勇者現る。
おーまさんがピザを1枚買ってきた。
こういうとき、「どうしようかなあ、時間がかかりそうだしなあ、様子を見て、空いているようなら買おう」と様子見を決め込んでしまう人と、「とりあえず並んじゃえ。それで、列が進まないようなら改めて考え直そう」という人に性格が分かれるものだ。
ちなみに僕は前者。
おーまさんはきっと後者だったのだろう。おかげでピザゲットおめでとう。
続々と各自が戦利品を携えて戻ってくる。
よこさんは、ホットワインと・・・左手に持っているのは何だったっけ。
慌てて僕も何か戦利品を探す。
ラーメンという手もあったけど、両手が塞がるのはちょっと困るので、400円5本という格安でありがたい焼き鳥を買い求める。
焼き鳥とノンアルコールビール。
レース後の打ち上げ宴会用食事としては量が少ないけど、うかうかしていると表彰式が始まってしまう。
肝が据わっている人は、わざわざステージ前で表彰式を観覧しないで、屋台街の方で酒を飲んだり飯を食べたりしながらワイワイやっているのだろう。僕らは今んとこ、そういう発想がない。でも、たまにはそういう大宴会をするのも良いのかもしれない。
「表彰式をないがしろにしている」わけじゃないぞ?しっかり地元十日町にお金を落として帰る、地域貢献の一貫だ。
なにせ僕ら、宿泊が上越市だったということもあって、今回の旅でようやく今初めて十日町市にお金を落としている状態。すまんこってす。十日町市の命綱の一つともいえるほくほく線にさえ乗ってないので売上げに貢献していないし。
あ、昨日我々が飲みそびれた「八海山泉ビール」がここで売られていたのか。
ヴァイツェンとアルトが売られていた。
今年もやっていたぞ、「竹筒に蛇口が付いていて、蛇口をひねると日本酒(例年、越乃景虎)が出てくるお店」、上町屋。
やっぱり「竹酒」500円として売られていた。
昨年までは、竹筒の中に入っている酒が尽きたら、脚立を持ってきて店員さんがよじ登って竹の上から一升瓶の酒を注ぎ込むことをやっていたものだ。今年は筒が短くなって、そこに直接一升瓶が突き刺さっていた。
店員さんに聞いてみると、「やっぱ大変ですから、あれは」だって。そりゃそうか。
ひとまず全員で乾杯。レースの無事を祝って。
乾杯、といっても既に各自飲んじゃってる状態で、今更感はある。
もぐさんは車なのでノンアルコールビール、僕は元々飲まないので当然ノンアルコールビール。
で、この上町屋が予想以上のくせ者だった。以前からこんなだったのか、今年になって急にパワーアップしたのかは不明。店頭に「活性にごり酒 山間 あります」なんて書いてある。
なんですか?と聞いてみたら、「山間」と書いて「やんま」と読むのだそうだ。
新潟第一酒造、という上越市の酒蔵が醸しているお酒で、絞った際の中取りの部分だけを詰めたお酒にこの名を冠しているのだそうだ。聞き慣れない酒造メーカーだけど、それもそのはず、まつだい駅からほくほく線で上越方面に3駅。・・・要するに、昨晩泊まったうしだ屋みたいにすっげえ山ん中だ。
上町屋の粋な兄ちゃんが、熱心にいろいろ教えてくれるので、話を聞いていて楽しい。お酒にスゲー詳しいので、「ずいぶんお飲みになるほうでしょう?」と聞くと、「いやいや、こう見えて全く飲めないんですよ」なんて言う。最後まで、我々は誰一人としてその言葉を信用しようとしなかった。彼が嘘をついている理由なんてどこにもないので本当に飲まない方なんだろう。でも、そうとは思えないくらい、流ちょうに酒の魅力を熱く語るのだった。
それにしてもなんだこの酒。黄色いラベルというのも珍しいが、「ORI-ORI-ROCK」って書いてある。しかもドクロマーク付き。
瓶を裏返すと、そこにはテンガロンハットをかぶったギタリストの兄ちゃんのシルエットが。やるなあ、最近の清酒ってのはこんなファンキーなデザインもあるのか。
活性にごり酒、ということでまだ酵母が生きていて、炭酸が含まれているそうだ。飲んだ人曰く、微炭酸でプチプチするとか。
みんなえらく感心していた。そして、大絶賛。相当にうまいらしい。いいなー。
これが下戸な人なら、「舐めるだけ、ちょっと」ができるけど、僕みたいに「一滴たりとも、飲めない」人にとっては味見すらできないので残念。
ほかにもお店の兄ちゃん、「こういうのもある」といって奥からドカドカといろいろな一升瓶を出してくれた。
もうこのあと表彰式が始まる直前だということもあってか、気前良く試飲させてくれた。(僕はもちろん飲んでない)
すると、このどれもが相当にうまいらしい。あの兄ちゃん、実はかなり顔が利く男らしい。なにやら、普通じゃ手に入りにくい酒も手に入ってるっぽい。
並んでいる一升瓶を見ると、「特別限定おりがらみ」とか「直汲み生原酒」とか書いてある。
「地元界隈じゃなきゃ出回らない酒っすね」
なんて兄ちゃんが言う。生産量が少ないのと、生酒とかにごり酒で長時間の輸送に耐えられないものがあるからなのだという。
感心しきりのおやびんが、何度となく兄ちゃんに「酒屋の方ですか?」と聞くけど、その都度「いえ、違います。普通の人です」という。
何者なんだ、一体。
そのくせ、腰に巻いている前掛けには「オレの酒」なんて書いてあって、携帯電話の番号まで書いてあるではないか。
「酒屋さんじゃないんですか?」
また聞いてみるけど、やっぱり「違う」という。じゃあこの電話番号に電話をかけたら、お酒は頼めるんですか?と聞くと、「手に入るかどうかわからないけど、手配はできる」とおっしゃる。面白い人だ。
良いものとなれば、財布の紐が大開放しても構わないという性分のたっぴぃ&おやびん夫婦。今回の酒をいたく気に入り、さっそく兄ちゃんと交渉。その場で一升瓶ごと購入してしまった。銘柄はなんだったか忘れたけど、「あべ」だったっけ?
さすがに自宅に担いで帰るのは重荷なので、宅配の依頼をしていた。そこまでしてでも買いたい、ご当地ならではの珍しいお酒。良い出会いだ。
ちなみに山間だけど、飲んだ中で一番うまかったらしいけど「配送はNGなんです」とのこと。コカコーラのペットボトルを激しく振ると噴射しちゃうように、酵母が生きている酒を揺らすと危ない。
「ご当地に行かないと、飲めない酒がある」
むしろロマンがあっていいじゃないか。こういうのこそが、旅情だと思う。
(つづく)
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