伊豆大島討伐

画面2
画面5

高速船なんて乗り慣れない「近未来ののりもの」なので、一体どういうお作法が必要なのかがわからない。あー、今考えれば、ホバークラフトがまだ存命の頃に宇高連絡船に乗っておくべきだったな。あんな「水陸両用船」なんて、今後商用として日本に現れる事は二度とないだろう。

船は岸壁を離れる。しかし、その動きは拍子抜けするくらい遅い。港内なので速度規制があるのだろうが、だとしてもフェリーよりも明らかに遅いのはどうしたものか。そのくせ、眼前のディスプレイでは「シートベルトをお締めください。」の表示が。PL法におびえる商品のように、念のために警告してみました、という類かと思ったが、これはマジらしい。後で船員さんが全員のシートベルト装着状況を確認しに、船内をくまなく回っていた。おいおい、まるで飛行機じゃないか。

しかも、そのあとには「お席を立たないでください。化粧室、自動販売機のご利用もお控えください。」の表示が。まさに飛行機の離陸みたいなものだ。大げさだな、あつものに懲りてなますを吹く、って奴じゃないのか?

画面3
画面4

呆れていたら、今度は非常用のエアバッグの装着方法について、説明するビデオが流れ始めた。全く飛行機と同じ扱いなんスね。飛行機は、「エアポケットにはまって急降下する」とか「墜落しちゃう」というので非常事態の想像がつくんだが、高速船では一体どういう緊急事態が想定されるのだろう?浮上したときに船底から出てくるそりみたいな足がぽっきり折れる、とか未確認の敵艦隊から襲撃を受けるとか、そんなものだろうか?

「おい、トイレも使ったらダメなの?俺、トイレ行きたいんだけど・・・」

昨晩遅く、うっかり激辛のラーメンを食べたおかでん。今朝はおなかの調子が大層悪い。既に今朝から、道中頻繁にお手洗いに行っている。ボクのおなかが高速船状態なんですが。顔が青ざめる。

高速艇が海の上を走る

港から出てしばらくしたら、水中翼を出すよ、ということでキューン、ぐいーんという音が床下からしてきた。到底船が発する音とは思えず、思わず「おおう」と二人で顔を見合わせてにんまりしてしまう。何かSF的だ。

ここで、われわれが思い描くSFだったら、即座にどーんと加速するのだが、なかなか加速しない。結構準備に手間取るのが現実らしい。

まだか、まだかと待っていたら、ゆっくりと加速を開始。飛行機の離陸時のような加速感が有るかと思ったが、さすがにそれはご期待に沿えずすんません。ただ、気がついたら70km/h越えのスピードになっているのだった。

「はええええ」

大海原を走っているので、比較対象がないのだが、それでも明らかにめっぽう速いのがわかる。

「全然揺れないねえ」
「もっと揺れるかと思った。全然余裕じゃないか我が軍は」

てっきり、水中翼が波をばさーん、どばーんと力業で飛び越えるのかと思っていた。コブ斜面をスキーで滑り降りるような。しかし実際は、波なんてありましたっけ?という平然さで前に進むのだった。

「結構波が高いのに、平気だねえ」
「でも今日夕方の便が『未定』扱いだぞ?一体夕方になったら天気はどうなるんだ?」

これだけ余裕な船が、運行するかどうか決めかねるってどういう事態だ。海底火山の爆発でもあるのか?

