おかでん結婚式前後のできごと【倉敷・吉備路】

レストラン「八軒蔵」での会食中、婚姻届を仕上げるという大事な作業を行った。

婚姻届には証人欄が2名分用意されており、そこへの記入捺印が必須事項となっている。僕といし、それぞれ友人一人ずつ証人を立てて予め記載しておくこともできたが、事前説明する時間的余裕があまりなかったのと、手っ取り早さから両家の親を証人になってもらうことにした。

会食の席上で親に婚姻届を仕上げてもらい、「これをもちまして婚姻届が無事完成いたしました!」とジャーンとお披露目する・・・そういう段取りだった。

しかしこの発想は甘かった。一字一句間違えただけでもダメとされる婚姻届。「ああ、漢字を間違えちゃった」では済まされない。書き損じが出ないよう、婚姻届の証人欄には薄く鉛筆で下書きをしておいた。「この下書き通りに書いてハンコを正しく押してくれれば、それで問題ない」と。

でも、やられた。親の横にぴったり寄り添って「ここに書いて」と助言していたにもかかわらず、うっかり書き間違いが発生。あーあーあーあーあー。

こんなときのために予備の婚姻届の紙は用意してあったけれど、慌てた。なにせこっちはパリッとした身なりに変身している立場。サッとカバンから朱肉だの印鑑だのが出てくる状態ではない。ええと、どこに置いてきたっけ。

「こりゃあ、今日婚姻届が出せなくなるかも」と一瞬焦った。

結婚式後の会食の場で婚姻届を仕上げるというのは演出上悪くない。でも、書き損じリスクがある上に、もしそうなった時は場が痛ましい空気に包まれる。やめておいた方がいい。

とはいえ、両家が顔を揃えたのは結婚式のわずか数十分前のこと。今回は会食の席でやるしかなかったんだよな。

上の写真は、花嫁姿のいしが高砂席で証人欄に捺印しているところ。本来なら当然印鑑も証人に押してもらわなくちゃいけないんだけど、危なっかしいので記名だけお願いし、捺印はこちらで代行させてもらった。印影が薄くて不受理、ってことになったら困るからだ。

「不受理」と結果がはっきりわかるならまだマシだ。僕らの場合、この会食が終わったのちに役所の夜間窓口に婚姻届を提出することにしている。結婚式と入籍日を同日にしたいからだ。その際、夜間窓口の人はプロじゃないので「一旦お預かりします」というスタンスになる。書類に不備があったかどうか、その場ではわからない。

婚姻届の提出日をすごく気にしていたのは、結婚とともに新しい本籍地ができて、いしの場合は名字が変わるからだ。お互い本籍地が別々のところの人間が結婚して一つの戸籍を新しく別の場所に作るので、自治体間をデータが行き交って作業が完了するまでだいたい一週間程度かかるのだという。

その戸籍変更を待って、いしはアフリカ行きの準備を進めていくことになる。パスポートの変更は当然として、黄熱病をはじめとする各種予防接種の予約を計画的に入れていく必要がある。ビザ申請までにすべての段取りが終わっていないといけないので、一日も早く結婚がらみの手続きを終わらせたかった。

なんとか無事に記載が終わって一息つけたが、慌てて書き直している時はかなり気まずい空気になった。

気を取り直して、ウェディングケーキの登場。

ダルマをあしらったウェディングケーキ。もちろん特注品。ハリボテのケーキではなく、中まで全部ケーキだ。

当初、ウェディングケーキなんて用意するつもりはなかった。親兄弟プラスαしかいない席で「ケーキ入刀」だなんて大げさだ、と思ったし、そういう「写真撮影チャンス」を参加者に用意するのだ、という風潮自体がブライダル業界の陰謀みたいに僕は感じていて、積極的に回避したいアイテムだった。

しかし、プランナーさんからケーキのサンプル写真を見せてもらった時、このダルマ型ケーキがあってふたりとも心が奪われた。これは良い、これは面白い、と。

僕らは途中でお色直しなんてせず、最初から最後まで同じ和装だ。ドレスやタキシードを着ているわけでもないし、ケーキという洋風なのはねぇ・・・と思っていたのだけど、ダルマ型ケーキなら話は違う。和テイストじゃないか、これ。

ダルマは、いちごがびっしりと敷き詰められていることで赤色を演出している。そして、ケーキ入刀ではなく、ダルマにチョコペンで目を入れるという演出も「そう来たか!」と唸らされた。人様のアイディアだけど、拝借することに決めた。

