「のっとれ!松代城」は、「越後まつだい冬の陣」というイベントの1つの企画という位置づけだ。
越後まつだい冬の陣は、我々の控室とも言える松代総合体育館のすぐ脇、グラウンドで開催されている。ゼッケンを装着したり、馴染みの方とご挨拶したりが終わったら、いざイベント会場があるグラウンドへ。
晴れている日は空がバーンと開けていて、その開放感がとても心地よい。この会場に足を踏み入れた瞬間が、もっとも「よしっ」と気合が入るときだ。
その会場だけど、一同微妙に顔を曇らせる。
「いつもはもっと段差、ありますよねえ?」
「うーん、たしかに」
よこさんが指摘する。除雪された車道からこの会場に足を踏み入れる時、除雪されていない雪の分厚さ分だけよじ登らないといけない。年によっては、つるつる滑って困るときがあるくらいだ。
それが今年は、簡単に登れてしまう。それだけ、雪が少ないということだ。
とはいえ、グラウンド一面白銀の世界、というのは東京住まいの人間としては壮観。ちょっとした驚きだ。
何年もこのイベントに参加している我々は、だんだん屋台の人と顔見知りになってきたりもする。もちろん、あっちもこっちも、と仲良くなってるわけじゃないけれど、ここ「上町家」は少しだけ馴染みになったお店だ。一緒に撮影した写真を送ったりもした。
いろいろ屋台があるので、「昨年も出店してましたっけ?」というお店がある中で、ここだけは突出して目立つ。というのも、竹酒を売っているからだ。
竹をくり抜いて竹筒にした器に、清酒を注ぐ。しばらく置くと、竹の青い風味が酒に移り、独特の味わいになる。そんな魅力が、竹酒だ。
このお店の場合、店頭に竹筒が用意され、そこに竹酒が入れられて売っている。しかも、その竹筒には横っ腹に蛇口が取り付けられており、蛇口をひねれば酒が出てくる。
おやびんは喜んじゃって、「自分も蛇口をひねりたい!」と言って自ら飲む酒を、自ら蛇口をひねって注いでいたものだ。
ただこの話にはオチがあって、「あれ、お酒が切れちゃったよ」となったとき、店員さんが脚立で竹筒の上に登り、そこに一升瓶からお酒を注いだのだった。
それは竹酒というよりも、単に「竹筒という土管を通っただけのお酒」やんけ、という。もちろん批判する気はない。そういうところが、とてもおもしろくて、抜けた感じのするところも含めて愛らしい。
越後まつだい冬の陣は、進行がグダグダになりそうでならない、とか、素人っぽいけどビシっと決める、とか、イベントすべてにおいて「ユルいけど、うまくまとまっている」絶妙なバランスで成り立っている。そのセンスには毎回驚かされる。このお店もまた、そう。
で、今年の上町家の竹酒だけど、勢い余って思いっきり歌舞いちゃった。
鯉のぼりでも掲げるのか!?というくらいの高さまで竹筒を伸ばしてしまった。そこまで伸ばす意味は、もちろんない。単に勢い余ったとしか言いようがない。
そしてその先端に、大胆にも一升瓶が突き刺さったままになってる。やるなあ。
何しろ、店の看板よりも高い竹筒だ。やりすぎにも程がある。いいぞもっとやれ。
挨拶をしたのち、「今年はなんかいい酒あります?」と聞いたら、見せてくれたお酒。
知る人ぞ知る名酒、山間(やんま)が置いてあるのは昨年と同じだけど、今年は「Ori Ori Rock」という「うかつに開封すると強炭酸のせいで暴発する」という凶暴な発泡濁り酒はなく、ノーマルの山間だった。他には、「越の露」という聞き慣れないお酒も置いてある。
調べてみたら、十日町市の松之山で醸されていたお酒なのだという。坂口安吾が飲んでいたであろうお酒だけど、松之山の蔵元が廃業してしまったため幻となった銘柄。それを、山間を醸している新潟第一酒造が引き受け、復興させたのだという。へー。
ずらりと並ぶ一升瓶のかたわらに、ペヤングが置いてあるあたり、ユルい。
上町家のアニキ。毎年店頭で小気味よいトークをかましてくれるのでみんなだいすきだ。
てっきり八百屋とかやってるのかと思ったら、全然違う職業なのでびっくりだ。
おやびんとはすっかり仲良くなっていて、おやびんはこのお店の枡を持っている。
「この枡があれば、来年またこのお店にやってきたら一杯タダで飲ませてもらえるのよ!」
とおやびんは嬉しそうに言う。実際この年、おやびんはその枡でただ酒を貰っていた。ええのう。
ペヤングもさることながら、メニューが独特すぎてびっくりする。一体何が出てくるんだ。
ちなみに左のメニューに書かれている人名は、さっきのアニキの名前。右のほうは、アニキの親父の名前。
ちんころ、と書かれたのぼりを掲げる屋台を発見。おおお!ちんころだ!
