屯田兵になろう【北海道ハタケ仕事1】

17時頃に初日のハタケ仕事を終え、いったんハタケ脇の家に戻る。今晩これからと明日のことについて全員で話をする。

井川さんは、明日の朝は札幌にある「菊地珈琲」を案内する、と提案してくれた。菊地珈琲とは札幌に数店舗構える自家焙煎珈琲の喫茶店なのだが、その豆に惚れ込んだ井川さんは社長を口説き落とし、カフエマメヒコ用の豆を全面的に作ってもらっている。そこの「工場見学」的なことができそうだ、というのだ。それは願ったり叶ったりで、我々としても大歓迎だ。それでこそ、札幌に宿を取った意味があるというものだ。

ただし、思いつき的なものだったらしく、特に先方にアポを取っていないというのがおおざっぱだ。ハタケ解散時点では、実際にお伺いできるのか、できるとしても何時ならOKなのかが確定できなかった。なので、井川さんから

「結果はおかでんに伝えるから、おかでんから全員に周知して。みんなはおかでんから明日の集合場所や時間を確認すること」

と指名された。なんやかやで僕という人材はこういうときに使い勝手が良いらしい。

さあそうなると、事務局という立場も含めて、懸案だった「今晩みなさん何食べる予定です?」という話題を切り出さなくては。正直、未だにマメヒコという空気感と、マメヒコ慣れした常連さんたちのあうんの呼吸というのがつかめていなかった。ここで空気読めない発言するのもイヤだなあ、というのがあった。でもこのまま「じゃあサヨウナラ、また明日」というわけにもいくまい。

話をおそるおそる切り出し、既に予定が入ってしまっている人を除いて4名でサッポロビール園に行くことになった。ベタベタな観光地ではあるが、そういえば僕も、一度も行ったことがない場所だ。クラーク像や時計台同様、ベタすぎて行く気になれなかったからだ。他の人たちもそうで、また、「誰かが夕食の事を切り出さなかったら、どうなっちゃうんだろう?」と不安に感じていたようだ。ちょうど良かった。案ずるより動け、だな。

ちなみに、ハタケへの道、レンタカーに同乗してくれた人には旅行前から食事について相談していたのだが、やっぱりそこでも「ジンギスカンですかねえ?」という結論に落ち着きつつあった。北海道、札幌で夕ご飯って何だろう?って話し合ったのだが、まさか「ラーメン」とか「海鮮丼」というわけにもいくまい。黙々と食べて、食べ終わったら解散・・・ってのは旅情がなさ過ぎる。折角の北海道、折角の仲間なんだし、もう少しまったりと食事が出来るといいよね・・・となると、ちょうどジンギスカンってのがぴったり当てはまるのだった。

「どうせ今年ハタケは3回あるんだし、一回目はベタなサッポロビール園でもいいんじゃないか?」

という結論とした。まずは観光客向けの基本中の基本を押さえておき、次回以降はもう少し「地元民にも評判の店」とかディープな方向を探すのが良いのではないか、と。または、札幌周辺にはキリンやアサヒもビール園があり、サッポロ同様にジンギスカンを食べさせる施設が併設されている。それらを食べ比べていくというのも面白いかもしれない。

いずれにせよ、企画立案段階で食べログとかでゴリゴリに下調べしてたって、当日誰が参加するかわからないし、そもそも「札幌で食事」なんて話がなくなるかもしれない。このあたりは適当に、ゆるく決めておかないと後で無駄にがっかりするハメになる。

全員の連絡先を確認し、

「24時までには明日の予定を全員にメールで伝えます。もしその時間までに連絡がなかった場合は、迷惑メール扱いにされていたりする場合があるので、すいませんが僕の携帯番号まで連絡ください。井川さんは22時までに僕に明日の予定の連絡を教えてください。未定なら未定で結構ですので、その場合でも連絡ください」

とかその場を仕切る。そんなことをやってる自分がなんだかおかしかった。これまで一人旅とか、せいぜい数名規模の旅行が多かったけど、今こうやって各自泊まる場所も性別もバラバラな人たちと旅をしている。いい機会をもらったなあ、と思う。しかし、やっぱりこういう場では「鼻くそほじって最後尾で様子をうかがっているだけ」というポジションにはいられないのが僕の宿命らしい。良くも悪くも、目立つ。

今日の参加者の中には、日帰りで今日中に東京に戻る、という人も1名含まれていた。すげえガッツだ、と舌を巻いた。北海道滞在時間僅か半日。で、やることといったら、空港近くのハタケで農作業。以上。ビジネスの出張族でももう少し楽な仕事やってるだろ、というレベルだ。

そこまでしてでもハタケ遠足という面白い試みに関わりたい、という熱意の表れだ。井川さんの周辺にはそういう磁力が常にあり、人を引きつける。なお、明日も1名、日帰り参加者がやってくるのだという。よくやるぜ、まったく。宿泊なしの方がむしろツアー旅行形式にならないから、一泊するより高くつくんじゃあるまいか?