とはいっても、あくまでも僕らは「レストランでコース料理の会食」をしている立場。コース料理には最初からデザートがついていて、甘いものが重複してしまう。結局、この日の会食に参加した人は二回、デザートを食べる羽目になった。

ダルマのデザインはいしが熱心に考え、紙を切り抜いて実寸大のサンプルを作ったりして吟味していた。直径をあと1センチ大きくしてほしい、とか日付が入るひし形のホワイトチョコを1センチ小さくしてほしい、といった細かい調整をあれこれやってくれた。

「参加者の人数と年齢を考えたら、あまり大きくしないほうが良さそうだ」「姪っ子・甥っ子は果たしてケーキを食べるだろうか?食べるなら、足りるだろうか?」

などとあれこれ考えていた。オリジナル性を結婚式に入れると、ものすごくあれこれ配慮が必要になってくる。

ケーキカットならぬ、チョコペンによるケーキ入眼。

ダルマウェディングケーキを作るカップルの場合、大抵は男女それぞれが一つずつ目を描き入れる。しかし僕らは、一つの目だけを描くことにした。ダルマに両目を入れるということは満願成就ということであり、結婚が人生のゴールになってしまう、と思ったからだ。

敢えてここは片目だけ、描く。これからともに歩む人生に思いを馳せ、片目は残しておく。ええ話や。

しかし見た目だけで言うなら、二人がそれぞれ小さなチョコペンを手にダルマの片方の目にチョコを注ぎ込んでいるという構図はあまり写真映えするものではなかった。なにかイタズラをコソコソやっているような構図だ。

なるほど、過去数多くの結婚披露宴において、ハリボテを使ってでも巨大なウェディングケーキをおっ立てたカップルが多い理由がわかった。ケーキ入刀の際、身をかがめなくて良いからだ。大変写真写りがよろしい。

いっぽうの僕らはというと、背中を丸めてダルマ入眼。

まあ、むしろ微笑ましくていいと思う。こういうのが僕らにはお似合いだ。

2つのチョコペンすべてを絞りきってダルマの片目が描かれた結果がこれ。

加減をわきまえた方が良かったな、これだと単なるウンコみたいだ。ケーキ入刀だって、エイヤッと袈裟斬りにケーキを切り倒すわけじゃなく、「入刀するポーズ」を取ることが大事だ。僕ら、ついついチョコペンを絞りきってしまった。

会場の入り口にちょこっと飾られたフェーヴ。

僕が今年の1月、行きつけのカフェで食べたガレット・デ・ロワに入っていたものだ。

ホールのガレットの中に1個だけこのフェーヴ(フランス語で小さな人形、の意味)が入っていて、切り分けて食べた際に自分のケーキの中にフェーヴが入っていれば今年1年幸運、とされる。

行きつけのカフェはその当時23時まで営業をやっていて、僕は日没後よく訪れていた。

いしとはまだ親しくなり始めの頃で、僕がお誘いの連絡をしても返事が返ってくるかどうか、さっぱりわからなかった。21時ころになって「今日これからなら空いてます」といきなり連絡が来ることもあって、こっちはいつでも臨戦態勢を取っておく必要があった。

せっかく今日会える、となったのに僕が既に夕食を済ませていたらそれは残念なことだ。なので僕はカフェに通い、コーヒーだけ、またはコーヒーとスイーツでひたすら連絡を待ち続けた。そんなときに引き当てたのが、このフェーヴだ。結果的に僕は今こうして結婚式を挙げているのだから、とても感慨深い。

なお、そんなこんなで半年近くもの間神出鬼没のいしの連絡を待ち続けたため、夕食を食べそびれる日が続出した。結果的に僕はこの2019年、病気を疑うレベルで激やせした。

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この日、僕たちの甥や姪も参列していたのだけれど、彼ら彼女ら用に用意されたメニュー。これもいしが作ったもの。

子どもたちにもメニューがあったほうが楽しいだろう、という配慮。

会場にメニューの作成を依頼するとお金がかかるので、お子様向けに出てくる料理を聞き取り調査し、自前で作った。

式が終わり、服を着替えて一旦荷物を家に置きにいく。あれこれ荷物が多い。

神前式を挙げた阿智神社からは、写真のようなものを頂いた。御神酒や箸、木工細工など。

体制を立て直し、倉敷市役所の夜間窓口に行く。日曜日の夜ということで、当然市役所は真っ暗だ。がらんとした広い駐車場に車を停めるが、本当にここで受理してもらえるのか心配になる。