船内の自販機

80km/hっていったら、高速道路を走る車並のスピードだ。少なくとも、この速度で首都高速を走ったら、覆面パトに呼び止められる速度(首都高は60km/h制限)。これならあっという間に伊豆大島だねパパ!と喜んでいたら、「この後、伊東に寄港する」とのアナウンス。あらー、立ち寄りがあるのですか。東海汽船の航路図には載っていないのだが、熱海-大島便の一部は伊東に寄港するんだそうで。

「伊東、寄らなくていいじゃん。伊東に行く人は熱海経由だろ、普通」

思わず愚痴ってしまうが、これがこれが、伊東から結構な乗船があった。熱海発時点ではまだまだ空席があったのだが、アナウンスによると「伊東からのご乗船で満席になりますので、所定の席にお戻りください」なんだそうで。結果的には空席は残ったのだが、それでも結構なお客さんの数だった。伊東、侮りがたし。

そうはいっても、さっきまで軽快に海を疾走していたのが、伊東立ち寄りのせいで思いっきり減速したのはがっかりだった。ホント、水中翼を引っ込めた途端に「MPが無くなった魔法使い」状態。ぷかぷか浮いているだけ、波に流されているだけのようなありさまだった。帰りに速度計をチェックしたら、湾内の速度は4km/hだったりして。歩いた方が速いではないか。なにこのギャップ。

気を取り直して伊東からあらためて伊豆大島を狙う。じらしまくって、ようやく速度アップ。そうすると、「シートベルトを締めてね」という表示がディスプレイから消え、NHKのテレビが流れ始めた。

「ええと、これはシートベルトを外しても良いということなのかね」
「さあ?」
「身の安全と船員さんから怒られるリスクとを鑑みても、僕はトイレに行きたいのだ」

といって、トイレへ。どうやら、アナウンスはないが、これはOKだったらしい。加速時と減速時は離席禁止だけど、安定走行に入ったら最低限の移動は許されるようだ。

船内には飲み物の自販機と、お菓子の自販機があった。そのお菓子自販機には、「セブンアイランド夢」のチョロQもあった。お好きな方はどうぞ。値段は結構高かったが。

伊豆大島が見えて来た

途中、「海洋生物が多くいる場所なので減速」という、なんだか分からない理由で減速があった。すごろくで言うところの「一回休み」みたいな感じ。

多分、イルカがいて、衝突すると船にダメージを受けるためにゆっくり走るのだろう。「イルカは賢い!イルカを守れ!」なんていうイデオロギーとは関係ないと思う。

しばらくして再加速して、さああとは伊豆大島一直線だぜ、となるわけだが、もう一つトラップが。伊豆大島が眼前に迫ってきたところで減速、停止してしまった。

まもなく大島

アナウンスが入る。

「岡田港に前の船が入っていて、それが出るまで待機」

なんだその迷惑な船は。窓から覗いてみると、確かに岸壁に2艇、船が着岸している。われわれの船が着岸するスペースはありそうだが、何も岸壁のどこでも良いというわけではないのだろう。大人しく待機。

別の高速艇と入れ替わり

5分だか10分だか沖合い停泊していたら、「やーどうもどうも」といった風情でようやくお待たせだった船が離岸した。あれはセブンアイランド・愛だな。誰か乗り遅れが出たのか、それとも大島への往路が遅れたのか。多分、後者だと思う。結構波がきつくなってきている。

着岸。

岡田港

タラップが船に横付けされ、下船が開始となった。

「あっ、お巡りさんがいる!」

この辺りがいかにも島にやってきました、という感じだ。小笠原の母島に行った時も、船便の往復共にお巡りさんが待ちかまえていたっけ。実質上の「関所」だ。悪い奴は島に入れない、島から逃がさない。

船から出てくる人のなかで、明らかに怪しい奴がいれば任意同行を求めたりするんだろうか?一体どういう基準で人を見ているのか、わからない。「教えてください」と聞いてみたかったが、「そりゃノウハウの結集だから企業秘密」とかなんとか言われそうだ。

とはいえ、この島は船便の他に飛行機も飛んでいる。伊豆半島から近いので、船を強奪して脱出することだって可能だ。この「関所」がどれだけ効果があるのかは不明。

おちんちんびろーん状態でお巡りさんの前に立ったら確実に連行だろうが、それ以外でどうすれば呼び止めるか、むしろ興味がある。

「おまわりさんにギリギリつかまらない姿格好チキンレース」をやってみたいところだ。「ここまでならOK」「うわ、これは捕まった」というギリギリのところを狙う。・・・そういう企画を立てている時点で、公務執行妨害だが。