「私はジェットスターを利用したので、安かったですよ」

札幌に向かう車の中で、みんなでどの飛行機でやってきて、そして明日帰るのか?という話をしていたときの一コマ。札幌に宿を確保しているという3名に同乗してもらった。電車移動の方が多分早く宿には着けるのだろうけど。

えっ?ジェットスターって、あのLCCの会社?聞いたことはあったけど、完全に他人事だと思っていてまともに視野に入ったことすらなかった。

「成田から札幌便が出てるんですよ。安いですよ?片道8,000円くらいだったかな?」

マジで?それは冗談のように安い。最近格安航空会社が世界的に力を付けているとは聞いていたが、日本なんて航空後進国で、そんなのはよその国の話だと思っていたのに。

「でも、あり得ないくらい早朝便だったりするんでしょう?」

さすがにドル箱路線の東京-北海道の飛行機が、1万円を切るだなんて信じられない。それなりの理由があるに決まっている。

「そこまで早くないですよ?7時台ですから。朝家を出るのが始発でなくても、間に合うレベルですね」

それは利用しない手はない。次回、成田からのフライトを検討してみよう。

ちなみにこの女性、札幌に確保した宿はドミトリータイプの安いところだった。なので、北海道旅行!とはいえ比較的低い予算で行動できていた。情強とはこのことだな。

「僕も次回はLCCにするわ。今回ギリギリに新千歳に到着して、集合時間に遅刻するわ、到着したらすぐにハタケ仕事だわでなんだかまだ北海道に来た気がしないもん」

と言ったら、全員が笑っていた。いや、広大な大地での農作業とか、今こうやって札幌へと向かう車窓からの風景も、全てが北海道ならではだ。でも、「北海道=観光」という先入観がある我々にとって、なんだか今日は奴隷として売り飛ばされたような気分で一日を過ごしていた。

「まだ、北海道に来た!っていう実感がないよね」
「だよねえ」

と笑う。

いったん全員を順繰りに宿に送り届けた。そして20時に札幌駅北口に再集結し、そこからサッポロビール園にみんなで向かおう、という段取りとした。いきなりメシ食べに行った方が楽だし効率が良いのだけど、さすがに農作業の後なのでシャワーくらいは浴びておきたいところだ。女性陣なら、ちゃんと身だしなみを整え直したいだろうし。

「いやー、サッポロビール園に行くなら、すすきのに宿を取る必要なかったなぁ」

とか思いながらも車をホテル近くのコインパーキングに駐車する。ホテルには提携駐車場があるそうだが、それがどこにあるのかわからないし、この後また車でお出かけするのでコインパーキングでいいや。

で、札幌を代表する大歓楽街すすきのだ。そんな中にある駐車場だからさぞやお高いんでしょう?・・・と思ったら、さほど高くなくて拍子抜けだった。あれっ、20分100円?ということは1時間で300円か。すすきの駅から近く、狸小路と呼ばれる商店街のすぐ脇という立地条件なのにこの値段というのは安くて意外だった。

なるほどこれが北海道価格というやつか。東京界隈の物価が高すぎるんだ、単に。以前、銀座で「10分600円」というコインパーキングを見た時は、何かの間違いかと思ったものだが、それと比べるとなんとここの価格の良心的な事よ。

いやいや、感心してないでとっとと宿に向かおう。他の人を送り届けた関係で、20時の再集結時間までもうあまり時間がないぞ?


宿は「ウォーターマークホテル札幌」というところ。もともとオーストラリアで創業されたホテルチェーンだけど、今はH.I.S.の傘下に入っている。そんなわけで、H.I.S.で北海道ツアーを手配したからこの宿というわけだ。

新しいホテルらしく、設備が全体的に良い。ツアー客向けの、コスト重視なチープホテルだと思ったけど、そうではなかった。

ほら、見よ、エレベーターで行き先階を押すためには、部屋のカードキーをタッチしないとダメなんだぞ?オフィスビルみたいなセキュリティ完備。

最近だと、デリヘル嬢を部屋に連れ込んだりしづらくするという意図もあるのかな?この仕組みだと、わざわざ「呼んだ人」が1階まで嬢をお出迎えしなければならない。で、その際にフロントの人に見とがめられてアウト、と?

