢温泉から登るというルートがある。
ただ、この小赤沢にたどり着くためには、公共交通機関を使うのは無理だと判断した。朝、東京を出て、小赤沢にたどり着くまでに随分と時間が経ってしまう。山頂一泊するならともかく、そうでないならこのルートは取りづらい。なにせ、津南からグググッと山の中に分け入った谷筋だ。
その点、和田小屋は上越新幹線の和田小屋から車で訪れることができる。新潟に到着して、ほどなく登山が開始できるフットワークの軽さは魅力だ。
とはいえ、明るいうちに登頂して、下山するとなるとかなり大変なのが苗場山だ。往復6時間半くらいだろうか。9月末ともなると、日没が早くなる。なので早めに下山を心がけたいところだ。
2018年09月29日(土) 1日目
05:56
そんなわけで、まだ6時にもなっていない東京駅に到着。
始発の上越新幹線に乗るためには、5時台に東京駅に到着しておく必要があった。いやあ、一週間仕事をしてきたあとの翌日、土曜日でこれはけっこう厳しい。週末になるとますます疲れるという有様。
さすがに5時台だと、駅弁屋さんは営業をしていないだろう・・・と思ったのだけどさすが東京駅。やっているお店があった。一体いつ仕込んで、いつ納入したんだ。そしてここにいる店員さんはどこに住んでいるんだ?いろいろ謎が多い。
朝ごはん、駅弁は調達できないだろうと思ってコンビニで弁当を買っておいたのだけど、この時間でも買えるということを知る。今後の参考にしよう。
06:02
本日一緒にチームを組むまゆみさん、相方さんと合流する。前回日光白根山で一緒だったよこさんは今回不参加。前回の登山で疲れたのかもしれないし、単に都合がつかなかったのかもしれない。
めざすは、上越新幹線とき301号。6時8分の始発。
これに乗り遅れたら、登山計画そのものを諦めるレベルの展開になるけれど、間に合ってほっとした。
06:14
車内でこれからのご武運を、ということで乾杯。
あれっ、お酒好きな二人なのに、お茶だ。一方、お酒を飲まない僕がノンアルコールビールを飲んでいるという状態。
そうか、これから登山が控えている人、というのはお酒を飲まないものなのだな、ふつう。僕の場合、断酒するまでは「さてこれから登山だ!」というウキウキを隠しきれずに、行きの電車でビールを飲んでたからなぁ。そりゃあ肝臓が疲弊して断酒せざるをえなくなるわ。何かと理由がつけばビールを飲んでたんだから。
06:20
相方さんが、チキン弁当を食べ始めた。東京駅名物・・・というと言い過ぎだけど、東京駅でよく見かける駅弁だ。平成の天皇も愛する駅弁で、行幸で全国各地に行く際にお召し上がりになるのだとか。
「これがうまいんですよ」
と嬉しそうに相方さんが鶏肉を食べる。5時台であっても駅弁が買える、ということに賭けた人が勝ち得た旅情だ。
一方の僕はというと、まいばすけっとかどこかで買った、安い「油淋鶏弁当」。
これもチキン弁当であることには間違いないけれど、ご飯!揚げた鶏肉!以上!という潔さにびびる。
07:34
越後湯沢駅、到着。まだ夜明けまもないのに新潟にいるんだぜ?嬉しいよな、瞬間移動だよ。一気に戦闘モードだよ。まだ心は東京に置き去りになっているような感じなのに。さて、金曜日にやり残した仕事のこととか、全部忘れてここからは登山!観光!ということでオナシャス。
新潟駅といえば、超巨大な駅ナカ施設を誇る。しかしさすがにこの時間だと営業はされていなかった。売り場は布で覆われて、新車のお披露目直前のようだ。
07:37
駅のロータリーに出たところで、タクシーと合流する。
レンタカーを借りたかったのだけど、レンタカー屋は朝8時からの営業。一刻も早く登山を開始したいので、行きと帰りはちょっと豪華だけれどタクシーを使うことにした。
朝7時半ということで、タクシーは予約をしておいた。当日駅にやってきて、タクシーが一台も停まっていなかったらヤバいからだ。こういうのは根回しが大事。
でも、結論としてはタクシー溜まりには何台もタクシーが停車しており、杞憂だったようだ。
とはいえ、季節や曜日によってタクシーの数は異なるだろうから、油断大敵だ。今回のように「早く登り始めないと、下山時間が心配」という行程の場合、横着しないでタクシー事前予約は大事。
もちろん帰りの便も予約をしてある。
(つづく)
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