伊豆大島討伐

俺たちスーパーあんこ男

日 時:2010年(平成22年) 03月20日~22日
場 所:東京都大島町 伊豆大島全域に出没
参 加:おかでん、しぶちょお (以上2名)

しぶちょおが、江戸に参勤交代で訪れるという。ちょうど木・金曜日という出張、なおかつ三連休手前というタイミングは、「東京界隈で一悶着起こしてこい」という、職場からの暗黙のプレッシャーだったようだ。

上司にみなまで言わせちゃいけない、そのあたりは部下が適切に察して、良きに計らうというのが理想の職場というものだ。しぶちょお、何かしなきゃ。

というわけで、しぶちょおから「三連休に何かするかね?」という打診があった。ちょうど「バトルアスリーテス・アワレみ隊大運動会」が終わった直後だ。

実は木曜日から出張というのはカモフラージュで、木曜日からでも遊びに出かけて宜しいという上司の粋な計らいではあるまいか?と邪推したが、それはさすがに良きに計らいすぎだ。自分勝手に都合良く解釈してはいかん。

ちょうど青春18きっぷのシーズンだし、以前からくすぶっている「鉄道サイコロ」をやっても良いと思った。「国道サイコロ」の鉄道版だ。鉄道の分岐駅に到着する都度、次の行き先をサイコロで決めるという企画。

しかし、この企画だと、ダイヤが薄いローカル線に突撃してしまったら一日くらいはすぐに吹っ飛ぶ。または、延々と首都圏を脱出できないまま、武蔵野線あたりを限界として都心をぐるぐる回っているハメになりそうだ。敢えて当日のトキメキ感を残しておきたいので、机上のシミュレーションはしていないのだが、常識的に考えて無理だろこの企画。

やるとしても、2泊3日じゃ駄目だ。お盆の季節か正月に、お墓参りや家族団らんそっちのけで一週間規模でやらないと。・・・罰が当たるな、きっと。

そこで出てきたのが、「伊豆大島・・・」というキーワードだった。正直、陸続きだと「どこへ行こうあそこへ行こう、だったらこっちもついでに!」と考えるのは芋づる式に検討事項が多く面倒すぎる。移動は車ですか公共交通機関ですか?とか、初日の宿はこっちで、翌日の宿はあっちです、とか。

その点、「島」という密閉空間だと、「とりあえず島行っちゃえ」「着いちゃった。帰りの船はもう確定してるので、それまでなんとか過ごそう」という覚悟と諦めがつく。旅の前にグチャグチャしなくて済む分、潔い。

もともとアワレみ隊というフォーマットで活動を開始したのが、離島(神島佐渡島粟島など)だった。だから「島」との親和性は高い。また、しぶちょおとの組合せだと、以前八丈島4泊5日の旅をやったことがあり、非常に印象深い成功体験となっている。伊豆大島、良いんじゃないですかねと。

八丈島の帰り、「いずれは伊豆七島を全部」なんて冗談を語り合ったものだ。もちろん無理であるという前提で。しかし、今回その「冗談」が、無理は相変わらずとはいえ少しだけ前進するというのはワクワクする。

伊豆七島、といってもその行政及び住所は全て東京都に所属する。もともとは伊豆半島同様静岡県の管轄だったらしいのだが、離島管理がたいへんなので、財政的に余裕がある東京都に移管されたとか何とか。

大島、利島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島

が「伊豆七島」のくくりとされるが、有人島である青ヶ島や式根島が抜け落ちていたりして、なんとも微妙な名前である。なお、言うまでもないが小笠原諸島は「伊豆七島」には入らない。

通称「伊豆七島」の最果て、八丈島には前述のとおりアワレみ隊として行った事がある。ここは江戸時代の流刑地であり、「御赦免の島」「情け島」として非常に味わい深い島だった。大島は、逆に一番本土寄りの島ということになる。椿が名産であり、ちょうど3月は椿シーズンが終わろうとしているところ。。寒すぎもせず、名物の椿は見られるし、遊びにいくにはちょうど良い時期かもしれない。

大島に行く、という話と並行して「三宅島」という選択肢もあるねえ、なんて話もなんとなく出していた。いまだに毒ガスマスク持参が島に上陸の際には必須、という日本でも有数のデンジェラスゾーンだ。ANAが飛行機を飛ばしているが、いまだに「空港近辺に高濃度の毒ガスが滞留」している時は欠航となる(しかも結構な多頻度)くらい、しゃれにならん。

