灼熱の台湾

MRT西門駅から龍山寺駅まで1駅だ。近いといえば近いのだが、歩くとちょっと距離がある。それを、「費用対効果で考えたら効果を最大限優先する」ジーニアスが我慢して歩き通したのには訳がある。

彼曰く、龍山寺の近くに、「草茶」を飲ませてくれるお店があるんだという。

「草のお茶だぜ、草。お茶じゃねーじゃん。面白いと思わんかねキミィ」

「それはどういうことか?僕に飲め、ということか」

「物わかりがいいじゃないか。そういうことだ」

「君はそのためにわざわざ汗を流して文句も言わずに歩いて来たのか・・・」

ジーニアスの妙な執念を見た。彼は丁度業務多忙な時期に今回の台湾旅行の日程が入ってしまい、事前学習がほとんどできていないんだという。その割には、こういう情報をめざとく見つけてくるんだから驚く。

「あ、ここを曲がると龍山寺だな・・・」

草茶の屋台

と道を曲がったところに、ありゃ、なにやら怪しい屋台が出ているぞ。

「おい、これじゃないのか!?」

暑さでへばり気味だったジーニアスががぜん元気を見せる。見ると、あーあーあー、なにやらおどろおどろしいフォントで(現地の人からすると普通のフォントなんだろうけど)、怪しいお品書きがあるぞ。

「青草茶」「苦茶」なんて文字が見える。

「これだ、これに間違いない。よし、おかでん、GO!」

「オレかよ。じゃ、青草茶と苦茶を一杯ずつ、平等に飲もう。それでいいな?」

苦茶

身振り手振りで「青草茶と苦茶をくれ」と店のオバチャンに言ったら、大笑いされてしまった。歩道でいっぱいお茶を飲んでくつろいでいるおばちゃんたちも大爆笑だ。命知らずが現れた、ということなんだろう。

「試しにこれを飲んでみろ」と指示され、わずかに入れられた苦茶を差し出された。

先に試したジーニアスが「うえっ、苦い!こりゃ駄目だ!」と一口飲んでギブ。そりゃそうだ、「苦茶」なんだから「苦い」というのは当然の感想だ。

おかでんも飲んでみたが、まあ、苦いが我慢できないほどではない。アフタヌーンティーとして優雅に一杯、というのは絶対にイヤだが、健康に良いであるとか、観光の思い出にというなら飲んでも良い苦さだと思った。

お茶を飲む

何しろ、数十年前美貌を欲しいままにしたであろう(元)美女たちに見つめられているのだ、ここで「やっぱやめます」という選択肢はありえん。

「うん、これくらいならOK。1個頂戴」

日本男児の強いところを無駄に見栄を張ってみせる。

丁度歩き疲れて喉が渇いていたので、苦くてもいいや・・・と思い、お金を払って(小=20元、約80円)ぐいっとひと飲み。

ううむ、まずい。

味見の時と違って、口全体を支配する苦み。そして、しつこく喉の奥に残る渋み。何をどうすればこんな苦い汁ができるんだ。本当に健康に良いのか?「いや、単なる清涼飲料水だよ」と言われたら、その場で暴れているまずさだ。

これが本当の苦笑い

とはいっても、複数のおば様方の暑苦しい視線を一身に受けている以上、こちらも苦しい顔はできない。「はっはっはっ、こりゃ健康に良さそうだ」と呵々大笑してやった。本当は、眉をひそめたいんだけど。

その様子を見ておばちゃんもさらに笑っていた。

単に笑いものにされていただけのような気がするが、まあいい。

よく頑張ったで賞

「よく頑張ったで賞」だかなんだかしらんが、飴玉みたいなものを店のおばちゃんから貰った。ありがとう。

舐めてみたら、じゃりじゃりした粗い粒の砂糖菓子といった風情。これもまたまずかった。二度はめられた。

そんなこんなで到着しました龍山寺。

ものすごい人の数だ。観光客らしき人の数も多いが、台北ネイティブな人も多い様子。地元から篤い信仰を一身に受けているお寺のようだ。

「見ろ、熱で屋根が反り返っているぞ」

「さすがにそれはないだろ」

台湾独特なのか、中華圏独特なのかは知らないが、とにかく屋根が半月型に反りあがっている。屋根の瓦を葺くのが大変だろうなあ、ものすご反り返りだよなあとぽかんと見上げてしまう。

ものすごい煙だ。

密閉空間にしなくても、燻製ができてしまうんじゃないかというくらいあたり一面煙。この建物には絶対煙探知機は取り付けられないな。設置後1秒でスプリンクラーが作動してしまう。

