伊豆大島討伐

溶岩の中

「南東館は諦めて別の店にすっか?」

と提案するが、しぶちょおは

「いやー、せっかくだからこのお店にしておきたいんだよなあ」

と渋る。そして、引き続いて

「昼の営業時間は短いんだから酒飲んで席を占拠するなと」

とまたもや酒飲み親父の批判が。やべー。同じ酒飲みとして、なぜかおかでんまでも恐縮する。

ええと、どうしよう。微妙だな。とりあえず島の外周を回って先に進んで観光スポットを見ておこうとすると、そのままずるずると元町集落から外れてしまい、お昼ご飯を食べそびれるのは目に見えている。

元町を外れると、島の南東部にある波浮(はぶ)集落までしばらく人が住んでいない空白地帯が続く。波浮まで行けば、ガイド本にも載っているような有名な寿司屋があったりするのだが、多分到着した時点で「お昼営業終了」だろう。やべー、どうしよう。

手詰まり感ありありの中手元の島内地図を見ていたら、元町集落の拡大図の隅に「→至 溶岩流先端」という表記を発見した。なんだろう、これは。ガイド本には載っていないし、どの観光パンプレットにも具体的な記述がない。ただ、名前の通り「噴火口から流れ出た溶岩の先端がある」のは間違いなさそうだ。とりあえずすぐ近くにありそうなので、時間つぶしがてらそこに行ってみる事にした。

車を山の方向に走らせてみると、溶岩流がナントカ、と書かれた看板と川をまたぐ木の橋が見えた。ただ、その橋は通行不可になっていたのでここは素通りするしかなかった。どうやら、遊歩道があったらしい。

そこからわずかに車を走らせると、車道は川を渡る。

「おい、この両側、溶岩じゃないのか?」

しぶちょおがブレーキを踏んで指摘する。ああ、言われてみればそうだ、これ、両側の黒い岩は溶岩だぞ。

ということは、ここはまさに「溶岩のまっただ中」な訳だ。へえー。

溶岩を観察
溶岩

車をおりて溶岩を観察する。

溶岩の幅はそれほど広くない。せいぜい20~30mくらいだろうか。溶岩流の先端に近いから、細いのだと思われる。

「ここ、集落からずいぶんと近いよな」
「近いな。車でたった数分だった」
「あともう少し勢いが強かったら、集落まで届いていたな」
「あぶねー。間一髪だったわけだ」

車道は溶岩を削って貫通しているが、その道路が「もともとの土地の高さ」だとしたら、溶岩は3m弱ほどの厚みがあることになる。なんなんだこの圧倒的な物量作戦は。そんなにどばーっと吹き出したら、三原山はすっからかんになって、ぺしゃんこになりそうな気がするのだが、ならないんだねぇ。一体地球ってどうなってるんだよ。ブラックホールで吸い込まれた星の残骸が、ホワイトホールとして地球の火山で吹き出ているんじゃないか?

この溶岩流貫通道路は、特に何も案内看板がないし、目印もない。多分地元の人は観光資源とはみなしていないらしい。実際、三原山の火口に行けば溶岩なんて腐るほどあるし、われわれだって昨日、「割れ目噴火口」で溶岩は見ている。それでも新鮮な驚きを与えてくれる場所なのだから、ここは観光資源になると思うんだがねぇ。

唯一、小さな看板が出ていたのが写真右。「溶岩樹形」と書かれていた。

「何が?」
「この丸い穴だろ」
「ああ!」

どうやら、木が溶岩に飲まれた際にできた空洞らしい。で、木は高温のせいで燃え尽き、木の形だけが溶岩に刻まれたというわけ。富士山の北側斜面にこの手のものはたくさんあるが、あっちは規模がものすごい大きく、鍾乳洞のようになっている。その点こちらは木の幹一本。でも逆にこっちの方が現実味があって凄みがある。