ようこそ大島へ。ここは岡田港です。

岸壁の一部は、雨に濡れないように屋根つきの廊下が設置されていた。そこに、「ようこそ大島へ。ここは岡田港です。」という文字と、島の代名詞である椿の花の絵が。

うれしくなってしまい、まずはここで記念撮影。

船旅っていいもんだ。普段、飛行機、電車、車と移動していると、目的地に到着したら余韻に浸る間もなくわっせわっせと移動しなくちゃいけない。しかし、船で島に渡ったら、「おおぅ」という感慨がある。

「岡田」と書いて、「おかた」と読む。決しておかでん、とは読まないので念のため。ただ、地元の人は「おかだ」と呼んでいる人もいたので、そのあたりは曖昧なようだ。

今更すぎる名前なので、しぶちょおも「おかでん港」などというベタな冗談は一切口にしなかった。この旅行の最初から最後まで、だ。

わざわざ「ここは岡田港です。」と名乗っているのは、船内アナウンスを聞きそびれて、てっきりここが元町港と勘違いする人が出ちゃいかんという気配りからだろう。

岡田港はシンプルな作り

岡田港はシンプルな作りだ。防波堤のように海に突き出た岸壁があるだけ。瀬戸内海の小島を行き来する小型カーフェリー中心の広島港(宇品港)を見慣れていると、拍子抜けする。広島港の場合、方面別に専用桟橋がずらりと並び、桟橋の上を車が行き交う。

岡田港案内図

岡田港は、岸壁の付け根にチケット売り場兼売店の建物があり、あとは駐車場がある程度。わざわざ「岡田港内案内図」看板があるのはユーザーフレンドリーだが、シンプルな構造故にほとんど意味をなしていない。

看板を持った人

岸壁の根っこには、なにやら看板を持った人が何人も立っていた。普通だったら、温泉宿の送迎バス御案内係。昔の熱海やら水上、鬼怒川の駅前といったら、旗やら看板やらを持ったこの手の人が、列車の到着を今や遅しと待ちかまえていて壮観だったっけ。・・・って、いつの話をしているんだ君は。

この岡田港における看板な人たちは、宿の人ではない。レンタカー業者の皆さんなのだった。地方空港のように到着ロビーにレンタカーカウンター完備、というわけではないので、看板持ってお出迎えというわけだ。

島内はバスが走っているが、当然のことながら便数が多いわけではない。また、案外お値段が張る。そのため、気ままに島内観光をしたい人はレンタカーを借りる事になる。ニッポンレンタカーやトヨタレンタカーなど、大手が島内には営業所を持っているので安心。何なら、一人旅なら、レンタバイクでライドオンしても良いし、体力が余ってしょうがないぜ畜生、という方ならレンタサイクルをどうぞ。ただしレンタサイクルは確実に昇天するけど。島の道路、しかも火山島を舐めたらいかん。アップダウンがしゃれにならんぞ。

これらの大手レンタカー会社は、本日の船着き場まで車を回送してきてくれる。また、出発日にはその日の船着き場で乗り捨てOK。わざわざ営業所まで移動する必要がない、お気楽さだ。

椿まつり開催中だそうだ

われわれは、そういった大手レンタカー会社の人たちを素通りする。レンタカーを借りてはいるのだが、マニアックなところを手配しているからだ。

その名前は「モービルレンタカー」。しぶちょおが「モービルレンタカーがあるぞ」と掘り当てたのだが、このレンタカー屋、実は八丈島の時にお世話になったお店だ。いつの間にか、伊豆大島にもお店を作っていたのだった。

