吊尾根の下の、一つ屋根の下で【上高地デュオキャンプ2019】

16:25
しばらく施設がない道を梓川沿いに歩いていくと、「上高地ルミエスタホテル」が見えてきた。

日帰り温泉入浴を受け付けているありがたい宿。しかし入浴料だけで2,200円するので、そうやすやすと利用するわけにはいかない。

何度も上高地を訪れている僕だけど、このホテルには近づいたことがない。今後も、ここで入浴をすることはないだろう。おそらく、宿としても「日帰り入浴を受け付けているけれど、お客さんが来なくて結構」くらいに考えているのだろう。観光地・上高地で通りすがりの観光客がこのお金を払うとは思えない。あと、下山してきた登山者も、これだけのお金を払うかどうか。

いしが「せっかくだから売店を見ていきましょう」と言う。そういえば、僕はこのホテルの前を何度も通過しているのに、売店に足を踏み入れたことがなかった。

売店はこじんまりとしている。

大体どこの施設の売店も似たようなものを売っているので代わり映えしないのだけど、ここは「モナランタン」というちょっと変わったものが売られていた。1個150円。

松本てまりのデザインが施された最中。

16:54
そろそろ日没時間だ。これ以上遠くまで歩いていくと、テントに戻ったときには真っ暗になってしまう。小梨平での売店やお風呂も終わってしまうので、退却しなくては。

橋を渡って梓川左岸に移り、しばらく歩くと赤い屋根が見えてきた。上高地帝国ホテルだ。

「帝国ホテル」の看板を掲げているから先入観で見ている要素はあると思う。でも、たぶんそれを差し引いても、この威厳ある建物を見ると気持ちが昂ぶる。ガッチリとした石垣、赤い屋根、丸太。どれも美しい。

今日これから帝国ホテルでお茶をするなんて余裕はもうない。また明日改めて訪れるとして、今日はいしにロビーラウンジ「グリンデルワルト」の様子を見せることにした。

17:00
帝国ホテルの中に入って正面すぐのところにある、ロビーラウンジ「グリンデルワルト」。

圧倒的存在感の煙突が重厚さを醸し出している。おかしいな、お寺の鐘を見ても全然心が動かないのに、この煙突を見ると「いいねぇ」と感じてしまう。随分観光客バイアスがかかっているな、僕は。

でも、いしもこの光景を見て大喜びしていた。ここで明日お茶ができるかも、と伝えると「やった!」と子供のようにはしゃいでいた。

ここは明神のカフェ・ド・コイショとは違った楽しみがある空間だ。

なお、營業は17時まで。なので、僕らはたとえここでお茶をしたいと思っても間に合わなかったことになる。17時以降は宿泊者限定の空間となる。寝るまで、ここでくつろぐのはなんという優雅なひとときだろうか。

17:07
外に出ると、雨が振り始めていた。まあこれくらいなら、と僕らは平気だったのだけど、帝国ホテルのドアマンさんが「いえいえ、濡れてしまってはお体に障りますから」と言って傘を渡してくださった。「いいですよ、少々濡れても」と言っても、「そうはいいましても」と仰る。そんなわけで、宿に1円もお金を払っていない「冷やかしの客」なのに、傘を借りちゃった。さすが帝国ホテル。

しかもこの傘の重たいことデカいこと。お客さんをなんとしても濡らさないぞ、風が吹いても反り返らないぞ、という覚悟が見える傘だった。こんな傘、これまで手にしたことがないというレベル。

17:18
で、お借りした傘はどうすればいいの?というと、バスターミナルのところに預ければいいのだそうだ。帝国ホテルのスタッフは頻繁にバスターミナルに行くので、そこで回収するのでどうぞ気兼ねなく、という。

へえ、そうなのか、と思ってバスターミナルの窓口に「・・・というわけで、傘を預かってください」と伝えたら、窓口の係員さんはえらく困惑していた。どうやらルールがうまく周知できていなかったっぽい。そりゃそうだ、アルピコ交通の人だから。

でも、傘にはバーンと「帝国ホテル」と書かれていて、誰の持ち物かは一目瞭然だ。結局、アルピコ交通が預かってくれた。ありがとう。

18:30
長旅のすえテントに戻ってきた。まずはコーヒーを沸かして一息をつく。外は雨が降っているので、テントの中で。

いしがやたらとウキウキしている。どうしたの?と聞いたら、「ドコイショで買ってきたビスコッティがあるから!」と言う。いや、あるのはわかっているけど、今それを食べようと?

いしという人は、堪え性がないというか、欲しいものは今すぐ食べる。「いや、夕食前だし」なんて考えない。すごく無邪気で子供っぽいところがある。

じゃあ食べよう、というと「やった!」と喜びの声を上げる。ビスコッティ一つで「やった!」と大喜びするのだから、ハッピーガールだ。

19:40
買い出しを済ませ、風呂に入った。さて、夕食の準備をしよう。

今回、新しい試みとして炊事場を使ってキャンプファイヤーをやってみることにした。昨晩、焚き火をやっている人を見かけたからだ。

さすがに一人だとやる気が起きなかったけど、二人だったら楽しいだろう。

薪なら、キャンプ場の受付で売ってる。なんて便利なんだ。

しかしいざ焚き火を始めようとして、着火剤がないし火箸もないことに気がついた。ありゃ、どうしよう。しょうがないので、ガスストーブで紙のチラシなどに着火させ、それを種火として焚き火を開始した。

外は雨がしとしと降っている。湿気がすごいので、薪の湿気も相当なものだ。網の上に使わない薪を並べ、火の熱で乾燥させていくことにした。

一方本日の飲み物一式。

僕はドライゼロ。

いしは松本ブルワリーのペールエール、昨日同様カップの白ワイン。そしてトマトジュース。

本日の食べ物あれこれ。

「馬いカルビ」とかこの界隈で買ってきたものもあるが、何やら自宅非常用食料の在庫処分市であることがモロバレのラインナップだ。

19:56
そもそも、こういう賞味期限切れの食料をキャンプに持ち込むことを提案したのはいしだった。「せっかくの旅行なんだし、おいしいものを現地で食べたい」なんて贅沢なことは言わず、「早く賞味期限切れの食材を減らしましょう」ときっぱり言い切っていた。なんて頼もしいんだ。

こういうスッパリした性格の人だからこそ、結婚に至るまでが早かったんだろう。二人の記念日にはステキなお店でディナーを、なんていう風情を重んじる人なら、1年や2年経たないと結婚しなかったかもしれない。

(つづく)

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