なぜこんなに煙っているのかというと、参拝者の皆さん、一様にものすごく長くて太いお線香を数本手にしているのだった。それを聖徳太子が手にしている笏(しゃく)のようにうやうやしく掲げて、みなさん礼拝してらっしゃる。一本一本が太いお線香なので煙の量が多いし、何でかみなさん数本を持っている。しかも、「線香代もったいないから、ただ拝観するだけネ」というけちくさい人は一人もおらず、参拝中の人全員が持っているからたまらない。

ぜんそく持ちの人は近づかない方が良いだろう。発作がでるかもしれん。

お線香は無料

どうやら、お線香は無料でもらえるようだ。お線香を無造作に配っているおじさんのところに行けば、お金の支払いもなくひょいと数本、渡された。後はろうそくからお線香に火を移して、南無阿弥陀仏~。

日本のすぐ折れるようなお線香数本を参拝客に配るのとは訳が違う。決して安かろうはずがないお線香をなぜこんなに気前よく配るのか、謎で仕方がない。拝観料すらとられていないのだ。

境内にはぎっしりと奉納された果物やお菓子などが並べられていた。恐らく寄進があちこちからたくさんあるのだろう。そのお金で、全ての人に幸福を分け与える事ができればなお寄進した人は幸福、と言う論理なんだと思う。だからお線香もタダ。

おっと、寄進物のバナナやスイカの中に、ミスタードーナツの紙袋発見。ドーナツを仏様に寄進するとはなかなか面白い。

三度お辞儀してお祈りする

日本の神社仏閣だったら、本堂のご本尊様に向かってお祈りすれば良い。しかし、このお寺、なんだかもう至る所で人が拝んでいるんである。何に対して拝んでいるのか、拝んだらどんな御利益があるのか、さっぱりわからん。

でもどうやらルールがあるらしく、三度お辞儀してお祈りするのが正しいようだ。

ジーニアスも、見よう見まねでお祈りしている。

ご本尊

で、お祈りの対象であるご本尊。

あれだけ立派な屋根なのに、ここは鉄の格子戸ですか、というギャップがなんともヘンな感じだが、まあ御利益があればいいや。

なにやら奥に観音菩薩様が居らっしゃるのはわかるのだが、その手前に博多人形の入れ物みたいなガラスケースに入った四天王のような方もいらっしゃる。おかげで仏様の全身像が見えぬ。一体どれを拝めば良いのか。

日本の仏像の顔つきになじんでしまっているこちらとしては、「台湾風の顔立ち」な仏様はどうもうさんくさく、御利益がすくなく感じてしまう。あっ、そんなことを考えながら拝んでいたら本当に御利益が無くなってしまう。いかんいかん、顔つきはどうでもいいから良いことがありますように。

えーと、観音菩薩様だから「南無観世音菩薩」って唱えておけばいいのかな?あっ、モロに日本語だ。台湾の仏様に通じたかなあ。

神仏習合の極地

てっきり「仏教寺院」なのかとおもったら、境内の中に道教寺院があったり、関帝廟があったりとわけがわからん。神仏習合の極地だ。

なるほど、長いお線香なのはこういう理由もあるのかな?境内内の全ての神様仏様に拝んで回る間、お線香が燃え尽きないようにするため。

龍山寺参拝を終えたわれわれは、すぐ西に南北に延びている「華西街観光夜市」に行ってみることにした。「観光夜市」といっても、別に観光客相手にたこ焼きやたい焼き、ヨーヨー釣りの屋台が並んでいるようなものではない。至って地元民向け、普段着な夜市だ。台北にはこのほかにも「観光夜市」と名乗る場所は数カ所あるようだが、別に「観光客向け」という意味合いではないようだ。

ここはアーケード街になっていて、少しは日差しから逃れることができる。蛇やスッポンの生き血を飲ませるようなお店が多い事で知られているそうで、その残虐さが引け目を感じるのか、あたり一帯が撮影禁止になっているらしい。なんだかとても怪しい。

ただ、入り口すぐのところの屋台が「日本料理」と称していて、「関東煮」と描かれた赤提灯をぶら下げていたのには拍子抜けだった。

と、思ったら、碧眼金髪の白人さんが「オウ、スネイク」と言いながらびしばし店頭で写真を撮っている場面に遭遇。こっちも便乗して写真撮影しておいた。

見ると、水槽のような棚の中に巨大な蛇がとぐろを巻いている。あああー、あまり見ていて気持ちの良いものではない。

奥は食堂型式になっているので、恐らく注文すれば「新鮮な蛇を調理してご提供」されるんだろう。

蛇スープはジーニアスと香港に行った時に2種類飲んだので平気だが、やっぱり生きている蛇さんとコンニチハするのはあまり良い気分ではない。

こっちのお店ではニワトリと・・・あと、なんだこのU字型の生き物は。ウツボ?ウナギ?とにかく、怪しい。何が出てくるかわからんのが怖い。

しかも、壁に貼ってあるメニューを見ると

「下水湯 90」

なんて書いてあるし。おい、下水って何だ。まさか本当の排水じゃないと思うので、生き血のことだろうか。その横には「炒下水 90」って書いてあるしー。台北外食物価において90元=360円というのは結構いいお値段だ。

