19:57
ガスストーブで強引に薪に着火したところで、そろそろ宴会をはじめる。やばい、もう20時近い。オートキャンプ場ではない場所なので、この時間になると人の気配が少ない。今日は雨が降っているのでなおさらだ。
時折、トイレに向かう人のヘッドライトが暗闇をゆらゆらと照らしている。
まずは、「信州限定 じゃがですよ」なるものを食べてみることにした。じゃがりこみたいなものだが、「信州名物 野沢菜入り わさび醤油味」だそうだ。
長野県は強いよな、「りんご」「野沢菜」「わさび」と特徴的な食べ物が目白押しだ。この手のお土産物屋さんで売っている系のお菓子は、長野っぽさをグイグイを押し出すことができる。
これは、単なるゆで卵。
小梨平売店のレジ前で売っていたものを、いしが「これも欲しい!」というので単品で買った。
たかがゆで卵だけど、こういうキャンプだとごちそうに感じる。人間、不思議なものだ。
20:11
「馬いカルビ」。要するに、馬肉だ。カルビ、というからにはお馬さんのお腹の部分の肉だろうか?
馬肉といえば、熊本県が有名だ。でも、長野県の伊那地方でも馬肉を食べる文化がある。以前、アワレみ隊でキャンプをやった際に馬肉をあれこれ食べたものだ。
見た目、塩っ辛いばっかりで大して美味しくない料理なんだろうと思ったけど、予想を大いに裏切った。馬い。商品名に偽りなく、これは馬かった。なんだ、馬肉って「珍しい肉」「刺身でも食べられる、貴重な肉」という位置づけであって、うまいかどうかは二の次だと思っていたけど違ったんだ。
何か開眼した気がした。これはお土産に買って帰っても良いレベル。
さすがになかなか焚き火が安定しない。一旦火がついたと思っても、しばらくするとおき火になってしまう。薪が湿気ている上に、細い枝や新聞紙で十分な火力を継続して提供できていないからだ。
この界隈、地面はきれいなものだ。よく整備されていて、枯れ枝がうかつに転がっているようなことがない。あと、ここは国立公園の中だ。国立公園内のものは石でも木でも採取禁止なので、うっかり焚きつけのために枝を拾いました、というのはアウト。
しょうがないので、ガスストーブでひたすら太い薪を燃やす。燃やすったって、5分近く炙ったところで全然安定した火にならない。ガスがどんどん消費されていく様をハラハラしながら、それでもじっと耐える。中途半端なところで火起こしをやめると、結局ゼロからのやり直しになるからだ。
20:34
こういうシチュエーションをあらかじめ想定していなかったので、折りたたみ椅子は1つしか用意していなかった。なので、いしは隣のコンロにビニール袋を敷き、そこを椅子がわりにして座っていた。
次のキャンプまでには、椅子を買おう。ちょうどAmazonプライムデーのセールが近々あるし。
20:41
ようやく安心して焚き火を眺めていられるようになったのは、20時半を回った頃だった。
改めて、乾杯。
まさか、上高地で焚き火をやることになるとは思わなかった。
ここでキャンプをやっている人は、炊事場で飯盒炊さんをやるような人種ではない。なので、この炊事場はガランとしている。他にあと1組、いる程度。
20:51
21時近くなって、ようやくえびピラフが出来上がった。やあ、もうキャンプ場においては「お夜食」の時間だ。
21:05
21時になると、消灯時間になる。予告なく、急に炊事場の電気がバチンと切れた。
あたりは真っ暗、焚き火の明かりだけになる。
困った。焚き火を打ち切りにしたいけれど、さすがにこの燃え盛る火を放置するわけにはいかない。薪をできるだけ寄せ集め、火力を最大にして「早く燃えつきろー、燃えつきろー」と念じる。消灯時間なのに何をやってるんだ!と言われかねない。
あとは、かくれんぼをやっている子供のように、ヒソヒソ声で喋る。
21:25
なにせ火箸がない状態で焚き火をやっている。薪の位置を調整するときは、軍手をはめた手で正拳突きするか、靴で蹴飛ばすことになる。いずれにせよ、危ない。
そういう苦労をしながらも、火力が落ちてきた。よかった、これで少し安心。光害という点で怒られることはなさそうだ。
一段落したところで、いしが「楽しみだなー、楽しみだなー」と言い出した。そして、袋からパウンドケーキを取り出して、チラッチラッとこっちを見る。五千尺ホテルで買ったやつだ。「信州りんごのパウンドケーキ」という名前だ。フルサイズはお値段が2,000円超えで「おう・・・」とたじろぐが、ハーフサイズのものが売られていたので購入した次第。てっきりお土産として家に持って帰るのかと思った。
「いやでも、美味しいかどうかまず現地で確認しないと。もしよかったらお土産でさらに買ってもいいですし」
なんという論理なんだ。
21:25
ウッキウキでりんごのパウンドケーキを食べるいし。
「どうしようかなー、あともう少し食べようかなー」なんて言ってる。本当に食べ物に関して無邪気だ。
(つづく)
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