15:43
12月ということもあって、15時をすぎると夕暮れの気配。
12時からスタートで、その後お昼ごはん休憩もあったので実質大して動き回ってはいない。
「吉備路を自転車で走り回って、あちこちの史跡を巡る」というと、たいへんな労力のように感じるが、せいぜい15キロ程度の距離、しかも平坦な道だ。途中頻繁に史跡にめぐり逢い、そこで見学という時間もあるので全然疲れることはない。
史跡見学をしないでスタートからゴールまで突っ走れば、1時間あれば到着する程度の距離だ。ぜひ、躊躇せず家族でも個人でも友人でも年寄りでも、トライしてみてほしい。ほんとお勧めだ。
ただし、見ての通り日陰が全然ない。真夏は地獄かもしれないので、その点注意。
時間があれば最上稲荷や備中松山城に立ち寄りたかったけど、やっぱり時間切れだった。おとなしくサイクリングマップに書かれた道筋に沿って前に進む。
田んぼ、そして時々民家。
遥か遠くに見える山の麓に、これから向かう吉備津神社があるようだ。
後で知ったが、航空写真で見たら卵の形をしたこの小さな山(吉備の中山、という)には、吉備津神社だけでなく僕らの最終経由地である吉備津彦神社があり、さらに山の反対側には新興宗教の黒住教の本部があった。
「新興宗教」というと怪しいイメージがあるかもしれないが、いわゆる明治期以降に生まれた、伝統宗教とは別の宗教という意味で歴史的に使われる言葉だ。金光教や天理教も新興宗教に該当する。
黒住教の本部には、一度正月に訪れたことがある。基本的に神道なのだけど教祖である方の個人崇拝も混じっていて、独特の世界なので興味深かった。建物の作りもこれまでの神社仏閣と違うので、「へえええ」と驚かされる。
そうやって大きな神社に囲まれている山は、なにやら凡人の僕にはわからない次元でパワースポットらしい。Googleマップを拡大すると、山のいたるところにいろいろな磐座があったり古墳があったり、昔から信仰を集めていたことがうかがえる。
吉備津神社。
たぶん人生で1度か2度ほど訪れたことがあるんだけど、なにせ小さい頃のことなので全く覚えていない。やっぱり神社仏閣は大人になってから見るに限るな。子供の頃に見たって、楽しくないし記憶にさえ残らない。自分の人格形成や知的好奇心に何一つ役立たなかったと断言できる。
「吉備津神社」と「吉備津彦神社」という似た名前の神社が、すぐ近くに存在する。僕みたいなニワカだと、どっちがどっちだったかわからなくなってしまうのだが、今ならもう大丈夫だ。
ながーーーーい回廊が拝殿に向かって伸びているのが「吉備津神社」だ。はい覚えた。
それにしてもすごいな、銀河鉄道999のレールみたいに、ぐいーんと回廊が伸びている。その長さは400メートル。おっ、新幹線16両編成と同じ長さだ。作山古墳よりも長いぞ。
木々の合間から見える、本殿のダブルの入母屋造は「比翼入母屋造」といい、日本唯一の作りなので「吉備津造」と呼ばれる。
入母屋造の三角がこっちを向いているので、こっちが正面に見える・・・が、あれは本殿の側面にあたる。
そのせいで、長い回廊をずーっと歩いていって、Jの字に建物を回り込んだところが拝殿、となっている。つくづく変な形の作りだ。
そんな長い回廊に何の意味があるのかと思ったら、「鳴釜神事」なるものが行われる「御釜殿」が平野部にあって、拝殿から御釜殿まで濡れずに歩けるようになっているからっぽい。いや、もっといろいろ複雑な謂われがあるんだろうけど。
で、この鳴釜とはなんだ?というと、御釜殿では釜で湯が沸いていて、その上にせいろが載せられているんだそうだ。参拝者は祈祷殿で祈祷を受けたのち、ここに祈願のご神札を持参し、神官に祝詞を上げていただく。その間に湯気が立つせいろに女官が玄米を振りかけると、独特な音が鳴り響くという。その音の聞こえ方によって願いが叶うかどうかがわかるんだそうだが、神官は結果について何も告げないので、自分なりに聞こえた音を解釈することになる。
この日はもう15時を過ぎていたので、既に御釜殿は閉まっていた。へえ、こんな珍しいお祈りがあるのは大変興味がある。自分たちも今後の将来を占ってみたいものだ。
・・・と思ったが、たった2日前に倉敷市の阿智神社で祝詞をあげていただいたばかりだ。そのわずか2日後に別の神社で「今後の二人はうまくいくでしょうか?」と占うだなんて、おかしいだろさすがに。
この神社の回廊が面白いのは、御釜殿から伸びている回廊と、境内の端っこのところまで伸びている回廊とがT字で合流していることだ。
昔は72の末社があったということで、今でも境内のいたるところにお社があるようだ。「あるようだ」という伝聞調なのは、「おっ、ここにもなにかあるぞ」「スルーでいいんじゃないですか」というやりとりの結果、全スルーになったからだ。
時間が許せば、この境内のすみずみを探検してみたいものだ。それくらい、この境内は独特で興味深い作りをしている。
回廊の坂を登って拝殿を目指す。