ここから先は、本当に撮影禁止な店ばっかりになったのでカメラいったんお片付け。

カニ肉屋

観光夜市のアーケードから一本ずれたところも、夜市の準備は着々と進んでいた。暑い国だからだろう、夜にならないと活動できないということか。暑い昼間はおとなしくしているに限る。

こちらはカニ肉屋。こんな屋台もあるんだねぇ。

チームプレイで営業

屋台といっても侮るなかれ、こちらのお店ではおそろいのエプロン、帽子、Tシャツを着てチームプレイで営業していた。「おばちゃんやおっちゃんがのんきに営業している」のではない。夕方から夜までのこの時間こそが、彼女たちにとってのビジネスの正念場だ。気合いも入るってもんだ。

しかし、売ってるものがフライドチキンだもんなあ・・・。あちこちで肉、揚げ物系の屋台を見かけたのでもういい加減こちらとしても免疫はできつつあるが、そうはいってもまだまだ暑いこの時間、ずらりと並んだ油ギッシュなチキンを見るとげんなりしてくる。

いままさに、自転車でそのまま屋台に乗り付け、買いものをしてそのまま去っていくという「ドライブスルー屋台」が展開されているところ。人通りが少ない屋台街だとできる芸当だ。酒肴を買いそろえるには楽でいいなあ。

ただし、ビールを売っているところは全く存在しない。買おうと思えば、コンビニに行くしかない。台湾人は基本的にお酒をあまりのまないようだ。なんでぇ、ビールのつまみ天国なのに、この国の人はどうなってるんだ。もったいない。

いやぁ、日本人の尺度で見ちゃいかんのだなとあらためて思った瞬間がこちら。

なにやら鍋がぐつぐつ煮えております。しかも数種類。奥にご飯の保温ジャーがあることから、ご飯と一緒にこのあっつい鍋を食らえ、ということらしい。

日が傾いたといっても、まだ気温は33度くらいあると思うんですが。

それでも煮立った鍋ですか、それでもフライドチキンですか。そうですか。うーむ、やっぱり生まれ育ちが南国だと、暑さに対する感覚が全然違う。参りました。脱帽。

「暑いときこそ、熱いお茶を飲んで汗をかいて体をさます」という発想と同じなのだろうか??

魚料理を扱っているお店もあることはあるんだが、それでもやっぱり多いのが肉。

なぜ島国の台湾がここまで肉を愛するのか、不思議で仕方がない。南の熱帯魚みたいな魚はおいしくないからだろうか?

屋台街を歩いていると、やたらと肉が発する茶色を目にし、見た目でなんだか疲れを感じる。というか、のぼせてくる。

こちらの屋台は、こんがり茶色に煮上げた豚足がずらりと並んでおります。50元=200円!安い!ぜひ!

・・・いや、勘弁してください。こうも暑いと、食欲が湧かないんですわ。買い食いする気力がおきない。あと、暑さを逆手にとって、冷えたビールを調達してからがっつりと食いたい、食らいつきたい。今はまだその時期ではない。待つんだ、そして耐えるんだ。・・・暑さに。ふぅ。

MRTの龍山寺駅に向かうため地下道に降りる。

ふー、久々の冷気に生き返る。

それにしてもこれだけの地下道を冷やすのに一体どれだけの光熱費用をかけてるんだ。地下道に入るのに入場料を取っても良いくらいだ。

ここは龍山寺近くということもあってか、占い屋が軒を連ねていた。机を挟んで先生とお客が差し向かいになる事ができる程度のスペースしかないお店が何軒も並んでいる。中には「日本語OK」という看板がでているところもあるので、日本人でも安心だ。ただ、実はカタコトしかしゃべることができませんでした、なんていう先生もいるそうなので、事前の口コミ調査は必要かもしれない。

ジーニアスに「おいおかでん、せっかくだからやってもらえよ」と勧められたが、僕は最終日AMに行く予定となっている行天宮の地下にある、「占い横町」のお世話になるつもりなのでやめておいた。占い横町は、その名の通りずらっと占い屋が並んでいる名所。

この後、台北最大の夜市と言われている「士林観光夜市」で夕食をとる予定になっている。しかし時刻はまだちょっと早いので、いっぺん台北車站まで戻り、そこにある「台湾故事館」に行くことにした。1965年当時の台湾の風景を再現したレトロなフードテーマパークということで、日本のラーメン博物館に近い位置づけのようだ。もちろん食事をしないで、中の見学だけすることも可能。

台北車站まで2駅、20元(約80円)。交通運賃も台湾は安い。

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