溶岩流の上1
溶岩流の上2

しぶちょおが溶岩流の上によじ登る。でこぼこが多いので、案外登りやすい。

「おおおお!」

溶岩の上でしぶちょおの叫び声が聞こえる。

「これはすごいぞ。別世界のようだ」

おかでんもよじ登ってみた。溶岩の上の景色はこんな感じ。

写真左が、溶岩が流れてきた山の方角を撮影したもの。噴火口があるであろう場所ははるか先だ。グレートジャーニーを経てここまで流れてきたのか。さらさらした川の水じゃないんだから、よくぞここまで流れ着いたものだ。

写真右は、さらに溶岩流の下流を眺めたところ。しぶちょおが思わず叫んだのはこちらの光景。本当に川のように、帯状に溶岩が伸びている。このもうちょい先が溶岩流先端、というわけだ。

できればギリギリ先端まで行って、「かろうじて俺たちのチカラで溶岩を食い止めたぜ」というやらせ写真を撮影したかったのだが、このごつごつした溶岩の上を歩いていくのはちょっと現実的ではない。膝がパンク寸前のしぶちょおは特にアウト。

「すげーなー」

と、「溶岩流先端のちょっと手前」のここで感嘆して、この場は丸く収めることにした。

南東館メニュー

自然の神秘を十二分に堪能したわれわれは、「肉体の神秘」というものもそろそろ感じてきている。すなわちそれは、「腹時計が鳴る」ということだ。俺の胃袋にも溶岩流のように食べ物を流し込んでくれよ、と胃袋が要求してきている。まあ待て、その意見にはこちらも全く同意だ。再度「南東館」に行くぜ。

強風で開けっ放しになってしまい、閉めるのに大変難儀する扉と格闘してからお店の中へ。ちょうどわれわれと入れ替わりにお客さんが一組出て行ったので、タイミングが良かった。酒飲んでいるおっちゃんはまだ手酌をやっていた。

ええと、何を食べよう。「磯焼きめし」を食べるのは既定路線だが、なにやら壁にはたくさんのメニューがあるぞ。

ピリ辛ウインナー、レバニラ、ジンギスカン、馬刺、ポテトチップ・・・。完全に居酒屋メニューだ。あ、「夜のメニュー」って書いてある。なるほど。ここは島民の居酒屋としても昨日しているらしい。

そりゃそうだ、週末やピーク時だけやってくる観光客だけ相手に商売なんぞ、できん。地元の人にお酒飲んでもらって、あれこれ食べてもらわないと商売にならぬ。それにしても「キムチ鍋」もあるのか。こういう観光地の飲食店にしては、非常に普段着のお店過ぎておもしろい。普通、「地元民向けの店」と「観光客向けの店」ってなんとなく分かれているものだが、渾然一体となっているのはここが島だからだろうか。

その割には、ラストオーダーがめっぽう早い。昼営業が13時半というのはまだ良いとして、夜は20時。都会と時間の流れ方が違うんだな、というのがこのあたりにも如実にあらわれている。

くさや

店員さんが、われわれのテーブルを片付けている。前のお客さんのお皿がまだ残っているからだ。そんな中、焼き魚がほとんど手つかずになっていた。

「おっ、くさやだ!」

ああ、そうだ、くさやだ。「くさや」という魚がいるわけではないので、単なる焼き魚かと思っていた。八丈島以来の再会。お久しぶりです。

見ると、おなかの部分を箸でひとつまみしただけで、あとは全くの手つかずになっていた。

「もったいないねえ」
「口に合わなかったのですかねえ」
「でも、くさやってそういうもんだってわかってるんだから、無理して頼まなければよかったのに」

しぶちょおとお店の人とが話をしている。で、お店の人がくさやの皿を片付けようとしたとき、しぶちょおは

「あ、それ捨てるなら僕らにちょうだい」

と言って、人様の食べ残しくさやをゲットしたのだった。良い意味での図々しさはおかでんには無い長所だ。食べ散らかされた焼き魚の残骸はいらんが、これだけきれいな食べ残しなら、頂けるのならばぜひほしいところ。

店の人も快諾してくれ、500円以上するであろうくさやをテーブルに残してくれた。なんてラッキー。

その喜びを体にしみこませるため、くさやに鼻を近づける。

くっさぁぁぁぁぁ。

久々に嗅いだにおいだが、相変わらず臭いな。さすが「くさや」。

「くさやを譲り受けたので、こいつら全然料理を注文しないぞ」とお店側に思われるのは不本意なので、料理数品とビールを注文。ちゃんとお店にはくさやのご恩に報いますからご安心を。なんならビールもう一本頼みますよ、ええ。

結局ビール飲みたいだけちゃうんかと。おかでん?