普通に「伊豆大島でレンタカーを借りたい」と思ったら、どうしても大手のお店が検索にひっかかる。そもそも、モービルレンタカーは、2010年3月時点では、観光協会のwebサイトにさえ掲載されていないくらいだ。しかし、しぶちょおは言う。

「最近、ガソリンスタンドなんかが安く車貸してくれるからなぁ。まずそっちを探さないと。」

ごもっともだ。その結果、24時間借りて3,000円という超格安レンタカー、しかも以前馴染みがあって思い入れもあるモービルレンタカーを探し当てるとは、なんとも奇遇だしラッキーだ。

大手レンタカー会社だと、24時間だと6,000円くらいはする。どうせ島内をちょこまか移動するだけであり、快適なドライブだとかスポーティーなハンドリングなんてのは期待していない。安ければ安いほど、ありがたい。トヨタレンタカーは「カーナビ全車完備!」と謳っているが、いらんいらん、島の中ウロチョロするのにカーナビなんていらん。それよりも安くしてくれ。

もっとも、3,000円という値段でやっているので、サービスは切り詰められている。島に到着したら電話で事務所に連絡くれ、ということだった。送迎車を差し向ける、という。要するに、大手レンタカー会社のように車を持ってきてくれるというサービスはやっていないというわけだ。でもそれくらい全然問題はない。

あと、応対もとてもざっくり。電話予約をする際、こっちが心配になってあれこれ確認しないと詳細を教えてくれないくらいシンプルだった。危なく、予約日時、名前を先方に告げただけで電話が切られるところだった。いやいやいや、普通「それでしたら費用は○○円になります」とか、あれこれあるでしょう。ま、そういうところも踏まえて廉価ということだ。

レンタカー待合場所

港からレンタカーの事務所に電話をかけたら、待合所脇の公衆電話で待て、という。何か誘拐犯の身代金引き渡しのようだ。送迎車の到着を待つことにする。

待合所には、「椿まつり開催中」という立て看板が掲げられていた。1月30日~3月28日の期間、ということで、やたらと長い。途中で息切れしてしまいそうだ。ただ、来週には終了ということなので、もう椿のシーズンは終わりということだ。よいタイミングに伊豆大島を訪れる事ができて良かった。

送迎車がやってきた
送迎車

大手レンタカー会社から車を借りた人たちはどんどん出撃していく。

また、船の到着にあわせてスタンバイしていた定期バス、そして団体観光客を飲み込んだ観光バスが旅立っていく。さすが三連休初日の午前。とても活気がある。排ガス臭いけど。多くの人たちのお目当ては、椿公園でやっている椿まつりらしい。われわれもまずは・・・まずはメシ、だな。朝メシ食ってないし。

レンタカー会社指定の待ち合わせ場所には、われわれ以外の利用者も待機していた。その中で、団塊世代の夫婦の旦那が一人電話口で気を吐いている。

「待っていたのに来ないじゃないか。他の人たちはもう先に行っちゃったんだよ、どうしてくれるんだ」

一体何を言っているのかわからないが、どうやらレンタカー会社に対して怒っているらしい。

しばらくすると、真っ黄色で目立つワゴン車がやってきた。モービルレンタカーの送迎バスだ。早速乗り込む。

団塊のとっつあんが、送迎車に乗り込んでも運転手さん相手に愚痴りまくっている。

「迎えに来るって話だったのに来ないじゃないか」
「来ましたよ。しばらく待ってもいらっしゃらないので、いったん戻りました」
「居なかったよ!うそつくな」
「いましたよ。指定の場所に、ちゃんと」

なんだか険悪な雰囲気。どうやら、送迎依頼の電話をしたけど、すれ違いだったらしい。ここでレンタカー屋のおやじがうそをつくとも思えないので、ご立腹中のとっつあんが何か場所の勘違いをしていた模様。レンタカー屋、とんでもないとばっちりだ。二度手間になったし。

