「あれ?」
てっきり自分たちがいる場所の直下が噴火口だと思っていたのだが、もう少し先にさらに大きな穴がぽっかり開いていた。
お行儀の悪い三原山さん、あっちもこっちもやりたい放題だ。どうやらあっちの穴の方がデカそうだ。デカいことは良いことだ。それ、そっちに移動だ。
道中左手に見える裏砂漠。
広い。あくまでも広すぎる。本当にここが砂漠に見える。
以前、この砂漠で観光用にラクダを飼っていたらしい。ラクダに乗って砂漠散歩、とシルクロード気分を味わえるわけだ。なかなかにナイスなアイディアで、それは今でも通用すると思う。でも、やっていない。なぜか。
なんでも、そのラクダ、あまりの過酷な状況に逃げ出してしまったんだって。ラクダも逃げる砂漠。そりゃある意味勲章とも言えるな、この場所。
「いよーう」
思わず声を出してしまうシチュエーション。お鉢巡り遊歩道の正面に、伊豆諸島が見えてきた。菅笠風のシルエットの利島、新島、式根島などが見える。
利島、印象的なシルエットなのでぜひ行ってみたいところだが、笠型の島=島内傾斜だらけ、島すべてが脚力向上間違いなしエリアということになる。膝に爆弾をかかえているしぶちょおはここは無理っぽい。現にこうして三原山を歩いている最中も、膝が痛い痛いと言っているくらいで。
新島、式根島といえば20年くらい前までは「夏になると若い男女が集い、夜になると行きずりの恋の花を咲かせる大変けしからん場所」として名を馳せたものだ。今じゃそういう話を聞かないけど。
で、ノコノコ異性目当てで島に行って、誰とも浮いた話がなくて激怒して帰ってくる、という人も当然一定数以上いるわけで。コツは、行きのフェリー(夜行便)の中で既に目星をつけてその人と仲良くなるんだそうな。
あと20年早く産まれていたら・・・と、島影を見ながらふと思ったけしからんおかでん。
やあ、こっちの噴火口はひときわえぐれているな。このあたりは赤い地層が出ている。カルデラ内であっても、場所によっては黒かったり茶色かったり赤かったり、色が様々で楽しい。でも、この島そのものが海底深くから噴火の繰り返しで隆起したのだからすごい。
ぐるっと回り込んで、茶屋や登山口がある西側に戻ってきましたよと。
こちらに見えるのが表砂漠。裏砂漠と比べるとずいぶんと小さく見える。あの裏砂漠の荒涼感を見るには、ぜひお鉢巡りはしておきたい。表砂漠を見て満足することなかれ。
ぐるっと一回り。ゆっくり歩いても1時間弱。
三原神社の近くには二階建ての展望台があるので、面倒な方はこちらでお楽しみください。ただ、せっかく時間と体力を消費してここまで来たのだから、あともう一息頑張った方が良いかと。
「この展望台で満足する奴はチキン」
「歩け。歩いた分だけ良いことはある」
などと展望台に落書きしてやりたいところだが、あまりに不良行為なのでやめる。
なにせ、遠くからなんとなく見ている噴火口の何とも迫力のない事よ。モザイク映像を見ながら、モザイク無しの画像を一生懸命妄想しているようなものだ。
駐車場まで延々と戻っている最中、車止めを外してまでも山に接近をはかっている不届きな4駆車を発見。そういや、さっきこの車は表砂漠を気持ちよさそうに疾走してたな。山の上からもその姿を見ることができた。
何様だ、と思ったら、車の横にちゃんと名前を名乗っていた。
藤原とうふ店(自家用)
・・・
違った。
東京大学地震研究所
なるほど!そういうことか。ということは、この三原山のあちこちにある怪しい計測器は東京大学のものだったのか。
妙に納得したら、ちょびっとおなかがすいた。そんな時、駐車場脇に並ぶ茶屋の一店では店先でいろいろなものを網焼きにして売っているのを発見。
あっ、「あしたばフランク」だ!