さて、このくさや、料理が出てくるまでの間、格好のビールの突き出しとなったわけだが、いざ食べてみるといやー強烈。しぶちょおは「ああ、旨いね」とコメントし黙々とくさやを食べていたが、おかでんは「臭い!臭いけど旨い!旨いけど臭い!」とにおいに関するコメント多し。

ちなみに八丈島のくさやは、伊豆大島などのくさやと比べてにおいがマイルドらしい。だから、最後にくさやを食べた八丈島の時よりも、はるかに強烈なブツなのだった。おかでんはこういう癖の強い食べ物はむしろ好きなのでおいしく食べることができるのだが、確かにこりゃ免疫がない人はアウトだわ。

特に、くさや食べて、ビール飲んで口と鼻をいったんリセットかけて、またくさや食べて、と押し寄せる波のように繰り返すので、常にフレッシュなくささがおかでんの首から上を支配しているのだった。でも、念のため言っておくが、すげー旨いぞ。焼きたてのくさやなんてなかなか食べられるもんじゃないので、機会があれば、臭いを恐れずに食うべし。いやなら鼻つまんででも食うべ・・・いや、そこまでする事はないな。

「八丈島ん時は、アホウドリの権威な教授にくさやの食べ方を指導されたよなあ」

「そうそう、手でむしって、マヨネーズつけて唐辛子つけろ、って。あの人、ほかにも焼酎の飲み方まで指導が入ったし」

昔話に花が咲く。

メッカリ煮

お品書きには見慣れないものがある。

セセリ炒め、メッカリ煮。前後のメニューから推測するに、どうやら海産物のようだが、これが魚なんだか貝なんだか海草なんだかさえ、わからない。伊豆大島という地理を考えれば、下田とか稲取といった伊豆半島で食されているものと大差ないはずなんだが?

普通、「せせり」と言ったら焼き鳥屋で見かけるメニュー。えーと、にわとりの首周りの肉じゃなかったか?

お店の人に聞くと、両方とも貝だという。ほーう、知らんな、両方とも。

「ここはせっかくだから両方頼んで・・・」というのも手だが、貝料理って食べているうちに猛烈に飽きるのが通例。あまり調子に乗らない方が良い。ここは手堅く「メッカリ煮」を注文。いや、どんな貝だか知らないので、何がどう手堅いんだか不明なんだが。

で、出てきたのがこちら。

黒っぽい巻き貝がその正体。あー、これ、おかでんの家の近くの行きつけ海鮮居酒屋で突き出しの定番になってるやつだ。確か、お店だと「メッカリ」と呼んでいたはず。爪楊枝で中身をほじくり出すので、格好の時間つぶしになる一品なのだった。

ただし、いわゆる「サザエの、苦いワタの部分がメイン」のような貝。美味いっちゃあ美味いんだが、あっという間に味に飽きてしまうのも事実。2~3個食べれば、もう十分といった貝ではある。それが、お皿いっぱいに盛られているのだった。やあ、こりゃ食べがいがあるぞ。パーティー盛りじゃないか。カラオケボックスのフードメニューとしてぜひ採用を・・・いやごめん、単なる思いつきっした。うそです。