ここ数年、白塗り・全身白タイツ姿で「のっとれ!松代城」に登場する歌舞伎者キャラクター「ちんころ」が話題だ。1980年代、西川のりおが「俺たちひょうきん族」でオバケのQ太郎の仮装?をしていたけど、それの現代版ともいえる格好。白タイツの胸に、「ちんころ」と黒マジックで書かれているのでちんころなのだろう。
で、そのちんころとはなんぞや、と思って調べてみると、これが十日町市に昔から伝わる伝統的な縁起物の飾りだということがわかる。しんこ(上新粉=うるち米を粉にしたもの、団子を作るのにつかわれる)を練って、猫や干支の動物をかたどった飾りを作る。
1月、十日町市で市が立つときだけに売られるものなので、ほかの地域では買えないし、3月の松代でも買うことはできない。
それを残念に思った僕は、十日町市観光協会のFacebookページに「ちんころを越後まつだい冬の陣で売ってくれれば、買うのですが・・・」と投稿してみた。すると、先方からご丁寧に「検討してみます」という返事をもらった。まあ、社交辞令だろうと思ってこの話は終わっていたのだけど、まさか本当にお店が出るとは。
僕の希望が通ったのか、それとも全く関係ないことなのかはわからない。でも、どちらにせよちんころが売られているというのは少女のように胸をときめかせてしまう。
少女のように、といっても、お前は中学高校と男子校だったやんけ、と言うのはなしだ。思春期の女子というのは、僕は殆ど縁がない。
で、これがちんころ。
へえええええええ。すげええええええ。
驚きと、興奮と、喜びと、いろいろが混在する。
昨年、「うしだ屋」のフロントにちんころが飾ってあるのを見て、人生初のちんころとの対面はすでに済ませていた。しかし、こうやってずらりと並ぶちんころを見ると、まったく印象が変わった。
とにかく、多種多様だ。手作りなので、一つ一つの顔かたちが違うのは当然だけど、モチーフとなっている生き物もたくさんある。猫、犬、ニワトリ、イノシシ、亀?・・・
ちんころは厚紙の台座に張り付けられている。
猫や犬は首輪をつけられていてかわいい。米俵を持っていたり、ひょうたんや鯛を抱いているものもある。
なるほど、こうやって見れば、歌舞伎者として登場した「リアルちんころ」は似て・・・ないな、すげえデフォルメされているぞ。あれほどまで開き直って、「白塗り=ちんころである」と無言で主張する度胸は素晴らしい。
よこさんが一つ一つを真剣に吟味し、どれを買うか考え込んでいる。
「えっ、今買うの?」
「同じものは他にないんですよー。お取り置きしてもらえるっていうから、今のうちに選んでおかないと」
「まじか。それは急がないと」
そこまでちんころにこだわるつもりはなかったけど、よく見るとどれも結構ダイナミックに顔かたちが違い、印象が異なる。僕もよこさんにつられて、必死になって一つ一つを探しまわった。
結局、選んだのがこれ。
左側がおかでんセレクト、右側がよこさんセレクトによるちんころ(だったと思う)。同じ「猫と鯛」というモチーフながら、結構表情が違うことがこれでよくわかる。
(つづく)
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