いし家と別れたのち、僕らは二人で倉敷にとどまった。
今日はあとひとつ、大事なことがある。昨晩訪れた倉敷市役所を再訪し、ちゃんと婚姻届が受理されているかどうかを確認することだ。
婚姻届が正しく受理されていれば、「婚姻届受理証明書」なるものを発行してもらえるそうだ。
ちゃんと受理されているかどうか、一刻もはやく確認したいところだが、僕らはわざと遅い時間に行くことにした。というのも、婚姻届を役所に提出したのは日曜日夜だからだ。
役所は土日閉まっているわけで、月曜日の朝になってから金曜夜~日曜夜の間に提出された婚姻届を順次処理しているはずだ。
気が急いて早く役所に確認に行くと、「まだ中身を拝見していないので、もう少し後で来てくださいねー」と言われてしまうかもしれない。なので、夕方に役所に行くことにした。
もしここで不受理だったら?もうその時はその時だ。今日再提出は諦めて、明日再提出だ。その時は、岡山にいる僕の父母を証人にして体裁を整える。
倉敷市役所に向かう前、倉敷中央病院に行ってみた。
美観地区から少しだけ離れたところにある巨大病院。大原孫三郎が、倉敷紡績所の職員向けに病院を整備したところから始まって、今では地域の基幹病院になっている。
全国の病院ランキングが経済誌などに掲載されたら、たいてい五本の指に入るような病院だ。
僕はインフルエンザにかかって救急外来を受診したことがあるくらいだ。まあ、病院にはお世話にならないに越したことはない。
そんな巨大な病院、しかも歴史がある病院ともなれば僕が大好きな「増改築しまくりで複雑怪奇な建物構造」になっている。今回はそんな病院を探検してみよう、というわけだ。
ちなみに建物のデザインは、倉敷市役所と同じ浦辺鎮太郎によるもの。
この病院のすごいのは、建物の真ん中あたりに巨大な温室がある、ということだ。
入院患者に憩いの場と安らぎを、という配慮で作られたものだという。すげえ。
こんなものがしれっと建物の中にあるくらいだから、そりゃあもう廊下はパックマンの迷路みたいに入り組んでいるし、低層棟と高層棟があちこちにあってすごいですよ。
「おっ、こっちにカフェがあったのにこっちにも!」「売店がここにも!」「図書館があるぞ!」
などと驚きと興奮だらけだ。しまいには、スタッフ専用の出入り口を発見し、「この出入り口の奥はどこにつながっているのだろう?」などと考えてみたり。とにかく楽しい。
それもこれも、僕がこういう大病院にお世話になる機会がほとんどなかったからだろう。入院されている方にとっては「早く退院したい・・・」と願ってやまない場所だし、僕はそういう人たちのお気持ちを邪魔する気はないので、コソコソと見て回る。
医療従事者にとっては当たり前なんだろうけど、売店にウィッグが売られていたりするのは僕にとって新鮮な驚きだし、売られている食べ物や日用品がまちなかのコンビニと違う、というのもいちいち感心させられる。
そして、外来エリアの部屋の配置も興味深い。きっと業務効率や患者の導線を考えた結果今のレイアウトになっているはずだけど、なぜこうなったのかは素人にとってさっぱりわからない。だからこそ、あれこれ推理できて面白い。
単に院内を冷やかすというのはスジが悪い。この温室の地下にある喫茶店でお茶をしに来た、というのが実際のところだ。
面白いのが、喫茶店の名前が「温室のレストラン」ということだ。そのまんまだ。さらには、別店舗として「温室のうどんや」というのもある。うどん専門店がある病院!さすがうどん県香川県のお隣だけある(岡山県と香川県は経済的・文化的な繋がりがそれなりに深い)。
これらのお店は、病院が外来をやっていない土日祝日が定休日だ。なので、お店に入るのは初めてだ。
へええ・・・
えんじ色のテーブルクロスが敷かれた、すごくしっかりしたレストランでびっくりした。
コーヒー一杯をいただきにやってきたのが申し訳なくなるようなお店。
そんな客席の一角で、すでにカトラリーやワイングラスが用意されているテーブルがあった。しばらくすると、女性と男性のペアがやってきて、なにやらフルコースらしき食事を食べ始めたのでびっくりした。いやだって、まだ夕食時間にしちゃ早いぞ。
それにしては、やけに立派なものをお召し上がりになってらっしゃる。なにしろ、テーブルにコース料理のメニューが置いてあるくらいだし、食器も全部立派なものだ。
「なんだろう?退院祝い?それとも密会?」
このときいしは「祝い膳じゃないかな」と正解を言っていたのだけど、僕自身が「祝い膳」という概念をまったく知らなかったので理解できなかった。