ビール飲みつつのおかでんだったが、磯臭さで途中離脱。お茶オンリーのしぶちょおの方がむしろ美味そうに食べていた。

ちなみにもう一方の貝、セセリは小ぶりの平らな貝で、バター炒めにすると美味いそうだ。

お値段は両方とも700円なり。

「明日葉(地物)とらっぱのり炒め

「夜のメニューもできる」とお店の人がおっしゃるので、「ではチーズ揚を」と頼むのは大変にナイスアイディアであったが、ナイス過ぎて一生後悔しそうなのでその案は却下。そのかわり、名前が気になる「明日葉(地物)とらっぱのり炒め」600円、を頼んでみた。

昨日から既に明日葉三昧な食生活を送っているわれわれなのだが、なんだか明日葉がめっぽう美味く感じるんだよな。苦いもの、くせのあるものを好むってのは歳をとった証拠なのか、それとも「味の深みを理解できるようになった証」なのか。ゴーヤ以上に、この苦みばしった味わいが「滋味」に感じられるのだった。家庭菜園を持つ機会があったら、絶対明日葉を植えるぞ。

らっぱのり、という謎の海苔がフィーチャリングされているが、これまた謎の海産物。おそらく「らっぱ型」をした海苔なのだろうが、わからないなりに想像たくましくすると、毒持っているキノコだったり食虫植物を想像してしまう。食欲を失うからこれ以上妄想するのはやめとけ。

届けられた料理は、おや、たいそう美味そうじゃあないですか。らっぱのりなるものは縮れ気味の色が薄い海苔で、想像していた毒々しいグロさは皆無。むしろ明日葉にそっと寄り添う女房役ってな感じ。

食べてみたが、美味い美味い、これは美味いですよ奥さん。スーパーの片隅で「明日葉だけで簡単調理!明日葉とらっぱのり炒め」の調理実演試食会やれば、結構売れますぜ。ただ、問題は本州のスーパーじゃ明日葉なんて売っていないということなんだが。

明日葉ってオールマイティだなあ。おひたし、ごま和えといった小鉢の定番料理にとどまらず、油で炒めるといい味が出る。

「大根の葉っぱで調理できる料理はすべて踏襲できそうだな」
「油で炒めて、ご飯の上にかけて食べたら確実にイケる」

と二人で議論しながら食べる。

磯焼きめし
磯焼きめしアップ

さて、本日のメインディッシュ「磯焼きめし」が到着しましたよと。

2杯目のビール飲んでいる真っ最中だったのだが、慌ててビールを切り上げて焼きめしにとりかかる。ご飯ものが出てくると、飲み食いするペースがわからなくなるおかでん。

ええと、磯焼きめしを「磯」たらしめているのが「はんば海苔」なる存在。「海苔?どれ?」とご飯をかき混ぜるまでもなく、やたら堂々と目立つポジションに海苔がいっぱい入っている。さすが、「磯焼きめし」の名に恥じない外見。でもこれ、ワカメそっくりだ。海苔というより、ワカメっぽい。

食べてみる。ああ、ワカメっぽくもあるけど、あれほどこりこりはしていない。確かに海苔だ、これ。ただ、よくある海苔よりも2倍3倍と磯の風味が豊かで、こりゃ美味いわ。

「すげーすげー」

二人とも大喜びで食べる。ところで、はんば海苔ってなに?

後で調べてみたら、別名「はばのり」で、日本全国あちこちの岩場に冬の時期へばりついている海苔で、そんなに珍しいものではないらしい。ただ、その海苔を波にさらわれそうになりながら岩からこそげ落としてくるのは大変な労力と危険を伴うため、生産量は極小なんだと。だから、あまり大手流通ルートにはのっていない海苔なんだという。

ちなみに夏になれば大きく育って、そのまま沖に流されていくのでシーズンは冬。ちょうど良かった。・・・まあ、夏は夏でワカメ同様乾燥させたものがあるので食べる事はできると思うが。

ご飯は「焼きめし」という割にはあんまり炒めた感じはせず、学校給食の「わかめ炊き込みご飯」を思い出させる。でもそれがいい。一緒に添えられているお味噌汁は、魚のあらが入っていてちょっとお得感あります。これで700円はちょっと幸せな気分。

