ひとまず簡単な乾杯を済ませ、先に進むことにする。
乾杯に参加したのは、ゲータレードを買った僕と、「シャーキーズビール」を買ったあっきさんだけだった。残りの二人は、その様子を面白がって見ているだけだ。
「お互いが乾杯のポーズを撮りながら、お互いを撮影している光景を傍から見ていると面白い」
んだそうだ。
なんで二人が乾杯に参加しなかったのかというと、単に飲み物を買わなかったからだ。これまでなら飲み物を買っていたのに、今年は様子見。どうしたのかと聞くと、「持参しているから」だという。えっ、飲み物を持参したの?
わざわざ米軍基地に来ているんだから、アメリカンな飲み物を飲めばいいのに!と思うが、そこまでのこだわりはないようだった。それよりも、自宅から持参する際にペットボトルを凍らせておくことで、体の冷却に使えるというメリットがある。
そうか、そういう手もあったのか。
みんな年々賢くなっていく。原理主義で、毎年アホみたいに「基地に入ったら、まずはゲータレード!」と騒いでいる僕とは違う。
しかし、こうやって今回ドリンクを買わなかった人のひとり、よこさんは「A&Wでルートビアを飲む」ことを今から楽しみにしている。昨年、基地滞在の最後にラージサイズのルートビア、しかもフロート付きというハイカロリーなヤツをうまそうに飲んでいたが、それが良い思い出になっている模様。
回を重ねるにつれ、みんなそれぞれ「お目当て」ができてくる。
「おかでんさーん、今年も当然、ピザ、買うンすよね?」
えっ。
いきなり水を向けられて、ちょっとびっくりした。ピザ。ピザねぇ。いや、もうさすがに今年はいいんじゃないか?これこそ本当に、アホみたいに毎年買って帰ってるぜ?
「でかい!すごい!」と大興奮するのは買う前だけ。その後、ひたすら遠路東京までそのデカいピザを運ばないといけない。で、帰宅すると、すぐに細かく分解してラップでくるみ、冷凍だ。ほっとくと、半日で腐るからだ。結局、バラしてしまえば、もともとの大きさは関係なくなる。
それと、ここ2年くらいはコストコでピザを買うことがちょくちょくある。なので、基地のピザがとりわけデカいという印象は、なくなってきている。
だから今年はねぇ・・・。
「えー、買わないんすか」
なんだなんだ、買えっていうのか。そう言われると、僕もだな、ピザってのは嫌いじゃないわけで。むしろ好きなわけで。
あー、予定していなかったけど、今年もピザっ気がムラムラしてきた。こりゃ、買うな多分。なんだかこの時点で確信した。
はしご車が展示してある。これも、昨年までと展示場所が違う。昨年までは駐車場に停まっていたのに、今年は路上だ。
それにしてもゴツいハシゴ車だ。日本のハシゴ車が軟弱に見えてしまう。
こういう車って、燃費はどれくらいなのだろう?空気抵抗とか全く考慮されていない、無骨なデザイン。そしてかなりの重量。リッター1キロ、走れるだろうか?無理か?
「燃費なんて気にしなくていいんです。どうせ基地内を走るだけだし」
「燃費が悪いというなら、タンクをでかくすれば済む話だ」
とかいろいろ考えはありそうだ。いずれにせよ、マッチョ主義の権化みたいな乗り物だ。
そういえば、9.11のこともあったし、アメリカではファイアーマンってものすごく尊敬の対象になっていると聞いたことがある。そんなスターが乗るためにはごつくなくちゃ!という発想もあるかもしれない。
はしご車の近くに、「FIRE」と大きく書かれたテントがあった。
CNFJ REGIONAL FIRE DEPARTMENT、と書いてある。
「CNFJ」というのは、在日米海軍司令部のことだ。その消防署、という意味。
でも驚いたのが、売り子をやっているのが全員日本人だ、ということ。あれっ?ということは、消防組織は米海軍が自前で作っているのではなく、傭兵よろしく外注にしているということなのだろうか。
基地の外にある病院に救急搬送、ということも場合によってはありえるので、日本人チームのほうがなにかと都合がよいのかもしれない。搬送先でのコミュニケーションが取りやすいし。
あれ?今年はイベントスケジュールをカラー印刷して配っているんだな。これまでにないサービスだ。しかもちゃんときれいなレイアウトだ。
いや、きれいなのは中央に印刷された金髪女性で・・・と思ったら、crystal kayだった。今日、18時から基地内でライブをやるんだって。へー。
どうした米軍。大物アーティストを招くだなんて、ファンサービス精神旺盛ではないか。