伊豆大島に来て以来、あしたば料理に目がないわれわれ(あれ?ひょっとしたらおかでんだけか?)だが、「あしたばフランク食べたいねぇ」という話は以前からしていたのだった。船着き場にある食堂「いずしち丸」で食べようかという話もあったのだが、ここで売られているなら話は早い。見た目、相当デカいのでお得だし、ここで食べることにした。
お値段300円。ただし、「250円」の表示をマジックで乱雑に消して、300円と訂正しているところが何ともお茶目。いやー、いつ価格改正したのか知らないけど、あれだけ長くて太いソーセージを250円で売るのは安すぎる。300円で全く問題ないです。
なお、網の上ではサザエとホタテが炙られていたのだが、ホタテはどう考えても伊豆大島では獲れないだろ。・・・地場産のモノ以外売っちゃいけない、という事はないんだけど。
茶屋のおばちゃんはわれわれお客さんに熱烈歓迎してくれた。
「せっかくだからこれも」
といって、なにやら葉っぱを軽く炙って添えてくれた。なんすか、これ。
「明日葉の葉っぱよ」
あー、そうでしたか。いかんな、いまだに明日葉の葉の形を覚えられていない。
おばちゃんから
「中に入ってお茶飲んでいきなさい」
と言われたので、せっかくなので茶屋の中で座ってあしたばフランクと明日葉の葉っぱを頂く。
あしたばフランク、普通のフランクとあまり違いはないのだが、さすがに明日葉が入っているだけあって微妙に苦みがある。この苦みはくせになる味わいで、おかでんのようにはまるととことん明日葉が欲しくなる習性がある。少なくとも、パクチーのような癖の強い葉物が好きな人は、確実に明日葉は好きなはずだ。
お世話大好き茶屋のおばちゃん、「これもどうぞ」といって、今度はなにやら茎を持ってきてくれた。セロリ?ずいき?
「明日葉の茎よ」
たはー、これも明日葉だったか。根っこ以外は全部食べる事ができるんじゃないか?これは。
「明日葉フルコースができる勢いだな、これは」
「お茶も明日葉茶よー」
おっと、そこまで明日葉だったか。ますますびっくりだ。
おばちゃんといろいろ話し込む。
「おばちゃんは『あんこ』なんですか?」
「数十年前はねぇー」
ああ、「あんこ」と呼んでよいのは若い時だけなのか。
お茶もいただきゆっくりしたところで茶屋を後にする。
せっかくごちそうになったのに、二人であしたばフランク1本じゃ申し訳がない。店頭に「あしたば種」というのが売られていたので、これを買って帰ることにした。家でこの魅惑の植物、明日葉が育てられたらこんなにうれしいことはない。
ちょうど、「春蒔き」と書いてあったので好都合だ。発芽まで・・・え?2カ月?結構かかるもんだな。ベランダのプランターに植えようと思っているので、そもそも無理があるのだが、「やっぱ無理っした」判定まで2カ月かかるのか。そりゃ参ったな。
「あんまり水をかけたら駄目よ。もともと火山の山なんかに生える植物だから」
と言われたのも難しい。毎日愛情込めて育てるわけにもいかず、かといって完全に手を抜くわけにもいかない。
後日談。帰宅してから早速植えてみたが、早6カ月が経つもののプランターの土はぴくりともしなかった。おーい、明日葉やーい。作戦失敗。
ちなみに、港の売店なんぞで明日葉の葉っぱを買おうとすると、300円くらいするので注意。この茶屋だけは特別に安かった。
もともと今日は時間が押しまくっているのにもかかわらず、三原山でゆっくりしちゃったので時間がさらに押す羽目に。うっかりすると帰りの船に乗り遅れるぞ。伊豆大島から各方面に向けて出る一番最後の便に乗船予定なので、万が一遅刻すると強制的にもう一泊確定。素敵!ぜひもう一泊!