祝い膳というのは、このあと1年ちょっと後に知ることになるのだけど、子どもを産んだあとお母さんとそのパートナー(や親族)とが出産を祝って会食をすることなのだそうだ。産婦人科の場合、入院費用の中に祝い膳のお金が含まれていることが多いとのこと。へー、そんなものがあるのか。
後日談になるが、我が家に息子が生まれた際、この祝い膳に僕は立ち会えなかった。コロナ真っ盛りの時期で、分娩に立ち会えないのは当然として、入院のお見舞いもできなかったからだ。結局いしが一人で黙々と祝い膳を病室のベッドで食べることになり、さらには食事中に弊息子が泣き始めたため、いしは食べ物を早食い・丸飲みしたのだという。
僕が祝い膳を食べられなかった分、入院費用はお安くなるのかと思ったら、それは変わりなかった。そのかわり、ジェラート・ピケの子供服がもらえた。まさか食べ物が子供服に化けるとは。
話を2019年12月に戻すと、この数カ月後にはコロナのために緊急事態宣言が発令されることとなり、全国どこの病院も祝い膳を家族で食べるというイベントを取りやめたはずだ。なので、僕がこの時見た光景というのは、「嵐の前の静けさ」だったと言える。
そんなことをつゆ知らず、コーヒーをいただく。うん、美味しい。
入院病棟がある建物の屋上には庭園があるらしい。地図にそう書いてある。
入院患者でなくても行けるようなので、疑いながらも最上階に行ってみた。すると本当に庭園があってびっくりした。
ホスピタリティがすごいな、この病院。
地下には立派なレストラン、地上には立派な温室、そして屋上には立派な庭園。
屋上庭園から倉敷駅方面を見た景色。
2019年当時だから、こうやって「コーヒー飲みに院内のレストランにやってきました。ついでに院内探検もしました」ということができた。コロナ流行がはじまった2020年以降、こういうことをやるのは不謹慎という時代になったかもしれない。
16:56
閉庁ギリギリの時間に、倉敷市役所の住民課を訪れた。
自分が住んだこともない役所を訪れることは人生で初めてだ。ええと、どこにあるんだろうと地図を見ながら窓口を探し当て、婚姻届が受理されているかどうかの確認をお願いした。
結果として、ちゃんと受理されていることが判明してほっと一安心。
あとは、お互いの本籍地がある役所や現住所がある役所の間を情報が行き来し、新しい戸籍ができるのを待つことになる。
ひとまず、婚姻届再提出というマズい展開にならなくて良かった。
(つづく)
コメント
コメント一覧 (5件)
ご結婚されたんですね。おめでとうございます。20年近く前、カレーのまんてんとえぞ松の記事を拝見し、その後は牛サシか何かでお店の全メニュー制覇など、楽しく読ませて頂いておりました。久しぶりに閲覧し、コメントをさせて頂く次第です。
idekenrrさん>
お祝いメッセージありがとうございます。久しぶりのこのサイト、外観も中身もすっかり変わってしまって驚かれたと思います。
「美貌の盛り」をやっていた頃から基本的に何も変わっていないつもりなんですが、昔連呼していた「無茶してナンボ」という言葉は今だと全然使わなくなったな、とふと気づきました。無茶できなくなったんだろうなぁ。
また20年後、「まだやってたのか」とidekenrrさんから言われるよう、これからも頑張ります。
おかでん殿
結婚式前後の事連載が完結してからコメントさせていただこうと思い、遅くなりました。
連載もさぞ工夫された事とおもいます。
今まで通りのアワレみ隊ontheWeb連載の流れで、スペシャルイベントを違和感なく読ませていただきました。
奥様そしてご子息と末永くお幸せに!
にしても両家参列の式とは言え準備がこんなにも大変だったとは…。
自分達は諸事情により2人だけで新婚旅行を兼ねてのラスベガス挙式(ジョン・ボンジョヴィと同じチャペルを妻が熱烈希望)だったので、現地日本人コーディネーターにお願いしたくらいですが。
話は飛びますが、高校野球選抜大会の日程次第では、大阪から広島へ延泊してますゐ訪問を企んでおります。昼・夜・昼&特ランチ弁当なんてシミュレーションし始めただけで涎が止まりません!
軍曹殿>
ラスベガス挙式すげー。そんなことをやっていたんですか。しかも2人だけって、逃避行みたいですごいですね。
そういえばラスベガスって、質屋とチャペルが非常に多かったような気がする。
結婚もギャンブルといいますが、軍曹殿はそのギャンブルに勝ったようでなによりです。
ますゐ詣で、ぜひご堪能あれ!僕も最近のますゐについては全然疎いので、最新情報入手のために足繁く通ってみてください!!
おかでん殿
事実上の高飛びってやつです。
その前は同級生とか野球部同期の友人達がお祝いの会を開いてもらったので、感謝しています!
(実家出禁も半年後には解除されました。)