伊豆大島討伐

夕食

宿に戻ったら、すぐに夕食時間。一階に食堂があるということなので、そこに向かう。

「ほーう」

着席前から、われわれ二人は思わず感嘆の声をあげる。

「皿数、多いな」
「もっと少しかと思った」

どうしても、八丈島の民宿のイメージが強すぎる。だから、あれをベンチマークにすると非常に豪華な食事に見えるのだった。

「あの時は、『いや、いくらなんでももう一皿は出てくるだろう。今調理が遅れているだけだ』って真剣に思ったもんな」
「そうだよなあ」

笑い話だが、それくらい強烈だったっけ。

「初日なんて、釣りをしてきた(同宿の)家族が魚を差し入れてくれなかったら、宿メシの形態をなしていなかったぞ」
「でも、あの宿ってこの宿より値段高かったんだよな」
「ああ、1,000円くらい一泊あたりだと高い」

もちろん、伊豆大島と比べてより一層絶海の孤島である八丈島のことだ。物価が高くなるのは当然のこと。「飯が貧相だった」という理由で批判する気なんて、全くない。むしろ、「棺桶まで持って行ける旅の思い出(ネタ)」が手に入ったという点で、高い芸術点・技術点をマークしていて、感謝したいくらいだ。

ほら、実際今日もこうやって八丈島の宿について思い出話に花が咲く。今後も、同じような会話が宿に泊まる度に展開されるのだろう。

一泊6,800円のこの宿。食事には全く期待していなかったのだが、これなら大満足だ。冷凍ハンバーグなどといった手抜き料理はなく、ちゃんと旅人心をくすぐる煮魚、刺身などが並ぶ。さざえのつぼ焼きもあるぞ。

ちょっとうれしい誤算。当初、

「地元の美味いモノを食べようと思ったら、やっぱり夜営業の飲食店に出かけるしかないと思うんだわ。しかし、ハズレる場合もあり得るので、安い料金の宿で、ヘボい夕飯食って保険をかけておいてから夜の街にくりだそうぜ」

なんて話をしぶちょおとしていた。しかししかし、こんな立派な宿メシじゃあ、この後どこかで二軒目に行くぜ、というのはちょっと難しい。

飯を食うしぶちょお
ビールを楽しむおかでん

着席する際、ざっと周囲を見渡す。

「ええと。しぶちょおは・・・こっちの方がいいな」

と失礼ながらも下座側の席を指さす。

「喜べ、米びつがすぐ手を伸ばしたところにあるぞ」
「おう」

ご飯は各自セルフサービスで盛るルールになっており、食堂の片隅に一升の保温ジャーが置いてあるのだった。これでしぶちょおはわんこご飯だって可能なのだ!しぶちょおのMPが10増えた!

しかし、そうはいっても「まずはこれくらい」と軽く盛るなんて事をしないのが、彼なりの美学だ。三原山に届けとばかりに、天高くうずたかくご飯をお茶碗に盛り上げていた。

ご飯が潰れてしまうので、「おいしいご飯の食べ方」では決してない。しかし、料理のおいしさというのは見た目であるとか、手にずっしりくる重量感といった五感全てに問うものだ。その点、この盛りは素晴らしい。

隣の宿泊客のおばちゃんが「すごいですねえ」と言う。しぶちょおは平然と「いや、いつものことですから」と受け流す。別に凄いことではない。身の丈にあったご飯を食べているにすぎない。

むしろタチが悪いのは、地味にビール瓶を2つ抱えてご満悦のおかでん。目立たないが、一人で大瓶二本をぐいぐい飲んどる。おかでんとしぶちょおという、体格が良いあんちゃん二人なので、てっきり二人が飲むものとばかり思われるが、実はおかでんだけなんですよ、飲むのは。