でも、それがいい。

・・・と思ったのだが、さすがに毒ガスマスクを買うのは負担だし、ドルフィンスイムとかダイビング、釣りにはあまり興味がないわれわれにとっては決定打に欠けた。島民が全員避難し島外に疎開していた時期があったため、魚影が相当濃く釣り人にはたまらん場所なのだろうが・・・。

そんなわけで、なんとなく「大島だねえ」「そうだねえ」という事実がしぶちょお・おかでん双方で醸成されていったのだった。

なお、当初しぶちょおからは

伊豆大島の選択は「アリ」だな。

伊豆七島攻略戦でも良いくらいだ。

八丈島以外の大島・利島・新島・神津島・三宅島・御蔵島を二泊三日で巡る旅

という提案もあったくらいだ。現実的にこれらを2泊3日で巡るのは無理なのだが、あまり深く考えないように意識的にピンぼけさせている。おかでんも「ああそういうのもいいねえ」と話を聞き流している。

というのも、今回の二人は、八丈島であまりにも絶妙な「成功体験」をしたからだ。

GWどストライクの日程で、前日午後になって「八丈島に行こう」と決め、往復の飛行機の手配をし(今となって考えれば奇蹟)、宿もレンタカーも何も決めずに現地入りして3泊4日を楽しんだ。島に上陸するまでは、八丈島に何があるのか、そして地形さえ知らないくらいのいい加減さ。宿についてガイドブックを本屋で買って、ようやく状況を把握したありさまだ。

それが、「八丈島観光名所を全部見て回る」という企画となり、一生の思い出となる楽し島旅を満喫できた。これ以上の成功体験はなかなかない。

そういう事があるので、島旅ってあんまり深く考えなくてもいいんじゃネーノ、と思っていた。あれこれセッティングすればするだけ、窮屈になる。どうせ島に閉じこめられる訳だから、「あっちもこっちも行きたい」と目移りする事なんて、ない。「あっちもこっちも、行く。」事になるんだ。事前に考えるだけ無駄だし、考えない方が新鮮な楽しさがあると思う。

そんなわけで、ぼちぼち交通やら宿の手配をして、直前くらいに大島内のどこに行くかざっくりざっくり決めていくべえ、くらいの認識でいた。しかし、6日前の3月14日日曜日午後、しぶちょおから「大島行きの船便がほぼ埋まっている模様」という情報が入って、事態は急変。大あわてで各種調査と手配に取りかかる事になった。

まずややこしいのが、伊豆大島まで行く交通手段というのが豊富ということだ。東京の竹芝桟橋からジェットフォイルで行くのが一般的ではあるが、他にも「夜行便のフェリー」が存在したり、ジェットフォイルも久里浜経由とか館山経由といったものもある。だから、それだけではない、熱海や下田からもジェットフォイルは運航しており、船便だけでも相当入り乱れているのだった。さすが本州に一番近い伊豆七島だけのことはある。

それだけではない、飛行機だって飛んでいる。これがまた複数路線あり、羽田から飛んでくるもののほかに、調布飛行場からプロペラ機が飛んでいる。調布飛行場ってなんてマニアックな。味の素スタジアムのすぐ隣の小さな辺鄙な飛行場だ。今では伊豆七島専用空港になっている。

確かにしぶちょお指摘のとおり、竹芝桟橋からのジェットフォイルは東海汽船のwebを見る限りでは既にアウトらしかった。三連休、しかも椿まつり期間中ということもあるのだろう。しかし、「では途中の寄港地である館山(または久里浜。便によって変わる)から乗るのは可能か?・・・熱海まで電車で行き、そこから行った場合は?・・・飛行機に空きは?・・・などと調べだしたら相当面倒くさいことになった。空席と、所用時間と、コスト。最適解はどれ?

