「急げ!ドラゴンフルーツジュースが飲めなくなるぞ!」
ゴルフを慌てて切り上げた我々は、もらったクーポン券を使わなくちゃ理論に基づいてわっせわっせと指定された場所へと急いだ。どうしてもジュースが飲みたかったわけじゃないが、クーポンをもらったからには飲まないと気がすまない。しかも、閉園を告げにきた従業員さんが、「ジュース、飲みますよね?」と我々に確認してきたので、なおさらだ。ここで「飲みません」という選択肢はあるまい。我々の人数分、用意して待ってくれているとのこと。
ドラゴンフルーツ、1個800円もするんか!と驚く。そんな高価な果物のジュースが飲めるのだから、ありがたい話だねえと必要以上に感謝し褒め、一同ぐいっとジュースを飲み干す。ありがたがっている割には、ぞんざいな扱いだ。
「うん、生き返った気がする。」
これもいい加減なコメントだ。じゃあこれまでお前は死んでいたのか、という話になる。
なにしろ、ドラゴンフルーツジュースを飲むだけでなく、お花摘みもしなくちゃいけないからだ。いや、「いけない」ってことはないんだけど、せっかくだからやらなくちゃ。
この「せっかくだから○○すべき」という言葉は、本当によくおかでん周辺では使われる。自分の行動に自信がないものだから、「せっかくだから」理論で、「しょうがなくやる。他から強制されるのでやる。」という言い訳をしているに過ぎない。でも、そうやって自らを縛っている割には嬉々としてそれをこなしているのだから、マゾっけがあるのかもしれない。
お花摘みは、おひとり様二本まで無料なんだという。花を摘んでも、家に花瓶なんてないしなあ・・・とぼやくが、それでも面白そうなのでやってみることにする。「これを期に花が大好きになっちゃうかもしれないだろう?何事も体験だ」という口実で。
指定された場所に行ってみると、そこはビニールハウスだった。常春の房総半島とはいえ、さすがに秋冬は花の飼育に向かないようだ。で、そこにうわっているのはキンギョソウという花。
「どのビニールハウスに入っていいんだ?」
ガタガタ。
「ダメだ、ここは入っちゃダメらしい。こっちなら入れそうだ」
薄暗くなって、手元が既に怪しくなっている。そんな中ビニールハウスに入るのは、まるで泥棒になった気分だ。とてもやましい。
「俺たち、別に悪いことやってないよね?大丈夫だよね?」
「大丈夫だと思う」
そんな声がけをしながら、中に入る。
ビニールハウスの中は当然暗く、もうこうなるとお花摘みどころじゃない。何しろ、どの花が満開で、どの花がまだ時期尚早なのかさえも判別が難しいからだ。
「ええい、よくわかんないからこれを切っちゃえ」
枝切りばさみでちょきんと切る。いい加減だ。そもそも、茎のどの辺から切断すればいいのか、それすらわからん。
写真は、ビニールハウス内が明るく見えるが、これはあくまでもフラッシュを焚いたから。フラッシュなしだと、どう見てもスイカ泥棒の様相だ。
「いいか、気を抜くなよ!?これですべての作業は終わったけど、ここで油断してると門が閉められたりしてるかもしれんぞ」
最後までわっせわっせと早足で園内を歩く。
西の空は急速に暗くなってきていた。そろそろ本当に真っ暗になりそうだ。
めいめい、二本摘んだキンギョソウを新聞紙で包装してもらい、車に戻った。さあ、ばんやに戻ろう。
途中、館山市街地を走っている時、トンカツ屋を見つけた。あわててトランシーバーで連絡を取り合う。
「大変です2号車聞こえますか」
「なんでしょうか」
「左前方にトンカツ屋が見えています」
「それが何か?」
「トンカツがおいでおいでをしています」
「ダメですよ、ばんやに戻ってお魚の宴会ですから。なんですかもうお魚にギブアップですか」
「いや、ちょっとした気の迷いで」
実際、なんだかトンカツ食べてえなあ、という気にさせられていた。冗談半分ではあるが、残り半分はちょっと本気だったり。ああ今晩も魚かあ、という気持ちは若干ある。
「今はチェックインを優先させないといけないので立ち寄りませんが・・・お夜食なら?」
「夜、魚をしこたま食べた後にまたここに?ありえねえ」
そのかわり、ピーナツソフトクリームを食べさせるお店、というのを道中で発見した。ピーナツのソフト?ちょっとどんな味なのか想像がつかない。これはお魚食い地獄と両立できそうなので、覚えておこう。とりあえず今日はスルー。
18時ちょうどにばんやの湯に到着。18時から夕食時間、ということなので、チェックインしたらすぐに食事ということになる。こ、心の準備が・・・。
普通、宿についたら浴衣に着替えたりなんぞして、風呂にも入ったりして、「いやー、旅行だねえ」と半分照れ隠しな顔をしながら友と語らったりするものだ。で、夕食までの時間、何度も時計を確認しながらそわそわしたり。
しかし今日はそうではない。宿、即、メシ。しかもまた魚だ。心の準備をさせる暇なく、また魚だ。いいぞ、この強引さ。「ちょっと勘弁してくれよ」と思いつつも、なんだかにやけてしまう。
ばんやの湯外観。「ラムネ温泉」を謳っている。人工炭酸泉であり、要するに炭酸水を温めましたということだ。さあ、今回の旅の第二ラウンドが始まるぞ。
コメント