案外伊豆大島って、「島物価」ではないんだなと感心。べらぼうな値段になっていない。

ちなみに、これじゃ物足りないという人には「磯焼きめし定食」があって、焼き魚付きなら1,400円、刺身付きなら1,500円だ。もうこれで十分だろ。飲んで食べて満喫したまえ。

海市場
海市場内部

食事を済ませ、お店を出たのは13時55分だった。やべー、もう「昼下がり」だぞ。あと4時間後には宿で夕食の時間だぞ。なのに、まだ島の半分も回っていない状態。ちょっとペースを上げないと、さすがにやばい。

明日午前は三原山登山に時間がとられ、また、午後は椿園を見るのにも時間がかかる。それ以外のものは今日中に見ておかないと、やばい。ましてや、島の南側、波浮集落のあたりともなれば今日を逃すと完全にさようならだ。

とりあえず、元町集落近くにあって、比較的所要時間がかかるであろう「火山博物館」は明日に回すことにした。ぜひ見ておきたい施設ではあるのだが、ここで1時間ないし2時間程度時間をかけてしまったら、収まりがつかない。

あわてて島南部の方向に向けて出発する。

その前に・・・。元町漁港のすぐ近くに、「海市場」という場所があったので、そこにたちよってみることにした。何か面白い海産物が置いてあるかもしれない。

中に入ってみると、いけすがたくさん並んでいるけど質素な作り。地元民用なのか観光客用なのか、よくわからない。お客さんはわれわれだけ。一体この三連休中、観光客はどこへ消えてしまったんだ?みんな椿園に行っているのだろうか?

いけすの中には、伊勢海老、とこぶし、さざえなどがみっちり。「お土産にどうですか」と店番の人に言われたが、さすがに伊勢海老を抱きかかえて今後旅を続けるのはちょっと厳しい。ざっと眺めるだけにとどめておいた。

猫が港にいた
ひなたぼっこする猫

海市場を見た後、車が展開をしようと漁港方面に進んだところで猫発見。

一匹だけ、コンクリートの地面の上にちょこんと座っている。日なたぼっこをしているらしい。

一匹だけ、なんでこんな目立つところにいるのか不思議。見たところ、まだ子猫のようだ。

猫1
猫アップ
猫2
猫3

潮風を受け、気持ちよさそうにしている猫。

かわええのぅ。

助手席から飛び降り、間近で猫を愛でるおかでん。

逃げられたら大変悲しいので、遠くから少しずつ匍匐前進で接近。

人間になれているのか、逃げようとしないのがこれまたかわいい。連れて帰って家で飼いたいくらいだ。
さすが漁港育ちの猫、というべきか、ノラの割には毛のつやが良い。おこぼれの魚を食べてタンパク質たっぷり摂取できているのだろう。ただ、塩分摂りすぎで早死にするのが漁港ノラの定めだが。

腹ばいになって猫と対峙しているおかでんは、まるで少年のようだ。・・・オッサンなのに。

猫をなでる
あくびする猫

眺めているだけでは物足りなくなり、我慢できなくなったおかでんは頭をナデナデしようとした。それでも逃げない猫。度胸が据わっている。

・・・が、フニャーという顔をして怒られた。ごめんなさい。どうぞごゆっくり日なたぼっこを続けてくださいませ。お邪魔して正直すまんかった。

弘法浜
荒れる海

漁港からやや南に進んだところに、「弘法浜」という案内看板があった。さっさと島を周回しないといけないのだが、せっかくなので弘法浜に行ってみる事にした。ざっと見るだけだから、大して時間はかかるまい。しぶちょおとおかでん、渚で水をかけあってキャッハウフフなんてやる間柄でもないし。

今まで見てきたこの島の「○○浜」とは違い、岩がゴロゴロとしていない立派な「砂浜」。元町集落至近ということもあって、夏になると海水浴客で大層賑わうそうだ。浜にはシャワーやらプールやら施設も完備。