いやいや、明日は平日だし。
いかんなー、二泊三日では到底時間が足りない。あと一日加えて、三泊四日でちょうどよかったか。
外輪山に沿って車を走らせる。
途中、急に開けたところがあったので、車を急停車。おお?「新火口展望台」だって。そうか、ここも展望台なんだな。
ここからはるか遠方に三原山の山頂部が何も遮るものがなく、見ることができる。雄大だ。山に登って火口を見るのも大変よろしいが、ここで記念撮影というのも大変まろやかでよろしい。
二人で記念撮影。
ただ、やっぱりこの火山の特徴で、空の明るさ、山の黒さ、手前に映り込む人物の明るさがデジカメではよく理解できず大混乱した模様。妙に暗い写真になったり明るすぎたりしてしまった。もういい、わかった。「ここに来ましたよ」という証拠程度にこの記念写真は捉えることにするわい。
先を急ぐ。
まだスタンプは3つ押されていないし、お昼ご飯の心配をしなくちゃいけないし、時間がそれなりにかかるであろう「火山博物館」にもまだ行っていないし。ちょっと時間が厳しくなってきたぞ。お土産買う暇なんてないかもしれない。
次の目的地は、「三原山温泉ホテル」。ここは先ほどの新火口展望台と同じような雄大な景色を楽しめる露天風呂が特徴。時間がないとはいえ、露天風呂があると聞いた日にゃ入らないわけにはいくまい。タオル持参の上でホテルに行く。
おっ、入口に掲げられている「歓迎○○様ご一行」のプレートに、昨日波浮で見かけたあのナントカ写真倶楽部の名前が。ここに泊まっていたのか。
温泉宿ということもあって、この宿は伊豆大島に宿泊する際、多くの人は第一候補にするところだ。旅行代理店のチラシでも、大抵ここが載っている。集落からは遠いので不便なのだが、絶景の風呂と椿油フォンデュの魅力に引き寄せられるのだろう。
さて、ブンブンタオルを振り回しながらホテルのロビーに入ったわれわれだが、大変な事に気がついた。ただいまの時刻11時46分。この時間、風呂はやっていなかった・・・。うわあ。
ここの外来入浴はやや特殊な時間帯が設定されている。06:00-09:00と13:00-21:00。夜明けと日没、両方を楽しめるので大変に結構なことだ。夜に行けば、周囲に明かりがないので星もよく見えることだろう。それは良いのだが、肝心のただいまのお時間は清掃時間。入れないやんけ。
まあ、これは仕方がない。運が悪かった、ということで諦める。風呂に入る時間分省略できて先に進める、とポジティブに考えよう。
あじさいロードを通って、島東側にある椿園に向かう。
途中、「特別天然記念物 大島のサクラ株」なるものがあったので、急きょ立ち寄り。
桜の木が一体何だって?と車を降りてみると、確かに桜の古木が生えている。まっすぐ上に伸びるのが相当しんどくなったらしく、ずいぶんと幹が重力に引っ張られてしまっていた。年老いたら背中が曲がる、というのは人間も樹木も一緒だな。
「できることなら横になってゆっくりしたい」という声が古桜から聞こえてくるが、いやいや、樹木が横になるということはそれすなわち、切り出されて木材になった時だから。アンタ天然記念物に指定されてるんだし、もうちっと頑張ってくれ。
・・・そういう人間からの他人事のような励ましのため、幹のあちこちに補強がされていた。「もうこれ以上倒れ込んだら駄目」と支えだらけ。重力が勝つか、桜のやる気が勝つか、人間の下支えが勝つか。この木一本の中にもいろいろなドラマがある。
あれぇ?でも待て、これ、一本の木じゃないぞ。妙に枝が広がっているな、と思ったら複数の木のように見える。なんだ、これ。
解説しよう!
・・・誰だよお前。
いや、それはともかく。看板によると、このサクラ株はもともと一本の木だったんだけど、重さに耐えかねた枝が地面に接し、その接したところから根っこが生えて、いずれ独立した株として育ちはじめたんだと。マジすか。枝からでも根っこ生えるんスか。そんな器用な事ができるとは恐ろしい植物だ、桜は。ははーん、だからコイツは何の変哲もない幹から急に桜の花を咲かせたりするんだな。
人間でも同じ事ができるだろうか?ためしに、ひじを地面に埋めておいて、そのまま1年くらい固定しておいたらひじから根っこが・・・で、それを5年くらい飼育したら、腕が桜に・・・いや、誰が特するんだその実験。やめとけ。
サクラ株に感心したのち、そのまま三原山を下って島一周道路にぶつかったところが「海のふるさと村」。ここには椿園、椿資料館、動物園といろいろな施設がある。元町集落からみたら山を挟んで反対側の場所なので、あまり便利が良い場所ではない。が、今やクライマックスを迎えんとしている椿祭りのシーズンはここがアツいんですよ!