だって、役所の夜間窓口なんて人生で一度も利用したことがないから。たぶん、今後もこんな経験はしないと思う。まさか夜間窓口で住民票の発行とかやってくれないだろうし。

そもそもこれまで足を踏み入れたことがない市役所で、さらに夜間窓口だ。場所をちょっと探した。

あ、「夜間休日受付」という看板が出ている。どうやら地下に潜ったところにあるらしい。変わった建物だ。

この市役所は倉敷中央病院や倉敷国際ホテルといった倉敷界隈の建物を数多く手掛けた建築家・浦辺鎮太郎の手によるものだけど、西洋のお城をモチーフにしたとしか思えないデザインの建物でびっくりさせられる。えっ、なんで唐突に!?と。しかもこの洋風っぽい役所は背が高く、遠くからでもとても目立つ。

倉敷市はずいぶんエキセントリックで、現在の庁舎ができる前は美観地区すぐ脇に丹下健三デザインによる庁舎を建てていた。それが1960年竣工。しかしわずか20年で現在の庁舎に移転し、丹下健三の建物は今では市立美術館に転用されている。

夜間休日受付の前で記念撮影&記念動画撮影。

「へええ・・・」と感心させられたのが、いしのスマホに続々と寄せられる、お祝いのメッセージ動画だ。学生時代の友人を中心に、LINEで「おめでとう!」という動画がどんどん送られてきた。

お祝いメッセージを動画で送る、という発想は昭和生まれの僕にはなかった。あれ?そういえばいしも昭和生まれだ。

僕といしとが決定的に違うのが、iモードやスマホがネイティブだったかどうか、ということだ。僕もそれらを使いこなしてはいたものの、やっぱり世代が違うと感性も違う。動画で自己表現をして、それを送るだなんて僕はこれっぽっちも思いつかなかった。さすが若い世代。

僕は、未だに「動画は通信帯域もメディア容量も圧迫するのでマナー的にどうなんだろう」とか、「スマホよりもPCの方が便利じゃないか?」などととっさに考えてしまう。なにせMS-DOSでコマンドを1バイト分節約するかどうか、そういう次元で育ってきた習性が抜けきっていない。頭ではわかっていても、リッチでファットなコンテンツを、しかもネットで用意するという発想が出て来ない。

僕だけじゃない。僕の周囲もみんなそうだ。だいたい、「Gmailやhotmailといったフリーメールは怪しいのでブロック」とか、「そもそもSNSは情報を抜かれるおそれがあるのでやらない」という人が大勢いた時代の人たちだ。

「ああ、動画メッセージという発想すら出てこなかったのは、僕が既に老害化した証なんだろうな」と嘆息する。

嘆息するいっぽうで、自分自身で動画メッセージを作成して「結婚しました!」と友人に動画をばらまくことは思いつかなかった。やればよかったのに。いしがそういう動画を撮影するのに付き合って一緒に映ってはみたものの、自分が自分の友人に向けた動画を撮る、という発想は最後まで思いつかなかった。今この文章を書いていて、ようやく気がついたくらいだ。ほら、やっぱり老害だ。

倉敷市役所の夜間休日受付。

本当に裏口みたいな場所なんだな。

職員さんが輪番で待機しているのかと思ったら、そこにいたのは制服を着た警備員さんだった。本当に単に資料を一時受理してくれるだけの役割らしい。

婚姻届を無事提出することができたので、市役所近くで見かけたイタリアンレストランでちょっと一息つくことにした。今日一日、気が張りっぱなしだったからだ。

婚姻届を「提出」することは無事に出来たけど、ちゃんとこれが受理されるかどうかはわからない。明日午後、改めて倉敷市役所を訪れ、「婚姻届受理証明書」を申請する予定だ。受理証明書そのものは対外的にほとんど意味をなさないのだけど、「ああちゃんと戸籍課に婚姻届が引き継がれ、形式審査でオッケーが出たんだな」ということがわかる。

このお店、なんの予備知識もなく入ったのだけど良かった。何が良かったって、料理が美味しかったこともさることながらノンアルコールビールが置いてあったことだ。モレッティといえばイタリアビールで有名だけど、そのノンアル版なんて初めて見た。あるんだな、こういうのが。

