14:52
日光田母沢御用邸記念公園を後にし、さらに日光奥深くに車を進めていく。
しかし、日光いろは坂の手前で国道122号に逸れ、足尾方面に向かう。
何度かこのルートを車で通ったことがあるけれど、毎回「ああっ・・・」という気持ちになる。というのも、日光観光といえば日光を見た後にいろは坂を上り、華厳の滝を見て、中禅寺湖を見て、という段取りが「王道」な感じがするからだ。
そのギリギリ手前で別の道にそれる、というのは、なんだかすごく寸止め感があってモジモジしてしまう。
今頃になって気がついたのだけど、足尾銅山がある足尾エリアって「日光市」なんだな。ついでにいうと、栃木県なんだな。
わたらせ渓谷鉄道が桐生駅から足尾まで伸びているので、てっきり群馬県に所属するのだと思っていた。
このエリアは日光から山一つ越えた場所になる。普通、都道府県の境というのは山の尾根沿いにあるのだけど、何故かここは山を越えても栃木県。
15:17
足尾銅山といえば、明治期は日本最大の銅鉱山として古河鉱業が創業していた場所だ。銅の精錬時に発生するガスと、それに伴う酸性雨、そして汚染された排水のせいで周囲がはげ山となり、渡良瀬川下流の住民の健康被害や農作物の被害がとても大きかった。田中正造が国会に訴えかけ、改善を求めたのは小学校の日本史の教科書に載っているはずなので(あれ?違ったっけ?)、あまりにも有名な話だ。
なんで銅の精錬で毒ガスができてしまうの?と思ったら、銅精製の副産物として硫酸ができるらしい。ああそれは駄目だ、強酸性薬物として四番打者級のヤツやないか。
足尾銅山には大きく3つの坑道入り口があって、今現在観光地として一般開放されているのは通洞口一つだ。備前楯山という山が銅鉱脈ざっくざっくで、ここを取り囲むように坑道が作られている。
足尾銅山なのだから、わたらせ渓谷鉄道の「足尾」駅が坑道の最寄り駅のような印象を受ける。しかし、実際は「通洞」駅が最寄りだ。また、終着駅の「間藤」駅に行っても、特に観光客としては見るべきものは何もない。間違えないように。
通洞口の中に分け入っていく「足尾銅山観光」は、まず冒頭にトロッコ列車に乗るところから始まる。時刻表を見ると、15分間隔で運行されているらしい。
順路は、トロッコ列車で坑道の中に入り、そこから徒歩で坑道内を歩いて見学し、土産物屋を経由して駐車場に戻る、という流れだ。
遙か昔、1度だけこのトロッコ列車に乗ったことがある。その時は、さあ!坑道に入ったぞ!というテンションが上がった時に「じゃあここで降りてください」と言われてがっくりきた思い出がある。えっ、もっと奥深くまでガンガン突き進んでいくんじゃないんです?って。
諦めろ、ディズニーランドのライドアトラクションじゃないんだ。滝から落ちたり、「せーかいーはーひーとつー♪」ってみんなが歌っていたり、そんな楽しいことはここにはない。
でも、あまりに短距離だったので、あれは何かの間違いかもしれん。坑道奥がちょうどメンテナンス中なので、今回は手前で停車しました、とか。
それを今日、確認しなくちゃ。
古河掛水倶楽部のポスターが貼ってあった。
足尾銅山の操業主、古河鉱業が迎賓館として使っていた建物が開放されている。こういう「往年の栄華を偲ぶ」という施設はとっても見たいものだ。
でも、開館時間は10時から15時まで、と短い。今回は無理なのではなから諦めていた。
15:21
トロッコ列車の待ち合いスペース。ここが簡単な資料館も兼ねている。
坑夫さん人形が二人、このトロッコ乗り場を破壊している真っ最中。
足尾銅山といえば、ちゃんと学校で勉強した日本人なら誰しも「鉱毒事件」ということが頭に浮かぶ。しかし、この施設内の各種解説ではそういう話にはほとんど触れられていなかったと思う。
田中正造が天皇陛下に直訴しようとして逮捕された、というのは明治の話だ。なので、鉱毒事件は富国強兵の戦前の時代の話のような印象を受ける。でも実際は1973年まで採掘は続けられ、閉山後も海外から輸入した鉱石の製錬を平成に入るまで続けてきた。そして、東日本大震災の際には、鉱山から出た堆積物の貯蔵場所が決壊し、下流にまたもや鉱毒被害が発生している。2011年にしてまだ、現役の危険エリアだ。
鉱山そのものは操業停止をしていても、未だに浄水場や堆積場を稼働させ続けなければならない。年間コストは数億円にも及び、それが今後も延々と続くのだからとんでもない負の遺産だ。
「堆積場」というのがどんなものなのかは、航空写真を見てみるとよくわかる。
これが東日本大震災で決壊した、「簀子橋堆積場」だ。砂防ダムのようになっていて、重金属をふくんだ堆積物が貯まっている。その規模の大きさを写真で見るとぞっとする。これを今後ずっと、決壊しないようにお守りをし続けないといけないのだから大変な話だ。
15:29
とにかく、トロッコに乗ろう。
黄色いトロッコ列車に乗り込む。
渡良瀬川を横目に眺めつつ、ゆっくりゆっくりとトロッコは進む。
ゆるい坂を下ったところに、駅舎のようなものが見える。
ここでは乗車はできない。
先頭車両の黄色いトロッコが分離される。先頭の大きな機動車は、単にこの下り坂を上り下りするためだけの追加動力ということらしい。
通洞口が見える。
15:35
運転手さんは客車の先頭についている運転台に乗り、トロッコを操縦する。
坑道内部。
15:36
で、案の定ちょっと中に入ったところでストップ。
あ、やっぱりそういう仕様なんだな。
トンネル内の運行はわずか1分。
「だってしょうがないじゃないか、ここから先に進んでもきりがないんだから」
とばかりに、トロッコの先にはフェンスで仕切られた、ひたすらまっすぐな坑道が伸びていた。
「この先、1,200km続きます」と書いてある。
遠くまで見えるように、わざわざサーチライトが用意されている。照らしてみると、1,200km先まで見渡すことができた。いや、嘘だけど。
(つづく)
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