「グラスは2つで・・・?」
「あ、いや、一つでいいです。僕だけです」
「???」

という会話が、この二人における旅行時には大抵どこの飲食店でも展開される。

やあ、それにしても地物の魚に舌鼓をうちながらのビールの美味い事よ。同じ料理を本州で食べてもあんまり感慨は無かったと思うが、「島」で食べると、美味さが2割アップだな。気持ちの盛り上がりが、味覚に明らかに介入してくる。いいぞもっと介入してくれ。しぶちょおも眼を細めながらのご飯大満喫だった。

しかしその後、「いかん食い過ぎた」としぶちょおはぼやいていたのだが。

テレビを見る

部屋に帰って、テレビを見る。

僕は旅行先においては、意識的にテレビを見ない事にしている。やかましいからだ。旅行先の雰囲気に浸りたいので、都会の雑音はできるだけ遮断したい。

・・・とはいえ、今回ばかりはそうは言ってられない。天気!天気、どうなったんだ。

どうやら今日の熱海-大島の4便目は欠航になったらしいという情報が伝わってきている。状況は確実に悪くなっているようだ。明日以降、大丈夫か?

伊豆大島から脱出できずに、源の為朝みたいに島流しの刑状態になったらどうしよう。

でも大丈夫。おかでんにはネットブックとFOMAデータ通信回線がある。我がPCにDドライブがあり、ネット回線がある限りは一生生き抜いてやるぜ。自宅警備員をなめんなよ。

・・・待て、いつ職業が自宅警備員になった?

テレビ1
テレビ2
テレビ3
テレビ4

テレビを見ると、なんだかスゲー事になってる。

NHK7時のニュースなのだが、本来番組の最後の方にやっている天気予報が、前倒しになっていて「ニュース扱い」だった。「天気『予報』」ではなく、今日がいかに荒天だったかという「天気『報告』」になっとる。

写真左上は、明日(3月21日)朝9時の天気図。うわああ、日本列島全体を低気圧が覆い尽くしているではないか。蜘蛛の巣に絡まった日本、という構図。しかも前線がばっちり伊豆大島上空にあるではないですか。何ですかこの罰ゲームは。

しかも、ええと、いろいろ注意喚起されているな。

暴風、雷雨、高波、雪崩、吹雪、気温の低下。

津波とまではいかないにしても、とりあえず思いつくバッドエンディングを羅列してみましたという感じ。なんかえらいことになってるー。

こりゃ明日の伊豆大島は陸の孤島になるな。

この日は日本全国強風が吹き荒れたようで、北九州は最大瞬間風速が23.5mだった、と奉じられていた。軽い台風並だ。一体何があったというんです?

でも、多分割れ目噴火口にいたわれわれは、もっと強風に出会っていたはずだ。やあ、えらいタイミングで伊豆大島に来ちゃったな。

つくづく、われわれの名前が「ドロシー」でなくて良かった思った。そんな名前だったら、絶対家ごと吹き飛ばされて、気がついたらオズの魔法使いが住む世界に飛ばされていたに違いない。

天気予報を見ると、明日の伊豆諸島は曇り時々雨。明後日になると晴れ間が出るということがわかった。むう、三原山登山は最終日に回した方が良さそうだ。

ただ、最高気温と最低気温をみてびっくり。明日が最高20度、最低14度という状況なのに、明後日になると最高13度、最低5度にまで急降下しているのだった。やばい、基本的に恐竜な俺たち、明後日には寒冷化によって絶滅してしまうかもしれん。

なんなんだこのハッスルしまくっている天気は。力が余りまくっているな、地球さんは。

どさん娘

お天気は気になるところだが、いったん夜の街に繰り出すことにした。

椿祭りの期間中、元町の船着き場では「夜祭り」が行われている、と聞いていたからだ。昼間は全島に散らばって観光している観光客にとって、夜にイベントをやってくれるのはとてもありがたい。時間に余裕を持って見物に行ける。一体その「夜祭り」とやらが何をやってるのかはわからないが、とにかく行ってみる事にした。金魚すくいとか、わたあめの屋台が出ている・・・事はないよな、さすがに。