おかでんの悪い癖で、そういう選択肢を全部文章化し、詳細に比較分析し、結論を導くまでの過程を丹念に調査し、各方面に問い合わせの電話をかけて確認し、文章化しはじめた。お前のその行為が既に所用時間とコストを無駄にしとるぞ、という突っ込みは、一人暮らしをしているおかでんには届かない。

この検討過程はおもいっきし省略するとして、結論は「往復とも熱海から大島に渡る」ということに落ち着いた。やや面倒だが、熱海までは小田急とJRを乗り継ぎ、そこから高速船だ。

ネット予約だと割引があるのだが、復路便はネット予約の枠がいっぱいだった。そのため、直接コールセンターに電話して予約。その結果、行きと帰りで料金が非対称となった。ネット上では「満席」になっていても、船会社は席を持っている事があるので要注意だ。

熱海と大島を結ぶ高速船は一日3便あるのだが、往路は朝イチの便、復路は大島を最後に出る便の確保ができた。竹芝便に拘らなかったのは、ある意味正解だったと思う。

なお、愛知県のしぶちょおは、熱海からそのまま新幹線で名古屋駅に向かうことになる。「便利ではないか!」と思うかも知れないが、現在の東海道新幹線はのぞみ偏重のダイヤ編成になっている。熱海のように、のぞみが停車しない駅の場合は見た目以上になまら所用時間を要するのだった。エクセレントに便利というわけではない。

島への交通手段と便が決まると、滞在時間が確定となる。この間は島に雪隠詰めになるので、後はなにをして過ごすか考えるだけで良い。あとは気楽に・・・となるはずなのだが、なんだか心配になってきた。宿、大丈夫か?と。

八丈島の時は、当日現地についてから、空港内の観光協会の出先窓口で「オレらホモだけどそれでも泊まらせてくれる宿、今から手配できるかい?」と聞いて、即決だった。しかし、大島でも同じとは限らない。

現に、アワレみ隊で小笠原に行った際は、宿探しに難儀した実績がある。小笠原の場合は、「まず宿を押さえろ。船はその次だ」というお約束があるくらいだ。でも、その「後回し」にされている船でさえハイシーズンは手配に難儀するというありさまであり、結論としては「離島に行くなら手配はお早めに。」に尽きる。

大島、大丈夫か?

船便の確保が終わった時点で、すぐに宿の調査に取りかかることにした。とはいっても、基本コンセプトがこの時点でブレまくっており、そこを決めるところから開始だった。

基本コンセプトとは、「素泊まりか?二食付きか?」という事だ。何を今更、という話ではあるが、今回については真面目に、無駄に真剣にこのことを考えまくった。なぜなら、アシタバや島魚といった「ご当地グルメ」は現地にたくさんあり、それらを肴に一献やろうとしたらどうしても宿メシって不要なのだった。特に、八丈島でお世話になった民宿の食事を思い起こすにつれ、「宿メシはいらんなあ」という印象が。宿には失礼な話で申し訳ないが。

八丈島の宿は、「皿数が一つないし二つ、足りないのでは?」という食事が毎朝夕続いてびっくりした。「もう一品くらい出てくるんだろう」と料理を待っていて、結局出てこなかった時の驚愕たるや、もう。それだったら、どっか最初から地物を出す料理屋で飯食った方がいいや、と思った次第。

そうなると「朝飯やってる店って大島にはあるのか?」「飲食店って大島にはどれくらいあるのか?」「大島のどの地区が栄えているのか?」「スーパーってどこにある?」「船が着岸する港が二つあるが、普段はどちらがメインに利用されている?」なんて大島の地勢調査と市場調査を始めだしてしまい、宿探し以前で相当マニアック沼に足を突っ込んでしまった。

この辺りの調査過程を、おかでんなりの「課題認識」とあわせて列記するととんでもない分量になるのでやめとく。「何も考えずに、当日その時の気分で、なんとなく過ごす」旅行のはずが、ガッチガチになりかかっていた。

しかも、伊豆大島の観光協会のサイトって、宿情報をはじめとする各種情報が中途半端なんだわ。宿が網羅できていないし、飲食店情報も薄い。もうちょっと頑張れ。そのおかげで、宿や飲食店、一軒ずつ口コミ情報を探して値段や評価、連絡先を調べるハメになり、ますますおかでん泥沼化。なにせ、飲食店のサイトを発見して、中身を調べていたら「実はうち、素泊まりの宿も併設してます。よかったらどうぞ」みたいな新発見があったりして。芋づるというのはこういう事を指すのだと、つくづく思った。

過程を省いて結論だけ言うと、元町地区にある二食付きの民宿「山海荘」のお世話になることにした。6,800円/泊。やたらと安い。これだったら、食事はあまり期待できないだろう。しかし、軽く宿でご飯を食べて、あとは外の飲食店で地物の名産を食す、というストーリーには適していそうだ。幸い、宿の近辺に飲食店は結構あるのでこのプランは盤石だ。・・・と思う。

