負傷しながらの下山【苗場山】

13:25
苗場山の山頂湿原。天気が良ければきっと極楽だったに違いない。天気が悪かった今日でも、極楽気分は味わえた。一瞬でもガスが晴れたのでこれでひとまず満足だ。

で、そんな「ガスが晴れて儲けもん」という気持ちをたしなめるような急坂がここからスタートですよ。

忘れてた、ここに至るまで相当しんどい思いをしてきたんだった。

岩場と、ぬかるみ。特に岩場がひどい。雨の岩場を歩くことがこんなにしんどいとは思わなかった。

これまでも3,000メートルクラスの稜線歩きを雨の中で経験したことはあるけれど、登山道があるところは岩ではなく土になっているところが多かった。しかしこの山は、稜線でもないふつうの登山道がゴロゴロの岩だらけだ。岩というと語弊があるなら、石だ。石畳みたいだ。

そんな石畳の隙間にはまってしまったのか、僕のアルパインポールの先端についているゴムが片方紛失してしまっている。上りの途中、気がついたらなくなっていた。

アルパインポール(トレッキングポールとも言う)は本来若干尖った金属になっている。鉛筆の先みたいな形をしている。しかしこれだと地面や樹木の根っこ、木道などを痛めるため、ゴム製のキャップを付けることが基本的には推奨されている。

しかしポールの先端につけたキャップなので、何かの弾みでなくしてしまう。まるでシャープペンシルの、頭の部分のキャップみたいに。

片方キャップがあって、片方キャップがない2本のポールを使うのはちょっとバランスが悪い。ほんの少し、嫌な気持ちがした。

写真を見てもらえばわかるが、山がかなりの傾斜になっていることがわかる。

13:46
木道を降りていく。

まゆみさんはポール1本で、T字型のものを使っている。たとえがあまりよくないけれど、お年寄りの杖でよく見かける形だ。体重を乗せやすく、「第三の足」として自分自身の足への負担をフォローしてくれる。

一方僕がやっているのは、スキーと同じI字型のポールで、しかも両手に1本ずつ持っている。

ダブルポールのメリットは、登りのときは体をぐいぐいとポールと上半身の力で押し上げることができることと、下りは体のぐらつきを抑えることができることだ。いずれにせよ、スピードがあがる。登山におけるポールというのは、守りのためにも、責めのためにも使える。

下りでのポール2本持ちは特に有効で、岩場ではポール2本を「自分の真正面」だけでなく横や斜めの岩に押し付け、立体的に体を支えながらトントントン、と段差を下っていくことができる。ポールの有効性がわかってくると、登山というのはいかに自分の姿勢保持のために体幹にストレスをかけているのか、ということを知る。その体幹への負担が減れば、下りは相当楽になる。

13:47
ここから先一気に崖、というのがわかる景色。

14:26
やられた。

正確な場所は覚えていないが、山頂直下からの急降下の途中で右足を滑らせ、思いっきり足首を捻挫した。軽快にポールを使って重心を分散させつつ、テンポよく下っていたつもりだったのだけど、ポールに重心をかけすぎた。その結果、ポールが岩の上で滑ってしまい、それで岩場を転がってしまった。

倒れたとき、「あっ、これは骨折したかもしれないな」と思ったが、しばらく時間を空けてからおそるおそる足首を動かしてみたら、動かすことができた。緊張感とショックのせいもあるのだろうけど、痛みもさほどない。

ただ、派手に転倒したし、明らかに右足首が曲がっては行けない方向に一瞬曲がったっぽいので油断はできない。これはいけない、早く下山をしなくちゃ。

14:40
焦るつもりはないけれど、これ以上この山にいてはいけない気が非常に強まる。可能な限り早足で下る。

しかし、ペースが上がらない。先程から地図と、標準コースタイムとを見比べているけれど、下山が予定よりも遅くなりそうだ。

15:04
上ノ芝まで下りてきた。

ここから90分で和田小屋到着というのが標準コースタイム。

15:09
ここで二度目の転倒。

ポールを過度に信用しないように、と自分を戒めていたつもりだったけど、ついつい疲労にまかせてポールに重心をかけてしまった。歩いていても滑りやすい石なので、ポールは余計に滑りやすい。

さっきよりも一層ひどく登山道を転がり落ち、また同じ右足を強くひねってしまった。

さあ、今度こそ駄目だ、やられた・・・と思ったが、ここでも骨折は免れた。足首が半分隠れる程度の、ミドルカットのトレッキングシューズを履いていたからだろうか。でもこの山なら、足首がぐらつかないようにハイカットのシューズのほうが向いているかもしれない。もし、ふつうのシューズだったり、登山靴でも紐を緩めに結んでいたら、確実に僕の足首は骨折していたと思う。

リールアジャスト型の登山靴を履いていた、というのがよかった。

https://www.soranoshita.net/blog/post-24648/

リールアジャストだと、面倒がらずに最適な着圧で靴をフィッティングできる。これがふつうの靴紐なら、着脱が楽なようにユルめに紐を結んだまま、山を登り降りしていたかもしれない。それならば今回の怪我は防げなかった。

15:21
二回も同じところを強く捻挫したともなると、このあとが大変に心配だ。

しかも、負傷場所は登山の肝になる足首だ、腫れると身動きがつかなくなる。腫れる前に下山してしまいたい。

ここから先は、苦行の気分でひたすら下る。雨が降っている中、へとへとになりながら下る。足は幸い動いているけれど、三人揃ってスピードが上がらない。

15:36
遅れてやってくる二人を振り返ったところ。

なんだよこれ。行きの時以上に感じる、「登山道、ひたすら石ばっかりじゃねぇか」ということ。

濡れた石がひたすら続く。本当に続く。だから下りは特に疲れるのだった。

15:48
下山が予定よりも遅くなりそうなのでタクシー会社に連絡を入れようとしているのだけれど、まったく電波が入らない。登山には比較的強いドコモの回線なのに。

ほんのわずかに電波アイコンが立ったときを狙って電話をかけてみるが、やっぱりつながらない。

こういうのも、精神をすり減らす。

(つづく)

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