ふむ。

一昔前のおかでんなら、誰も砂浜にいないことをいいことに、服を脱いでそのまま海に突撃、なんてやっていたかもしれない。しかしさすがにそこまでのやんちゃぶりには全く思いが至らなかった。それよりもなによりも、波がすごいんですけど。

「いい歳したオッサンが荒天の中、フルチンで寒中水泳やって潮流に流される。海上保安庁と地元漁業関係者の必死の捜査が今も続いていますが依然行方不明のままです」

なんて報道はあまりに情けなさすぎる。

砂浜は、黒い。火山でできた島なので、岩が砕けて砂になっても当然黒いというわけだ。それにしても、こんな波が荒いところなのによくぞまあ、砂浜なんてできたものだと感心する。

地層切断面
地層切断面解説

車はしばらく島の外周を走る。弘法浜を過ぎるとしばらくは何もない。

島の南側に回り込んできたら、そこにはものすごい光景が広がっていた。

地層切断面。

まるでバウムクーヘンのような、木の年輪のような地層が積み重なって、うねうねと波打っている。それがまるで「人体のふしぎ展」で陳列されている人体標本のごとく、「どうぞご覧くださいませ」と道路に向いているのだった。それも5mとか10mといったケチ臭いことは言わない、1km以上はこの堆積を見続ける事ができるのだった。こんなスケールの大きな地層を見るのは初めてだ。

大抵、地層とかいう輩は川が流れている狭い谷にちらりとあったり、何かともったいぶった野郎だ。しかしこの伊豆大島さん、というか三原山さんはなんとおおらかな事よ。

ただただ、感嘆するしかない。写真やガイド本で見ても、このスケール感はわからないので、ぜひ実物を見てもらいたい。

断面

何でこんな緻密なバウムクーヘンができてしまったのかというと、やはり噴火のたびに地層が積み重なった結果だという。

黒い部分が噴火時に吹き出た軽石で、その上に白っぽい火山灰が遅れて降り積もる。この1セットが1回の噴火。ええと、ということはこの地層切断面で見えているのは何回分の噴火だろうか?・・・数えられん。とにかく、「たくさん噴火しました」という事だ。

絶海の孤島なので、数万年規模で放置しておくと島は波に削られていずれは消滅してしまうだ。だから、時々こうやって噴火して、島を大きくしないと島の生き残りは難しい。日本国土の保全のために、たまには噴火してやってください。

いやいや待て、そんな「島が大きくなるほどの噴火」があると、島民全滅だ。それはまずい。それはよくない。

なんでこんなダイナミックな、すっぱりと縦に切れ落ちた切断面が出現しているのか大変不思議だったのだが、翌日訪れた「火山博物館」にその解説があった。この今われわれが立っている、「大島一周道路」を作る際にばっさりと崖を崩したのだという。つまりこの切断面そのものは人工的なもの。ちなみに火山博物館に、薄く生ハムのようにそぎ落とした切断面の一部が展示されており、なんとも不思議な見応えだった。

バス停

免許持っていないので、レンタカーやレンタバイクは借りられないんですけどぉ、という方でも安心。ちゃんと地層断面の前にはバス停もありやす。一体こんなところで下車してどうするんだ、と思うが、どうするもこうするも、そりゃあアンタ地層断面を見るために決まってるでしょう。

ただし、周囲には商店はおろか民家すらないので、ここでバスを降りたが最後、次の便が来るまで頑張って生き延びろ!これぞサバイバルぞ。

ちなみにバスは一日8便。2時間以上次の便まで間が空く時間帯もあるので、そういうバスに乗り合わせてしまった場合は覚悟を決めて地層断面を心ゆくまでお楽しみください。

水分補給できるように水筒やペットボトルはお忘れ無く。

なお、われわれが地層断面を見上げている間、何人か自転車島内一周野郎が通過していった。地味にアップダウンがある場所なので、ヒーヒーいいながら(実際にヒーヒー言っていた)、へろへろになりながら漕いでいたのが印象的。