この後、レンタカーの手配があったり、「そもそも伊豆大島ってどういうところ?」という調査が始まったりして、終わりが見えなくなってしまった。おかでん自身、収拾がつかなくなっている。まるで自分自身がgoogle検索窓状態。

「昔、源為朝が大島に島流しにあったらしい」→「為朝って誰?」→「保元の乱で崇徳上皇側についた武将だよ」→「保元の乱って何?」→「後白河天皇と崇徳上皇が・・・」

やめろやめろ。きりがない。でも、その時は全く止められなかった。

伊豆大島にある観光地情報については、当日しぶちょおと議論しておこうと手つかずにしておく理性はあったのだが、そのかわりに「それ以外の情報は調べてもOK」と勝手に勘違いしてしまい、ストップできなかった。

結局、飲まず食わずで半日くらい船の手配から始まって伊豆大島調査に時間を費やしてしまい、翌日は知恵熱を出して寝込んでしまった。本当にいい大人が寝込んでしまったのだから、凄いといえば凄い。そのあと2日ほどは、夢にまで大島が出てきてうなされ続け、体調が元に戻るまで都合数日を要した。

しぶちょおからは、「ゆっくりしていってね!!!」というおことばをいただく。

2010年03月20日(土) 1日目

新宿駅

3月20日土曜日。

熱海を1発目に出る高速船に乗るという算段である以上、朝がやたらと早い。07:01新宿発の小田急線、急行小田原行きに乗車する。しぶちょおとは新宿駅構内のホームで合流。

都心から熱海に行くなら、新幹線が一番速いのは言うまでもない。しかし、鈍行で行くのもこれまた旅情だよね、と考えると、小田急線で小田原まで行って、そこからJRに乗り換えるのが安くて早い。東京駅から乗り換えなく、JR東海道本線で熱海に直行するよりも早くて安いのだからなんとも理不尽な話だ(もちろん、どこから乗車するかによって運賃や所用時間は変わる)。それだけ小田急線が安い、ということだ。

われわれも、「水は低きへ流れる」と、新宿起点で小田急線で行くことにした。ちょうどしぶちょおが新宿のホテルに前泊していたという事もある。

しぶちょお曰く、「部屋に戻ってたまたまテレビ付けたら、『最終回』のアニメがたくさんあったもんだから、ついつい番組をハシゴして朝3時過ぎまで見ていた」んだそうだ。だから相当眠いとしきりにぼやいていた。そうかー、もう2009年度は終わりな時期なんだな。

07:01の小田急線急行小田原行きは、丹たくさん系の登山を画策するジジババのデイケア輸送列車と化している事が多々ある。朝の下り列車にもかかわらず結構混むので、早めに駅に着いておき、電車を待つ。しぶちょおとは2週間前、「大運動会」で会ったばかり。特にこれといって旧交を深めるような会話はない。

「おう」
「やあ」

くらいの会話。

*なお、念のために言っておくが、お年寄りがいれば席は譲る。へろへろのご年配を前に、ふんぞり返っているほど厚顔無恥ではない。

小田原駅

熱海駅を歩く

「で、大島。どうするかね」
「いやまあ、一応こういう本はあるんですがね・・・」

と、おかでんがカバンからガイド本を取り出す。一つは、八丈島に行った際現地調達した、「伊豆諸島」のガイド本。もう一つは、小笠原に行くに当たって本屋で手にいれた、「離島の旅」という日本全国の離島ガイド本。

ぱらぱらとその双方を見るしぶちょおだったが、

「まあ、とりあえずレンタカー借りてみんことには、なあ」

ということで話が終わった。

周囲に乗客がいるところで、これからの旅についてあれこれ目をキラキラさせて検討するというシチュエーションが恥ずかしかった、というのが最大の理由。それとは別に、伊豆大島のスケール感が全く分からない中で、「今日はあそこと、ここに行く」なんてとてもじゃないが決められないのだった。

地図を見ると、結構デカそうにも見えるし、そうでもないようにも見える。ぐるっと一周、島を回るのにどれだけの時間がかかるのかが全く想像できない。さらに、その島の中にはどれだけの「見どころ」があるのかも分からない。八丈島のように見どころ(?)だらけだと、いくら島が小さくても時間はかかるものだ。

結局は、島に行けば観光協会にあるであろう島内案内図、これを手に入れてからじゃないと何も話ができんね、という結論なのだった。

小田原で東海道本線に乗り換え、熱海を目指す。

バス乗り場

バスがやってきた

東海汽船の船着き場である「熱海港」は、熱海後楽園の近くにある。もっと分かりやすく言えば、エロの殿堂である「熱海秘宝館」の山の麓、ということになる。分かりやすくなかったか?

