ボウリングセンター。
例年、この基地を訪れた際のオアシスだ。フレンドシップデーの際、エアコンが効いている建物の中に入れる場所というのはわずかで、ここがその一つだからだ。三笠公園ゲートから基地内に入場して、最初の「休憩スポット」となる。
もっとも、今日はまだ時間が早いし気温が低い。エアコン様のお世話になる必要はない。
「でも、まあ、毎年恒例だからなあ」
そんなことを言いながら、中を覗きにいくことにした。もう、すっかり「習慣化」してしまっているからだ。基地にきたら、意味もなくボウリングセンター。ボウリングをするわけでもないし、中はいたってふつうのボウリング場なのだけど。
タバコを吸う人が、「食事の後に一服する」というのが習慣化しているのと、似ているのかもしれない。
これまで、ボウリングセンターの入り口には、屋台が出ていたものだ。しかし今年はその姿がない。先ほどのガランとした駐車場同様、屋台がほとんど見あたらない。不気味だ。
「以前、ここで不気味な色をしたジュースを売ってましたよねー?」
よこさんが不満そうな顔をして言う。待て、それは今年も僕に「不気味な色をしたジュース」を買って飲みなさい、ということでしょうか。確かに、あったらついつい買ってしまう、アメリカならではの飲み物だ。それが無いのは惜しい。
「あと、サルサソースも売ってましたよね?」
そう、それは確かに。僕は先日、コストコ製の、大人の胴体ほどのサイズがある巨大なトルティーヤチップスの袋を購入したのだけど、それを食べるためには大量のサルサソースが必要だった。今日、それが買えるかなー?と思っていたのだけど。
「あれ?女性専用?」
ボウリングセンターの入り口に、張り紙が張ってある。
女性しか入ってはいけないのか?新制度?と焦ったが、よく見るとお手洗いが女性専用、ということだった。へえ、今年からはここのトイレは女性に限定したのか。
基地内にはあちこちに臨時トイレが設けられている。しかし、「お化粧をなおしたいし、もう少し清潔なお手洗いがいいなぁ」という女性の声をふまえたのだろう、ここの屋内トイレは女性限定になった、というわけだ。
ボウリングセンターは、まだ空いていた。
確か、一人いくら、という計算ではなく、1時間あたり1レーンいくら、という料金体系だったと思う。人数が多いとお得になる。
すでに基地内の海沿いの芝生エリアには、レジャーシートや簡易テントが出現し始めている。この人たちは、夜の花火大会まで粘るための場所取りをしているわけだが、その代償として灼熱地獄の基地内で半日を過ごさなければならない。そんな際、ボウリング場でボウリングを楽しむ、というのは格好の時間つぶしであり、クールダウンにもなる。
あともう少しすれば、このボウリング場は客であふれることになるのだろう。
壁に据え付けてあった、スコアカードの掲示板。本のようにぺらぺらとめくることができるようになっている。ぺらぺらと、といっても、フチがステンレス製なので結構重たいのだけど。
どんなスコアがでているのかと思って見てみたら、ボウリングコンペの結果だった。こうやって閲覧できるようになっているのがおもしろい。
ボウリング場の片隅にあるゲームコーナーをぶらぶらと見てみる。
オモチャ掴み取りのマシンのところには、大きなニンテンドーDSの箱。たぶんこれはどうやっても取れないと思う。ほかのオモチャとサイズが違いすぎる。いわゆる「子供だまし」だ。
で、大半のオモチャはというと、なにやらフライパンで焼き色をつけたソーセージのようなものがたくさん入っている。
「なんだろう、これは?」
「なんですかね?」
大人たちが並んでショーケースに顔を近づけて、中身を凝視している。まるで、ほしくてほしくてしょうがないようだ。いや、そういうわけでないんだけど。
よく見ると、どうやらこれは「オモチャの入れ歯」だった。金色に塗られた前歯数本と、その歯茎。ソーセージに見えたのは歯茎の部分で、「焼き色」に見えたのは、自分の歯にはめるためのくぼみだった。