ノンアルコールビールとスパークリングワインで祝杯。おつまみのグリッシーニがうまい。

前菜の盛り合わせを食べつつ、肩の力を抜く。

二人は今日結婚したわけだが、これといった実感がない。左手の薬指にはめられた指輪がどうも不慣れで気になってしょうがないが、せいぜいその程度だ。何か合格通知書みたいなものが届くとか、当選の電話がかかってくるとか、そういうドラマティックな瞬間というのは特にないので、「こんなものなのか、結婚って」と思ってしまう。

むしろ、まだ残タスクがたくさんのこっている。お互いの職場での事務手続きだとか、結婚式関連の残務処理とか。直近ではいし家の皆様が無事静岡に帰っていただくよう、お見送りをしなければならない。そういうあれこれを考えていると、まだまだ終わった感じがしないし、新婚が始まったという実感もない。

同棲生活が既に半年、住民票も既に一緒になって久しいという僕ら。きっと、結婚式後に同居開始というカップルの場合、「さあこれからだ!」感を強く感じているだろう。そういうドタバタとは無縁な分、比較的冷静だ。

「結婚式を家族内で挙げるだけでもこれだけ大変なんだから、結婚してから引っ越して同居するカップルはもっともっと大変だろうな」

と二人で話し合う。特に、ふたりとも引っ越して全くの新居に移り住むとなると大変だろう。家具はどうするの、とか決めなくちゃいけないことが結婚式後も続々出てくるから。たぶん、僕だったら心労で途中でトーンダウンしてしまうと思う。

たまたま僕らは同棲になだれ込むのが結婚より先だったし、いしが僕の家に引っ越してきたので気が楽だった。歳のことはあんまり言いたくはないが、やっぱり40歳をすぎるとあれこれ決めるのがしんどく感じる時がある。今回の段取りで結婚まで至ったのは45歳の僕にとっては最も良い流れだったと思う。

(つづく)

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コメント

コメント一覧 (5件)

  • ご結婚されたんですね。おめでとうございます。20年近く前、カレーのまんてんとえぞ松の記事を拝見し、その後は牛サシか何かでお店の全メニュー制覇など、楽しく読ませて頂いておりました。久しぶりに閲覧し、コメントをさせて頂く次第です。

  • idekenrrさん>
    お祝いメッセージありがとうございます。久しぶりのこのサイト、外観も中身もすっかり変わってしまって驚かれたと思います。
    「美貌の盛り」をやっていた頃から基本的に何も変わっていないつもりなんですが、昔連呼していた「無茶してナンボ」という言葉は今だと全然使わなくなったな、とふと気づきました。無茶できなくなったんだろうなぁ。
    また20年後、「まだやってたのか」とidekenrrさんから言われるよう、これからも頑張ります。

  • おかでん殿
    結婚式前後の事連載が完結してからコメントさせていただこうと思い、遅くなりました。
    連載もさぞ工夫された事とおもいます。
    今まで通りのアワレみ隊ontheWeb連載の流れで、スペシャルイベントを違和感なく読ませていただきました。
    奥様そしてご子息と末永くお幸せに!
    にしても両家参列の式とは言え準備がこんなにも大変だったとは…。
    自分達は諸事情により2人だけで新婚旅行を兼ねてのラスベガス挙式(ジョン・ボンジョヴィと同じチャペルを妻が熱烈希望)だったので、現地日本人コーディネーターにお願いしたくらいですが。
    話は飛びますが、高校野球選抜大会の日程次第では、大阪から広島へ延泊してますゐ訪問を企んでおります。昼・夜・昼&特ランチ弁当なんてシミュレーションし始めただけで涎が止まりません!

  • 軍曹殿>
    ラスベガス挙式すげー。そんなことをやっていたんですか。しかも2人だけって、逃避行みたいですごいですね。
    そういえばラスベガスって、質屋とチャペルが非常に多かったような気がする。
    結婚もギャンブルといいますが、軍曹殿はそのギャンブルに勝ったようでなによりです。

    ますゐ詣で、ぜひご堪能あれ!僕も最近のますゐについては全然疎いので、最新情報入手のために足繁く通ってみてください!!

  • おかでん殿
    事実上の高飛びってやつです。
    その前は同級生とか野球部同期の友人達がお祝いの会を開いてもらったので、感謝しています!
    (実家出禁も半年後には解除されました。)

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