「子供の頃に神社仏閣を見ても記憶に残らない」とさっき書いたが、かといって歳を取ってから楽しめるかというと別の問題が出てくる。それは、神社仏閣が足腰に負担を強いる場所を好むからだ。冥土の土産とばかりに、70歳80歳になってから神社仏閣巡りを趣味にするのはやや遅い。そういうものが好きになるなら、若いに越したことはない。
変な作りの神社、というのがこの「周辺図」でわかるだろう。
回廊が変だし、社殿の配置が変だし、桃太郎線(=JR吉備線)吉備津駅からまっすぐ伸びている参道と拝殿・本殿の向きがズレているのも変だ。
だいたい、なんで山のてっぺんでもなければ山の麓でもないところに本殿があるのかも、謎だ。
いや、歴史を紐解けばいろいろわかることがあるんだろうけど、僕は神社の歴史というのが全く覚えられない。まず、主祭神の名前すら覚えられないし、境内内の看板やリーフレットで歴史を確認しても、ナントカ天皇がどうたら、その後ナントカ天皇がうんたら、と複雑すぎて覚えられない。
こういうのが覚えられて、いろいろな神社との結びつきや歴史との関係性を総合的に理解できると面白いんだけどなぁ。
本殿をぐるっと周りこむように回廊を歩いたところが拝殿。
冗談みたいなデカさのしめ縄がぶら下がっている。2日前に阿智神社で見たしめ縄は新しい稲穂で作られていて青々としていたけど、こちらは見事な茶色。ええと、どこかでこれは見たことがあるぞ。そうだ、長崎中華街でお土産としてよく売られているお菓子、「よりより(麻花兒=マーファールー)」だ。
ちょうど今年は令和元年ということもあって、「奉祝 天皇陛下御即位」と書かれた垂れ幕が両側に掲げられていた。
拝殿およびその奥に連なる本殿は国宝。
主祭神は大吉備津彦命。281歳まで生きて、この山に葬られたそうだ。281歳まで生きたとなると、そりゃあ神様以外ありえない。
こんなデカい本殿はそうそうない。
「デカい神社だなー」と思っても、実際にデカいのは拝殿であって、本殿そのものはその裏にちっこい建物としてあることが多い。阿智神社がまさにそうだ。
お寺と違って、神道にはデカい仏像を安置するようなスペースを必要としない。じゃあこのデカい本殿の中は一体どうなっているんだ。大吉備津彦命さんがどういう方なのか存じ上げないが、アマテラスさんとは違う系譜の方っぽい(→僕の勝手な推測)。大吉備津彦命を祀るにはこれくらいの建物がふさわしい、ということなのか。
拝殿のほうから見下ろした、北随身門。美しい屋根。
カラーコーンが人の流れを誘導するように設置されている。随神門にうっかり近づいて触れるなよ?ということらしい。なんでわざわざそんなことを?とおもったら、室町時代に作られたもので、国の重要文化財だからだった。えっ、びっくり。
16:25
西の空に日が沈みつつある。
ちょっと急がないと。最後の目的地、吉備津彦神社に行ってから自転車を返却しよう。
(つづく)
コメント
コメント一覧 (5件)
ご結婚されたんですね。おめでとうございます。20年近く前、カレーのまんてんとえぞ松の記事を拝見し、その後は牛サシか何かでお店の全メニュー制覇など、楽しく読ませて頂いておりました。久しぶりに閲覧し、コメントをさせて頂く次第です。
idekenrrさん>
お祝いメッセージありがとうございます。久しぶりのこのサイト、外観も中身もすっかり変わってしまって驚かれたと思います。
「美貌の盛り」をやっていた頃から基本的に何も変わっていないつもりなんですが、昔連呼していた「無茶してナンボ」という言葉は今だと全然使わなくなったな、とふと気づきました。無茶できなくなったんだろうなぁ。
また20年後、「まだやってたのか」とidekenrrさんから言われるよう、これからも頑張ります。
おかでん殿
結婚式前後の事連載が完結してからコメントさせていただこうと思い、遅くなりました。
連載もさぞ工夫された事とおもいます。
今まで通りのアワレみ隊ontheWeb連載の流れで、スペシャルイベントを違和感なく読ませていただきました。
奥様そしてご子息と末永くお幸せに!
にしても両家参列の式とは言え準備がこんなにも大変だったとは…。
自分達は諸事情により2人だけで新婚旅行を兼ねてのラスベガス挙式(ジョン・ボンジョヴィと同じチャペルを妻が熱烈希望)だったので、現地日本人コーディネーターにお願いしたくらいですが。
話は飛びますが、高校野球選抜大会の日程次第では、大阪から広島へ延泊してますゐ訪問を企んでおります。昼・夜・昼&特ランチ弁当なんてシミュレーションし始めただけで涎が止まりません!
軍曹殿>
ラスベガス挙式すげー。そんなことをやっていたんですか。しかも2人だけって、逃避行みたいですごいですね。
そういえばラスベガスって、質屋とチャペルが非常に多かったような気がする。
結婚もギャンブルといいますが、軍曹殿はそのギャンブルに勝ったようでなによりです。
ますゐ詣で、ぜひご堪能あれ!僕も最近のますゐについては全然疎いので、最新情報入手のために足繁く通ってみてください!!
おかでん殿
事実上の高飛びってやつです。
その前は同級生とか野球部同期の友人達がお祝いの会を開いてもらったので、感謝しています!
(実家出禁も半年後には解除されました。)