まだ愚痴は続く。

「なんで車を港まで持ってきてくれないんだよ。なんで営業所まで行かなくちゃいけないんだよ。他んところは港までちゃんと持ってきてくれてるぞ。それくらいしろよ」

それを聞いて、

「むちゃ言うなよ。値段いくらだと思ってるんだよ」

と後部座席のしぶちょおがうんざりして、小声でぐちる。

「この年代の人って、一度思いこんだら圧勝だよな。自分を客観視できないし、しようともしない。で、自分が正しいって勝ち誇っちゃうからな。本人にとっては幸せなんだろうけど」
「値段相応のサービスってことくらい、理解しろよな。それができない世代だけどな」

団塊ジュニア世代のわれわれとしては、団塊世代はちょうど親の世代にあたる。だからフォローしてあげたいところなんだが、実際社会生活を送る中で唯我独尊でタチが悪い人が幅をきかせているのも事実だ。全ての人がそうだとは言わないが。

とっつあんの糾弾会はまだ続き、

「連れはもう先に行っちゃったんだよ。すぐに追いかけないといけないんだよ」

などと、何だかよくわからない織り交ぜ始めた。

「連れって何だ?話の文脈から読み取れないんだが」
「同行者が居たんだろ?でその人は、大手のレンタカー会社で車を借りたか、バスで行ったんだろ」
「そんなん、レンタカー屋からしたらシラネーヨって話だよな」

おかげで、レンタカー屋のおっちゃん、大変ご機嫌斜め。その苛立ちを隠そうともせず、アクセルをいきなりベタ踏みで急加速したり、ハンドルを急旋回というロデオドライビング。やめてくれー、僕らはちゃんと事前に情報収集して、納得ずくでおたくのお世話になろうとしているんだから。とばっちりはご免だ。

モービルレンタカー看板
モービルレンタカー建物

「ここはどこ?元町?」
「いえ、元町に向かう途中ですが」
「なんでこんなところに(営業所を)作るの?港の近くに作ればすぐに車が借りられるのに。もうみんな先行っちゃってるんだよ。こんなところで車借りても、今来た道を戻らなくちゃいけないじゃないか」

まだとっつぁんは美しいBGMを奏でている。あまりにトホホな内容なので、最初は義憤に駆られていたわれわれ二人も、なんだか楽しくなってきた。いいぞもっとやれ。

モービルレンタカーの営業所は、地図でみると「え?こんな辺鄙なところに?」というところにある。ただ島全体で地図を見ると、その営業所は元町港からも岡田港からも、ちょうど距離が同じくらいのところにあることが分かる。どっちに船が着岸しても対応できるようにした結果だろう。集落から離れているので土地は若干安く手に入っただろうし、ちょうど都合は良い。

なお、大手レンタカー会社は元町港の近くに営業所を構えている。賃料が高くつくが、そのコストを料金に上乗せする形で、利用者の利便性を優先させている。

とっつぁんが「港の近くに営業所を造れ」というのは廉価レンタカーに求める内容ではない。むちゃ言うよなあ。最後の方になると、レンタカー屋のおやじは相づちすらうたなくなっていた。相手するだけ無駄、と思ったのだろう。実際そうだ。

車で5分強。モービルレンタカーの営業所に到着した。このお店の元祖である八丈島では、モービル石油のガソリンスタンドが兼業でレンタカー屋を営んでいたのだが、ここは専業だった。そのかわり、お隣にパチンコ屋があります。レンタカー返却して暇があれば、パチンコでもお楽しみください。

屋根付きモータープール

車は野ざらしではなく、ちゃんと屋根付きモータープールに保管されている。

ただし、どう見てもこれはビニールハウスですね、というところだが。なるほど、ビニールハウスとは考えたな。これだったら風雨を凌ぐのには楽だ。

車は、「釣りをする人」用と「釣りをしない人」用がある。釣りをする人は冷凍のコマセを使う事が多いために、それが溶けてあちこちに付着して腐って、臭いがつくからだ。釣りをしたことがある人なら分かるが、これが結構臭い。だから、ビジネスホテルに「禁煙室」「喫煙室」があるように、ここでは「釣り車」「釣りしない車」が分けられているのだった。なお、車は軽自動車しかない。それ以上の車は、普通この島ではいらない。

