宇都宮から西北に向かったところに、「大谷(おおや)石」と呼ばれる石の産地がある。
あまり聞き慣れない石だが、それもそのはず、「宇都宮市大谷町」で採掘される石のことを指すからだ。宇都宮が石の産地だとは、案外知られていない。
でも僕はこの存在は以前から気になっていた。
というのも、社員食堂で毎日のように食べていた納豆が、「大谷石の採掘所跡で熟成されたものです」とパッケージに書いてあったからだ。そして、そのパッケージにはSFに出てくるかのような地下巨大空間の写真がプリントされていた。すげえな、と昼メシを喰いながら気になっていたものだ。
なんで納豆を地下で貯蔵するんだ?と謎なのだが、大谷石は多孔質のため、まるで炭のように匂いを吸着するらしい。それで、「納豆なのに、納豆臭さが軽減!」というのがこの商品の売りだった。
食べてみて、実際に匂いが少なかったかどうかは、正直よくわからなかったけど。
そんな場所に、今回初訪問だ。「納豆のパッケージで見た」巨大地下帝国を実際に見ることはできるのだろうか?
14:02
大谷石の地下帝国があるという「大谷記念館」に行く前に、その手前にある平和観音という石仏を拝みに行く。
大谷石を露天掘りしてできた断崖絶壁のところに、世界平和を祈念して仏を彫ったものらしい。
駐車場からしばらく歩いたところにその石仏はあるということだが、駐車場から見ても既に前方の山の形が怪しい。自然に出来た作りっぽくない。
14:03
「天狗の投石」と書かれた看板が出ていた。
頭上には、落っこちてきそうな岩が見える。いや、あれ本当に大丈夫か?落石防止のフェンスは作ってあるけど、台風や地震で本当に落っこちてきそうなんだが。
14:05
平和観音に向かう道すがら、大谷石を使った建物が見える。
石塀、建物の壁などに使われているが、なるほど多孔質と言っている意味がよくわかる。穴がボコボコと空いている。まるでアニメ「トムとジェリー」に出てくる穴あきチーズのようだ。悪く言えば、「市街地で銃撃戦があった紛争地帯の、ビルの壁」にも見える。
僕が日々食べてきた納豆のスメルは、ここに吸着していたのか!ありがとう穴!
いや、この家に使われている石が納豆貯蔵庫として使われていたわけではないけれど。
大谷石はこんな石なので、軽くて加工が容易な反面、風雨にはあまり強くないらしい。なので、コンクリートが普及すると需要が減ってしまったそうだ。確かに・・・この石壁を見ていると、どれだけ耐久性があるのか、素人目でも若干不安になる。
とはいえ、独特の風合いがあるので、今でもこの界隈では採掘が続けられているそうだ。
グラスを置くためのコースターとか、ランチョンマットとかで使えないかな?いや、ざらざらしているから、そういう使い方をするとテーブルに傷が付くか?
遠くに、廃墟ビルっぽいものが見える。屋上部分と、最上階の窓枠が見えている。
大きなビルだな・・・と思ったけど、どうやらあそこも山を採掘した場所っぽい。正体は不明だけど、「ビルっぽい部分」の周囲が山のようなので、あそこだけがビルっぽくなっているのだろう。
・・・いや、それにしては無理がある。山を削って平らにして、中をくりぬいてビルにするなんて本当にそんなこと、可能か?
気になったので後で調べてみたら、昔「山本園大谷グランドセンター」と呼ばれる健康ランドのような施設があったのだそうだ。廃墟マニアの世界では有名な建物だそうだ。平和観音を眺めながらの風呂が楽しめたのだろうか。
やはり「山を削って建物を作った」わけではなく、山肌にへばりつくように人工建造物の建物が建っている、というのが正解だった。
しかし高度経済成長期ってのはすごいな。こういうところにも健康ランドを作っちゃう勢いがあったんだな。21世紀の今じゃ、「いやーここに大型施設を作っても無理っしょー」って銀行がお金を貸してくれないと思う。
平和観音が見えてきた。遠くからでもよく見える。なにせ、高さが27メートル。でかい!
もちろん周囲は大谷石で、それを削って作った磨崖仏だ。
磨崖仏だけど上半分の壁面は完全に削り取られているので、階段を使って肩のあたりまで回り込むことができる。僕は面倒なので行かなかったけど、体力がある人はぜひ。
この周囲は絶壁が連なっている。
いま僕らが歩いているのは、平地っぽいけど、元はと言えば岩山で、周囲を削りに削りまくった結果平地になっているに過ぎない。よく削ったものだ。
そんな崖と崖の隙間から、大仏がある岩山の裏手に回り込むことができる。
そこには「大谷寺」というお寺があり、大谷石の崖に飲み込まれるように本堂が建っているそうだ。入ってみようと思ったら、拝観料がかかる・・・ということだったので、小銭惜しさに入るのはやめた。事前知識があれば入ってみようと思ったけど、何も知識がなかったので。
平和観音を拝んだ後、そこからほど近いところにある「大谷資料館」を目指す。
14:28
大谷資料館は、ちょっと谷の奥まった場所にある。そのため、結構手前の駐車場に車を停め、そこからてくてく歩いて行くことになる。地下帝国に入るということも含めて、足腰が弱っているお年寄り向けの場所ではない。
資料館までの道中、フェンスで締め切られた坑道跡が見える。こういうさりげない穴も、中に入っていけば結構奥深くまで続いているのだろう。で、納豆が貯蔵されていたりするのかもしれない。
大谷資料館の手前は、いきなり広場になっていた。
広場、といっても周囲は崖。あー、このあたりの山はきれいさっぱり、石材として使われちゃったんだなー、とわかる。諸行無常だ。
正面の絶壁は、トーチカのように見える。以前小笠原諸島を旅行した際、断崖に無数のトーチカがあるのを見て驚かされたが、一瞬これもその類いかと思った。
いやいや、こんなところにトーチカを作るって、どれだけ本土決戦が切羽詰まってるんだよ。
(つづく)
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