負傷しながらの下山【苗場山】

宿泊している宿「高半」の広すぎるロビーには驚かされるが、その一角には美術館みたいなスペースがあった。

いや、超巨大旅館というのは世の中にいっぱいあるし、越後湯沢だって団体旅行客をバーンと受け入れることができる宿もある。そういう宿のロビーがデカいのは知ってるんだけど、高半はぱっと見た目そこまで大きくはない宿だ。で、ロビーが広いと、「おおすげえすげえ」と驚きっぱなしだ。

なんの展示かな?と思ったら、川端康成が代表作「雪國」を執筆したのがこの宿なのだという。そのゆかりの品が展示されているそうだ。へー。

徹底してるのは、川端康成が籠もって執筆に勤しんだ部屋が完全再現されていたことだ。

僕ら一般客が泊まる客室は増改築を繰り返しているけれど、川端康成部屋だけは移築して、丁寧に残している。

それにしてもさすが文豪、大きな部屋を使っていたんだな。

まるで茶室に向かうかのように、石をとんとんと踏みしめて部屋に向かう。

僕みたいな俗物は、「これだと、夜中トイレに行く時に足を踏み外して怪我をしそうだ」と思ってしまう。駄目だな、だから文豪になれないんだ。こういうのに風情を感じられなくては。川端なら、この石ひとつで小説が作れるだろう。

で、彼が滞在していた部屋の中が再現されていた。へええ。

畳の間で、あぐらをかいて原稿用紙に文章を書き込んでいくスタイルなので、腰がすぐに痛くなりそうだ。昔の人はこういう姿勢で居続けることに耐性ができていたのだろう。

間取りを上から見た図も残っていて、こういうのを見るとワクワクする。

むしろ実物の再現部屋を見るよりも、こういう図の方が想像力をかきててられる。

これを見ると、先程の「トイレに行く際につまづくのではないか」と心配した石は実在していないことがわかった。なんだ、さすがにそうか。離れに投宿していたわけじゃないんだな。

川端が懇意にしていた芸者さんが、宿の人が部屋にやってきたときに身を隠していた「次の間」の話とか、けっこう生々しいことが書いてある。

川端先生ご滞在の間取りも面白いけれど、やっぱり一番おもしろいのは宿の館内図だ。
歴史ある旅館の現在の間取りを見るだけでも謎めいていて大変に興味深いけれど、古い間取り図があるならさらに楽しい。

ただでさえ温泉旅館というのは劣化が早く、濃い温泉であればあるだけ建物は傷む。10年20年で建て直し、という宿があるくらいだ。で、そして、高度経済成長の社員旅行や農協などの団体旅行ブームを経て、家族旅行、現在の少人数旅行への変遷で建物の形はどんどん変わっていく。

そのため、現在の間取り図を見ると「どうしてこういう形になってるんだ?」という不思議な行き止まりや、狭い廊下があっちこっちにある。これを見るだけで、昔を連想させられて楽しい。

そして、このように昔の間取り図を見ると、これはこれでさらに面白い。

ビジネスホテルのように、面白みもへったくれもない、マッチ箱状の宿の形ではない。山の斜面に逆らうように作られているので、回遊できるような廊下があったり、建物が複数に分かれていたり、迷路のようだ。

この宿の場合、「湯元閣」「不老閣」「洗心閣」「雪国荘」「銀嶺ハウス」「長生閣」という建物があった。

ネーミングセンスが違うのは、建物が作られた時代が違うからだろう。

なんでこんなに食堂がぽつんとあるのだろう?とか、小さな婦人浴室が二か所に分かれていて、そのかわりに大浴場が用意されていないのか・・・とか、いろいろ見ていて面白い。

10:04
チェックアウト時間ギリギリまで宿でだらけて、2日目の旅に出る。

この日は特に予定がないので、夕方の新幹線までにどこかレンタカーでドライブする予定だ。一応、八海山の蔵元まで行ってくる予定ではある。

僕の捻挫した右足は随分と動かなくなってきたので、相方さんがやたら心配してくれた。ここは運転をおまかせする。八海山に着いたら、そこではお酒を飲むことになるんだし、そうしたら改めて僕がハンドルを握ることになるだろう。

10:16
このあたりは高速道路に乗っても、下道を走っても、さほど所要時間が変わらないという面白い土地だ。別に、制限速度オーバーで下道をぶっ飛ばす、というわけじゃない。制限速度通りに走っても、道は真っ直ぐだし信号が少ないので目的地に早く到着できる。

高速道路は時速100キロで走れるけれど、そのかわりにインターチェンジまで行かないといけない。そのタイムロス分を考えると、結局下道を走るのと大差がなくなってしまう。

八海山に向けて下道を走っていると、前方に巨大な建物が見えてきた。

あれ、以前から気になってたんだよな。なんだろう。ギョッとするサイズ感だ。

越後湯沢からもう少し谷川岳側に寄ったところにある岩原スキー場。ここには90年代頭に作られた、リゾートマンションが立ち並ぶ。スポーツ用品店のアルペンが建てた、場違い感が半端ないタワマンは岩原のランドマークだ。ここもそういうリゾートマンションだろうか?

ちなみに、岩原のリゾートマンションは、僕が社会人になったころ(90年代末)、生命保険の勧誘のおねーさんから「(保険の契約すれば)岩原のマンションを使えるように手配しますよ」と言われていた。スキー好きの人の個人所有だけでなく、法人が従業員の福利厚生用として購入していたり、客寄せパンダ的なものとして部屋を購入していたらしい。

10:19
グレーの巨大な建物があまりに気になったので、近くまで寄ってみることにした。

研修施設だろうか?病院だろうか?それとも、リゾートホテル?

「グランドウィング舞子高原」という名前の施設だった。

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