・・・と思ったら、われわれの横をセリカが通り過ぎていった。しかもエアロパーツやGTウィング付き、マフラーも野太い音がでる別注品。
「この島で一体何をする気だ?」
としぶちょおが呆れる。地元の人が乗っているらしいが、あの車をフルパワーで使いこなす機会ってあるのだろうか?

車の鍵
レンタルした車

営業所で車を借りる手続きをする。このモービルレンタカー、送迎を担当するおやじと、店番のおねえさんの2名で営業されていた。廉価で車を貸すために、最低限のリソースで頑張っている。こうなると、この人達は一体いつ休みが取れるんだ?と心配になってしまう。

手続きはおねえさん一人で処理するため、送迎車でどさっと人がやってくると、手続き待ちの行列になる。とはいえ、この手続きがやたら早い。申し込み書類に住所氏名連絡先程度を書いて、免許証のコピーをとられ、免責保証(1日1,000円。さすがにこれは大手と変わらない値段だ)つけるかどうかの確認があって、はいお終い。

あれっ、という早さ。

大手で車を借りたら、説明責任ってやつでこまかく免責内容の説明があったり、車のキズを双方立ち会いのもとでチェックしたりとあれこれあるものだが、全くない。大らかなもんだ。あっけなく鍵渡されて「9番の車使ってください」だって。

しかもそのキーホルダーがシンプルすぎて素敵。色気や格好良さよりも実用性重視だ。

しぶちょおが

「さて、釣り用かな?どうかな?」

と妙なところでワクワクしながら「9番」の車を探す。

「おお!ムーブじゃないか。安いレンタカーなのにこれは頑張った」
「はあ。コレがそんなにエエんですか」
「安い車だったら、もっとボロいのが回されるんだけど、これはちゃんとしてる」

といいながら、しぶちょおは外観の写真を撮っている。よっぽどうれしかったのかと思ったが、撮影しているのはバンパーの角などが中心。キズのチェックをし、証拠を残しているのだった。このあたり、大変に手堅い男だ。そばに置いておくと大変心強い。

元町に向かう

「じゃあまずは僕から運転するぞ。どうせ昼飯までだ。その後は任せた」
「飲むのか」
「ああ飲むとも」

八丈島同様、「午前中はおかでんが運転。昼メシでおかでん飲酒により午後はしぶちょおが運転」というルールを適用。こういうのは、前例がフォーマットになってくれるので話が早い。やっぱり、同じ面子で旅行をすると何かと居心地がよいもんだ。

車は島一周道路を走る。ここが島とは思えないくらい、真っ直ぐで平らな道。こんなところでうっかりスピードを出していたら、ねずみ取りの方々にあっけなく呼び止められそうだ。ただ、軽自動車故にアクセルをがつんと踏んでもなかなか加速しない。安全運転強制マシーンだ。素晴らしい。

伊豆大島のお昼ご飯事情はちょっと特殊だ。お店によっては、ランチタイム営業が極端に短いからだ。11:30~13:30、なんていう極端なお店もあって、社員食堂ですかここは?というくらいだ。だから、「もうお昼だねー、そろそろお昼ご飯食べたいねー」「どこで食べる?」なんてやっていたら、あれれもう営業終わってますよ、というハメになる。

朝食付きの宿に泊まっていたとしたら、朝は8時からのところが多い。だから、うっかり腹時計にあわせてお昼ご飯をプラニングしていたら、食べ損ねるハメになる。

その13時30分営業終了、というのが今回われわれが真っ先に目指したお店、「雑魚や 紀洋丸」。レンタカー屋からそれほど遠く無かったという位置関係もあるが、伊豆大島の美食を楽しもうと思ったらぜひここを選んでおきたかった。