おかでんは宿の浴衣のまま外出する。

「おい、本気でその格好で出かけるのか?」

しぶちょおがやや引き気味で問うてくる。

「やっぱり、せっかくの宿ですから。浴衣があるなら、それで行ってみようかと」
「ここ、温泉地じゃないぞ?」

全くその通りだ。温泉地だって、浴衣を着て外を散歩している人の数は半分いるかどうかという程度だというのに、元町においてこんな格好をする奴はいない。そもそも、宿の食堂を見渡しても、浴衣を着ている人は一人もいなかったくらいだ。完全に浮きまくっている。

でもまあいいや。なんかね、「僕、旅してますゥゥゥ」感を強調したかったんですよ、自分自身に対して。恥ずかしい格好かもしれないけど、でも「いかにも場慣れしていない観光客です」と自ら露呈することで、「俺自身の旅気分」がかき立てられる気がして。変態趣味だな、こりゃ。

元町港のターミナルに向かう途中の交差点に、「どさん娘」があった。昔からあるラーメンチェーン店だ。まさか伊豆大島にもあるとは。

島一周回った後の総括だが、「チェーン(フランチャイズ)店」は大島の中ではここしかなかった。なにせ、スタバもマクドナルドも何もない島だから。すげえぜ、どさん娘。

どんな客が入っているのだろうか、とワクワクしながらこっそり覗いてみたが、地元の人と思われるおっちゃんが一人黙々と何かを食べていただけだった。さすがに観光客はここには来ないだろうな。

元町港のターミナルビルにやってきた。正しくは、「元町港船客待合所」というらしい。なんだかもの凄くお堅い表現で、「出会いと、別れ」がここで展開されていないと収まりがつかない感じさえする。その点、「ターミナル」なんてカタカナ語は、どうにも軽いな。「いってきまーす」ってブンブン手を振るって感じ。

フェリーターミナル
ターミナル入口

岡田港の船客待合所と比べると、はるかに立派で大きい。カネかけてます、という感じがする。ただし、今日は岡田港に着岸したわけだが。どうやら、明日も明後日も岡田港になりそうな予感がする。

無駄じゃん、とも思うが、ハイシーズンである夏場はこちらに着岸するのがメインになるだろうから、やっぱりこれくらい立派にしておかないと。

とはいっても、やたらと立派すぎるのは事実。

東京都の離島振興費用で作ったんだと思うが、島というのはインフラ整備をはじめとしてやたらとお金がかかるもんだな。この島、観光で成り立っているように外部からは見えるが、実際は公共事業従事者と公務員が島内総生産(GIP:Gross Isrand Product。今勝手におかでんがでっちあげた造語)の多くを占めているんじゃないか?

たくさんの車

夜祭りを見にきたのだろう、元町港正面のロータリーは路駐車だらけ。

でも、通りには人一人歩いていない。

このギャップがもの凄い。夜になって町を歩く人っていうのはほとんどいないのだろう。治安が悪いから、ではなく、この島ではそういう生活様式になっていないということだ。

バスが次々とやってきて、ロータリーのところで乗客を降ろして、去っていく。なんのバスだろうと思ったら、三原山中腹にある温泉ホテルなど、ちょっと元町港から離れたところにある、ある程度の規模がある旅館のものだった。そうか、もともと港から宿まで送迎するのに使っているバスを、この夜祭り送迎にも使っているんだな。

伊豆大島椿祭り・夜祭り

待合所の入口には、「伊豆大島椿祭り・夜祭り」の立て看板が掲げられていた。

2月19日から3月21日まで毎日開催。

やり過ぎだ。途中で気力が尽きてしまいそうだが、大丈夫か?平日なんて、お客さんは少ないと思うが、どうしているんだろう?