「バスの便が手頃なのがあったと思うんだわ」

としぶちょおが言うので、バスで現地に向かうことにした。熱海駅から、熱海港までは微妙に距離がある。しかも、熱海駅は標高が高い山の斜面にあるため、海辺に出るまでは複雑にくねった道を、大回りしながら下っていく必要がある。予め地図を見ていても、歩いて港まで行けるかどうか、少しだけ心配になってしまうくらいややこしい地理だ。

徒歩でも行けなくはないのだが、うっかり道に迷って船に間に合わなかったらあまりにイタすぎる。ここは順当にバスで行くのがよろしかろう。

しぶちょおの言うとおり、熱海駅脇にあるバスターミナルには、「熱海港・後楽園」行きのバス乗り場があった。

ただし問題が。このバス、20分に1本ずつしか便がなく、次の便が09:20発だった。われわれが乗ろうとしている船は09:50に出航予定。おい大丈夫か。「出航」が9時50分ということは、乗船手続きはもっと前に済ませていないとまずい。

バスは定刻通り来たので一安心だったのだが、焦る。定時になるまで、バス停から出発しないバスに苛立つ。

「もう誰も乗らんだろ、とっとと出発すりゃいいのに」

としぶちょおが小声で愚痴るが、あまりそういうのに同調すると、不安感というのはどんどん増幅するものだ。おかでんは

「さあ盛り上がってまいりました」

という表現で、不安感を誤魔化すのがやっとだった。

「盛り上がるねえ。でも盛り上がるのが早すぎだねえ」

しぶちょおも同意する。9時50分の便に乗れなかったら、しょうがないから伊東にあるステーキレストラン「カウボーイズ」で1ポンドステーキでも食うか?なんて冗談を話しつつ、気を紛らわせる。

熱海港

バスはゆっくりと熱海駅を後にしたのだが、当初港とは180度反対の方向に車が向かったのにはさすがに肝が冷えた。これはまずい、と。そういや、バスって地元民の足でもあるわけであり、地図で見たら意味不明な程ぐねぐねとした路線である事が多いよな。それがまさか今目の前で展開されているのではなかろうか。

言うな!これ以上口にするな!

口にしたら、それが言霊となって本当にどんどん違う方向にバスが行きそうで怖い。だから、しぶちょおには自身の不安を告げず、ただただ「向きを変えろー、そっちじゃないぞー」と車窓に念じるしかなかった。多分これはしぶちょおも同じ。

その念が通じて、ようやくバスは抵抗を諦めてくれた。海辺まで下りてきたらあとはカーナビに導かれるがごとく最短距離で熱海港へ。この間、もの凄く長い時間がかかったような気になったが、実際は11分の乗車に過ぎなかった。つ、疲れたー。短時間だけどやたら疲れたよ。

熱海港ターミナルは、平屋建てのシンプルな建物だった。ガラス張りでございます、とかボーディングブリッジがあるので二階建てです、などといった派手さはない。「伊豆大島椿祭り」の横断幕が屋根の上ではためていた。1月30日から始まって、3月28日までの開催だそうだ。これだけ長い「祭り」っていうのはちょっと珍しいかもしれない。

ターミナル内部

「ありゃ、何だこの人の多さは」

ターミナルの中に入って、一瞬たじろぐ。この人達は一体何なんだ。

・・・いや、何なんだ、といっても、島に渡る人以外の何者でもないのだが。別に、政治亡命をしようとしている訳でもないし、ゴールドラッシュに伊豆大島が沸いているわけでもあるまい。

すずなりになっている人を見ると、年齢層がばらばらで面白い。釣り客が多いのは当然として、島民?と思われるおっちゃんおばちゃん、そして若いお姉さんたち。一体何が始まるっていうんです?