われわれが手配した宿は二食付きとはいえ、大変廉価な宿だ。食事に島名物がずらりと並ぶ事は期待しない方が良い。島の美食を楽しむなら、お昼ご飯にだけチャンスがあると想定し、お店選びは慎重にしないと。

伊豆大島の名物であまり知られていないが「べっこう」。ブダイなどの白身魚の切身を、唐辛子醤油で漬け込んだものだ。べっこう色に輝くからその名前がついている。なにそれ大変興味深い。ぜひ食べないと。

石像が待ち構える
雑魚や 紀洋丸

そういうお魚を食べさせてくれるお店を探していると、この「紀洋丸」が結構評判であることが分かった。口コミに便乗するのは大変安直だが、何せ伊豆大島の物価基準とかどれだけ観光客向けにカスタマイズされた世界かというのがまだ把握できていない。とりあえずお手並み拝見、というわけだ。

紀洋丸は、大島高校の近くにあった。お店は結構広く、駐車スペースもそこそこある。島一周道路沿いにあるので便利。

店頭の黒板
本日のおすすめ

魚を扱っているお店なので、店頭の黒板には要注意だ。その日のおすすめが書かれている。

「三連休期間中は漁がお休みなのでお魚は全部古いです、って言われたら困るな」
「それは困る」
「でも実際どうなんだろう?観光客がこういう魚が獲れるところに行くのって、大抵週末だよな。漁って、やってるもんなのか?」
「さあ・・・どうだろう」

おかでん、今更ながらの素朴な疑問。「暦通りに漁師さんは休みます」だったら、いくら漁港近くの鮮魚が売りなお店に行っても、「昨日の魚でございますが悪しからず」って事になる。それってメリット薄いよな。新鮮な魚を食べたきゃ、平日においでという事だろうか?はてさて。

紀洋丸の黒板には、いろいろ書いてある。「おすすめメニュー」の先陣を切るのが、「海の玉手箱」2,100円。要するに海鮮丼なのだが、お店の看板メニューらしい。観光ガイドにはこの料理が紹介されていたし、実際にこのお店を訪れた人のblogなどを見ても、これを頼んだ人が多い。

「でも、丼って気分じゃないんだよなぁ」

おかでんは言う。酒飲みなので、丼いっぱいで完結してしまう料理というのはあまり好きではないのだった。

しぶちょおがその話を引き継ぐ。

「この玉手箱、ウニとかイクラが入っているんでしょ?・・・これ、伊豆大島で獲れたものじゃないでしょ確実に」
「だろうねぇ」
「だったら敢えてこれを選ぶ必然性が無い」

さあだったら何を食べる、諸君。

「島魚のフライ、って名前が卑怯だよな。たとえそれが普通のアジとかイワシでも、『島魚!』って名前がついたらがぜん美味そうになってくるじゃあないか」

こういう言葉に滅法弱いおかでんであった。なお、料理名に「サクサク」とか「じゅわっと」といった擬音を使ったものも、「卑怯だなあ、こういうネーミング」といいつつ頼む癖がある。まんまと策略にはまる人。

「おお、あしたばバターとはなんぞや」
「くさやもいいねえ」

などと、看板メニューの「海の玉手箱」を却下したはずなのにメニュー選びが悩ましい。カンパチの刺身というのも地味に魅力的だ。ああ、早く何か食べたい。旅情というのは空腹を作る。これは間違いないな。

店内
壁画

店内は結構広い。テーブル席だけでもかなりの数があるし、奥にはお座敷席もある。10名程度の団体客なら余裕で受け入れられる(もちろん、店員さんの数は少ないので団体で行くなら事前予約をしておくように)。実際、お隣の席ではこの後訪れるらしい10名近い数の団体さんむけに配膳が始まっていた。