このお彼岸3連休が「毎日開催」のラスト。次の週は土日だけ開催して、オーラス。

夜祭りは19時半から21時の間、開催しているらしい。ちょうどわれわれが到着したのが、19時半過ぎ。ナイスタイミングだ。

スーパーあんこ娘

本来がらんとして広い吹き抜けになっている待合所のロビーだが、今日はステージや照明が設置されて、「むらまつり」のレベルとは明らかに違う気合いを感じさせる。毎日開催のイベントなんで、ビールケースの上にベニヤ板敷いてステージ作りました、程度だったらすぐに壊れる。そんなわけで、広告代理店が絡んでいるっぽい、本格的な作りの会場になっていた。おおう、これはちょっと予想外。もっとおチープな内容だと思ったのに。地元の奥様達が、数十年前に青春だった大奥様が、しょぼくれた音楽で舞でもやるのかと思ったのに。

会場脇には、「スーパーあんこ娘」という女の子が描かれたボードがあった。

今はやりの萌え系の絵ではない。でも、そういう胡散臭さがない分、健全な感じがしてこれはこれで好感。

「ところで、これのどこが『スーパー』なんだ?」
「さあ?髪の毛の色とか、そんなところじゃないか?」

適当な会話をする。

でも、「スーパー」を名乗るなら、髪の毛の色は金色でないといけないと思う。

それはともかく、肝心の「あんこ」って何だ?「あんこ椿は恋の花」という都はるみの名曲があるので、知名度が高い言葉ではある。しかし、肝心の意味がさっぱりわからない。

「●んこ娘、と伏せ字にすると分かりやすくなるのでは・・・」
「やめろ」

この話は今後の宿題としておくことにした。

島に滞在中、どこかのあんこ姐さんに聞いて回答を知ったのだが(誰に聞いたか忘れた)、「あんこ」とは「姉っ子」がなまったもので、要するに「若い娘さん」という意味になるんだと。ちなみに「あんこ椿は恋の花」というのは、伊豆大島の若い女性は真っ赤な椿のように燃える恋をしますよ」という意味らしい。

なるほど、非常に納得。

・・・いや待て。となると、「あんこ娘」って、「娘娘」って意味になるぞ。なんだこれは。「胃痛が痛い」と言っているようなものだ。不思議な表現であるよ。

ちなみに、時々中国料理店で「娘娘(にゃんにゃん、と読む)」という店があるが、あれは実は「あんこ娘」って意味だったんだな。・・・ホントか?

ステージでおどるあんこJr

ありゃ。ステージ上では、小学生くらいの女の子たちが踊り始めた。

見ると、全員が「スーパーあんこ娘」と同じ格好をしている。

「おい、あれがスーパーあんこ娘か?そうなのか?」
「待て、落ち着け」

民族舞踊、というか伝統的な踊りを披露されても正直見ている方は疲れるが、いわゆる創作ダンスと呼ばれるものを見せてくれた。若いだけあって、飛んだり跳ねたり手を叩いたり、見ていてとても楽しいダンスだった。やあ、これはいい。

踊りまくる子供たち

いくら元気いっぱいの女の子たちとはいえ、ずっと踊り続けられても見ている方は飽きる。しかし、テンポ良くどんどん次の曲と踊りになり、メンバーが入れ替わるので、これは見応えあった。人数も、増えたり減ったり、動きもいろいろ。

おかでんはステージ上にカメラを向けて写真を撮っていたのだが、しぶちょおはなぜか斜めを向いて別のところの撮影をしている。

「何をやってるんだ?」
「いや、出番待ちでステージ脇にいる子供達が、曲にあわせて軽く踊ってるんだよ。それがなかなかに良い感じだったので」

確かに、舞台袖に待機している次の番の女の子たちが、小さな身振りで今踊っている振り付けを一緒になって踊っていた。

「きっと同じ場所と時間に練習してたんだろうな。だから、他人の踊りも覚えちゃったんだろ」

微笑ましくていい光景だった。また、「自分の番まで体力温存」なんてしない、子供ならではの体力の豊富さに感嘆。

子供と大人
ちびっ子一人舞台

白いスーツを素肌の上に着込んだ人が、幼女を抱えてステージにあがってきた。すわ、誘拐現場か。・・・と思ったら、このスーツのお父さん、そのまま舞台脇に引っ込み、ステージ上では女の子一人が踊り始めた。それ以降、最後までこの白スーツ男が舞台に上がることはなかった。