でも僕ら関係ないね、さすがに18時まであと8時間近く、この基地に居続けるのは無理だ。
別のパンフレットももらった。「技能訓練生募集」と書いてある。「訓練生」と書いてあるので、若者向けの職業訓練みたいなものか?と思ったが、パンフを配布している人に聞いたら年齢制限はない、という。
職種を見ると、レンガ積み工、船舶内の電気工事、溶接、大工・・・と16職種41名の求人が出ていた。
はああ、こういうのって、全部米軍がアメリカ本土から人を送り込んで、100%自前でやっているのだとおもった。でも実際は、外注に出しているんだな。
パンフレットをくれた人に話を聞いてみたら、防衛省の外郭団体だかなんだかがそんな業務を米軍から請け負っているのだそうだ。で、その団体に雇われる形で、研修生になる。給料の一部は国から出るとかなんとか。
多分、こういう仕事をやろうと思ったら、採用される前に公安による身辺チェックはされるんだろうな。犯罪歴、社会活動歴、思想といったものを見るだろう。でないと、過激派やスパイの基地内侵入をみすみす許してしまう。
僕の場合、やましいことは何もないけど、お願いですから自宅PCのDドライブの中だけは見ないで。人にはいえないものが。ゲフンゲフン。
基地の目抜き通りを歩いて行く。
まだ開門して間もないこともあって、人影がまばらだ。
開門直後に基地内に突撃した人のうち、結構な数がバース12に向かっていた。軍事ものが好きな人が、早い時間に艦船見学を済ませたいのだろう。僕らみたいに食い意地が張っている人ばかりじゃない。
「あああ!」
思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。なんだ、この眼の前の光景は。
ボウリングセンターの手前にある駐車場。毎年、ここでは部隊単位で屋台が割り当てられ、テントがずらっと並ぶ大屋台村エリアだった。しかし今年はすっからかんで、何もない。
えええ。なんで?
しかも、その手前、写真ではゴミバケツがある場所あたりには、ターキーレッグやホットドッグを売る屋台も毎年出ていたと思う。官営のレストランが出店したものだ。それすら、今年は姿形がない。
がらん。
なるほど、そのせいで全く匂いも、煙もないわけだ。昔なんて、火事でも起きたのか?というくらい煙が立ち込めていたのに。
「ひょっとしたら、北朝鮮状況が緊迫しているので、イベントどころじゃないのかもしれない」
「ああ、それかもしれないですね」
なにせ、今年に入ってから北朝鮮のミサイルによる挑発はどんどんエスカレートし、春先には横須賀を母港とする航空母艦「ロナルド・レーガン」の日本海海域への出撃も取り沙汰された。そんな情勢なので、有事に備えてスタンバイしている兵隊さんも多いだろうし、既に周辺海域に展開している戦艦も多いだろう。基地でのんびりイベントなんてやってられねぇよ!ということかもしれない。
で、「これじゃ、せっかくやってきたお客さんに申し訳ない」ということで、クリスタル・ケイのコンサートを用意した、とか。いや、さすがにそれは考え過ぎだけど。
「このお店は今年もあるんですね」
ほっとさせてくれる光景。
右側に食べ物を売る屋台「BBQ SHACK」があり、左手にバーがある。頼めばなんでもカクテルを作るよ、と言ってるお店だ。店頭には、巨大な生ビールジョッキのバルーンがそびえている。横須賀基地内で醸造されているクラフトビール、「シャーキーズビール」だ。
そういえばさっきシャーキーズビールを飲んでいたあっきさん、お味はどうでした?
「うん、うまいんですけどね、外で飲むもんじゃないなと」
「外で飲むものじゃない?」
「味が結構しっかりしていて、こういう天気の時には若干飲みづらいかなと思いますね。もう少し軽いほうが」
なるほど。
BBQステーキ 1,100円
BBQメキシカンビーフサンドイッチ 700円
BBQポークサンドイッチ 700円
上記のメニューにはチップスが付きます
BBQジャンボターキーレッグ 1,100円
ミネラルウォーター 100円
ソーダ各種 100円
ゲータレード 350円
このメニューは米ドルと日本円が併記されているのだけど、計算してみたら1$=116円程度で計算されていた。円安なので、割高感が結構ある。
シャーキーズビールのバルーンの前に、「NO ALCOHOLIC BEBERAGES ALLOWED」という道路標識が掲げられている構図はシュールだ。飲むなよ!と言っているすぐ裏で、「ギンギンに冷えた横須賀地生ビール」と煽っているのだから。
コメント