熱海港カウンター1

熱海港カウンター2

あ、なるほど。初島行きの船もここから出ているのね。道理で待合室が混んでいる訳だ。ワカモノが結構いる、というのもこれで納得。

初島は、熱海の沖合いに見える小島で、現在は「エクシヴ初島」というリゾート施設がある。熱海の海岸からみるとこの島、何だか偉そう。というか別世界風で金持ちの別荘がある島みたい。いかにもリゾート、って感じで、ヌーディストビーチがあるんじゃないかとか、大富豪が美女をたくさん侍らせて自家用クルーザーで冷えたシャンパンを、とかよからぬ妄想をしてしまう。

で、その初島行き渡船の受付横が、我らが大島行き東海汽船の受付。初島行きカウンターと比べて客層がずいぶんと渋い。

条件付出航

乗船手続きのために並んでいると、カウンターに「お知らせ」という張り紙が貼ってあることに気がついた。

あれ?熱海15時30分発の便、「条件付出航」になっている。

「えええ?天気は悪くないのに・・・なぜ?」
「これから天気が崩れるのか?」

片や出張でホテル二連泊後の人。片や事前の情報収拾でオーバーヒートし、寝込んでいた人。どっちも最新の情報には疎い。ましてや、「島に行く時には余計な知識を入れない方が面白い」という八丈島の成功体験をひっさげているのでなおさらだ。天気?知るか、そんなの。雨が降っても晴れても、島に行けばいいんだよ。天気予報といったら、冬将軍と春ちゃんくらいしか知らん。

われわれの便、09時50分発はちゃんと就航するから問題はないとはいえ、何だか少し心配な記述だ。しかも、熱海発が「条件付」になっている関係で、折り返しである大島からの熱海便は「未定」になっているし。

ヒャッハー、陸の孤島になるかもしれん。荒れるのか?海が大荒れなのか?さあ盛り上がってまいりました。絶海の孤島に取り残された人たちで、生き残りをかけた殺し合いが、今始まる。そこまでは大げさ過ぎるとしても、小説なんかでよくあるのが「女性の奪い合いになって、男同士が殺し合い」だな。漫画だったらその逆で、男は一人で後は妙齢の女性だらけというハーレム。おう、どういうパターンでかかってきても良いぞ。かかってこんかい。

岡田港に着岸するらしい

われわれが大島に着岸するのは、「岡田港」らしい。

大島には、「岡田」と「元町」の二箇所に本土からの渡船が着岸できる港がある。岡田は島の北、元町は島の西に位置している。

Googleなどの地図で見れば素人目でも一発なのだが、元町地区の方はゆるやかな地形であり街が開けている。一方の岡田地区は、猫の額くらいの大きさしかない集落だし、そこにアプローチするための道がぐるんぐるんとうねりまくっており、二次元の地図であっても「ああここは急峻な崖だな」という事がうかがい知れる。深い入り江は天然の良港かもしれないが、集落を形成するには向かない。人が崖から転がり落ちる。

そんなわけで、「岡田港着岸」と言われるとちょっと残念なわれわれであった。到着後すぐに訪れる昼食であるとか、諸々の段取りを考えると元町の方がありがたい。宿も元町地区にあるし。

まあ、そうはいっても「岡田でござい」と言われたら、イヤですとは言えない。はいそうですかと納得するしかない。

東海汽船の人によると、時間に応じて「次の便は岡田」「今度は元町」と港が行ったり来たりすることはなく、朝8時半の防災無線で着岸港の全島周知があったら、後は丸一日テコでも動かないそうだ。確かに、便ごとにカウンターの人、港湾業務の人、売店の人・・・と民族大移動していたらたまらない。「ラーメンのスープをトラックに積んで寸胴で運べというのか!」なんて、軽食コーナーの人に怒られそうだ。

なお、滞在中に知ったのだが、冬は西風が吹くために島西部にある元町港はあまり使われないそうだ。波をモロに受けるから。元町港!俺は元町港が好きだァァァァという人は夏なんぞにぜひどうぞ。

パンフ置き場

伊豆大島地図

乗船券の発券処理を済ませて、振り返ってみるとそこには観光パンフレットなどが各種取りそろえられていた。ちょうど良かった、これが欲しかったのですよ。島に着かないと無いかと思ったが、先行して入手できたのはありがたい。船の中で行き先を検討しよう。