「あのおとーさんは一体なんだったんだ?」
「ステージに連れてきただけじゃん。どうみても誘拐にしか見えなかったぞ」

それは兎も角、まだ小学生低学年?の女の子なのだが、ソロダンスを任されるくらいだから相当なもんだ。物怖じせず、堂々と踊りまくっていた。この島の学校って、体育の授業は延々とダンスをやっているのか?

司会者

しばらくしたら、「いったん中休み」ということで司会者が出てきた。

あれっ、あのおっちゃん、レンタカー屋で港からの送迎をやっていた人だ。こんなところでボランティアやっていたのか。
みんな大変だよなあ。昼仕事やって、夜は夜祭りの応援だ。それが毎晩繰り返されるわけだから。

ただ、子供達の踊りを見ていたら、もう1カ月以上やりこんでいるので居眠りしていても踊れるぜ!というほどの完成度ではなかった。多分、平日と週末とではイベント内容は違うのだろう。毎日、同じ事を休み無く繰り返すってのはさすがに島全員が疲弊する。

ターミナル売店
売店に人だかり

しばしステージショーは中断するので、その間にお店なんぞでぜひお買い物を、とレンタカー屋のおっちゃんに言われたので、それでは、と待合所をぐるっと見て回る事にする。

手ぬぐいを買うしぶちょお

船着き場なので、お土産物屋は当然ある。その他にも、臨時にいろいろな物販屋台が出ていて、なるほどこれは面白い。しぶちょおは、椿の絵柄が入った手ぬぐいを物色し、いくつか購入していた。

「ひびさんがこういうの、好きなんよ」

なるほどねー。手ぬぐいだったら、実用性あるし、もしサイズや柄が気に入らなかったら、ぞうきんなりなんなりにしてもいい。小さく切ってコースターにしたり花瓶置きにしてもいいし。贈られて途方に暮れる、というシロモノではない。

しぶちょおの場合、ひびさんを愛知に置き去りにして今回伊豆大島に来ている。ちゃんとフォローしとかないと、後で怒られる立場。お土産選びは慎重だ。

それにしても伊豆大島、とりあえずなんでも「椿」をあしらえばお土産物として成立するんだからすばらしい。名産品がある観光地って、こういう時有利だな。

実は、椿油の生産高は伊豆大島よりもお隣の利島の方が上のはず。しかし利島は観光客があまり訪れない地味な島であり、その結果椿=伊豆大島という認知を不動のものとしてしまっている。

ビールが売られている
マッサージ屋もいる

おおう。生ビールサーバーがあるぞ。生ビールも売っているのか。

惹かれたのだが、夕食に瓶ビール2本を頂いてしまった後ではどうにもこれ以上は入らぬ。残念。最近、飲めなくなったな。老いたな、おかでん。

昔だったら、飲めようが飲めなかろうが、「こういうところで生ビールを飲むという行為そのものが風情なんですよ旅情なんですよキミィ」といって、躊躇無しに財布を録りだしていたものだが。

他にも、島焼酎の試飲なんぞをやっているブースもあったが、これまたパス。ううむ。

郵便局がブースを出していたりいろいろあるのだが、面白かったのは足つぼマッサージをやっているブースがあったこと。何でもありだな。・・・って、マッサージ師の顔をみたら、先ほどの「誘拐犯」ではないか。やあ、早変わりで本職に戻りましたか。お疲れさまです。

