農機具置き場脇のところで、大地の果てしなさに唖然として立ち尽くしていたら、井川さんがトラクターに乗ってやってきた。大規模農家ではないので、当然小ぶりな機材なのだろうが、それでも四輪のうち後輪は身長ほどの高さがある。大自然を相手にする、というのは何もかもがスケールが違う。
ちなみにこのトラクター、もちろん新品で買ったものではないので相当年期が入っている。エンジンをかけるだけでも相当なテクニックと経験が必要な代物だそうだ。
フォード4600、というトラクターで、既に数十年は経つ代物だ。でもまだ現役。趣味の世界も兼ねている自家用乗用車とは違うので、完璧に壊れるまでは使い続けるのだろう。ちなみに中古市場でこれを買うとなると、50万円台後半から、といった値付け。ボロそうに見えるがバカにしちゃいけない。
ここまで書いていて、「あれ?耕運機とトラクターって何がどう違うんだ?」と心配になってきたので調べてみた。自分で押して歩いて耕す、小型の二輪タイプが「耕運機」で、乗り込んで車のように運転しながら耕すのが「トラクター」らしい。
このトラクターの後ろには、スコップが等間隔に並ぶアタッチメントが取り付けられてあった。そのアタッチメントを地面に押し当てつつトラクターが前に進むと、大地に畝状の凹凸が等間隔にできる。で、その凹んだところに大豆をこれから植えていくぞ、という話だった。
用意された大豆。
この大豆を全員横一列に並んで植えていくの?と、いうと、そうではない。そんな牧歌的な、というかテレビ番組的な演出は今時さすがにしない。そこで登場するのが、「ごんべえ」という種まき機だ。
参加者一同、味噌会で事前にこの「ごんべえ」については学んでいたので、全員「おー、これがか!」という反応を示した。まるで芸能人見た!みたいな感じで拍手してみたりして。
このごんべえだが、モーターやエンジンに頼らない、完全手動式の種まき機だ。やっていることは至ってローテクだが、よくできていて感心させられる。
透明ケースのところに豆を入れ、ごんべえを転がすと、透明ケースの下にある「豆が二つずつちょうど入るサイズ」の回転ベルトに豆がおさまる。で、転がし続けると、そのベルトが回転して、地面にぽとっと2粒ずつ豆を落とす。しかも等間隔に。・・・という仕組み。
井川さんの奥さんが、ごんべえのお手本を見せてくれた。この人は別に農家の娘でもなんでもないのだけど、全く農業シロウトである我々を本当によく面倒見てくれた。
ごんべえをトラクターが掘った溝にはめ、まっすぐかつ同じスピードで前に進める。それだけなら楽なんだけど、両足を逆ハの字のがに股状態にして、歩きながら周囲の土をかぶせて豆を地中に埋める作業もやらないといけない。これが結構難しいし、疲れる。
時々ごんべえは豆を詰まらせてしまい、種が蒔かれなくなる可能性もある。なので、ちゃんと地面に豆がセットされたことを目視しつつ、足で土をかぶせないといけない。目線をどこに向ければいいのか、一同戸惑いっぱなしだった。簡単なようで、楽ではない。
トラクターで溝を掘った井川さんは、とっとと隣のハタケへと移動していった。しかし、ごんべえ相手にチンタラやっている我々に対して、
「早くやって欲しいんだよね。豆を植えるときは、土が乾燥したらもう遅いわけ。掘ったらすぐに種を蒔かないと。ほら、もう一部乾燥しはじめてるでしょ」
と指摘した。あ、そういうものなのか。
「後で水を撒けばいいじゃないですか」
と言いかかったが、その発言がいかに間抜けかということに気がついて、黙った。この大地を見よ。ジョウロで散水、っていうのはまさに家庭農園の発想だ。「農業」だと、そういうのはないのだな。
一人一人、縦一列ずつごんべえによる種まきを体験させてもらう。足で土をかぶせるのはまあなんとかなるのだが、一番ややこしいのが「道を間違えてしまう」ことだった。土が乾燥しはじめていることもあり、溝の位置がところどころ不明瞭だったからだ。どれが本物の溝で、どれがもともとの地面の凹凸で、どれがトラクターのわだちなのかがわからなくなる場所がいくつかあり、実際うっかりわだちに種を蒔いてしまうようなこともあった。やべー。
僕らはまだ「遠足」というかたちでワーキャーいってられるけど、マメヒコ側としてはこれもれっきとした事業活動であり、「うっかり種まきに失敗したので収穫が激減しました」というのは洒落にならん話だ。「大丈夫だろうか、ちゃんと種が地面に根付くだろうか」と参加者なりには心配させられた。
土をかぶせた後の状態。当たり前のことだけど、どこに豆があるのかはもうわからない。
種用の豆が余っていたので、本来ハタケとしては使わない防風林ギリギリの土地まで耕して豆を植えた。お陰で、その周囲一帯は「地雷原」状態となり、通過する際は「えっと、どこまで豆植えたっけ?ここは通っても大丈夫だよね?」と注意が必要だった。豆を植えた場所の上をのしのし歩くのは当然御法度だからだ。
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