観光案内や観光マップ、ハイキングガイドなど各種ピックアップして貰っておく。

スタンプラリー表

スタンプラリー裏

「あ・・・」

パンフレット類を集めている最中、おかでんがあるものに気がついた。

その声を聞いてしぶちょおもそちらの方向に目をやる。

「あ・・・」

オウム返し。この時点で、ぴたりと二人の意識はあった。そして出た言葉は

「あーあ」

だった。

「しょうがないなあ、スタンプとくれば」
「やるしかあるまい」
「今回の旅の方向性がこれで決まったな」

発見したのは、椿まつりのスタンプラリー台帳だった。中を見ると、大島を代表する9箇所のポイントでスタンプを押せば、抽選に参加できてエエもんが貰えるよ、というものだった。

スタンプ、そしておかでん&しぶちょおのコンビ。磁石のS極とN極みたいなものであり、引きつけあってやまない関係だ。これを目にして、「やらないよー」という選択肢はあり得ない。東北道の駅という長大スタンプラリーの経験もさることながら、四国お遍路、日本三大の旅、八丈島観光名所完全制覇などスタンプラリー的なものは大好きだ。

「まさか、伊豆大島にもあったなんて」
「どこまでも追いかけてくるな」

このまま行ったら、死んだ後も「天国にいくためには49日以内にスタンプ集めろ。さもなければ地獄」なんて事になりそうな予感。

でもまあ、特になーんも島に渡ってからの予定が無かったわれわれにとってはたいへんに有り難かった。これで今回の旅行に背骨ができた。後は、ガイド本やパンフレットに載っている観光地をつらつらと巡っていけば2泊3日ちょうど良いじゃあないか。

観光・情報マップ

大きなサイズの「観光・情報マップ」も併せて入手。

「これで怖い物なしだ。アワレみ隊はあと10年は戦える」

と確信。・・・だったはずだが。

「これ、広告ばっかりじゃないか」

一応、地図は掲載されているし観光情報もあるのだが、それよりも広告が多い。お寺とか、建設会社の広告なんて観光客には全く不要だ。おかげで、サイズのデカさの割には使えない資料となった。

今回の旅は、ガイド本やこの手のマップなど複数を手にしていたのだが、どれも一長一短あり、「これ一冊で事足りる」ものが無くて難儀した。例えばこのマップだが、観光協会が作ったくせに施設名を誤記載しているありさまで(一例:貝の博物館「ぱれ・らめーる」が「ぱら・らめーる」になっている)。ガイド本はガイド本で、購入したのが相当昔なので情報が劣化していた。いずれの資料も過信は禁物であり、複数の情報源からのデータを並べて検討する必要があった。

でも、そういう「オリエンテーリング的」なところも、島の楽しさと割り切れば問題はない。むしろ楽しいくらいだ。

他にもハイキングマップなんぞも入手したが、さすがに歩いて島一周する気にはなれず、こちらは全く利用することは無かった。

高速船

アナウンスがあり、待合室にいた人たちがぞろぞろと岸壁に出てきた。

岸壁には、何だかけばい色合いの船が停泊していた。

「何でこんな変な色にしたんだ?」

としぶちょおは言うが、その意見に全く同意。数年おきに塗装のやり直しがあるだろうが、その際手間がかかってしょうがない色合いだ。こういう色彩に美的センスを感じないのは、単にわれわれがそういう目をはぐくんでいないからなのか、それともリアルにこの船がへんてこりんなのか。

「あれ?ジェットフォイルだぞ」
「え?『高速船』ってジェットフォイルの事だったのか」

手元の伊豆七島ガイド本だと、ジェットフォイルではない双胴船が運航している話だったのだが、どうやら引退したらしい。

なお、ジェットフォイルっていうのはどこぞの登録商標らしい。だから東海汽船は「ジェット船」と呼ぶ。セロテープが商標で、通称名がセロハンテープ、みたいな感じ。

東海汽船パンフ1

東海汽船パンフ2

東海汽船パンフ3

東海汽船のパンフレットがあったので、頂いておいた。

表紙には、高速ジェット船のところに「早く・まっすぐ・確実に」と書いてある。ということは、高速船でないと「遅く・蛇行しつつ・当てになんねぇ」という事なんだろうか?この表現の意図がよくわからない。ちなみにフェリーは「のんびり・ゆったり・大型客船」だって。高速船との対比になっていない売り口上だ。

航路図を見ると、東海汽船は伊豆七島と運命を共にします、状態。島の人たちを人質にとっているようなもんだ。青ヶ島航路だけは唯一東海汽船ではなく、伊豆諸島開発というところが運行している。あまりの就航率の悪さに、東海汽船も匙を投げたのだろうか?