この足ツボ屋さん、24時間いつでも対応しますよ、なんてチラシに書いてあった。つまり、「早朝4時に15分間だけお願いします」なんていう嫌がらせとしか思えない注文にも応じる、ということだ。すごいな。24時間営業やっているサービス業って、この島じゃここだけじゃあるまいか。なにせコンビニがない島だから。

ただ実際、そんなド深夜に予約が入るなんてことはまず無いだろうけど。歓楽街がない分、島の夜は早い。

スーパーあんこ男

しばしの休憩ののち、ステージ上ではダンスパフォーマンスが再開となった。

出る出るわ、島内の若い女の子総出演じゃあるまいか、というくらいの数だ。ダンスの技術はともかくとして、若い人たちが踊っているのを見るのは楽しい。しかも、コンテストではないので、変にこねくりまわした踊りじゃないし。

それは誰もが同じようで、ステージを幾重にも取り囲んでいる観客全員が我が子を見るかのような温かい目線で、ニコニコしながら踊りを見ていたのが印象的。もっとも、中には既に酒で相当でき上がっているとっつあんもいて、最前列のパイプ椅子にふんぞり返って「うぃーっす」「おーう」と音楽とズレまくりな合いの手を入れてたりしたが。それもまた風情があってよろしいかと。

女の子オンリーのパフォーマンスなのかと思ったら、途中から男の子達も出てきた。それを見るや、「じゃあそろそろ他のところも見て回ろう」とステージ正面から離れるおかでん。しぶちょおから「おい!」と言われた。

「男になったからって急に見るのをやめるってのはどうなのよ」
「いやー、もうそろそろ頃合いかなーと思って」

言っておくが、おかでんはロリコンではない。ただ、後でしぶちょお撮影の写真を見せてもらったら、彼はまんべんなく全チームのダンスパフォーマンスを写真に収めていたのに対し、おかでんは女の子チームだけだった。うは。

一応舞台上が女性チームに戻ったところで、われわれはまだ見ていない待合所内のあちこちを散策してみる。すると、会場脇に、先ほどみかけた「スーパーあんこ娘」のボードがもう一つあった。ぽつんと隔離されている。

「これは撮影するしか!」

急にやる気になり、「スーパーあんこ男!」といいながら写真撮影。正しくは「スーパーあんこ親父」ないし「スーパーあんこおっさん」なんだが、まあいいや。

なお、おかでんは浴衣姿なわけだが、こんな奇抜な格好をしていたのはこの夜祭り内でおかでんただ一人だった。変な人と見られたに違いない。

温泉街で浴衣を着て外出、というのは風情だが、普通の町で浴衣着て外出、というのは「パンツ一丁でコンビニに買物に行く」のとなんらかわりない。寧ろ恥ずかしい格好だったかもしれん。さすがスーパーあんこ男。

スーパーあんこ男2

しぶちょおも「スーパーあんこ男」になるべく、写真に収まる。

なにか新手の格闘技の演舞みたいになってるが、気にしない。

食堂メニュー
青唐がらしラーメンがある!

待合所の二階には軽食コーナーがあった。軽食コーナー、というのは外見だけで、メニューを見る限り実際はしっかりとした食事を堪能できる。

ここも岡田港の待合所同様、「島の名物はひととおりここで食えるぜ!」という意気込みがある。素晴らしい。この島の人、ホンマに「カツ丼」とか「うどん」なんて食べないんじゃあるまいか、と思ってしまうくらいだ。観光客好みなメニュー構成。もちろん、「チャーシュー麺」だとか「カレー」はあるのだが、同時に「さざえカレー」や「島のりラーメン」なんてのがあって、やっぱり旅人を誘惑してやまない。

「大抵こういうところで、しょぼくれたメニューしかなくって、『しょうがない、他に店がないし、ここで食べよう』ってなるもんだよな。で、食べたくもない丼物食べたりすることになるのに・・・それがどうだ、この店は。お店選びの第一選択肢になりうるではないか」

