「メガ鬼ごっこ」・・・その大げさな名前を耳にしたのは今年の春先だっただろうか。その珍妙な名前に一瞬にして目を奪われ、そして心奪われた。
鬼ごっこというのはもちろん子供の頃によくやった遊びだ。なじみは、人並には持っている。しかし、「メガ」という接頭語(?)が付くとどうだ、なんだか意味不明な、全く親しみのない「未知なる遊び」となる。さすがにこれは子供がやるものじゃあない、ということが名前だけ見ても即座に理解できる。明らかに大人の、遊び。
名前からして、どうやら大規模に鬼ごっこをやるらしい、というのは容易に想像がついた。そしてそれは、このイベントが西武ドームで行われるという事を知り、確信に変わった。開催概要を見ると、2,000人規模で鬼ごっこをやるのだという。なんというばかばかしさ。羊を追い立てる牧羊犬のように、みんなが一斉に西武ドームのグラウンドを逃げ回る光景は、想像しただけでもワクワクした。いや、「羊」なんて形容は生ぬるい。大きな魚に追い回されるイワシの群れ、といったほうが正しいか。「メガ」とはそれくらいの規模感だ。
告知のサイトには、ケニア人アスリート、エリック・ワイナイナの写真が大きく掲載されていた。日本の実業団マラソンで名をはせた選手であり、アトランタオリンピック銅メダル、シドニーオリンピックでは銀メダルを手にした実力者だ。彼が鬼チームのリーダーになって、2,000人を追い立てるのだという。結構本格的なイベントになりそうだ。「大人の遊び」とは、馬鹿馬鹿しいことをどれだけ大げさに、真面目にやるかにかかっている。まさにこれがそう。
イベントは日曜日の12時から始まり、16時に終わるという。4時間の長丁場だ。この間、ひたすら逃げ回るのだとすれば、本格的に体力勝負だ。そもそも、マラソン選手であるワイナイナを投入するということは、持久戦を想定しているのだろうか。
球場の隅々が舞台となるのか?トイレとかは入っちゃダメなのだろうが、客席、通路、あらゆるところに隠れ、逃げまくる。・・・って、あれれ?そうなると、「かくれんぼ」になるな。ええと、「鬼ごっこ」と「隠れんぼ」の違いってなんだっけ。
隠れる場所がない追いかけっこが「鬼ごっこ」?
あれ?
案外覚えていないものだ。
よく考えてみれば、「鬼ごっこ」という娯楽を子供のころ、果たしてどれだけ真剣にやっただろうか?今思えば、「ロクムシ」や「ケードロ」、「かくれんぼ」、「缶けり」といった遊びの方が主流だった。「鬼ごっこやろうぜ」と宣言して公園を仲間と走り回ったことって、あんまり記憶にない。あれれ。
まあいいや。子供の頃やってなかった分、「メガ鬼ごっこ」で取り返せばいいさ。こういう面白いイベントは、ぜひ参加しなければ。問答無用で参加決定。すぐにチケットを手配した。
2014年05月18日(日)
当日朝、「メガ鬼ごっこ」の会場である西武ドームを目指す。
西武ドームへは、池袋から出る西武池袋線で直通電車があるので、それに乗っていくことになる。
西武ドームは、都心から結構離れている。何しろ、埼玉県所沢市だ。電車で40分近くかかる距離だ。でもこういうところに球場を作ったり、西武園ゆうえんちを作ったり、もっと手前にはとしまえんがあったりと、鉄道会社というのはつくづく沿線開発が要なのだなと思う。西武ドームがなければ、そしてそこで「メガ鬼ごっこ」なんていうふざけたイベントが開かれない限りは、こうして西武池袋線に乗る機会なんて滅多にない。
所沢を過ぎたあたりで、お客さんの数は随分と減った。行き先が「西武球場前」ということもあり、まだ乗り続けているお客さんは明らかに行楽客の様相を呈してきた。しかも、遊園地に向かう家族連れ、という感じではなく、なにやらタイツをはいたり気合の入ったスニーカーをはいたりする若者中心に。あ、こいつら、鬼に追いかけられにきたな。すぐに「逃げ惑う仲間」であることに気がついた。
戦友(とも)よ、一緒に逃げ回ろう。・・・本来ならこういう場面では、「周囲にいるやつみんな敵」くらいに思って、「けっ」とか思うのがおかでんだ。しかし今回に関しては、参加者が多ければ多いほど「鬼から逃げやすい」状態ができる。どんどん来い、仲間たち。オレの身代わりに鬼に捕まってくれ。
終点の西武球場前駅は、その名の通り西武ドームのすぐ近くにある駅だ。本当に便利が良い。この路線は盲腸線になっており、ここで行き止まり。ホームはくし型になっており、なんだか旅情を感じてしまう。
始発駅の池袋駅も行き止まり線路だったし、終着駅の西武球場前駅も行き止まり。鉄道マニアを自称する気はないが、こういう鉄道旅はなんだか得した気分になる。
改札を出たら、すぐそこが西武ドーム。青空に白いドームが映える。
鬼ごっこをやるだけなら、別にこんな球場を借りなくてもよいはずだ。なんなら、だだっ広い広場で十分だ。もしくは陸上競技場とか。それでもあえてこの西武ドームを選んだのは、雨の日であっても中止にならない、という安定性を主催者は重視したのかもしれない。
それだったら、東京ビッグサイトや幕張メッセ、という選択肢もあったはずだ。別にここまで巨大施設でなくても、どこかの公営スポーツセンターの体育館を使う、という手はあっただろう。でも、それだと鬼ごっこのフィールドは真四角になってしまい、あまり面白くはない。やはり、今回は「扇形に広がる球場を舞台とする」ということが面白さを生むのだと思う。
せっかくなのでこの際、西武ドームを借りたらおいくらになるのかを調べてみた。西武ドームのオフィシャルサイトに行くと、詳細な料金表が掲載されていてとても興味深い。それによると、今回のイベントが「アマスポーツ(無料入場)」だと定義するならば、1日借りて300万円だった。おおぅ、決して安くはない値段だ。これに音響設備を使ったり控え室を使ったりいろいろ追加があるし、そもそも芸能人も今回ゲスト鬼として招へいされているし、イベント全体としてはかなりの規模感ではある。「ニューバランス」という世界規模の企業だからこそできる、広告という名の道楽だ。
西武球場前駅から歩いていくと、外野席のスコアボード裏にたどり着く。ここが西武ドームの入口となる。この球場の場合、球場をぐるりと取り囲む形で入口があちこちにある、という作りにはなっていない。
そのスコアボード裏に、大きな「メガ鬼ごっこ」の看板と共に受付が設置されていた。
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