「案外伊豆大島って近いんだな」
「伊豆半島のすぐ隣じゃないか」

この地図を見て、二人ともが抱いた印象は、「絶海の孤島じゃないんだな」ということだ。てっきり、伊豆半島なんてぶっちぎってはるか沖合いにあると思ったのだが、伊豆半島とつかず離れず、まあお二人とも仲が宜しいこと、と言いたくなる距離感。これは意外だった。案外このあたりって地理感が醸成されないものなんだな。道理で、熱海発の船便があるわけだ。この地図見れば一発で納得だ。

しかし納得いかんのが、下田からも船便があるということ。大島だけでなく、利島、神津島便もある。いや、「下田といえば黒船襲来だろう。たった四杯で夜も眠れなくなる場所だろう」とかなんとかいうつもりはないのだが、これも意外。下田って、伊豆半島の先端に近い。ここまで行くまでが大変だろうに。伊豆急で下田までずばーんと行って、そこからちょこっと船に乗った方が安かったり、早かったりするのかもしれん。

東海汽船では高速船を3艇所有しているようだ。全部「セブンアイランド」という名前がついているのだが、カラーリングが違う上に船名も違う。ちなみに全部怪しい色合いだ。デザイナーのセンスが怪しく光る。

この船は「夢」であり、ピンク色をベースとした船は「愛」、虹色に塗り分けられている船は「虹」という名前になっていた。

乗船

ディスプレイが乗客を歓迎

タラップ経由で乗船する。

そういえば乗船券を発券してもらう際、住所氏名年齢なんぞを記載するよう言われなかった。外海を航行するので、てっきり書くもんだとばかり思っていた。

「死んでも知らん、ということか」

おかでんは船の予約時にこのあたりの情報は公開しているので、何かあっても身元は分かるだろう。しかし、「同伴者:大人1名」としてしか登録されていないしぶちょおの場合、土左衛門で見つかっても誰だか分からない。「身元不明の髭面男性」として扱われる事になりそうだ。頼む、水難事故はやめてくれよ。

聞いてみたら、航行時間が1時間以下の場合は乗船名簿を作成しなくて良いんだって。んで、熱海-伊豆大島はちょうど1時間の所用時間なので、ギリギリセーフで名簿を作る手間が省けました、と。多分、東京・竹芝桟橋から出発する伊豆大島便の場合、乗船名簿は作るのだろう。

船の中では、薄型テレビが備え付けられており、「ようこそセブンアイランドへ」と出迎えてくれる。背景がお台場のレインボーブリッジなのはご愛敬だ。竹芝桟橋から出航する便と画像を共通化したのだろう。このまま「この船はこの後竹芝桟橋へ直行いたします」なんて言われたら「しまったァァァ、乗り間違えたァァァ」となるのだが、さすがにそういうことはなかった。安心せい。

高速船客室

高速船座席

ジェットフォイルに乗るのは初めてだ。おかでん及びしぶちょおの出身地である広島には、松山行きのジェットフォイル便が存在する。しかし、松山に急ぎで行く用事なんてないので、ついぞ乗ったことがない。せいぜい、フェリーで松山に行って道後温泉に浸かって坊ちゃん団子食って帰る、くらいだ。だから、ジェットフォイルの中が興味津々。

入ってみると、2階建てになっていて、コンパクトなボディの割にはなかなかキャパがある。船内は全席座席指定になっていて、フェリーなんぞでよくある「カーペット敷きの場所」なんてものはない。席がずらりと並ぶ様は、まるで飛行機みたいだ。

発券時に座席番号が指定されるので、チケットに記載されている番号通りに着席する。一見飛行機のような座席だが、席同士の間にアームレストがないので、隣の人と肩を寄せ合う事になる。隣が妙齢の美人だったらこれほど至福の事はないが、まあまずそんなことはないので諦めろ。でも安心しろ、隣にはガチムチのヒゲ、しぶちょおが座るぞ。心おきなく肩をつつき合って愉しめ。

座席番号はちょっとかわっていた。108,109と続いてその隣が309。どうやら後付けしたものらしい。強引だな。