ちょっと興奮する。そんな二人をさらに興奮させたのが、「新メニュー」として大きな張り紙がしてあった「青唐がらしラーメン」だ。「辛くて美味い!」と書いてある。おおおう、辛いもには目がない二人が、この挑発にのるなという方が無理だ。

「この島、青唐辛子が有名なのかね?」
「まあ、島唐辛子は沖縄とかでも名産だしねえ。小さいけど結構イイカンジで辛い」
「とはいっても、観光ガイドやパンフを見ても、どこにも唐辛子の表記は無いぞ?」

そういえば、岡田港の軽食コーナーでも「青唐辛子入りソーセージ」ってメニューがあってわれわれをいたく興奮させたっけ。どうやら、隠れた特産らしい。

「いいねえ。やっちゃう?」

ステージ上の踊りそっちのけで二人顔を見合わせる。しかし、

「さすがにさっき夕飯食ったばかりだしなあ・・・」

というところで意見の一致。しぶちょおはがっつりてんこ盛りご飯を食べていたし、おかでんはビールをぐいぐい一人で飲んでいた。「居酒屋宴会のシメでラーメン」というのはあり得ても、「宿メシのシメでラーメン」というのはちょっと酷だ。

結局今日のところは見合わせることにした。明日以降の行程計画はまだ全く立っていないところだが、ご縁があればまたここに立ち寄る事もあろう。

パフォーマンス1
パフォーマンス2

二階レストランから降りてきたら、まだロビーでは踊りが続けられていた。んで、酩酊しているおっちゃんも相変わらず拍子の外れた合いの手を入れてた。

だんだん年齢層があがっていくようで、最初の頃は小学校低学年だったのが、今は中高生くらいにまでになっている。

はっぴを着ているのだが、背中には

「私しゃ大島 御神火育ち 胸に煙は 絶えやせぬ」

と書いてあった。なるほど。ならば、おかでんの場合は「私しゃ広島 ビール育ち 喉に泡は 絶えやせぬ」で勝負だ。・・・何を勝負するんで?

写真撮影中
防波堤

そろそろ夜祭りも終わり、ということなので、われわれは港の様子を見に待合所の外に出てみた。

「この強風の中、三脚無しでどれだけ手ぶれ無しで夜景を撮影できるか勝負」。

オレンジ色の照明に照らされた防波堤があやしい色合いだ。そこに波ががっつんがっつんと乗り上げている。もの凄い荒天ではないか。実際、高みの見物を決め込んでいるわれわれ二人だって相当強風に煽られている状態。

「ちょっと俺、用水路が気になるので見に行ってくる」
「それ、台風の時一番人が死にやすいパターンじゃないか」

気になるのはわかるんだが、どうしてああも毎度毎度、「用水路を見に行って、そのまま流されて死ぬ」というお約束行事を日本人は繰り返すんだろう。

さすがにわれわれは分別ある大人。チキンレースだとかなんとかいって、防波堤に出て行くのはやめておいた。いきなり超巨大な波がやってきて、いっきにさらわれる可能性は十分あり得る。

・・・と思ったら、防波堤を歩いていく二人発見。

「おい!あれは無謀だぞ」
「酔ってる?足元ふらついていないか?やばいな、あれは」

緊張が走る。万が一の事があったら、海上保安庁とか警察とかにわれわれが通報しなくちゃいかんではないか。しぶちょおは先ほどから「歴史の生き証人になるかもしれん」とハイビジョン動画で状況撮影中。

結果何もなくて良かったのだが、その後は軽自動車がやってきて、波がきつい防波堤の先端まで突撃してまたもや緊張が走った。観光客なのか地元民なのかわからんが、命知らずのバカの入れ食い状態だった。死んだら何も残らないぞ。ほんまやめとけ。

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