島内一周チャリンコ旅行は楽しいだろうが、脚力によっぽど実力がないとつらい。

塩を作る工場

島周回道路、といっても常に海沿いを走っているわけではない。この地層断面あたりはやや海から離れたところに道が貫通している。

海側を見下ろすと、なにやら怪しい建物が見える。周囲になにもないところで、一体何をやっているというのか。ご禁制の芥子の実を栽培しとるとか、そういうけしからん事ではあるまいか。

地図で確認してみたら、海水から塩を精製する工場であることが判明。なるほど、それだったらこういう人里離れたところにあってもおかしくない。

大島灯台の近くにも製塩所はあったが、「塩」というのはこの島の隠れた名産らしい。なんだ、それと知ってれば工場見学の予約を入れたのに。今考えれば惜しい事をした。塩田で財をなした江戸時代の豪商の家、なんてのは見学したことがあるが、金もうけてたまらんぜ、というただそれだけの家だった。実際の塩田なんて見たことがない。

眼下に見える建物はビニールハウスのようだが、どうやらあの中で海水が天日で濃縮されていっているらしい。

ふと思ったのだが、オシッコを濃縮させても塩って多分できるよな。食用に向くのだろうか?気になる。雑菌が多すぎて駄目か?

海岸
強風

地図を見ると、島南部の周回道路周辺には時々脇道があり、何か「団地」みたいに道が碁盤状に作られているところが何カ所かあるようだ。

「別荘を作ろうとした夢の跡、かもしれんな」
「海風に吹かれて今は風化しているとかなんとか?」

そういうのはぜひ見ておこう、と思ったが、わかりやすい入り口を発見することができず結局スルーしてしまった。おそらく実際には畑なんぞがあったのだろう。

一方、海沿いには降りる道が一本あり、「砂の浜」という看板が出ていた。浜辺があるぞ、と聞くとなんだか行っておかないと損な気分になるのは人情。とりあえず行ってみる事にした。

道路の終着点で、車を降りる。浜辺まですぐだ。

降りた瞬間、あまりの風の強さに二人ともよろめいてしまった。島の南側、遮るものがこの先何一つない場所のために突風が吹き抜ける。

「うおおおお」

風をこらえるのに必死だ。立っているのでさえ、しんどい。それ以前に、車のドアをちゃんと閉めないと。ドアごともげそうだ。

今この勢いならいえる。この車に羽をつけたら、確実に空を飛べる、と。

壊れた建造物
建造物アップ

砂の浜は全長1kmに及ぶ広い砂浜。海水浴にはもってこい・・・と言いたいところだが、こういう孤島の特性として、調子ぶっこいて沖まで泳ぐと速い海流に巻き込まれてさようなら、となるので注意。

それにしてもなんたる風の強さだ。マリリンモンローがいかに手でスカートを押さえていても、無駄。今日のここは、スカート姿の女性は立ち入り禁止。公然わいせつだ。

今日だけがこんな状態ではない、というのは砂浜の片隅にある東屋の様子を見ればよくわかる。お手洗い、なのだろうか、コンクリート製の建物が一つ、ぽつんとあるのだが・・・

「あっ、なんだかバラバラになってる!」

プラモデル作っている途中です、完成間近です、みたいな状態で建物が崩れているのだった。特におかしいのが、階段と建物との間に隙間がばっこしできてしまっている事。こりゃ一体なんだ・・・。考えられるのは、大波がドカンと押し寄せて、東屋を吹き飛ばしたということだ。こえー。大自然こえー。

荒れる海
強風であおられる

押し寄せる波の高さが、東屋破壊事件の犯行を伺わせる。岩場に打ち付けられた波は、10mを越えるレベルまでばしゃーっと吹き上がっているではないか。

本来なら、破壊された東屋を冷やかしに出かける性分のわれわれ。しかし、あまりの風の強さのために戦意喪失。浜辺に降りること無く、高みの見物で引き上げる事にした。なにせ、風に正面向いて対峙すると、呼吸をするのでさえしんどいくらいだ。

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