いや、そんなサービスは使ったことがないので、妄想ッスけどね。

廊下が狭いところはまあご愛敬だ。

しかし部屋は結構広いぞ。シーズンオフということもあってか、ダブルベッド仕様の部屋があてがわれていたし。

以前、仙台旅行の際に使った某ホテルは、ベッドと机と椅子とでギュウギュウで、歩くのが難儀なくらいだったっけ。それを思えば、今回はなんて優雅な部屋なんだ!農作業の疲れも、これで癒やせるぜ。

今晩はこのベッドを独り占めだ。・・・寂しいヤツめ、とかいうなよ、オイ。

楽天トラベルなんぞで二人が泊まることができる宿で安いホテルを探していると、頻繁に「セミダブル」の部屋がヒットすることになる。でもセミダブルって、ベッドの横幅が120センチ程度しかないので、これで二人が寝るのってかなり厳しい。カップル同士なら、「今晩は寝ません!」とか抜かしやがるかもしれないが、そうでもなければ一人あたりの横幅60センチって、かなり厳しい。

「山小屋での惨状」をよく知っている僕だからこそ、寝るスペースはちゃんと確保したい。心底、そう思う。1,000円2,000円けちった結果、一晩とはいえ熟睡できないというのは割に合わないと僕は思う。旅先ならなおさらだ。

それがどうだ、この余裕なベッド。

よしこうしよう、僕はシーツがひんやりしているのが好きなんだ。寝入りばなはベッドの右側で寝よう。で、シーツが暖かくなってしまったら、明け方は左側に移動しよう。

そんなワクワクした想像が許される、それがこのホテルのベッドだ。さあ盛り上がって参りました。ようやく「旅行」っぽくなってきたぞと。

いや、井川さんの立場からすりゃ、「君たちは旅行に来たんじゃないの。ハタケ仕事をしにきたの。本分を忘れちゃダメでしょ」ということだろう。その通りなんだが、「課外活動」の時間帯くらいは旅行気分を満喫させて欲しい。

デスクと、洗面台。

並んで配置されているのが面白い。

黒の配色がシックだ。陰気なイメーにはならず、落ち着いた雰囲気で僕は嫌いじゃない。

なんだか嬉しくなっちゃって、部屋中の写真を撮りまくっていたので晒しておく。

お茶とかコップとか。

コップ一つとっても、「適当に買いそろえました」的なものではなく一癖あるデザイン。全体的にこの宿、頑張ってます感があって好きだ。

湯沸かしポット、ドライヤー。

時々、ぺらっぺらなカップに水を張り、小型IH調理器みたいなやつの上に載っけて湯を沸かすってのを見かける。あれ、「これっぽっちの水なのに、一体いつになったら湯が沸くんだよ」とイライラさせられるが、ここの湯沸かし器はそんな心配無用。がっつり湧きますぜ旦那。

トイレとかも激写。

時々、トイレロールがふたつ装備されている個室をこうやって見かけるが、一晩でひと巻き以上使い切るシチュエーションってあるんだろうか?僕には想像もつかない。

風呂はこんな感じ。

ちゃんとアメニティは二人分用意されていた。ガウンもしかり。

むしろ、全室二人用の部屋に揃えておいた方が、部屋の効率運営には良いかもしれない。一人用の部屋を○部屋、二人用を△部屋・・・なんて作って、需要と供給を見誤ってしまうととんでもないロスだ。「二人で泊まりたいのに、一人部屋しか空いてないなんて!」みたいな。

部屋の窓から見る、札幌の夕暮れ。

もう19時を回っているけど、まだこれだけ明るい。北海道といえば日本の東側にある場所であり、日の出が早い代わりに日没も早い場所だと思っていた。しかしそれは根室や釧路といった道東のことであり、札幌は東京などと経度がさほどかわらない場所にあることを、後で知った。ああ、いちいち面倒だな、北海道デカすぎ。ひとくくりに「北海道」といっても訳がわからなくなる。

さて、とっととシャワーを浴びて、再集合に間に合わせないと。ハタケから札幌まで、3名を乗せてそれぞれのホテルに立ち寄っていたので、随分と時間が遅くなった。なにせ、本当にみんな感心するくらいバラバラなところに宿を取っていたのだから。

中には、「ハタケが終わってもあともう一泊する」という人もいて、僕を大いに驚かせた。最終日は一人静かに、札幌界隈のカフェ巡りをするつもりなのだという。なんて優雅なんだ。でもよく聞いてみると、「1泊でも2泊でもツアー料金が変わらなかったから、折角なんで」だそうで。これにもびっくりだ。ツアーってのはよくわからない世界だ。特にシーズンオフともなれば、値付けがもう無茶苦茶。

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