白い大きな衝立には、伊豆大島をイメージしたマジック絵が描かれていた。おや、この顔は。トリスウイスキーの絵を描いていた柳原良平氏のものだ。大島御神火大使・東海汽船名誉船長、って名乗っている。そうだったのか。

ちなみに後で知ったのだが、東海汽船の高速船「セブンアイランド」3種類の命名とデザインを担当したんだって。大島にゆかり深い人なのだな。

二人はしばらくうんうんとメニューを睨み付け、あーでもないこーでもないと議論をし、結局「ざこ定食」1,575円を二人ともが選択した。サブタイトルが「活!島魚刺身定食」だって。

「雑魚や、を名乗るんだから、店の名前を使ったざこ定食は押さえておくべきでしょう」

としぶちょおは解説する。実際、値段と定食の中身のパフォーマンスが大層よろしい。全くの同意見だ。奮発して「舟あそび」3,675円を頼んだりするのはちょっともったいない。

このお店、魚がダメなんです・・・という人向けに「チキンカツ定食」といったカジュアルな定食も一応メニューにあった。「ジャンケンで負けた人はチキンカツ定食」という事にしようかと口から出かかったが、誰も得しないゲームなのでそれは却下。そんな駄案は地面にたたきつけてやった。

そのかわり、島魚のフライを二人で1皿、追加注文。

ビールちゃんの出番

さあここからが楽しい一時です。ビールちゃんの出番ですよと。

おかでんがお店でビールを頼むとき、必ずちょっと思案する。それは、生ビールと瓶ビール、どっちがお得かということだ。もちろん瓶の方がコストパフォーマンスは良いに決まっているのだが、ジョッキをぐいっとできる生ビールの魅力も捨てがたい。その「魅力」にどれだけの値段をこの店はつけているのか?というのを計算しなくちゃ気が済まない。

このお店の場合、「中ジョッキ」は473円。瓶ビール(中瓶)は578円。瓶ビールの方が相当高く見えるが、そんなはずがない。そこから、中ジョッキとこの店で称しているジョッキのサイズは相当小さいと踏んだ。この辺りの不確定要素を考慮すると、「500ml」と容量が確定している瓶の方が手堅い。すんません、瓶ビールをお願いします。

ビールがやってきた。

「まあ、まずはお約束、ということで」

しぶちょおにビール瓶とグラスを渡す。

「俺か?こんなことやってたら、また飲酒運転とかネットで書かれるんだよ」
「そうなの?そんなこと書かれたことあるの?」

これまでもさんざんこのコーナーで書いてきたが、彼の一族は遺伝的に酒が飲めない。だから、安心してビールを手に持たせて写真を撮れるのだった。これが、「お酒は少し飲める程度」だったらダメだ。飲酒運転疑惑がつきまとう。しかし彼の場合、一滴飲んだら卒倒するくらいなので、これほどの安牌はない。

しぶちょおを殺したかったら、毒薬はいらない。テキーラいっぱいで十分殺せる。ビールコップいっぱいで恐らく一日は倒れているだろう。

ビールを満喫するおかでん

本人は美味いとも何ともおもっちゃいないビールを両手に、笑顔を強制して写真を一枚。そのあと、心底からビールを美味いと思っているおかでんの手にビールは環往。

ではさっそく。

危なく、飲む前から「うひゃーッ」と声をあげそうになった。待て、順番が逆だ。なんかね、もう、離島に来ました!これからビールです!っていうシチュエーションだけで脳内麻薬どばどばなんだわ。パブロフの犬を地でいってる感じ。

しばらくこの「先走り」状態を自ら楽しんだ後、あらためてぐいっと飲む。

ううむ。おいし。

サントリートリスウィスキーの絵を前にアサヒスーパードライを飲むのは格別だなあ。あ、うそですごめんなさい。

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