あれ?
「ええと、椿祭り開催中ということだけど、ここがその会場?」
「多分そうだろ。ほら、ステージがある」
「おお」
でも、そのステージはがらんとしていた。多分一日何回かショーがあるのだろうが、時間を逃すと静かだ。
お土産物などを売る屋台が並んでいるのも、多分椿祭り期間中だからだろう。
ただ、既に時刻は三連休のお昼。気が早い人はそろそろ飛行機なり船なりで伊豆大島を後にしているので、島はだんだんと静寂を取り戻しつつあった。われわれは最終便を選んでおいて大正解だ。
ここはラッキーポイント。
椿資料館と椿プラザ、二つのスタンプが同じ敷地内で押すことができる。いっきにスタンプを押して、コンプリート。ラスボスは案外弱かった。よって達成感というのはあまりない。
それにしてもあらためて見返すと、いろいろ酒肴が凝らされた・・・違った、趣向が凝らされたスタンプだ。時々、適当に作りました感満載のスタンプをみかけるが、ここはそれなりの力作。旅の思い出にどうぞ。
椿資料館に入ってみる。
資料館、といてもプレハブ小屋のようなものであり、椿の歴史がみっちりもっさりと詰まった学術的な小難しい空間ではない。でも圧巻なのは、一輪挿しがずらりと陳列されていること。それぞれの花瓶に異なった種類の椿が生けられており、椿という遺伝子がいかに浮気者・・・というか、突然変異しやすいかを如実に教えてくれる。
「すげーな」
とおっさん二人で感嘆の声をあげる。普段路傍の花に愛情を注ぐなんて事はしない、鬼畜名われわれではあるが、この花の陳列には驚かざるをえない。
「どれが元祖だろう?」
という話をしていたら、資料館の職員さんが
「これですよー」
と教えてくれたのがこちら。ヤブツバキ。おお、伊豆大島のシンボルともいえる、われわれが椿と聞いたら思い浮かべるものだ。
「それにしてももったりしてるなー。ものすごく鈍くさい。胴長短足、という感じ。ブスの学級委員みたいな感じ」
ひどい言われようだ。でも、そういうところがまた「日本的」でもあり、他のきらびやかなうそくせぇ椿よりも愛着が沸く。
それにしてもこうも簡単に品種改良ができてしまうとなると、観賞用にはそれでも良いとしても油採取用としてはどうなんだろう?油の質だってそれぞれ異なってくるだろうから、「うちの椿油はヤブツバキ100%で頑張っております」みたいなのがあるのだろうか?で、間違って他の品種が紛れ込まないように、椿畑は厳重にガードされている、とか。まさかな。
せっかくなので、椿園にも行ってみることにした。
結構広い敷地を誇っているようで、時間が押しているわれわれは若干腰が引け気味。
「リス園で椿はもう見たことだし、椿資料館でも見たし、適当に。さらっと見て移動しようや」
という話をしつつ、中に入った。
しかししかし、これがなかなかどうしてうまいこと撤退戦に持って行けない。
特に順路はなく、好きなように散策できる路が四方八方に延びている。で、歩けば歩いた分だけいろいろな種類の椿が現れてくる。
カメラを持っていると特にいかんのは、カメラ写りがよい椿はあるかなーと探してしまうことだ。あっ、あの花はきれいだ、とかいって花に近づき写真を撮り、を繰り返していると、どんどん深みにはまってしまうのだった。
二人のうち一方が「もうそろそろ・・・」と思った時点でもう一人は別の花に夢中、ということを交互に繰り返すため、結局お互いけん制をかけあっている割にはどんどん奥に入ってしまった。
いやー、椿って案外面白い。これ、花に興味がない人でもおすすめ。さすが伊豆大島は椿の島だけある。大の大人二人を夢中にさせやがって。
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