ゲーム開始から走り回っている赤鬼たちは、へたりこんでしまっている。既に本日二試合目だし、この後本番鬼ごっこが控えているし、今日は後々まで語り継ぐであろうハードな日だと思う。
さあ、ここで満を持しての鬼軍団総司令官、エリック・ワイナイナ投入だ。彼の実力は全くの未知数だ。「マラソンでは世界トップレベルのアスリート」だけど、それが「鬼ごっこ最強」であるとは限らない。いやむしろ、そういうアスリートはマラソン純粋培養であり、鬼ごっこのような駆け引きが絡むプレイに対応できるのか?というのは誰しもが興味を持っているところだ。
フィールドにいるプレイヤーだけでなく、客席にいる赤チームのプレイヤーもがこの総司令官の登場に固唾を呑んだ。
ワイナイナがフィールドに降り立った直後、猛然と走り場のどよめきを誘った。うおお、さすが五輪メダリスト、普通に走ってもスゲー早いぞ。
何しろ、マラソン選手ってのは普通の人の全力疾走に近いスピードで42.195キロを駆け抜ける身体能力を持っている。こんなのに追いかけられたら、勝ち目はない。
おかでんの隣に座って観戦している人が、仲間同士でワイナイナのプレイを評論している。
「やっぱり陸上選手だよな、まっすぐはすごく早いけど、サイドの動きには対応できていない」
「ワイナイナから逃げるときは、サイドステップだな」
まあこれはワイナイナに限らず、どの鬼に対しても言えることではある。
できることなら、ワイナイナと直接フィールド上で対峙したいが、果たして彼の登場まで生き延びることができるかどうか。
そうこうしているうちに、みるみるプレイヤーの数は減少。
辻アナウンサーが「残り1分」をカウントする頃になると、フィールド上には鬼ばかりになってしまった。
プレイヤーの数が減れば減るほど、残されたプレイヤーは加速度的に立場が辛くなる。そんなわけで、いったん減り始めたらあっという間だった。
「あれ?全滅?全滅しましたか?」
と辻アナウンサーが叫ぶ。
カウントダウンがゼロまでなされる前に試合がストップされた。
赤チームのゲームでは実現できなかった「皆殺し」が青チームでは実現。プレイヤーは赤チームのゲームで学習したけど、それ以上に鬼も学習していた、ということか。
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