つまり、このオモチャを前歯に装着して、人前でニヤッと笑うと、金歯がピカーっと現れて、見ている人が「HAHAHA!」と喜ぶ、という代物だろう。おっと、銀場バージョンもあるぞ。
「おもしろいか?それ」
「あんまりですね」
「ややや!ガチャガチャにも、入れ歯が大量に!」
どうやら、アメリカの人は本当にこの入れ歯が好きらしい。一度使った入れ歯を繰り返して使うのは不潔なので、使い捨てにでもするのだろうか?そうでないと、こんなに大量に売られているのが理解できない。
こういう、さりげないところに感じる異文化感が基地探検の楽しさだ。露骨にUSA!USA!というのよりも、間違い探し的感覚でふっと見つかる、「日本とは違う世界」がいい。
ボウリングセンター内にあるハンバーガー屋の、こういうところも「日本らしくない」光景の一つ。見ろ、ケチャップとマスタードのでかいこと。そしてボトルが何本も並んでいること。
棚のサイズを考えると、「今日はイベントの日だから、多めにマスタードを並べておこう」というわけではない。常日頃から、こうやってボトルを並べているのだろう。
日本だったら、まずこういう味付けはお店側がやることであり、自分でご自由にどうぞとはなっていない。できるとしても、切手サイズに毛が生えた程度の袋に入ったものが渡されて、自分の卓上でちょこっと増量してくれ、だ。
ケチャップとマスタードが同じ容器に入っていて、容器をパキッと真ん中で割ったら、両方が同時に出てくるようになるというものがある。日本人の大発明だ!と世界で驚かれた、という記事を読んだことがある。実際にすごいアイディアだとは思うが、そもそもアメリカ人にとって、そんなチマチマと調味料を使う、という発想自体がなさそうだ。
で、肝心のハンバーガー屋。ミーンジェーン。日本本土には出店していないチェーン店なので、好きな人にはたまらないだろう。
しかし今年訪れてびっくりした。メニューの大半に、店舗ロゴが描かれた紙が貼られてふさがれていたからだ。
「メニューを減らしているぞ!」
昨年までは、たぶん通常通りのフルスペックで営業していたはずだけど、今年はずいぶんと規模を縮小してしまっている。大量の来客に対応できず、取り扱い商品を減らしてしまった。なんてこった。
バーガーのメニューは4種類。ケイジャンバーガー、ベーコンチーズバーガー、デラックスバーガー、チーズバーガー。まあ、これだけあれば十分か。
ボウリングセンターの外に出てみたら、入り口からやや外れた木陰のところに屋台が出ていた。生ビールのタップが見える。
日本のビアホールで見かけるタップと違い、この基地で見かけるタップはやたらとレバー部分が長いという特徴がある。まるで、フランクフルトソーセージのようだ。だから、遠くからでも「あっ、生ビールサーバがある!」とわかる。
この屋台は、先程のミーン・ジェーンが出店していることがわかった。ああ、屋内だけでなく屋外でも商売をやっているのか。
「この場合、どっちがいいんだろうね?『お前、今日は外の屋台で仕事な』って言われたら、一日中すごく暑いところで仕事をしなくちゃいけなくなる」
「でも、お祭りの雰囲気があったほうが楽しいから、外の方がいい気がします」
「むう、それは確かにそうだ」
おっ!毎年ボウリングセンター前で売っているピザ、ここで発見。
過去4年、基地でピザを買い続けている僕だけど、ここのピザは買ったことがない。毎年、アンソニーかスバーロのローテーションだ。今年こそは、ぜひこちらのピザを・・・と思うのだけど、いかんせんサイズが小さい。
店員さんから「どうですか!?」と元気よく声をかけられたのだけど、サンプルを見るといまいち食指が動かなかった。サイズが平凡だからだ。基地内で食べるならともかく、これを家に持って帰る気にはならなかった。
基地内で食べればいいじゃないか、って?いや、ピザでおなかを満たしたくないんだ。できるだけ他の、もっと珍しいものに胃袋を空けておきたいんだ。
ちなみにここの「ピザチーズ」は1,000円。サイズが小さい分、安い。
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